リリアナ、ストーカーにあう
最近すごく視線を感じる。
私は野良猫に餌をあげて、頭を撫でながらため息をつく。
まさか私なんかにストーカー? レイラならとにかく、私に?
でも、私お金持ちの令嬢だから、お金目的の誘拐犯かもしれないのよね。
そう思うと、すごく怖い。
って話をアラン達にさっきしたんだけど。
「リリアナをストーカーだなんて、警備しなくちゃだね。絶対に許せないよ」
「アラン兄さん落ち着いて。王族の警備なんかが付いたらリリアナ姉が困るってば」
「アラン王子は時に過激だからね」
「そうそう、アランお兄ちゃん暴走しすぎー」
本当にね。言わなかったほうがよかったかな?
アランは何か機会をいじり始めた。レイラがお茶を持って部屋に入ってくる。
「皆さん落ち着きましょう。ストーカーはすでに見てるかもですから」
「確かに大きな声で相談しては、あっちに情報が洩れるね。僕がうかつだった」
「アラン様はとりあえず、相手の命を大切にしてくださいね?」
「わかってるよ、僕は王族だからほかの人に頼む」
「そう言う問題じゃ無いですよぉ」
わかってないなあ、アランってば……。
ため息をつくのは私だけじゃなかった。アラン以外の全員だった。
「僕が女友達のふりして警備につくよ」
「女装嫌いなんじゃないの? アラン」
「嫌だよ、でも、ほかのメンバーに任せるのはいやだし」
まあ、いいかあ。
アランは金髪のウィッグをもって更衣室に消えた。
レイラがメイク道具を用意し始める。
私はとりあえずお茶を飲んで、恋愛小説を読んだ。
**********
あれからアランは常に女装している。
ますますアランの女装好きのデマが広まってるけど、気にならないみたいだ。
あんなに嫌がってたのにな……嬉しいけど、申し訳ない気持ち。
私に監視カメラをつけるのは、本当困るけど。
エディには、家での護衛を頼んだらしい。家でもひとりでいられないのは息苦しいなあ。
「はあ……」
それでもやっぱり、誰かが後ろをついてくる気配がするの。
でも、カメラには誰も映ってないの。
まさか、幽体離脱したパープルかしら?
そう思ったんだけど、さすがにありえないわよね。
私はドッと疲れながら今日も学校へ向かう。馬車にエディとレイラとともに揺られながらも、やっぱりどこかから視線を感じる。
(なんだって私に付きまとうのよ)
理解に苦しむんだけど。正直寝不足で肌は荒れるし、目にクマもできるし。
レイラがすごくメイクでごまかしてくれるけれど……正直申し訳ない。
「ふわああああ」
「リリアナ様、寝不足です?」
「うん……正直落ち着かないし」
「無理もないです、監視カメラもありますし常に見張られてるのは怖いですよ」
なんか逆に苦しい事態になってる気がする。
私はぐったりしたまま馬車で眠った。
エディが私にタオルケットをかけてくれるのがわかる。
**********
私は今、夢を見ているらしい。
誰かに追われている夢だ。
黒い影が、ずっと私を追いかけてくる。
やめて、やめて。そう思うのに声が出ない。
「リリアナ姉、起きて!」
「エディ……」
「うなされてたよ。ほら、学校だ。行くぞ」
「保健室で寝たい」
「わたくしがご一緒します」
「レイラ、よろしくな」
なんかもう、足元がふらふらだよ。私レイラに案内してもらった保健室で、ベッドにダイブするように倒れ込んだ。でも、寝るのが怖い。またうなされるんじゃないかって。
「顔色が悪いようですが、大丈夫ですか? リリアナ様」
「……あんまり……」
頭がガンガンする。そうこうしているうちにアランが飛んできた。
手には飲み物を持ってきている。
「リリアナ大丈夫!?」
「アラン、授業は」
「そんなのどうでもいいよっ」
「いや、よくないから戻って」
王子様がサボりはさすがに良くないと思うんだ。
それでもアランはぶんぶんと首を横にふる。
「大事な人を守れなくて、何が男だ」
「……アラン」
「僕はリリアナを守りたいんだ」
「気持ちだけ受け取っておくよ」
「そんな」
「さあ、戻って。私のせいでサボるとか、ダメ、絶対」
私はアランを押していく。
アランは何やらぶつぶつ言っているけれど、おとなしく従う様子だった。
んだけど、なんだかすごい視線を感じる。窓からだ。
「誰か、見てる」
「え、リリアナ。本当!?」
「うん、絶対だれか見てる」
私はふらふらながら立ち上がる。
するとアランが駆け寄ってきて私を抱き上げた。
そしてそのまま物騒な金属の棒をもったまま、窓をのぞき込む。
「誰もいないよ? リリアナ」
「あれ? おかしいな」
気のせいなんかじゃないはずだけど……不思議に思っていると、ふわふわしたしっぽが見えた。そして、くるりとそれは私達のほうを見る。
「にゃあ」
「……猫?」
思わずハモる私とアラン。
「猫がどうしたんですか」
ゆっくり私達のほうへ寄ってくるレイラ。
「なんか、猫がいるの」
「……ストーカーの正体は猫って事ですか?」
レイラが冷静に言った。
なるほど、だから視界に入らなかったし、監視カメラも反応しなかったわけだ。
それに、よく見ればこの猫は私が餌をあげた猫である。
また餌がほしくて追いかけてきたのかもしれない。
つまりは、私のせいだ。
「ごめんね、餌はもうないの。気まぐれに構ったばかりに……」
「リリアナは優しいから。リリアナの魅力は猫にまで伝わるんだね」
「アラン、バカな事言ってないでみんなに伝えるよ? それで、授業に戻ろう。私は一眠りしてから戻るから……」
「にゃあにゃあ」
草むらの中からぴょんぴょんはねて私に抱き着こうとする猫。
うーん、すごく可愛いんだけど、アランが若干不機嫌。
せっかく可愛い女装をしているのに。
「猫はどうするの、リリアナ」
「里親を募集したほうがいいかもね」
そうすれば、私を追いかけてくることもなくなるだろうし。
何よりこの猫が心配で気になってしょうがないし。
「わかった、王族の力で探して見せるよ」
「ありがとう」
私はそう呟くとすっと眠りについた。
しかし、アランの女装壁癖の噂はさらに悪化したのは言うまでもない。




