リリアナ、退学になる!?
「リリアナ、これお父様からのお土産のお茶なんだけど……」
「うわぁ、甘いいい匂い。ピンク色のお茶なんて珍しいわね」
「どこかの国の貴重なお茶で、一杯分しかないから、リリアナにあげるよ」
アランが少し恥ずかしそうに言った。
いれたてのお茶はあったかくて、私の心も温まる。
甘い味がして、どこか癖のあるのど越し。
なんだか胸の奥がきゅんとする感じ。
「おいしい! ありがとう、アラン」
「どういたしましてところでお願いがあるんだけど、ちょっと急ぎの洗濯物を魔法で乾かしてくれないかな? ちょっと分厚すぎて乾くのが遅いみたいなんだ」
「お安い御用だよ! もちろんやるよ!」
私はカップをソーサーに置くと、慌ててアランの後を追っかけた。
しばらくして案内されたのは、分厚いズボンだった。
「ちょっとこれで出かけたくてね」
「わかった、やってみる。そーれ、風魔法!」
私はいきおいよく叫んだ。
……しかし何も起こらない。
「あれぇ」
よし、もう一度。今度は気合を入れて……。
「そーれ! 風魔法!」
やっぱり何も起こらない。
どうして? もしかしてスランプ?
「リリアナ……大丈夫?」
「こんな時もあるよ!」
「……今日の学校は、魔法の定期テストがあるはずだよ」
「えっ」
「それにリリアナは魔法が使えるから入学できてるんだ。魔法が使えなくれば、キット退学になるよ」
アランが困惑した様子で言った。
そ、そんなあ……そんなの全然楽しくないっ! むしろ最悪だよぉ!
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「大丈夫ですか、リリアナ様」
「レイラァ」
「魔法が使えなくなるんて……どうして」
「リリアナさん……」
「あ、バイオレット先輩」
「残念だけど、魔法科は学力が高くな限り魔法が使えなくなれば即退学なんだよ。わたしはスランプで退学になったものを何人も見てきた。いくら王子の婚約者であっても、特例はないだろうね」
嘘でしょ!? 私、この学校にいられないの!?
皆と一緒に、仲良く卒業したいよ……。
バイオレットはため息をついて私の頭を撫でてくれた。
「もし、学校から君が去っても、わたし達は君の友人なのは変わらないから」
「バイオレット先輩……」
「それに、復学っててもある。どうにかして魔力を取り戻そう」
「はいっ、頑張ります!」
そうだよ! 魔力は一生消えたと決まったわけじゃないんだ。
もしかしたら元に戻るかもしれないし……それに、試験は一番最後の授業だし。
それまでに何とかすれば、可能性はいくらでもある。
「リリアナ姉、まずは魔力を取り戻す方法を図書館で調べよう」
「そうだね、エディ」
「図書館になら魔法関連の書物がいっぱいあると思う、オレも実は魔法に憧れてよく読んでる」
「へぇ、そうなんだ」
「やっぱ魔法使えるってかっこいいじゃん。リリアナ姉みたいに強いならなおさら」
「ありがとう、エディ」
「別に世辞じゃないから」
「そうだね、リリアナさんの魔法能力が学年でもずば抜けてるし、三年生でもかなう人はいないんじゃないかな」
「バイオレット先輩まで」
でも、今はそれが存在しないんだから意味ないよね。
あー、ダメだ。そんな考え方楽しくない。
私は図書館へアランとともに向かい、書物を探ることにした。
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「うーん、なかなか載ってないね。アラン」
「そうだね。大体が魔法の使いすぎだとかそう言う理由みたいだけど……思い当たる節はある?」
う……。正直一度に魔力は使いまくってる気がする。
でも、全然疲れないし、どんど使えるから制御しなくてもいいと思ってたんだけど。
どうやら人間の魔力はひとりにつき、その能力により使えるエネルギーは生まれつき決まっているらしい。つまりはだ、私の魔力が強いのは全部使ってたからなだけで、実は魔力は強くなかったって事?
「そういうときはどうすればいいの?」
「充電期間で回復する場合もまれになるみたいだよ」
「えっ、本当?」
「数十年かかるみたいだけどね」
「……そんなあ、私、皆と学校に通いたいよ」
でも、私、学力はないし。
ほかに推薦してもらえるスキルは特にないし。
「それはもちろん僕もだよ。でもいくら王族でも、能力のないものを学校に通わせることはできないんだ。ごめんね、リリアナ」
「泣きそうだよ……」
「なっ、泣かないで、リリアナ」
だって、皆との楽しい日々が終わりだなんて……考えたくもない。
最悪だ。もし私が頭がよかったら、一般の学生として残れたのに。
「魔法試験は、体調不良で延期してもらおう。そうすれば一日は伸びる」
「一日で回復するって言うの? アラン」
「それは……わかんないけど」
アランが困ったように目をそらす。
ああ、どうして私は加減を知らなかったのだろう。
魔法の力を加減してれば、こうはならなかったはずだ。
「嫌だよぉ、アラン。離れたくないよ……」
「本当に、何もできなくてごめん……」
力のない声をアランが漏らした。
私達は絶望しながら本のページをめくっていく。
どこにも、ヒントになるものは載っている様子はなかった。
魔法の雑学だとか、詳しい魔方陣の書き方だとか……。
「あ、もしかして薬でどうにかなるかもしれないよ、リリアナ」
「! アランなら薬が作れるものねっ」
「本で薬について調べてみよう」
「うんっ」
私達は分厚い本をたくさん机に並べて、開く。
中には、色々な薬が載っていた。こんなにたくさんあるんだから、ひとつぐらいヒントになるものがある、と思ったのに……。
「魔法を使えるようになる薬はないみたいだよ、アラン」
「嘘だ……」
「まあ、そんなのあったら、皆が魔法使えるようになるから。魔法を使えなくなる方法なら載ってそうだけど」
「そんなの関係ないよ、リリアナ。今の僕達には関係ない」
確かにそうだけど。そんな時、部屋に風が吹いた。
その勢いでページがめくれていく。
結果、開かれたページにはとんでもないものが載っていた。
「魔法を使えなくする疲労回復のお茶……」
私は思わずつぶやいた。
だってそれは、私が今朝飲んだピンク色のお茶だったからだ。
アランも目を丸くしている。
「え、まさかあのお茶が原因?」
「そうみたいね、アラン。多分、王様は魔法の使えないアランだから渡したお土産なのだと思うわ。だって、魔力がないものには疲労回復の効果しかないみたいだもの。魔力があれば、魔法が使えなくなる代わりに倍の疲労が回復されるけど」
そういえば、なんだか体が軽いわね。
これって薬の効果だったんだ。
「お茶だから、しばらくすれば効能は消えるみたいね……うん、試験には間に合いそう」
「ごめん、リリアナ。僕がうっかりしていたばっかりに……」
「そんな事ないわ。私はおかげで元気いっぱいで、ますます魔力が強くなった気がする」
「使いすぎはダメだよ」
「大丈夫な気がする」
「そっか、よかった」
アランが私をやさしく抱擁する。私は拒絶する気もせずにそれに身を任せていた。
そして、休み時間が終わるチャイムが鳴る。慌てて私達は自分たちの教室へ戻った。
私とアランは科が違うから、ここでお別れだ。
「良い結果を待ってるよ、リリアナ」
「うんっ」
私は満足した笑顔でアランを送り出した。
よしっ、試験頑張るぞっ。
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「すげぇ、やっぱリリアナ・ローズは天才だ」
「魔力測定、歴代一位だってよ」
「余力もまだ残ってるって測定されたって。あれで全力じゃないなんて……」
ひそひそと、私をほめたたえる声が聞こえる。
魔力試験は無事合格した。それも、トップの成績で。
それはきっと疲労回復のお茶のおかげもあると思う。
「リリアナ様、おめでとうございます!」
レイラが嬉しそうに駆け寄ってくる。レイラは成績二位である。
水の力を華麗に操り、踊り子のようにきれいに魔法を使う彼女はとても絵になる。
「ありがとうレイラ」
「無事、戻ってきてくださりホッとしました」
「私も嬉しいよ」
「ところで、なんだか耳が赤い気がしますが、何かありました?」
私はドキリとする。
「なんでもないっ」
そう言って、私はごまかすように笑った。
……そんな、アランが抱擁のどさくさに耳にキスしてきただなんて、言えるはずがないじゃない? ね?




