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リリアナ、退学になる!?


「リリアナ、これお父様からのお土産のお茶なんだけど……」

「うわぁ、甘いいい匂い。ピンク色のお茶なんて珍しいわね」

「どこかの国の貴重なお茶で、一杯分しかないから、リリアナにあげるよ」


 アランが少し恥ずかしそうに言った。

 いれたてのお茶はあったかくて、私の心も温まる。

 甘い味がして、どこか癖のあるのど越し。

 なんだか胸の奥がきゅんとする感じ。


「おいしい! ありがとう、アラン」

「どういたしましてところでお願いがあるんだけど、ちょっと急ぎの洗濯物を魔法で乾かしてくれないかな? ちょっと分厚すぎて乾くのが遅いみたいなんだ」

「お安い御用だよ! もちろんやるよ!」


 私はカップをソーサーに置くと、慌ててアランの後を追っかけた。

 しばらくして案内されたのは、分厚いズボンだった。


「ちょっとこれで出かけたくてね」

「わかった、やってみる。そーれ、風魔法!」


 私はいきおいよく叫んだ。

 ……しかし何も起こらない。


「あれぇ」


 よし、もう一度。今度は気合を入れて……。


「そーれ! 風魔法!」


 やっぱり何も起こらない。

 どうして? もしかしてスランプ?


「リリアナ……大丈夫?」

「こんな時もあるよ!」

「……今日の学校は、魔法の定期テストがあるはずだよ」

「えっ」

「それにリリアナは魔法が使えるから入学できてるんだ。魔法が使えなくれば、キット退学になるよ」


 アランが困惑した様子で言った。

 そ、そんなあ……そんなの全然楽しくないっ! むしろ最悪だよぉ!


**********


「大丈夫ですか、リリアナ様」

「レイラァ」

「魔法が使えなくなるんて……どうして」

「リリアナさん……」

「あ、バイオレット先輩」

「残念だけど、魔法科は学力が高くな限り魔法が使えなくなれば即退学なんだよ。わたしはスランプで退学になったものを何人も見てきた。いくら王子の婚約者であっても、特例はないだろうね」


 嘘でしょ!? 私、この学校にいられないの!?

 皆と一緒に、仲良く卒業したいよ……。

 バイオレットはため息をついて私の頭を撫でてくれた。


「もし、学校から君が去っても、わたし達は君の友人なのは変わらないから」

「バイオレット先輩……」

「それに、復学っててもある。どうにかして魔力を取り戻そう」

「はいっ、頑張ります!」


 そうだよ! 魔力は一生消えたと決まったわけじゃないんだ。

 もしかしたら元に戻るかもしれないし……それに、試験は一番最後の授業だし。

 それまでに何とかすれば、可能性はいくらでもある。


「リリアナ姉、まずは魔力を取り戻す方法を図書館で調べよう」

「そうだね、エディ」

「図書館になら魔法関連の書物がいっぱいあると思う、オレも実は魔法に憧れてよく読んでる」

「へぇ、そうなんだ」

「やっぱ魔法使えるってかっこいいじゃん。リリアナ姉みたいに強いならなおさら」

「ありがとう、エディ」

「別に世辞じゃないから」

「そうだね、リリアナさんの魔法能力が学年でもずば抜けてるし、三年生でもかなう人はいないんじゃないかな」

「バイオレット先輩まで」


 でも、今はそれが存在しないんだから意味ないよね。

 あー、ダメだ。そんな考え方楽しくない。

 私は図書館へアランとともに向かい、書物を探ることにした。


**********


「うーん、なかなか載ってないね。アラン」

「そうだね。大体が魔法の使いすぎだとかそう言う理由みたいだけど……思い当たる節はある?」


 う……。正直一度に魔力は使いまくってる気がする。

 でも、全然疲れないし、どんど使えるから制御しなくてもいいと思ってたんだけど。

 どうやら人間の魔力はひとりにつき、その能力により使えるエネルギーは生まれつき決まっているらしい。つまりはだ、私の魔力が強いのは全部使ってたからなだけで、実は魔力は強くなかったって事?


「そういうときはどうすればいいの?」

「充電期間で回復する場合もまれになるみたいだよ」

「えっ、本当?」

「数十年かかるみたいだけどね」

「……そんなあ、私、皆と学校に通いたいよ」


 でも、私、学力はないし。

 ほかに推薦してもらえるスキルは特にないし。


「それはもちろん僕もだよ。でもいくら王族でも、能力のないものを学校に通わせることはできないんだ。ごめんね、リリアナ」

「泣きそうだよ……」

「なっ、泣かないで、リリアナ」


 だって、皆との楽しい日々が終わりだなんて……考えたくもない。

 最悪だ。もし私が頭がよかったら、一般の学生として残れたのに。


「魔法試験は、体調不良で延期してもらおう。そうすれば一日は伸びる」

「一日で回復するって言うの? アラン」

「それは……わかんないけど」


 アランが困ったように目をそらす。

 ああ、どうして私は加減を知らなかったのだろう。

 魔法の力を加減してれば、こうはならなかったはずだ。


「嫌だよぉ、アラン。離れたくないよ……」

「本当に、何もできなくてごめん……」


 力のない声をアランが漏らした。

 私達は絶望しながら本のページをめくっていく。

 どこにも、ヒントになるものは載っている様子はなかった。

 魔法の雑学だとか、詳しい魔方陣の書き方だとか……。


「あ、もしかして薬でどうにかなるかもしれないよ、リリアナ」

「! アランなら薬が作れるものねっ」

「本で薬について調べてみよう」

「うんっ」


 私達は分厚い本をたくさん机に並べて、開く。

 中には、色々な薬が載っていた。こんなにたくさんあるんだから、ひとつぐらいヒントになるものがある、と思ったのに……。


「魔法を使えるようになる薬はないみたいだよ、アラン」

「嘘だ……」

「まあ、そんなのあったら、皆が魔法使えるようになるから。魔法を使えなくなる方法なら載ってそうだけど」

「そんなの関係ないよ、リリアナ。今の僕達には関係ない」


 確かにそうだけど。そんな時、部屋に風が吹いた。

 その勢いでページがめくれていく。

 結果、開かれたページにはとんでもないものが載っていた。


「魔法を使えなくする疲労回復のお茶……」


 私は思わずつぶやいた。

 だってそれは、私が今朝飲んだピンク色のお茶だったからだ。

 アランも目を丸くしている。


「え、まさかあのお茶が原因?」

「そうみたいね、アラン。多分、王様は魔法の使えないアランだから渡したお土産なのだと思うわ。だって、魔力がないものには疲労回復の効果しかないみたいだもの。魔力があれば、魔法が使えなくなる代わりに倍の疲労が回復されるけど」


 そういえば、なんだか体が軽いわね。

 これって薬の効果だったんだ。


「お茶だから、しばらくすれば効能は消えるみたいね……うん、試験には間に合いそう」

「ごめん、リリアナ。僕がうっかりしていたばっかりに……」

「そんな事ないわ。私はおかげで元気いっぱいで、ますます魔力が強くなった気がする」

「使いすぎはダメだよ」

「大丈夫な気がする」

「そっか、よかった」


 アランが私をやさしく抱擁する。私は拒絶する気もせずにそれに身を任せていた。

 そして、休み時間が終わるチャイムが鳴る。慌てて私達は自分たちの教室へ戻った。

 私とアランは科が違うから、ここでお別れだ。


「良い結果を待ってるよ、リリアナ」

「うんっ」


 私は満足した笑顔でアランを送り出した。

 よしっ、試験頑張るぞっ。




**********



「すげぇ、やっぱリリアナ・ローズは天才だ」

「魔力測定、歴代一位だってよ」

「余力もまだ残ってるって測定されたって。あれで全力じゃないなんて……」


 ひそひそと、私をほめたたえる声が聞こえる。

 魔力試験は無事合格した。それも、トップの成績で。

 それはきっと疲労回復のお茶のおかげもあると思う。


「リリアナ様、おめでとうございます!」


 レイラが嬉しそうに駆け寄ってくる。レイラは成績二位である。

 水の力を華麗に操り、踊り子のようにきれいに魔法を使う彼女はとても絵になる。


「ありがとうレイラ」

「無事、戻ってきてくださりホッとしました」

「私も嬉しいよ」

「ところで、なんだか耳が赤い気がしますが、何かありました?」


 私はドキリとする。


「なんでもないっ」


 そう言って、私はごまかすように笑った。

 ……そんな、アランが抱擁のどさくさに耳にキスしてきただなんて、言えるはずがないじゃない? ね?



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