王様の隠し子、メル!?
「ボクさーよくあの人に似てるって言われるんだよね」
メルが突然言い出した。あの人って誰だろうと私達は首をかしげる。
「アラン王子のお父さん、王様の幼少期の写真、最近公開したでしょ。それにすごく似てるって」
そう言えば、何か理由があってしぶしぶ展示したんだっけ。
確かほかの国にも見せたんだっけ? 私も見たけど、確かにメルはよく似ていた。
童顔のあどけない顔は、瓜二つだった。
「たしかに、似てるかもしれない。むしろ僕に似てなさすぎるのが不思議だよ」
アランは不思議そうに首を傾げた。
「昔の話を聞こうにも、みんな口をふさぐしね……僕に知られたくないことがあるんじゃないかって不安だよ」
「王様は、きっと何も隠してないよ」
「でも、お城の中ではメル君が有名だから、彼が隠し子なんじゃないかって噂までたっちゃって……お父様も何かそわそわしてるし、怪しいよ」
「ボクは隠し子なんかじゃないよー」
「僕もそう思ってるよ。でも、皆が言うから耳タコだよ」
それは、アランもメルも可哀想だなあ。
これって、私達でどうにかできないのかなあ。
「そうだっ、メルが隠し子じゃないって証拠、私達で探そう!」
「リリアナ!」
「リリアナお姉ちゃん」
「大切な友達がそんな目で見られるのはいやだよ! ね? 皆」
「そうだね、わたしも不愉快だ」
「オレも」
「わたくしも同じです」
皆が頷く。こうして、私達は王様の年少期を探ることになった。
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「どのアルバム見ても、同じね……当たり前か」
「そうだね、リリアナ。あげく、昔からいる人に聞いても、昔はほぼ引きこもりの王子だったって聞くし……そのせいで、外見への記憶があまりないみたいで、皆」
「困ったね、アラン」
なん百枚という写真を目の前にして、私達はどっと疲れた声を上げた。
どこに写ってるのも、笑顔のメルそっくりの男の子。
正直今の王様の面影はない。気が付けば骨格が変わったかのように、別人になっていた。
「王様は常に笑顔だね」
「そりゃ、貴族だからね。メル」
「アランお兄ちゃんも写真ではいつの笑顔だもんねー」
「王族として、愛想を振りまくのは当然だよ」
「でもこの写真の子はなんか違う気がする。満足しましたって感じの笑顔してる」
満足? いったい何に?
理解できないまま私は首をかしげる。
私には、皆と同じ余裕の笑顔に見えるけれど……。
広いお城の前で笑う美少年。それに何があるの?
「とにかく、もっと調べてみよう、リリアナ」
「そうだね、アラン。頑張ろう」
「わたくし達もがんばりますっ」
「オレは他にも知ってる人がいないか聞きまわってくる」
「わたしもついていくよ、エディ君」
二手に分かれて私達はさらに調べる。
途中お腹が減ったので、バゲットを食べた。
ミルクと一緒に食べると、おいしい。
「そういえば、王様って昔食べるだけが楽しみだったみたいね。その割には細いわね」
「んー、努力してたんじゃない? お父様なりに」
「そうかしら、ひきこもりながらも、筋トレとか?」
「多分ね。わかんないけど」
あの王様が筋トレねぇ……。
ちょっとイメージつかないけど。
そんな時、従者がアランのほうへかけてきた。
「アラン王子、乳母の方からお手紙が来てますよ。元気ですかって」
「え、懐かしい。あとで僕から返事を出すよ。ありがとう」
「乳母……」
「何? リリアナ」
「乳母さんなら、さすがに真相を知ってるんじゃないかって」
「なるほど! リリアナ名案だね! よしっ、お父様の乳母に会いに行こう!」
と、言うわけで。私達は王様に乳母の家に向かうことになった。
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街の奥のほうに、古びた一軒の家があった。
そこにはかわいらしいおばあちゃんがひとり、のんびり住んでいた。
庭にはたくさんの花が咲いており、いい匂いがする。
赤いレンガの家には、見慣れない男の子と王様の子供の頃の写真があった。
男の子はぷっくりと太っており、どこか誰かを思い出す。
「いらっしゃい、アラン王子、リリアナさん」
「こんにちは、父がお世話になったようで……ちょっと、質問がありまして」
「ええ、見当はすでについていますよ」
「へっ」
「隠し子騒動でしょう。ここまで噂になっていますよ。あの子の見栄っ張りが起こした事件ですね」
え? 見栄っ張り? どういう事?
乳母はため息をついて壁に貼ってある写真をはがして私達の前に置いた。
「この写真に写ってるのが、貴方のお父様ですよ、アラン王子」
「……メル君にそっくりな子です?」
やっぱり、隠し子なの? まさか、そんなはずはないよね!
「いいえ、その隣のぽっちゃりさんです」
「えっ」
「お父様は肥満児だったので、写真を友人の美少年にお菓子をあげては変わってもらっていたのです。そう、それがメル・ホークさんの血縁の人だったのでこんな事件になったわけですね」
な、なるほど……つまりはあの写真の少年はメルの親戚で、似てるのは当然だったんだ!
で、本当のお父さんは今の王様の面影を残した少年だったという。
「お父様、人騒がせな……」
「本当に、そうねえ。でも、あの子の気持ちもわかってあげて。アラン王子ほど、昔から綺麗な姿なら写真にも写ったのでしょうけど」
「そんな、僕は」
「とてもきれいな男の子だと、わたしは思いますよ」
「ありがとうございます」
乳母の言葉に照れるアラン。
「この事は、貴方のお父様直々に発表させるようわたしから言います。可哀想なメル君とやらには、お菓子をたらふく食べさせてあげてください」
「はい、ありがとうございます乳母さん」
「いいえ。健やかに育ってくださいね、アラン王子」
こうして、私達は乳母の家を後にした。
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「うわああああい! お菓子だー」
メルはお詫びに王様からお菓子をたくさんもらった。
異国のものから高級なものまで。山盛りのお菓子にメルは大はしゃぎである。
「本当にごめんね、メル君」
「いいよ、アランお兄ちゃん。ボクお菓子もらえてラッキーだしっ」
「それならいいんだけど……」
にこにこなメルはご機嫌だった。
でも、なんか最近メル太ってきたような。
お菓子与えすぎなんじゃ……。
「メル、食べすぎて貴女が写真影武者頼む羽目にならないように気を付けてね」
「はーい」
「……本当にわかってる?」
私は不安に思いながら、ため息をついた。
体重計に乗ったメルが悲鳴を上げて泣くのは、そう遠くない未来だ。




