バイオレットの秘密!?
「ちょっと生徒会の仕事急げない? 皆」
「何、バイオレット先輩、最近せわしないですね。最近遊んでもくれないし、寂しいです、私」
「ごめんね。リリアナさん、ちょっと忙しくて」
困ったような笑顔でバイオレット。書類を触る手も、いつもよりスピードが速い。
それを察して、皆はお菓子も食べずに作業を続けている。
その結果、書類達はだいぶ片付けられて行っている。
メルですら、ごみを捨てに行って戻ってきたところだ。
「よしっ、仕事は終わったね。みんな帰っていいよ」
「バイオレット先輩、遊びましょうよー」
「リリアナさんごめん、しばらくは遊べない」
「ええ……バイオレット先輩がいないと寂しいです、盛り上がりにかけます」
「そう言ってもらえるのは嬉しいんだけど……どうしても行かなくちゃいけないんだ。じゃあね!」
「あっ……行っちゃった」
私の声も聞かずに、バイオレットは飛び出していった。
思わず皆で無言で見つめ合う。
「なんかあやしくね? バイオレット先輩」
「エディもそう思う?」
「声がたまに裏返ってるし。嘘苦手だよな、バイオレット先輩って」
「それはいい事なんだけど……なんなんだろう?」
「リリアナ、尾行しようか」
「えっ、いいの? アラン」
「よくはないさ、でも、気になるだろう?」
「それは……」
すごく気になるけど……いいのかなあ……。
それでも好奇心には勝てない私は、アラン達と一緒にバイオレットを尾行することにしたのだ。
**********
そして、私達は今街にいる。
にぎやかな道を、バイオレットはどこも見向きもせずにまっすぐ進む。
そしてそのまま怪しげな店に入って行ってしまった。
「何ここ」
「僕にはわからないよ、リリアナ。飲食店っぽいね」
「隠れて食べに来たわけ? 一緒に誘ってくれればいいのに」
「違うと思うけど……リリアナや僕を誘わないってことは、後ろめたいものだと思う」
「そもそも食べに来てるわけじゃないんじゃないか……バイトとか」
エディの言葉になるほどとみんなは頷く。
バイトなら、アランに言えば紹介いくらでもしてもらえるのに……。
家の事でお金に困ってるのかな……相談してくれてもいいのに。
私だって、力になれるのに。
「どうする? 入る?」
「リリアナ、バイトだとしたらまだ支度中だと思う。働き始めてから中にお客さんとして入って、たずねたほうが無難だと思うよ」
「アラン、さすが! その通りだねっ」
「ボク的にはそっとしといたらーって思うんだけど」
メルが不満そうにつぶやく。それにレイラも頷く。
「わたくしもメル君と同じ意見です」
「でも、ついてきたよね、ふたりとも。気になったんだよね?」
「それはそうですけど、リリアナ様……」
レイラはもごもごする。メルは膨れている。
それから十分後ぐらいに、私達はお店に入ることにした。
「いらっしゃいませ!」
「……え?」
私達はそこで衝撃的なものを見た。
「何してるんですバイオレット先輩!?」
女装してメイド服を着たバイオレットがそこにいた。
タイツ越しの、きれいな美脚が印象的だ。
バイオレットはおぼんを落として固まる。
「何でついてきたの……君達」
「だって、気になって」
「あのねえ……」
「で、何してるんですかバイオレット先輩」
「何ってリリアナさん、アルバイトだよ。コスプレ喫茶でアルバイト」
「私達も手伝います!」
「やめてくれないか。これはわたしだけの問題だ」
バイオレットは淡々と言った。
怒っている様子もない。
ただ、事務的に事実を述べてるように聞こえた。
「お客なら何か注文して、食べていけばいいけれど、冷やかしなら帰って」
「た、食べに来たんですよ!」
「じゃあ、注文おねがいするにゃん」
「にゃん……?」
バイオレット、大丈夫?
頭打った?
「今日は猫語サービスデーなんだにゃん、注文するにゃんっ」
「は、はあ……」
思わず固まるエディ。アランは冷静な様子で注文を言っていった。
結局皆でオムライスとジュースを飲んで、そのまま私達は帰ることになった。
「ありがとうございますにゃん」
「がんばってね、バイオレット先輩……悩みがあれば相談してくださいね! 私は貴女の味方です!」
「嬉しく思うにゃん、気を付けて帰るにゃん」
言われるがままにお店を出る私達。
出た瞬間、皆で目を合わせる。
「これでよかったのかなぁ、私達」
「いいんじゃないかな、リリアナ。お客様としては人並みに注文したし、ありだと思うよ」
「そうだよ、リリアナ姉。あそこで長居するほうが迷惑だし」
それはたしかに。お客様は金持ちそうな大人ばっかりだったし……。
何回も飲み物頼んでた人ばかりなのが印象的。
値段も高めだったしね……。
「エディお兄ちゃんの言う通りだよー。ボク達お邪魔虫」
「陰ながら応援しましょう!」
「そうだね、レイラ……」
しょんぼりしちゃうけど、無事にバイオレットがお金を貯めれるようになるといいけど……。男の子だから、やっぱりプライドもあるだろうし……。
そっとしとくしかないのかなあ……。
**********
それから数日後。昼休みに生徒会にバイオレットに私達は呼び出された。
何事かと思い身構える私達。生唾を飲むレイラ。
「皆に話があるんだ」
神妙な面持ちで言うバイオレットに、胸騒ぎがする。
「バイオレット先輩、大丈夫ですか?」
「? 心配されるような事じゃないよ、リリアナさん。さあ、みんな手を出してほしい」
「手? いいですけど……私達何でも持ちますよ!」
「そう言うわけじゃなくって。目をつぶって」
言われるがままに目をつぶる私達。
バイオレットが何かをガサゴソしている。
「目を開けて」
「!」
手には、みんなお揃いのキーホルダーが置かれていた。
それぞれの髪色に合わせた、可愛い星型のキーホルダー。
友情運アップというおまじないも書いてある。
「これを、皆にあげたくて短期のアルバイトしてただけなんだけどね。余計な心配かけちゃったねん」
「バイオレット先輩……ありがとうございます!」
皆が声を合わせて言った。
バイオレットは満面の笑みを見せた。
「いつも生徒会のお世話をしてもらってるからね。ささやかなお礼だよ」
「……でも、あえてあのバイトを選んだのはどうかと思いますよ……」
アランの言う通りだと思う。
「……一番時給がよかったからね」
「なるほど」
納得する私達。実はそういう趣味だから、って言われたらどうしようかと思った。
「皆には内緒だよ?」
「はいっ」
くすくす笑いながら、色っぽくウィンクするバイオレットに、私達は声をそろえて言った。




