メル、大人になる!?
メルが突然大人になった。
案の定、アランが作っていた薬を勝手に飲んだらしい。
その結果、いきなりでかくなり泣きじゃくっている。
薄紫色のボブヘアは肩まで伸び、ピンク色の瞳は色気を宿し、大体私達と同じぐらいの年齢になっている。すごい、絵にかいたようなイケメンだ。
「うわあああん、かわいいボクがあ……」
「まあまあ、なかなかの美男子になってるぞ」
「本当? エディお兄ちゃん……」
「ああ」
「なら、いいかなっ」
なんて単純なメル。超笑顔になっちゃったよ。
私は呆れたままエディの服を着せられたメルを見る。
意外と長身らしく、服のサイズはぴったりだ。
「僕の薬が……」
アランはひとりぶつぶつ言っていた。
「どうしてそんなに凹んでいるの、アラン」
「お父様の容態が悪いから、せめて大人になった僕を見せたくて」
「それは一大事じゃない! お城に戻りなさいよ、私の家なんかにいないで」
「面会謝絶なんだ……リリアナの分も作って、結婚式を見せてあげたかった」
「そうなの……」
メルったら、大変な事をやっちゃったのね。
でも、今からどうにかできる話じゃないし。
吐きだしたものを飲むのは無理だし、ねぇ。
「リリアナお姉ちゃん、壁のほうに立って?」
「え? 何するの?」
「壁ドン!」
メルが私に向けて壁ドンをした。色っぽい吐息がかかり、ちょっとときめく。
そのままメルは調子に乗って自分のシャツのボタンをほどいた。
薄い胸板が見える。まあ、いきなり成長して胸板が厚いわけないよね。
「色仕掛けしちゃうよー」
「メル、自分で言っちゃ台無しだと思う」
「あっ、確かに。リリアナお姉ちゃん頭いいねっ」
「……えっ」
そうこうしているうちに後ろからアランがやってて、メルを引きはがした。
「メル君。リリアナで遊ばない」
「本気でリリアナお姉ちゃんが好きだもん」
「君はレイラの婚約者だよね」
「そうだけど!」
「浮気はダメだよ」
「じゃあ婚約破棄するもんっ」
「こらこら、それじゃレイラの面目がつぶれるよね。あ、お子様には難しいことわかんないか」
「ぶー」
アランは不機嫌を隠そうとしない。まあ、メルを怒らないだけましなんだろうけど。
気持ちはわかるから、だれも止めやしない。
部屋にあったクッションを抱きしめて、メルが膨れる。中身はまだまだお子様メルのままだ。
「好きな人とお付き合いして何が悪いの、ボク、リリアナお姉さんが好き」
「リリアナが困るよ、僕がいるからね」
「えーっと……私はどうしたらいいんだろう」
「ほら」
「アラン王子、君もリリアナさんを困らせてる張本人だからね? リリアナさんは、誰かを選ぶのを苦手としてる」
(だって、誰かと結ばれたら火あぶりになりそうなんだもん)
自分でもふらふらしてると思うけれど、それがやっぱり怖い。
「無理に決めさせるのはおかしな話だと思わないかい?」
「さすがバイオレット先輩、年長者ですね」
「エディ君は押しが弱すぎると思うけどね」
「……そうかもですね」
「よし、メル君、リリアナさんに好かれたいならアタックはよそうか」
「ぶー」
膨れるメル。うーんやっぱり見た目が釣り合ってなくて変な感じ。
そのまま拗ねてお菓子を食べ始めた。
まあ、どうせしばらくしたらこの薬も効き目が消えるんでしょう。
「レイラ、メルのいう事は気にしないでね」
思わず私は言った。
「まあまあ、わたくしは気にしてませんし……リリアナ様は魅力的ですから」
「そんな事ないよ! レイラはいかにもヒロインって感じのかわいい女の子だよ!」
「リリアナ様のほうが素直でかわいらしいですっ」
「えー」
レイラまで私をべた褒めしなくても、そんなに気を使うような存在かなあ、私。
皆にアタックされる理由も不明だし……。
「リリアナはもっと自信をもっていいと思うよ」
「アラン……みんなのほうがずっと素敵よ」
何この褒め殺し大会。そうこうしているうちにメルが眠りたがりだした。やっぱりお子様はお昼寝が大事なのである。と、思ったら。
「リリアナお姉ちゃんも寝よう」
「え」
「子供のボクとなら平気なら、今のボクも平気だよね?」
そう言って強引に押し倒して私をベッドの中に連れ込んだ。
さすがにそれにはアランがキレた。
「メル君!!!!」
「アラン兄、どうどうどう」
「エディもどいて、メル君を引きはがさないと」
「アランお兄ちゃんも一緒に寝よう。リリアナお姉ちゃんはさんで」
「え」
「寝たいんでしょ? リリアナお姉ちゃんと。前寝言でリリアナと寝たいって言ってたよ」
「!?」
あ、アランの顔が真っ赤になった。
メルがにやにやしている。完全に大人をからかう目だ。
「寝よう! アランお兄ちゃんもっ」
「いや、それは、さすがに……」
アランがおろおろしだした。
バイオレットが笑いをこらえているのが見える。レイラは見て見ぬふりだ。
「じゃあ、オレが混ざっていい?」
「エディお兄ちゃん、いいよー」
「エディ!? 君は常識人だと思っていたのに……」
アランが衝撃的に叫ぶ。
「嫌たまにはオレも暴走してみたい」
「そんなにみんなで寝たいならアランと私変わるわよ?」
それってすごい名案じゃない? これで寝たい人みんな寝れるわよ。
「リリアナお姉ちゃん、それむさくるしいだけで誰も得しないよ……」
あ、バイオレットが笑い転げた。
「もういい、ボク起きてる……ふああ」
「眠いなら寝なよー」
「リリアナお姉ちゃんのせいで目が覚めたよ。もっとおっきいボクを満喫する。身長制限かかるようなところ行きたい」
「お金持ってるの? メルは。わたしはないわよ」
「そんなときのアランお兄ちゃん」
「僕は出さないよ」
でしょうね。いまだに不機嫌だもんね。
不満そうな声をあげてメルがまたまた膨れる。バイオレットはようやく起き上がった。
レイラが空気を呼んでお茶を作り始めた。いい香りが漂ってくる。
「外で歩いたら騒ぎになるからダメだよ、メル」
「きれいなお姉さんに声かけられるかもだもんねー」
「しゃべった途端変質者扱いだけどね。中身子供だから」
「ボクそんなにお子様じゃないもんっ」
いや、十分お子様だよ、メル。
私がレイラが入れたお茶を飲みだすと、皆も静かにそれに倣った。
レモンが入ったそのお茶は、気分を切り替えさせてくれる。
思わずため息をついていると、こんこん、と誰かがノックする音がした。
「はあい、誰ですか?」
「アラン王子のところの使いのものです、王様が意識を取り戻しました」
扉を開けてそう言う召使いに、アランが立ち上がる。
「お父様は、無事なの!?」
「それが……」
召使いはアランと目を合わせない。
「それが?」
「言いにくいんですけど……」
え、何? 何か大変なことなの?
「早く言ってよ、僕心配なんだからっ」
「それが、食べすぎなんです。異国の果物の食あたりです……」
「は?」
アランは思わず口をあんぐり開けて言った。
思わず私達も無言になる。
「王様はすでにぴんぴんしていますよ、アラン王子」
「…………」
アランの表情が暗くなる。気持ちはわからなくもない。
そして重いため息をついたかと思えば……。
「……僕、もうお父様が病気になっても心配しない」
と言い出した。無理もないと思う。
「お父様には、帰宅は遅くなるって言っておいて!」
「アラン王子、わかりました……」
召使いは、そう言ってへこへことたち下がった。
アランは再度ため息をつく。
「さあ! 皆! 飲もうか!」
そう叫んで、笑顔で紅茶をがぶ飲みするアランは、すごく痛々しかった。




