夢見るリリアナ、ホームシック。
最近日本人だったころの夢をよく見る。
普通の女子高生で、ちょっとオタクだったあの頃
なんだか懐かしくてため息が出る。
「リリアナ様、なんだか恋煩いみたいな雰囲気出てますけどどうしたんですか?」
「なんでもないの、レイラ」
私が転生した存在だなんて、言えるはずもなく。
笑顔でレイラにごまかすしかないのだ。
「夢で好きな人に逢えたらなあ……」
「アラン様に御頼みになっては?」
「なるほど!」
「でも、好きな人っていつものメンバーではないんですか?」
「その好きな人じゃなくって、もっと懐かしい感じの……」
「過去のご友人ですか」
「そんな感じかな」
どう言えばいいんだろうね。
「まあ、とりあえず夢で好きな人に逢う薬、頼んでおきましょう」
「ありがとう、レイラ」
自分からだとなんだか言いにくいし……。
私はそう思いながらまた、家族の事を思い出した。
今彼らは元気なのだろうか。私を失っても、笑っているのだろうか。
でもしょせん会えても夢の中だから、その事実はわからない。
**********
次の日アランが薬を持って現れた。
黄色のカプセルをかわいい小瓶に入れて私に渡す。
「僕ならいつだって会えるのに」
「あはは……」
アラン達の事は大好きだよ。すごく大好き。
だけど実の家族ってやっぱ特別で。
(夢の中でぐらい、いいよね)
生き返るわけではないのだから。別に命のタブーは犯してない。
「この薬を飲んで眠ってね。ゆめに取り込まれないように、僕がそばで見てる。あまりにもよい夢のせいで帰ってこなかったら困るからね」
「ありがとう、アラン」
「そんなの当然だよ。だって僕は婚約者だから、それにレイラだって皆だって待ってるよ、今の世界で」
「うん、わかってる」
(でも、それでも会いたいの)
自分でも弱いなって思う。だけど、今の私じゃ夢にお母さんたちは出てこないの。
いつも霧で隠れて、顔がわかんないの。私は転生しちゃったから、前の記憶があいまいなのかもしれな
い。
乙女ゲームの記憶は、残ってるんだけどな……最近はまるで番外編のように、元のルートから外れていて、何も役に立たないけれど……。
(本当は今頃アランルートなら、レイラといい感じになってるはずなのに、何も起こらないのはどうしてかしら?)
「じゃあ、おやすみなさい」
「うん、リリアナ、おやすみ」
私は薬を飲み下し、夢に落ちた。
**********
頭がふわふわしている。私、寝ているんだなあ。
目の前にどこか懐かし顔が見える。
背の高いやさしそうなおじさんと、気のつよそうなおばさん。
現代の普通の格好をしてこっちを見ている。
私の姿も昔の女子高生のままだ。
「お父さん! お母さん!」
「×××」
なぜかうまく聞こえない、私の名前をふたりは呼んだ。
「会いたかった、お父さん、お母さん」
「オレもだよ×××」
「あたしもよ、×××」
懐かしい。顔がはっきり見えてる。私って、お母さんによく似た顔をしていたんだ。自分の顔さえ、どこかあいまいな記憶になっていたことに驚いた。
涙が出そうだった。なのに、なぜか彼らは笑っている。
そしてどこか遠い場所を見つめているように見えた。
「ねぇ、×××。貴女はあたし達のそばより輝いてる場所が今あるでしょう? もっとそっちを向いて、がんばりなさい。こちらには戻れないのよ」
「お母さん……」
「×××、そうだよ。オレ達はずっとどこかで君が頑張ってるって知ってて応援してる。こっちも新しい道を歩んでる」
「お父さん……」
「後ろに、そのお友達が待ってるよ」
「! どうして、この夢は会いたい人に逢う夢なのに」
「×××は、オレ達だけじゃなく、彼らにも会いたい、そばにいたいと思ってる。それはちがうのか?」
その声は責める様子もなく、優しげなものだった。
振り向くまでもなく、後ろにいるのが誰かわかっている自分がいた。
「それは……」
(嘘じゃない、けれど)
どこか引っかかってたんだ。なんでお母さんたちの顔がわかんないのかって。
でもそれは、今思えば皆がいるから、記憶が薄くなったのかもしれない。
今の自分に満足しているから。だって、今の人生すっごい楽しいじゃん?
「リリアナ!」
気が付けば、私はリリアナ・ローズだった。
目の前にはアラン達が嬉しそうに待っている。
「僕達は、ずっと一緒だよ! 何があってもそばにいるよ」
「まってる、リリアナ姉」
「ボク、リリアナお姉ちゃん大好きー」
「わたしも、好意的に思ってます」
「わたくしもです!」
「皆」
これは、私がそう思われたいという願望かもしれない。
それでも、そういう事だ。そう思われたい、=私は彼らが大好きなのだ・
「早く、戻ろう! 皆が待ってるよ」
アランが私の手を取って走り出す。
「リリアナ、大好き!」
「……わたしも、大好きよ! 皆」
皆が私の周りに集まる。
目の前がキラキラしだして、私は目を覚ました。
**********
「おはよう、リリアナ」
アランの顔のドアップに、私は一瞬悲鳴をあげそうになる。
すぐにアランは水を持ってきてくれた。ミントの葉が浮いた、すごく気持ちよく飲める水だ。多分起きる前から作っておいてくれたのだろう。
「アラン、おはよう」
「そう、ところで、僕らは夢に出てきた?」
アランが不安そうに尋ねる。扉の陰から、皆の姿も見えた。
どうやら私の夢がそんなにも気になったらしい。
なので私は笑顔で頷いて言った。
「もちろんっ」
と。