偽王子、アラン!?
今の王子には、背中に大きなほくろがある。
それはみんなが知っている有名な話だ。
「ご飯ご飯」
「リリアナ、お茶がこぼれそうだよ。トレーに山盛りなんでも乗せるのは辞めなよ」
「ごめーん、ってあ! こぼしちゃった」
私のせいでアランのシャツがびしょ濡れに……しかも、よりによって学園食堂を珍しく使っているときに限って。溜息をつくアラン。
皆が明らかに注目している。
「まあ、いいよ、脱ぐ」
あ、黄色い声があっちらこっちらから……。
「着替え持ってくるね!」
なんか見てられないし。
「ありがとうリリアナ。さすがだね」
そう思って私が離れようとしたとき。
「あれ? アラン王子にほくろがない」
「偽者なんじゃ……」
(えー!?)
思わず振り返ると、綺麗な白い肌を露出するアランがいた。
そして、言われた通りアランにはほくろなどない。
でも、確かにアランはアランのはずだ。偽者などではないはず。
「そんな馬鹿な……」
「え? 僕ほくろがないの? どうして?」
アランが一番うろたえてる。
「王子の偽物がいるわ!」
「捕まえて!」
そうこうしているうちに、警備の人たちがアランを連れて行ってしまった。
そのままアランは、お城の檻に閉じ込められてしまったのだ。
**********
しばらくして、アランと私は王様に呼び出された。
アランは手足を縛られている。見ていてすごく痛々しいよ……ほどいてあげたいけれど、さすがに私もばっちり周りの人に囲まれてるし。
王様は苦い顔をしている。
「いつのまに入れ替わったのだ、偽者め! アランを返せ」
泣きそうな声で叫ぶ王様に、アランは動揺する。
「ぼ、僕はアラン・ナイトだっ」
「じゃあ秘密を言ってみろ」
「それは……」
「言えないのか」
「リリアナもいるし……」
「私なんか気にしなくていいってば」
そんな恥じらい捨てなきゃいけない状況だから!
気持ちはわかるけど……。
「お父様はいまだにクマのぬいぐるみと寝てらしてます」
「なんでわしの秘密を知っているんだ!?」
「本物だからですよ!」
「誰かから探ったな……」
「結局疑うんですね?」
「わしのアランを返せ!」
「お母様はどこへ?」
「旅行だ。もう少しで帰ってくる」
「……そうですか」
お妃さまは、どこに旅行に行ってるんだろう?
そんな場合じゃないのに。
アランが私のほうを見つめる。
「あの! アランに不自然なところはなかったです」
「リリアナさん、君には本当のアランを見る目はないのか」
「彼は本物です!」
「ほくろなど、どうやって消すのだ。あのほくろはかなりめだつものだ」
「それは……」
アランが自分で消すとは思えないし……謎だ。
不思議がっているのは私だけではなく、アランもだ。
「僕に言われても困ります……」
「別人だからに決まっておるだろう!」
王様は声を荒くする。
そんな、短絡すぎるよ……。イライラしていると部屋の扉が開いた。
「アラン兄さんは本物です!」
「そうだよ、ずっと一緒だったもん! ボクが保障するよ!」
「わたしも保証します!」
「わたくしもです!」
「皆……僕のために」
目をウルウルさせるアランに、皆は叫んだ。
「彼を処刑になんかさせないっ」
皆が同時に言った。
そんな時だった。さらに誰かがやってきたのは。それは……王妃様だった。
大きなカバンをもって、にこやかに登場する彼女はのんきだ。
「あらまあ、何があったのかしら」
「お母様! 僕のほくろが消えてしまって」
「あら、それは当然じゃない?」
「へ?」
王妃様以外の全員が声を合わせた。
王妃様は上品にほほ笑む。
「だって、私がシミ取り器のテストで寝てるアランのほくろを消したのだもの」
「……ええええええええええええええええええ!?」
その場の空気が一瞬で変わった。
「ややこしいですお母様!」
激昂するアラン。無理もないよね。
自分のお母様の思い付きのせいで、自分が処刑されかけて……。
「そうだ、お前。そのせいでアランは偽者の王子だと大騒ぎに……」
王様、貴方が一番疑ってましたよね。自分を棚に上げるのもどうかと思います。
「そんなわけないじゃない、あなた。アランは結構強いんだから、そんな簡単に変われるわけないじゃない。それにこの美貌、そっくりな子がいるはずないわ」
「お母様……すべては貴女の思い付きのせいです」
アランがぐったりした様子で言った。
「あら? ほくろが消えていい男度が上がってリリアナさんからもうっとりじゃないの?」
「むしろリリアナに迷惑をかけたよ、お母様」
「えー……これで完璧にきれいな肌になったのに」
お妃さまはきょとんとしている。
皆は思わず苦笑い。
こうしてこの騒動は幕を閉じた。
けれど……。
「お妃さまの使ってる染み抜きってなんでも消せるんですってー」
「それでアラン王子の大きなほくろも消えたんでしょう? すごいわねー」
「あたしも欲しいわ」
「でもお高いんでしょう? あなた、お妃さまに借りてきてよ」
「やだわー、そんなの恐れ多いわー」
女性の中で、シミ抜き器の話題が話題になったのも、無理のない話かもしれない。




