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さよなら、バイオレット?

「ないっ、ないっ、ないっ」

「どうしたんですバイオレット先輩。生徒会に忘れものですか?」

「リリアナさん、それが……わたしの学費がなくなって」

「それは大変ですね!?」


 学費とか、それがないとバイオレットは退学である。

 そんなのはいやだよぉ……。バイオレットの卒業式まで、私見届けたいよ。

 まだ夏にもなってないけれどさ。


「どこかへ落したとか……」

「それがね、リリアナさん。その記憶が一切なくてね……」

「アランに探知機でも使ってもらうかなあ」


 その言葉にバイオレットの目が輝く。


「ごめん、リリアナ。探知機は金属しか反応しないから札束じゃ無理だよ」

「えー」


 名案だと思ったのになあ。がっくりしているとエディがひらめいた。


「皆で募金とか」

「先生に怒られるよ、エディ」

「リリアナ姉、そうかなぁ……」


 そんなの許したら、ほかの人もやっちゃうよね。

 じゃあ、どうしようか。

 唸る私達。


「皆で仕事するとか! この人数なら結構稼げるよ! 私頑張る」

「もちろんわたしは後から返すけどね、お金。見つかるかもしれないし……でも、今すぐ必要なお金だから、それは助かるよ。でも、何をするの?」

「バイオレットレンタルとか」

「リリアナさん、何それ」

「おじさんレンタルとかあるじゃん」

「ないですよ」


 あ、そっか。こっちの世界では通じないのか……つまりは、人をレンタルしてお金を稼ぐって事なんだけど。


「法律的に大丈夫なんですか?」

「大丈夫だよ、レイラ。何もやましい事さえしなければ、私達は働ける年齢なんだから」

「そうですか……では、まず張り紙をしましょう。学校の中で募集すれば変な人も現れないでしょう」

「ナイスレイラ! 私もレンタルしようかな? リリアナレンタル!」

「それはダメだよリリアナ」


 はしゃぐ私に、くぎを刺すアラン。なんで?

 いいじゃん、私だって風の魔法が使えるんだよ? 誰かの役に立てるよ。


「なんで? アラン」

「危険だから、女の子達はダメ。レイラもね」

「わたくしは平気ですよ」

「ダメったらダメ。僕がやるし、気にしないで。あとメル君も年齢的にまずいね」

「ボクは何すればいいの? じゃあ」

「お金の管理をお願い」

「わかったよ、アランお兄ちゃん。よくわかんないけど、集めてればいいんだよね」

「そうそう」


 ……子供にお金の管理って、ありなの?

 まあ、メルは賢いから大丈夫かな?

 と、いうわけでさっそく私達はポスターを作る。バイオレット、アラン、エディのレンタルだ。それぞれの売り文句を書いていくと、なんだか楽しくなってきた。


「バイオレット先輩は、家事全般出来ますよね」

「家族が多いからね、リリアナさん」

「そしてお色気もあるから、デッサンや写真のモデルにも向いてる」

「そうかな? ありがとう」

「アランは、色々な知識や研究能力がある」

「そうだね、僕はそう言うのが得意」

「エディは運動神経や体力があるし……荷物運びとか助っ人にはピッタリね」

「それ以外はオレ、凡人だからな……」

「何よ、飛び級してるぐらいには賢いじゃない」


 うん、さすが乙女ゲームの攻略対象。皆魅力的な男子だ。

 そんな男子達に愛されるレイラはうらやましいなあ。

 もう、知らないところでフラグ立ってるんだろうなあ。


「さあ、ポスターを貼ってくるわね」

「リリアナの身長だときついから、バイオレット先輩とエディがいくといいよ」

「たしかにわたし達のほうが適任だね」

「わかった。オレ、行く」


 そう言って、ふたりはポスターを持って旅立っていった。

 レイラがお茶を煎れながらカップケーキを取り出している。

 甘いバニラの香りが、いい感じに食欲をそそる。

 放課後だから、食べてもいいんだけど……。


「なんだか不安で食欲が失せるわね」

「そうだね、リリアナ」

「ボクは平気だから、食べていい?」

「どうぞ、メル」


 さすがは子供だなあ。のんきでいいなあ。

 私はぼんやりしながら窓の外を見た。

 ポスターを見て誰かがバイオレットに話しかけている。

 お客さんかな?

 しばらくして、バイオレットが戻ってきた。


「困った……高額で男性にデートを頼まれてしまったよ、皆……」

「何それ、バイオレット先輩、面白そう!」

「リリアナさん、私にとっては死活問題なんだよ……」

「エディは? エディはどこに?」

「早速運動部に助っ人に行ってるようだよ。練習試合があるんだって」

「なるほど、よかったあ。ふたりとも仕事が見つかったんだ」

「僕は?」

「アラン王子は取り合いになってるから、今みんなで話し合いしてるよ」

「早くしてくれたほうが助かるんだけど……」


 しかたがないよ。誰だって人気者の王子様をレンタルしたいに決まってる。

 それよりもだ。


「デート、私達が監視してあげる!」

「リリアナさん……」

「心強いでしょ?」

「面白がってるだけだよね?」


 あ、バレてる? えへへー、だってこんな楽しい事めったにないよね!

 私は頭をかいて笑った。バイオレットはため息をつく。


「まあ、いいでしょう。アラン王子はそこそこ御強いし、護衛にはなるしね」

「私は? 風魔法! 風魔法!」

「何に使うのかな? レイラさんの水魔法で雨を降らしたほうがまだ多雨会道はあるんじゃないかな?」「わたくしも、お供します!」

「ありがとう、レイラさん」

「ぐぬぬ……私だって……!」


 悔しさで歯ぎしりしながら私はうなった。

 そして、私達はバイオレットの後ろに隠れて尾行することになった。


**********


「あれが、依頼主……」

「三年生の人だね、リリアナ。結構な美形じゃない?」


 目の前には、短髪の爽やかな美青年が立っていた。


「一部の人が喜びそうな展開ね……」


 なんか、レイラがワクワクしているのは気のせい?

 公園の近くまでつくと、私達は草むらに隠れる。

 そこで飲み物を飲みながら彼らは話し出す。


「夢みたいだよ、おれ、ずっとバイオレットに憧れてて……」

「はあ、ありがとう……」

「いつかふたりきりにって、思ってたんだけど……バイオレットは多忙だから」

「生徒会もあるかね」

「うん、それはよく知ってる。生徒会のおかげで学園は平和だし」

「そう思ってくれて光栄だよ」


 にこやかに笑うバイオレット。

 なーんだ、すごい平和じゃない。


「デートって言ったって、ただしゃべってるだけじゃん」

「リリアナ、それ以上何を求めるの?」

「何って、アラン……それはハグとかキスとか」

「見たいの?」

「……レイラは見たそうだけど」

「そんな事ないですっ」


 いや、すごく目がキラキラしてるよね?

 気のせいなんかじゃないよね?


「手をつないでいいかな、バイオレット」


 頬を染めて三年生が言った。

 困惑しながらバイオレットは頷く。


「それぐらいなら……」

「……君の手は、すごく温かいね。優しい証拠だ」

「はあ……」


 バイオレット、苦笑い。まあ、気持ちはわからなくもない。

 そしてそのまま二人は強制的に見つめ合う。

 そして、そのまま……三年生は口づけをしようとした……ので、私は慌てて風邪で軽い段ボールを彼の顔にぶつけた。


「!? 何!?」

「すとーっぷ! キスはさすがにやり過ぎです、先輩!」

「でも、おれはお金をたくさん払って……」

「それなら、お金はいらないよ」

「バイオレット! そんな」

「ごめん、君の心をもてあそんだわたしが悪かった」

「わかったよ……」


 そう言って走り去る三年生。泣いているようにも見えたけど、多分気のせいじゃないだろう。

 隣でなぜかがっかりした顔のレイラ。あの、貴女まさか腐ってます?

 頭を下げるバイオレットに、エディがかけてくる。


「おーい、助っ人代もらったぞー。そこそこのお金になるはず。ってどうした?」

「いや、ちょっとバイオレットのお客さんともめて……お金が入らないことになって」

「え、じゃあ、どうするの?」


 そこで、アランの使用人が近づいてきた。


「アラン様、そう言えば今月のお小遣いを渡し忘れていました。もってきたのでお納めください」

「え、あ、うん」


 アランが大きな袋を受け取る。そして開いてみると、大量のお札が入っていた。

 そこで、私は冷静になる。


「ねぇ、初めからバイオレット先輩が、アランにお金を借りればよかったんじゃない? 王家だし、学費ぐらいなら貸せたでしょ」


 無言になるその場。今気づいたよね、皆も。

 そしてため息をつくバイオレット。


「今までの努力は一体何だだったんだ……」

「すみません、僕すっかり忘れてました……。はい、学費分お貸しします」

「ありがとう、アラン王子。助かるよ」

「利子はいりませんからね」


 こうして、バイオレットの学費事件は幕を閉じた。

 その後、学費は無事見つかり、アランにバイオレットはお金を返すことができた。

 めでたしめでたし、である。


 ……あの三年生を覗いては。



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