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リリアナ、初めてのメイク

 レイラはおしゃれだ。私もまあ、レイラ達メイドのおかげでいつもおしゃれだけれど。

 もともとが女の子らしいレイラに比べて、私は色気より食い気! おしゃれに無頓着ではないけれど、それ以上に興味があるのがそれなの。

 食べるほうが好きだもん、メイクだっていつもしてもらうかしないかなんだけど……。


「レイラ何? これ」

「コスメセットです。デラックスバージョンで、百二十色のパレットがあります。ちょっと面白かったのでお給料で買っちゃいました。使ってますか?」

「いいの? すごーい、沢山色がある。ラメも入ってる」


 キラキラしたものやマットなもの、ペンシル状のもの、色々な化粧品がそこには入っていた。女子力全開のピンク色のポーチには、セット以外のコスメも入っているようだった。

 レイラはいつも桃色のほっぺに、サクランボのような唇をしている。

 それがいつもすごく羨ましかったんだよね……。

 でもどうしていいか全くわからなくて……お化粧品って色々あるじゃん?

 特に目元とか、触るのが怖いし。


「リリアナ様も女の子です。メイクを覚えて損はないですよ」

「そうかなあ」

「大きな鏡もありますし、試してみるといいですよ」

「うん、じゃあ、借りる」

「どうぞどうぞ、わたくしはちょっとお茶を用意してきます」

「いってらしゃーい」


 私はレイラを見送ると、さっそく肌に塗る肌色のものを手に取った。

 うん、白いほうがいいよね。色白は七隈隠すって言うし。


「ふふふふーん、色白美人になるぞぉ」


 私はたっぷりとそれをパフに取り塗りまくる。


「次はほっぺに塗るやつ……あんまり薄いと遠くから見えないよね。ピンク色にして、十回塗り重ねよう」


 私は頬を十回ぐるぐるとブラシではたいた。

 うん、絵の具のようなきれいな発色!


「次は目の周りの粉……一色じゃつまらないわ。七色にしましょ」


 ブラシに粉を取りグラデーションを作っていく。うん、いい感じ。 

 って言うかなんかこの鏡曇ってるような……まあ、いいかな?

 そのまんま、放置だ!


「口紅はやっぱ赤! でたっぷりつやつやになるやつを塗る!」


 私はぐるぐると唇の周りを口紅で塗った。

 これでご飯食べても落ちないよね。

 そして仕上げにニッコリ笑顔!

 女の子は、笑顔がいっちばーん!


「リリアナ様、お茶ですよー」


 レイラが入ってきたので、私は勢いよく振り向いた。


「きゃっ」

「レイラ!?」


 するとレイラは思い切りカップを落としてしまった。

 慌てて駆け寄ると、顔が青い。高いカップだったからショックなのだろう。


「レイラ大丈夫? カップは気にしないでね」

「は、はあ……すみません、ありがとうございますリリアナ様」

「それより見て見て! 私メイク上手じゃない?」

「え、ええ……すごく刺激的です」

「へへへー、私、メイクの才能あるかもっ」


 思わずにやける私。だって、初めてなのに個性もある素敵なメイクができたんだよ? すごくない?


「今日はアラン様たちがいらっしゃる日ですね……」

「そうだね!」

「メイクを落としておいたらどうですか?」

「嫌だよレイラ! 皆に見てもらうの!」


 こんなファンタスティックなメイク、落とすなんてもったいないよ!

 また同じメイクするのも大変だし……それに、リップとかなぜかかなり消費したけど、あれって本来使い捨てなのかな? 


「そうですか……」 


 どこか絶望した様子のレイラ。


「玄関まで迎えに行ってあげよう!」

「え、やめましょうよ」

「なんで? レイラさっきから変だよ」

「それは……」

「行こう行こう。早くー」

「待ってくださいー!」


 私が走り出すとレイラが追っかけてくる。

 そして、玄関につくとちょうどチャイムの音が鳴った。


「アランです」

「今開けるわ」


 私はワクワクしながら扉を開きー……アランは持っていたお土産の入った袋を落とした。後ろで謎の悲鳴を上げたメルと、固まった状態のバイオレットがいる。

 駆けつけてきたのか私の後ろにはエディのいた。


「リリアナ、その顔……」

「すっごく素敵でしょ? 私がメイクしたのっ」


 私はぐいぐいとアランに顔を近づける。


「う、うん、とても素敵だね……」

「バイオレット先輩! どうですか?」

「えっ、大胆でいいと思う……少しやり過ぎなぐらいに」

「メルは?」

「衝撃的なぐらい綺麗だよ……」


 よし、やっぱり今日の私はかわいい!

 鼻歌を歌いながら私は自分の部屋からかばんを持ってきてそのままみんなで出歩くことにした。

 すると、やっぱり感じるの! 熱い視線! 私を見てこそこそ褒めてるの!


「リリアナ、早く帰ろう」

「どうして? アラン」

「今日の君は魅力的過ぎるから……」


 何で目が泳いでるの? アランってば。

 こっちを向いてよー。


「ありがとう!」

「う、うん」


 アラン、思いっきり目をそらしたよね!?


「わかったわかった、写真屋さんで写真撮ってもらってからね!」

「え!? 写真屋さんに行くの!?」

「そうだよ、何で驚くのアラン」


 こんなにおめかししてるんだから、記念に写真残したいのは当たり前でしょ?

 驚くほうが不思議よ。


「近くにあったはず。あ、見えた見えた。あこ!」

「エディ、リリアナ止めてよ」

「無理だ……オレは非力だ……」


 なんの会話してんの? ふたりとも。

 私は気にせず写真屋に入っていく。

 そこの店主は顔なじみだから、いつもニコニコしてくれる。

 白髪が似合う元気なじいちゃん。

 ……はずなんだけど。

 今日に限っては口をあんぐり開けて固まっているのだ。


「リリアナちゃん……どうしたの」

「店主さん、こんにちは、かわいいでしょ? 自分でメイクしてみたの」

「はあ……そうだね、かわいいね」


 なんか声おかしいけど、大丈夫?


「それで、この状態で写真撮ってほしいんだけど」

「それは本気かい? リリアナちゃん」

「もちろん。何を言ってるの? 当然じゃない」

「……わかったよ、撮ってあげよう。怒らないでね?」

「何に?」

「……じゃあ、皆ならんで」


 私達は指示されるがままに並んだ。

 そしてポーズをとる。小物を使ったり、しぐさを工夫して、まるで気分はアイドル。

 家で使用人に撮ってもらうのもいいけど、やっぱりプロの技術は違うのよね。

 アランと一緒に撮ってもらうときは、王家御用達の時もあるから、本当に差をくっきりかんじるかな。


「はい、撮れたよ」

「早く焼いてよー」

「……本当に怒らないかい?」

「当たり前だよっ、早く見たいなっ」


 うーん、すごい楽しみっ! ワクワクしてきた!

 待っている間、ミルクティーを私達はもらって飲んだ。


「リリアナ、もうメイクはしないほうがいいよ。ありのままの君が一番素敵さ」

「どうしたのアラン、急に」

「ううん、ただ本音言ってみただけ」

「オレもそう思う。リリアナ姉はメイクする必要ねぇよ。かわいい顔してる」

「エディ……」

「わたしもそう思うね!」

「わたくしも、メイクをすすめておいてなんですけど、素顔が一番だと思いますね!」


 え、何? なんなの?


「私がかわいく変身したから嫉妬してるの?」

「…………」


 皆が沈黙する。なんでよ。

 首をかしげていると、店主がやってきた。

 なんだか笑いをこらえるようなしぐさをしている。


「焼けたよ、リリアナちゃん」

「見ていい?」

「……覚悟できてるなら裏返して」


 店主の言葉に疑問を抱きながら、私は写真をめくった。

 そして。


「なにこれえええええ!?」

「リリアナ、これが現実だよ……」

「すっごい変! 誰もどうして言ってくれなかったの!? よくこれで外歩いてこれたね、私ってば!」

「リリアナが嬉しそうだから、言えなくて……ごめんね、僕には無理だった」

「そんなあ……」


 この写真どうしよう。持って帰りたくないなあ……。

 ああ、穴があったら入りたい。


「あの、リリアナ様」

「何? レイラ」

「化粧落とし、この近所では全部売り切れでした」

「いつの間にチェックしてくれてたの!? ありがとう。だけどそれって……」

「この顔で歩いて帰ることになりますね……」

「そんなのすっごく楽しくなーい!」


 むしろ泣きそうだよ! 私は唇を強く噛んだ。

 ぐったりしていると、アランが耳元で囁いてきた。


「僕が抱き上げて、顔を僕の胸にうずめてもらえばいいよ」

「アラン天使!」

「嫌別に普通だよ……」


 あ、アラン、テレてるー! かわいい!

 でも、おかげで無事帰宅できる。


「ありがとうー!!!」


 私は満面の笑顔でアランに抱き着いた。

 ……んだけど。


「ぎゃー! 服が化粧品でぐちゃぐちゃに……」

「いいよ、気にしなくても。僕は気にしないから」

「でも高いんでしょ!?」

「普段着だから、そんなにしないよ」


(嘘だ……)


 私はうつむいた。私が変なメイクしたばかりに……。

 凹んでいるとアランが手を差し出してくれた。


「行くよ、リリアナ。皆も。早く帰ろう? おいしいご飯が待ってるよ」

「う、うん……」


 私を抱き上げるアランは、とても幸せそうだった。

 お母様に、王子様の服を汚したことと変なメイクで出歩いたことをこっぴどく怒られたのは当然の話だ。



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