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一同、ケモミミ人間になる。

 今日はアランの部屋にみんなで押し寄せた。

 アランは何やら研究をしているらしく、手が離せないようだ。

 不思議な色をした液体をいじるアランの横で、レイラが紅茶を入れていた。 

 ダージリンのいい香りが立ち上る部屋の中で、私はのんびり恋愛小説を読んでいた。


「ひーまー」

「リリアナ、静かにして。実験が失敗するじゃん」

「アランならこなせるって」

「そんな過信はよくないよ? 失敗は誰にでもあるし」

「魔法や薬でどうにかすればいいじゃん」

「あのねぇ」

「楽しければそれでいいの!」

「ほら、小説の続き読んでて」

「はあい」


 私はしぶしぶ小説に視線を落とす。

 アランの部屋になぜそれがあるのかは不思議だったけれど、まあいい。前から好きな作家さんの作品で、分厚くてお小遣いでは買えない新刊だからありがたく読ませてもらう。

 近くではいつものメンバーがサブレをかじりながらそれぞれ時間をつぶしていた。

 バイオレットは課題を、エディは漫画を、メルはお絵かきしている。

 時通りカチャカチャと聞こえる物音に顔をあげては、ふたりを眺める。

 うーん、さすが本来のヒロインとヒーロー。誰が見てもお似合いだなあ。


「何ですか? リリアナ様」

「んーん、なんでもないよ。レイラはいつでも女神だね」

「どういう意味ですか?」

「気にしないで」


 私はにっこり笑った。レイラは首をかしげる。

 そして紅茶を私達の目の前にどんどんおいておく。

 メルが砂糖をたっぷり入れるのを見て目をそらしながら、私は一口いただく。

 うん、おいしい。そう思った瞬間だった。何かポンッという音がした。


「何!? 何々!?」


 あたふたしていると、目の前にケモミミを付けた皆が立っていた。

 まさかと思い、自分の頭を触ってみる。そして鏡を見て見た。

 私の頭にもある、ふわふわの猫耳が。


「どうして!?」

「レイラ、もしかして僕の作った薬を紅茶に混ぜた?」

「そうかもしれないです、ちょっと寝不足で……」

「やっぱり! 試作品のアニマル化の薬なんだよ、あれ」


 アランが悲痛な声を上げた。


「すみません、すみません! わたくしのせいで……」

「謝ってもどうにもならないから、解決策を考えよう。そうだ、トイレに行けばいいんじゃないかな? 薬を外に出せば……」

「名案です、アラン様! 皆さん、お水をたくさん飲みましょう!」


 目をキラキラさせながらレイラは言うけれど、私は皆のミミが気になって仕方がなかった。うさ耳をはやしたアランに、リスの耳をはやしたレイラ、クマの耳をはやしたエディ。そして、豹の耳をはやしたバイオレットに、ネズミの耳をはやしたメル。

 なんだかすごく……。


「みんなかわいい! ねぇ、これで写真撮ろう?」

「リリアナ……あのねぇ……。まあ、治る方法がわかるんだから、それぐらいのおふざけはいいかな?」

「やったあ! それと、アランの耳さわりたい! 超かわいい」

「……えっ、そんな、やだよ」

「いじわるっ」

「……わかったよ、さわっていいよ。少しだけ」

「わあい」


 私はハイテンションになってアランに走っていく。

 ふわふわもこもこのしっぽも触りたいけど、さすがに我慢。

 白くて長いうさ耳を、ゆっくり撫でる。うーんしっとりとして柔らかい。


「うわー気持ちいい」

「リリアナ、あんまり触んないで……ん……あ……」

「ふさふさだぁ」

「メル君! メル君変わって! 撫でてもらって!」

「うんっ、いいよっ」

「え、どうして変わるの? アランの耳気持ちいいのに……」


 しょんぼりする私に、苦笑いするアラン。

 目の前にはにっこにっこご機嫌なメルが立っていた。

 そっと撫でるとしっぽを振った。少し恥ずかしそうだ。


「どう、メル」

「気持ちいい!」

「それはよかった」

「エディお兄ちゃんや、バイオレットお兄ちゃんも触ってもらいなよー」

「遠慮しとくよ、オレは」

「わたしもいいかな……」


 なぜか二人とも苦笑い。なんで?


「えーなんでー、すっごくきもちいいんだよぉ?」

「だからだよ、メル君」

「なんでー? バイオレットお兄ちゃん?」

「さっさと写真を撮ってもらいましょう?」

「はーい、レイラお姉ちゃんッ」


 レイラの提案で写真を撮ってもらい、皆で水を飲み始める。

 そして最初にメルがトイレに入っていった。

 しかし……。


「ねーねー、リリアナお姉ちゃんー耳直んないー」

「本当ね、メルにはまだ耳もしっぽもある」

「外に出したらいいわけじゃないんでしょうか……」

「ごめんね、解毒剤はまだ作ってないんだ。僕もしっかりしとけばかよかったね」

「アラン様は悪くないです!」

「遊んでる最中に研究する僕が悪いよ。でも、どうしよう、今日は見世物小屋のオーナーが遊びに来てるんだ。捕まったら売られてしまうよ」


 アランが困り顔で言った。そんなあ、超楽しくない展開なんだけど!

 私は拗ねるような表情を作り唸った。


「帽子をかぶっているしかないですかね?」

「僕の長い耳はどうにもならないよ」

「たしかに……そうですね、わたくしならどうにかなるんですが」

「どうする? 解毒剤をたくさん試しに作るにも、材料がいるし、僕だけは出歩かなきゃいけないよ」

「そんなの危ないよ! アラン」

「でも、僕しかそう言う知識はないんだから……それにほかのみんなを危険にさらせないよ」

「アラン……」


 なんて友達思いなんだろう。アランってば。

 感動で涙がにじんでくる私を無視して、メルが大きくあくびをした。


「ねぇねぇ、ボク眠い……」


 寝ぼけた表情でメルは目をこする。

 思わずため息をつく私。子供は自由でいいなあ。

 危機感のなさも羨ましい。


「寝てもいいよ、メル君。そこに僕のベッドがあるから、勝手に寝てて」

「はーい。おっきーベッドだねぇ、真っ白だし」

「お母様の趣味だよ。広くて寝やすいからいいんだけどね。眠れればどうでもいいよ、僕は」

「うらやましいなあ、ボクも欲しいーきっと高いんだろうなあ」

「とりあえず、寝なよメル君。寝てる間に問題解決できるように努めるから」

「ありがとう、アランお兄ちゃん! 大好き!」

「はいはい」


 ひらひら手を振って、ベッドに入るメル。

 数秒で眠っていった。それを見届けた後、私達は会議を始める。


「どうやったら直ると思う? 僕はアイデアが浮かばないんだけど」

「そうだね、小説的に運命の人とキスすれば治るって言うのは王道だよね、アラン王子」

「バイオレット先輩、その発想はやめてください、皆さんの相手はここにいません」

「自分にはいると?」

「もちろんです」

「へぇ、どうだか」


 クスリと笑うバイオレットに、カチンときたアラン。

 眉間にしわを寄せてバイオレットをにらむ。


「僕だけがいるんですよ、ここでは」

「わたしの相手しかいないね」

「まあまあ、おちつけよ、ふたりとも」

「エディ君はどっちだと思う?」

「どっちとかそう言う問題じゃ無いと思いますよ、バイオレット先輩……誰が相手だとしても、ふたりしか元に戻れない方法では結局意味がないち思うんですけど……オレ、おかしなこと言ってる?」

「うーん、確かにエディのいう事は真理だね。全員が元に戻らないといけない。僕だけとか、リリアナだけが助かっても意味はない」


 話し合う皆の会話を、私はきょろきょろしながら聞いている。

 みんな真剣そのものだ。でも、正直私は今すごく眠い。

 でも、ベッドに行きたいとか、わがまま言える雰囲気じゃないし……。


「どうしましょうかねぇ……わたくし達、このままでは困ってしまいます」

「本当、舞踏会だってあるのに……王子の僕がいないとか、大問題だよ」

「ほかの国との交流にも響くよねぇ、アラン王子がいないと」

「オレらはとにかく、アラン兄さんはしゃれにならないよなぁ」


 確かに……うーん、どうしたらいいんだろう?

 私は首をかしげて腕を組む。


「うーん……ん、ふわあああ」

「リリアナ様、眠いのですか? あくびなどして」

「ごめん、眠い……」

「メル様と一緒に眠られては?」

「でも……」

「僕が許可を出すよ、リリアナ。眠いのなら寝ればいい。あとで起こすから」

「そんなあ、悪いよ……」

「構わないよ? 別に」

「じゃあ、皆ごめん。おやすみ」


 私は立ち上がり振り返る。そしてベッドに向かって歩き出し、眠っているメルを見て……。


「えええええ!?」


 思わず叫んだ。ビックリした皆が飛んでくる。

 だって、仕方がないじゃん!? この状態で叫ぶなってのが無理よ。


「何!? どうしたの!? リリアナ」

「アラン、あのねあのね」

「うん?」

「メルの耳がないの!!」

「え!? ……あっ、本当だっ! 元に戻ってる!」


 そうなのだ。メルが元に戻っていたのだ……。

 ビックリしている皆をよそに、枕を用意しだしたのはレイラだ。


「眠ったら元に戻るなら、寝ましょう!」

「そりゃそうだけど……寝れるかなあ」

「わたくしが子守唄を歌って差し上げます」


 レイラって歌上手かったっけ? 記憶にないなあ。

 まあ、いいや、お願いしよう。


「よろしく!」

「では、皆さん横になって……おやすみなさい!」


 私は素直に横になる。そして、うとうとし始めたころ、歌声が聞こえ始めた。

 しかし逆に、目が覚めた。

どうしよう、善意からだから、言えないけど……。


(レイラってすごい音痴!)


 横を見るとバイオレットも困った顔をしていた。

 そして結局私達は悪夢を見ながら眠りについたのだった。



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