締切を守れ! 生徒会の試練!
生徒会はいつだって忙しい。書類がたくさん毎日運ばれてくる。
私達はいつも集まって遊んでいるわけじゃないのだ。
まあ、私はただいるだけに近いけど、掃除とかは手伝っているし。
バイオレットは休み時間のたびに学校中を駆け回っているし。
生徒会長って大変だなあ。アランもそれに続いて忙しい。
素直に感心していると、アランが青い顔でこっちを見た。
「リリアナも手伝ってよ、こっちの左の書類の山、はんこ押して」
「えっ。すごいでかい山じゃん。百八十ぐらいはあるよね? 背の高い男性レベルだよ、これ……」
「そう、だから君にも手伝ってほしいわけ」
アランの気持ちはわかるけれど……バイオレットは今席を外しているし。
ほかのメンバーは別の書類を頼まれたらしい。何かしら手を動かしている。
私はため息をつきながらその書類を触りだす。
「悪いね、リリアナ」
「困ったときはお互い様じゃん? いいんだけど、のど乾いてくるよね。こういう単純作業、私飽きっぽいから苦手……」
「リリアナは同じことを繰り返すのが昔から苦手だったからね。工場とかで勤めるのは絶対無理だね。まあ、僕のお嫁さんになればいいだけの話だけど……こほん、なんでもないよ」
何ひとりで赤くなってるの、アラン。
それは放っておくとして……。
「朱肉が切れてるみたいなんだけど……エディ、知らない?」
「ああ、確かどこかで見たな。あそこの本だらけの近くかな」
「うわあ、本が大量に縦に積まれてる! 危なさそう」
そおっと、取らなくちゃね。私は静かに朱肉を見つけ手を伸ばして……。
「くしゅん!」
メルのくしゃみで本に激突した。痛い。
「メル!」
思わず私は叫ぶけど、生理現象だし仕方がないよね。
怒るのをあきらめて、私は痛い鼻を押さえながら本をきれいに整えた。
そして朱肉を開いて、はんこを押し始める。
朱肉の匂いにちょっと気分が悪くなりつつ、一生懸命押した。
そして半分できたとき、無償にのどが渇いたのでお茶を煎れた。
「んー、やっぱり疲れてるときは水分よねぇ。生き返るわー」
「リリアナお姉ちゃん、笑顔なのはいいけどカップひっくり返ってるよ? 書類びちゃびちゃなんだけど、いいわけ?」
「あー!? 嘘でしょ!? 最悪!」
これまた新しく処理しなおすの?
そこで私は冷静になる。私って風の魔法の使い手なのだ。
「そーれ! 風魔法!」
私は満面の笑みで叫ぶ。しかし、書類は部屋を舞ってしまった。
慌てて拾い上げるけれど、枚数が一枚足りない。
どうしようと思っていると、机の下に落ちていた。
ほっとする私に、ドッと疲れた様子のアラン。
「リリアナ、もう少し落ち着いて書類整理できない? こっちまで気が散るんだけど……書類は大事なものなんだから、丁寧に扱ってよ」
「わかってるってー!」
「わかってないよね。あーあ、しわできちゃってるじゃん、書類……」
「上から体重駆ければいいんだよ、アラン。なんか重しになるものない?」
「さっきの本の山なんかどう?」
「いいね! そういえばもうひとつ書類の山があるけどそっちは何もしなくていいの? アラン」
「それはね、時間があるから今度でいいんだよ」
「へぇー大変だねぇ」
「生徒会って、なんだかんだでほかの人がやりたがらない仕事の寄せ集めみたいなものだから……憧れとか言われるけど、全然そんなに楽しいものじゃないよね」
それは確かに。テスト期間であれ何であれ、生徒会は動いているのがこの学校だ。
たまに先生たちが特別なお土産をくれたりするぐらいしか、内申以外はいいことがない。
しかもこの世界ではあまり進学は頻繁にあることではないらしく、特殊な職業につかない限りは、今の三年間の学校だけですべてが終わるらしい。
(まあ、現代で言う専門学校みたいなものよね)
手に職をつけるための学校もあるけれど、この世界では弟子入りなんかも普通に存在するのだ。靴職人だとかが、当たり前に存在する。現代なら会社で機械で作るようなものが、全部手作りなのだ。その分値段も張るけれど。
「もう少し頑張って。バイオレット先輩が戻ってくるときにはおいしいラスク持ってくるはずだから。先生からのお土産だって。いろんな味があるみたいだよ、リリアナ」
「イチゴ味はあるの?」
「多分あるんじゃないかなあ。四種類はあるだろうし、よし、僕の書類は終わったっと」
トントンと紙を集めて、アランは枚数を数える。
「数も足りてる。リリアナも数えて仕上げなよ」
「そうだね、もうこんな時間だし……。メルとエディとレイラはできてる?」
「ばっちりです!」
「うん、ボクも」
「オレも、問題なしかな」
「あとはバイオレット先輩を待つだけだねっ」
私も改めて確認して、満足してお茶をまた飲み始めた。
そしてみんなで余った時間を使い掃除を始める。
右にあった書類を寄せて、ごみを集めていく。
そんな時、バタバタと言う足音が聞こえた。
「皆、書類はできたかい?」
「バイオレット先輩、ちゃんとやっておきましたよ」
「アラン王子、ご苦労様。ちゃんと右の書類は片づけてくれたかい? あれは今日中に出さないとまずいやつで……」
「えっ? 右? 左じゃなくて?」
思わず割って入る私。
「左はむしろ処分してもいいぐらい、どうでもいい書類だよ。急ぎでもないし、一応押しておけばいい、レベル」
アランが固まっている。眼の中が真っ白だ。もう、何も見ていないようだ。
皆も声が出ない状況で、バイオレットが私達を不審そうに眺めている。
そしてようやく、書類の山と目が合ったらしく、書類を確認して言葉を失っていた。
「……そんな、まさか……あと少ししか学校にいられないのに……」
ひきつった声に、引きつった笑顔。バイオレットは優しいので私達を責めることはしないけれど、相当ショックだったのだろう。頬がぴくぴくしている。
「み、皆頑張ろう! 私も頑張るから!」
慌てて私は元気いっぱいに言った。やっと皆の顔が上がる。
「うんっ、そうだねっ。お兄ちゃんお姉ちゃん達のためにボクもファイトだよっ」
「そうそう、ゲームみたいに頑張っちゃうほうが絶対絶対楽しいよ!」
「リリアナ……すみません、僕の不注意です、バイオレット先輩」
「アラン兄気にするなよ。みんなでやればすぐだろ?」
「そうですよ、わたくしも全力で頑張りますし!」
ああ、仲良きことは美しきかな……うるうるしながら、私はにっこり笑った。
書類を皆の数に分けて、皆で席につく。
そして作業に入る私達。
「よしっ、時間までにみんなで頑張るぞー!」
私がそう叫ぶと、皆は一斉に手を動かし始めたのであった。
そして、作業に入る私達。
結果、目標通り無事に締め切りに間に合わせることができた。
だから、みんなで一緒にラスクを食べたのだけど、それがすごくおいしかった。