こう見えて私強いんです!
メイドの仕事を覚えようとバタバタしているレイラの横に、私はひょっこり顔を出す。
どうやら大量の洗濯物を洗っているらしい。
水を魔法で少し出しているけれど、レイラの魔法は私と比べるとあまり強いものではない。それでも世間的には弱くないと思う。
なので、時間が結構かかる。まあ、子供の魔法の力なんかそんなものだ。
「レイラ、大丈夫?」
「リリアナ様! 大丈夫です、これはお仕事ですから……」
「乾かすのは大変じゃない? この量」
「なので急がないと……」
「リリアナ、レイラ、お菓子よ!」
私たちの会話中にお母さんがやってきた。
そこで、私はあることを思いついた。
「こんなの私の風魔法ならちょちょいのちょいよ」
「そんな! こんな大量の洗濯物を!? 無理ですよぉ、百枚以上はある……」
「大丈夫よ。私にとっては朝飯前!」
「そうですか……? 疲れませんか?」
「心配ご無用。私、自分で出す風でよく遊んでるの」
たまに、バラ園の掃除もしているしね。
風で花びらを集めると、お母様が喜んでくれるのよ。
「リリアナは、この辺じゃ特別魔力が強いのよねぇ。他はそうでもないけれど魔法の才能はずば抜けているの。天才とか神童なんてよばれることもあったわね」
お母様、そんなに褒めないでよ、照れるよぉ。
私は顔を熱くしてうつむいた。
レイラは尊敬するような目で私を見ている。キラキラ輝いた瞳に見つめられると、すごく恥ずかしい。
「よし、洗濯ものはできたね? レイラ」
「はいっ、よろしくお願いします!」
「そーれ、風魔法!」
私の一声でふんわりと洗濯ものが揺れる。
温かな風が広がり、洗濯物は瞬く間に乾いていった。
「昨日天気が悪かったから、ほかの家の人も困ってるみたいなんだけど、頼めるかしら? リリアナ」
お母さんはそう言って私にお願いしてきた。
「お礼は弾むから!」
「お菓子? お菓子なのね!?」
「そうそう。一軒やるごとに一箱お菓子くれるみたいなの。高級なお菓子ばかりよ。なかなか食べられない限定品もあるの」
「わあい、がんばるがんばる!」
お菓子だーい好き!
私はいろんな家をめぐって洗濯ものを乾かしてきた。
「さすがローズ家のリリアナちゃんねぇ。昔から魔法だけはすごかったもんねぇ」
「ほんっと助かるわ。あれでお転婆じゃ無ければ……」
「まあ、それもかわいいじゃない?」
おばさんたちが私の事で盛り上がっている。
「あの魔力は、なかなかないわよ。うちの子もあんな魔力があれば……」
「そうねぇ、才能の賜物よねぇ……選ばれた子なのよ、きっと」
(もっと褒めて褒めて!)
私は若干にやにやしながら洗濯ものを乾かした。
合計何百枚乾かしただろう。町内中の洗濯物を私は乾かし、大量のお菓子を手に入れていた。そして最後の大物は……。
「なにこれ……」
「家にかける布だ、ちょっと事情があって家の上に布を置いていてね……」
「それも豪邸に?」
お城ほどではないけれど、かなり裕福な家の上にかかっていたその布は、一般的な家数個分ぐらいはあった。それを私は乾かさなきゃいけないのだという。
もちろん、ご褒美は弾むらしいけれど……気合を入れるように私は自分の頬を叩いた。
「いっけー! 風魔法!」
私は叫ぶ。半分ぐらい、一度に乾いた。
「さらに追加の風魔法!」
よし、全部乾いた、けど……私はどっと疲れてその場に座り込んでしまった。
無理もない、もう百回以上は風魔法を連続で使っている。
「すごいわ、リリアナちゃん……普通は魔法なんて数回連続で使うだけでも疲れるのに……それもまだ子供でしょう?」
家の持ち主が私を見てぽかんとしている。
そんな時、レイラが走り寄ってきてカップに水を魔法で出してくれた。
「リリアナ様、これ、おいしいお水です、どうぞ」
「ありがとう」
私は疲れた顔でレイラから水をもらった。うん、確かにおいしい。
ぷはっと声をあげて水を飲み干すと、私はため息をついた。
「よし、お菓子を食べるぞー!」
「えっ、まだ元気なんですか? リリアナ様……」
レイラがぽかんとしている。
「疲れた後は、甘いものでしょ! おいしいものを食べて元気出すしかないない!」
私は元気にウィンクして、大量の菓子を風で集めて頬張りだした。
その様子を見てレイラがあんぐり口を開けている。
「まだ魔力が残っているなんて……すごすぎます、リリアナ様」
「えーだって、運ぶより飛ばすほうが楽じゃん? そのほうが効率的だし」
「そう言う問題なんですか? わたくしは、こんな頻度で魔法が使えないです……」
呆然と立ち尽くすレイラに、カステラを分け与えると、レイラは申し訳なさそうにそれを受け取った。いい卵を使っているらしく、上品な甘さが嬉しい。
それにレイラ特製の水を飲むと、本当にごちそうを食べている感じがする。
「そろそろ、帰りましょうか。暗いですし」
「れいら、そうね……あ、誰かが呼んでるわ」
「おーい、リリアナちゃん! まだ乾かしてない洗濯ものがあったよ! お願いできる? お礼はちゃんとあるからっ」
「あ、はーい! 頑張ります!」
「まだやるんですか!?」
私の言葉に、レイラがぎょっとした顔をする。
え? だってお菓子がもらえるんだよ? やるよね?
「もちろんだよ!」
「恐れ入りました……リリアナ様、貴女は特別な人です」
「? どうして?」
「わからないならそれで……」
「はあ」
私は首をかしげて、呼ばれた家に向かっていった。
感想お待ちしてます♪