リリアナ一行、街へ行く
「僕は今気になることがある」
「何よアラン、急に」
「そうだね、リリアナ。急かもしれないね」
「だから、何よ」
いつものメンバーでのんびり放課後ライフを送っていると、アランが突然立ち上がって言った。何やら思いつめた様子で咳払いをする。え、何? 何が始まるの?
「僕の国が今街のみんなにどう見られているか、すごく気になってね」
「大丈夫だよ、きっとみんなよく思ってる。アランもよく言われるでしょう?」
「それはアラン王子がいるからだよ」
「バイオレット先輩」
「そうだよ、リリアナ。僕の前で国の悪口を言うわけないじゃん」
そ、そういうものかなあ。
なんか腹黒い感じがしていやだなあ。うーん。文句があるなら、直接アランに言えばいいのにね?
「リリアナは純粋だからわかんないんだよ」
「何それ、アラン」
「わかんないままでいてほしいから、あえて教えないよ」
「えー?」
「確かにリリアナ姉のそう言うとこはいいよな、うん」
「エディまで」
意味不明なんだけど。まあ、いいや。
で、一体それがどうしたって言うんだろうか。
「だから、変装して街の様子を探ろうかなあと」
「また女装するの? いいね、アラン」
すごく可愛かったもんね、皆の女装。
今度は何着てもらおう?
「え、女装決定なの? リリアナ……」
「服装や髪型だけじゃさすがにすぐバレるでしょ」
こんな目立つ顔立ちしてるんだから、アランに一般人の変装は無理。
すぐ、目につくよ。
「たしかにそうだけど、僕はもう女装は……」
「私とレイラは男装しなきゃね」
「楽しみですね、リリアナ様」
キャッキャとはしゃぐ私達。貴族風の格好の男の子って、一度やってみたかったんだよね! それにレイラもきっと美少年に化けそうだし、すごい楽しみ!
「乗り気だね、ふたりとも」
「何が不満なの? アランは」
「まあ、いいや」
全然よくなさそうにげんなりしてアランは言った。
「ほかのみんなも女装するように」
その言葉に男子達からはブーイングが飛ぶ。
アランはそれを無視して、衣装を彼らにぶん投げた。
「王子命令だから」
「アラン兄、ヤケ起こしてるし」
「エディ黙って」
こうして、私達は街に変装して出かけることになったのだった。
**********
「とはいってもなかなか僕らの話題には遭遇しないね」
「そりゃそうでしょ、アラン、こっちからふるぐらいしないと」
後ろでメルが買い食いしている状況で、私達は街にいた。
そこで私は別の国から着た旅人を装って、街行く人に尋ねることにした。
「なあ、ここの王族ってどうなんだ? オレは旅人なんだが……気なって」
男の人のふりをして喋るのは、結構しんどい。
若干低い声を意識して、私は言った。
「あらまあ、旅人さんなのね。んー王子様は可愛いし綺麗だし、素敵だと思うよ」
「そうそう、美形だよね。両親もきれいだし、政治も頑張ってるし」
(お、好感触?)
「平和なのも王様たちのおかげよねぇ」
街行く人は嬉しそうに語った。若干アランが嬉しそう。
「うんうん、この国はいい国だ」
「この国に生まれてよかったねえ」
「そうなのか、旅人のオレにしてみても、羨ましい話だな」
「お兄ちゃんも住むといい」
「そうだな」
「それよりも問題は王子の婚約者の話だねぇ」
(私?)
アランの目が光った。ほかのメンバーも気合の入った顔をしている。
どう見てもアランは口をはさみたさそうだけれど、バレると厄介なので私がきいてみる。
「どう厄介なんだ?」
「まあ、お転婆で、あまり賢くないらしい」
(そ、それは否定できない……!)
アランの眉間にしわがよる。明らかに不機嫌だ。
あわわ、抑えて抑えて。
「でも噂ではすごく可愛いらしいですよ」
そう割り込んだのは案の定アラン。
うわあああ、ダメだってばあ。
「そうかしら? 気が強そうで意地悪そうよね」
「わかるなあ、なんだか恋愛小説のライバル顔っていうか」
(実際そうなんです、すみません!)
そこで、何かがぶちりと切れた音がした。
「僕のリリアナを悪く言うな!」
「!? あ、あなた……アラン王子!」
「あっ」
冷静になったアランがあわてて表情をにこやかにつくる。
でも、もう遅かった。周りには人だかりができていた。
「キャーアラン様よおおお」
「アラン王子、握手してええ」
「何で女装してるのかしら?」
「あの、僕は、忙しいので……」
慌てるアランは街人に拉致されてしまった。
困惑したように残された私達は見つめ合う。
すると私達のお腹がなった。ああ、そういう時間だもんね。
まあ、今回のはアランが悪いし。殴り合いにならなかっただけいいとしましょう。
「ご飯食べよっか」
「そうだね、リリアナお姉ちゃん。僕で出店行きたい」
「オレスープの美味しい店知ってる」
「エディお兄ちゃん、そこ、どこ?」
「右を進んで左の薬局の近く」
「じゃあそこに行こうか、エディ」
どこかでアランの悲鳴が聞こえたけれど私達は無視し続ける。
こうして、私達は変装したままおいしいスープを飲んだ。
豆や野菜がいっぱい入っていて栄養満点で安いスープはとても心が温まった。
**********
そして数日後。
「アラン王子って女装の趣味があるんだって」
「えー、確かにに似合うけど……悪趣味ぃ」
「リリアナ、あの噂どうにかして。学校中はその噂で持ち切りなんだけど」
案の定、そんなうわさが出回っていた。
「アランが悪い。私なんかのことで騒ぐから」
「だって、リリアナをバカにするから」
「私はバカだし、別にいいよ。それより自分の立場をわきまえて動かないと……」
「うう……リリアナ……」
「いっそ女装を本当に極めてみたら? きっとかわいいよ?」
「……リリアナのバカ……」
「バカだけど?」
「…………」
呆れた視線を浴びせてくるアランに、私はニッコリ笑顔。
この噂は二週間ほど続くことになる。
もちろん、王様たちにアランはこってり怒られたらしい。
なのに、お妃さまはアランに女装をさせようとしたという。
あの人、娘がほしいって昔から言ってたもんなあ……少し同情しながら、日に日にやつれていくアランを見ていた私だった。




