禁断の薬! 未来を見る薬、再来
アランは研究が大の得意だ。この前は、うまく咲かなかった花をきれいに咲かせてくれた。
そのおかげで、お母様は大喜びだった。お母様はバラを筆頭に花が大好きだから。
アランは割と一人にいる時間も無駄にしたくないタイプで、習い事と学校と放課後以外は、大体研究をしていると聞いた。
「時間は有限だからね」
アランはそう口にしていた。たしかにそうだけど、私はごろごろするのも楽しくていいと思うんだけど、アランはやっぱりそう言うのには興味がないみたいだ。
そう言えば、アランの薬で未来を見たことがある。
今見るとしたら、どういう結果が見えるのかすごく気になる。
「アラン、最近薬いじってる?」
探りを入れるように私はアランに学校の廊下で話しかけた。
アランはどうも図書館帰りらしい。大きな本を抱えていた。
どれも分厚くて難しそうな本ばかりだけど、アランってば本当に勉強家だなあ。
感心しちゃうもん。
「薬? そうだねぇ、あまりいじってないけど……何か欲しい薬があるの? リリアナ」
「えっとねぇ、未来が見える薬あったじゃない、あれ!」
「あれはダメだよ、強力なほど副作用が激しいんだ」
「どうしても使いたい」
「寿命を削ることになるよ?」
「えっ」
「こんなことするの嫌だけど、害虫で実験したんだけど……みんなすぐに死んでいったよ?」
そんな、それはあんまりだ。
でも、私はそれでも確認しなくちゃいけない。
「それでも、私はそれがほしい」
「僕が許さないよ。なんなら僕が飲もうか?」
「嫌だよそんなの」
「そういう事だよ、僕にとっても、そういう事だし」
「アラン……」
「薬は捨てておくから。今度ごみ箱に出す」
「そんなあ……」
がっくりしながら私はアランの横に立つ。
アランも背が伸びた気がする。
「どこに捨てるの?」
「リリアナの家のごみ箱かな」
なんでまたそんなところに。
「飲んじゃダメだよ?」
そう言われてしまうと……飲んでしまうじゃない!
私は小さくガッツポーズをして、にっこり微笑んだ。
その時アランが不安そうな表情で私を見つめたけれど、その意味を知ることはできなかった。
**********
「今日は薬を捨てにやってきたよ」
「アラン、お茶飲んでってよ」
「そうだね、さくらんぼの味のするミルクティーでも出してくれない?」
「いいよ。お菓子も用意するね!」
「うん、よろしく」
アランってば、なんてバカなんだろう。
そんな拾ってくれと言わんばかりの発言をして。
私は鼻歌を歌いながらレイラにミルクティーを頼んだ。
「お菓子は生クリームたっぷりのパンケーキで」
「リリアナは相変わらず虫歯になったのに、懲りないね」
「歯は磨いてるし! 絶対大丈夫! 毎週歯医者で見てもらってるんだから」
「よっぽどトラウマだったんだね」
そりゃそうだよ! アランは呆れて笑ってるけど、笑い事じゃないんだからっ。
すっごく腫れたし、痛かったんだからね!?
眠れない夜だってあったんだから……痛み止めは頑固として飲まなかったし。
だって苦いんでしょ!? 嫌じゃん!?
「うん、バナナにチョコソースがかかってて美味」
「でしょう? アラン。イチゴにもチョコがかかってるの。チョコソースもキャラメルソースもあるし、本当おいしい!」
「リリアナはこうやって笑ってるのが一番だよ」
「ふへ?」
「それが少しでも長いほうがいいに決まってる」
「そうなの?」
「僕だけじゃないよ、皆もそう思ってるに決まってる」
「はあ……」
「リリアナは皆の宝物なんだから」
宝石のようにキラキラした真剣な目で、アランは私を見つめる。
なんだかドキドキしてくるけれど、ごまかすように私はイチゴをかじった。
甘い味が口の中に広がって、幸せいっぱいになって微笑む私。
「リリアナの笑顔をずっと見ていたいよ」
「何? 口説いてる?」
「本音を言ってるだけだよ。僕はずっと本気でリリアナが好きだからね」
「ありがとう」
「うん、リリアナ生クリーム舐めながら言う……?」
「あ、ごめん」
「まあいいけど」
はあ、と頭を抱えるアラン。レイラまで呆れた目でこっち見ないでよ!?
しばらくパンケーキを食べていると、アランが急に立ち上がった。
「ちょっとトイレついでに薬捨ててくる。出てすぐにあるごみ箱だよ」
「はーい、いってらっしゃい」
私はひらひらと手を振ってアランを送り出した。
少し時間をつぶしてから、私は廊下に出る。
そしてごみ箱に、例の薬を見つけた。
私は慌てて口にそれを含み……意識を失った。
**********
「あれ? 私何をしようとしてたんだっけ?」
「おはようリリアナ。リリアナはね、何もしようとしてないんだよ。ちょっと眠かっただけ。何も探してない」
「そうなの? そう言われたら、そうな気がする」
でも何かを忘れているような気がするんだよね。気のせいかな?
首をかしげていると、アランがアイスクリームを指さした。
カラフルなチョコスプレーのついた、豪華なアイスだ。
コーンもついてるし、すごくおいしそう! チェリーまで飾ってある!
「リリアナ、これ、食べよう? 溶けちゃうよ」
「そうだね、アイスが解けたら台無しだし。これ何味?」
「ラムネが入ってるって言ってたよ」
「うわあ、豪華。アランも食べよう食べよう」
「もちろん、ああ、やっぱりリリアナは笑顔が一番だ」
「? どうしたの? しみじみと」
まるで感動するような、はかなげな表情でアラン。
神様に祈るように手を組んで、静かに黙ると、私を抱きしめた。
「ちょっと、アイス溶けちゃうよ」
「リリアナは、ずっとこのままでいてね」
泣きそうな声だった。アランは私の耳たぶにキスをした。
「? 私は私だよ」
頭に何かが引っ掛かるけれど……。アランの抱擁に笑いながら、私はそれを忘れることにした。そして、それを思い出すことは二度となかった。