超恐怖! リリアナの××
やっと体調不良も落ち着いて元気元気のリリアナ・ローズ、今度は頭を抱えてます。
なんと見舞いに来た皆が風邪をひいちゃったの!
結果、皆を屋敷に集めて、今看病してる感じ。
「リリアナ、看病なんかいいから。別室にいて」
「そう言うけどアラン。私のせいだよ。お粥作るよ」
「リリアナのお寿司を思い出すとあまり喜べない」
目をそらすアランに、私は不満げに口をとがらせる。
「お粥ぐらいなら大丈夫だもん。あれは偶然! いつもはちゃんと料理できるしね!」
「……リリアナの料理って、食べた記憶ないから何とも言えない」
「食べたら絶対とりこになるよ」
「食べなくてもリリアナの虜だよ、僕は」
「そういう意味じゃなくて」
なぜだかお寿司は破滅的な味になってたみたいだけど。
五人を私の屋敷の同じ部屋のベッド並べて、レイラじゃないメイドにたまに手伝ってもらいながら介抱する。本当は別々の部屋がいいんだろうけど、行ったり来たりは大変だから。
さすがに、互いの間にカーテンは引けるようになってるけどね。
じゃないと着替えとか困るじゃない?
「申し訳ありません、リリアナ様。わたくしまで風邪をひいてしまい……なんと未熟なのでしょう」
「レイラ、気にしないで。たまには私も頑張るよっ」
「ですが、わたくしはメイドです」
悔しそうにレイラは言った。もう少しで泣き出してしまいそうなぐらい、情けなさそうな顔をしている。メイドだって人間だもん、体調崩すよ!
「そんなの全然関係ないよっ。友達だもんっ」
「リリアナ様……」
ウルウルお目目のレイラはすごく可憐でかわいい。まさにヒロイン。
守ってあげたい女子ナンバーワンって感じ。
「ボクはひとりでだって平気だもん」
頬を膨らませて拗ねるメル。若干涙目である。
「メル……」
「子供じゃないもんっ」
いや、一番子供の最年少だけどね?
「子供じゃなくても、寂しいでしょ?」
「ぶー……」
「くすくす、メル君は素直じゃないね。心配かけてごめん、平気だよって言いたいんだよね?」
バイオレットがいつもよりかすれた甘い声で言った。
火照った頬が、色気をさらに増している。汗で張り付いた髪の毛も、なんかエロイ。
「バイオレット先輩」
「ちがうもん、ちがうもんっ」
そう叫んだあと、大きくせき込むメル。慌てて私は寄っていく。
「大丈夫?」
「大丈夫だって! リリアナお姉ちゃんは自分の事してて!」
「メル、あんまり騒ぐなよ。みんな病人なんだぞ」
エディが頭を押さえながらメルを注意する。
「だってぇ、エディお兄ちゃん……」
エディもむせつつ言った。顔色がとても悪くて、ぐったりしている。
なので私は水をコップに入れて渡した。
「悪いな、リリアナ姉」
「ううん、いいの。私はお姉ちゃんだから」
まあ、エディは弟の割には常にしっかりしてるけど……たまにはお姉ちゃんぶりたいじゃない? 一歳しか違わないけど……。
「でもさ……」
「どうしたの? メル」
「あのね、前向きに考えてみたのっ。これって旅行みたいだねっ。 そう思うと楽しく思えてきた」
「…………」
思わず頭を抱えるエディ。ほかのメンバーは苦笑い。
メルは手を握りしめて言う。
「やっぱり遠慮なんてしないっ。ボクがリリアナお姉ちゃんを独り占めするっ」
「メル!」
アランが興奮気味に立ち上がる。
ぺろりと舌をだすメル。生意気な感じがすごく可愛い。
アランは明らかに敵意を隠さない顔でメルを睨んでいた。
「どうせしばらくはここにいるんでしょ? じゃあリリアナお姉ちゃんにかまってもらわなきゃ損だよ?」
「オレはまあ、別だけどな……風邪じゃなくてもここにいるしな。レイラもか」
「そうですね。わたくしもいつでもリリアナ様のそばにいますから……」
なんだかレイラが得意げだ。
「エディはいいよね……いつも同じ屋根の下でさ……僕のほうが婚約者なのに……」
「アラン兄さん、恨めしそうに見られても困るんだけど」
ジト目で見るアランにエディが困惑した様子を見せた。
「確かにいいよね、エディ君は」
はあ、とため息をつくバイオレット。なんかねだるような雰囲気がやっぱりエロイ。
「バイオレット先輩まで!」
「だから、今回は引っ込んでてくれない? エディ君」
バイオレットが笑顔で言った。
「そうそう、ひっこんでてよ」
アランも続く。うん、なんか怖いですよー。
エディが困ったような目で私を見た。
「引っ込まなくてもいいよ? エディ。みんな仲良く、ね?」
「ありがとう、リリアナ姉」
少し泣きそうな顔でエディ。
「リリアナ様は優しいですね」
のんびりと、レイラが言う。レイラは静かに本を読んでいた。メイドのハウツー本のようで、こんな時間も自分磨きにつなげるあたり、さすがのヒロインである。
皆に飲み物を配り、熱を測る。みんななかなかに高熱だ。
順番にからも拭いていくことにする。
「アラン、体綺麗にしてあげる!」
「えっ」
「えっ??」
「いいよいいよ、僕は……」
アランが顔を噴火させそうなぐらい赤くする。でも、汗べっとりだよ?
私はタオルを濡らしてしぼり、にっこり笑う。
「大丈夫、そこそこぬるいから、熱くないよ」
「そういう問題じゃ無くて」
「?」
じゃあ、なんなの?
「あ、さすがに下着は脱がなくていいから」
「……そういう気づかい以前の問題だよ……」
「え、脱ぎたかった?」
「そんなわけないよね!?」
アラン、目がぐるぐるしてるよ? どうしたの?
私は思わずアランの胸を触る。すごいバクバク言ってる。
それにいつか見た胸板に比べて、だいぶ分厚くなってる気がする。
思い出すなあ、初めの頃は、一緒のシャワーが恥ずかしかったっけ。
今では、子供の頃のかわいい思い出だ。
「心臓の音が荒いけど……具合悪くなってきた?」
「そうじゃなくて!!」
「とっとと脱がせて拭いちゃおう!」
「……もう、どうにでもして」
アランが力のない声でつぶやいた。
なので、アランの服をゆっくり脱がし、体を丁寧に吹いていく。
「んっ……」
アランが悩ましげな声を上げた。
「リリアナ、そこは触んないでっ」
「えー? どこ」
「言わせるの!?」
え、だって全身拭かなきゃ気持ち悪いでしょ?
私はぐいぐいとあちらこちらを拭いていく。
「ん……あ、そこはダメだってばあ……」
アランの息が荒くなってきて――レイラが飛んできた。
「嫁入り前の女の子が何してるんです!?」
「全身くまなく拭いてあげようと」
「使用人の仕事です!」
鬼のような形相でレイラが叫んだ。
私は思わず目を丸くする。
「えー?」
「もう終了です!」
「なんで?」
「なんででもっ」
レイラの顔が怖い。アランはすごく疲れた顔をしていた。
私が討論している間に、ちゃっかり服を着なおしてる。
「アラン、続き……」
「絶対嫌だ!」
「なんで!?」
「……なんか悲しくなってきましたね……」
「レイラ、どういう事?」
「鈍すぎます……」
何が鈍いの? 私、わかんない!
私は迷った結果、唸り、考えた。
「じゃあ、かわりに何かする」
「そうしてください。お願いします」
レイラが呆れた様子で言った。
私はそしてポンと手を叩く。
「お粥作ってくるね! もうすぐお昼じゃん?」
「えっ」
今度は私以外の全員の声が重なった。
何その目。すごく嫌そうな顔してるけど……。
「じゃあ、作ってくる!」
私はびゅっと走って厨房に消えた。
そして。
「皆―出来たよ!!」
お粥をカートに乗せて、戻ってみれば……。
「あれ?」
そこには誰もいなかった。広い部屋に、ひとっけひとりない。
使用人すら、そこにはいないのだ。
ふとベッドを見て見ると、アランのベットにメモが乗っていた。
「探さないでください 一同」
そう、書かれているメモは、走り書きのようで、すごく字が乱れていた。
私は首をかしげながらそれをしまう。
「……どういう事?」
そのあと私は懸命に皆を探したけれど、その日彼らが見つかることはなかった。