ワクワク! はじめての旅行!
天候も安定して、最近は皆がご機嫌。
「もうすぐ五連休! 何をしようアラン!」
「皆で旅行なんかどうかな?」
「ボクも行っていい?」
「もちろんいつものメンバーで行くわよ!」
「わたしお金がない……」
「無料で泊まれるわよ! なんたってアランの権力があるんだから!」
「なるほど、アラン王子、助かるよ」
「バイオレット先輩、気になさらず」
アランはにこやかに言った。
「本当はふたりきりがいいけど」
ぼそりとそんな声が聞こえた気がするけど、気のせいだろう。
私はにこにこしながらノートに予定を書いてみる。
近場の観光地を巡るつもりなのだ。
「でも、この観光地って、大人数だと回りにくいんじゃなかったけ」
バイオレットがパンフレットを見て言いだす。
確かに、近くにある遊園地などのいろんなアトラクションなどは二人乗りだし……。
「リリアナお姉ちゃんはボクのだもんね」
「ちょっとまってリリアナは僕のお嫁さんだよ? 僕が優先だって」
「大人げないよアラン兄さん……まあ、オレも一緒がいいな……なんて」
何でかモジモジしだすエディ。苦笑いするバイオレット。
そんな事言われても、私はひとりしかいないよぉ。
困っていると、レイラがぼそりと言った。
「わたくしと一緒にも回りましょう! 女ふたりで水入らずですよ!」
レイラもかい。まあ、嬉しいけれどね。
私は思わずにやけながら、しばらくして冷静になる。
このままではケンカになりそうな雰囲気である。ならばだ。
「じゃあ、私以外の皆で行ってよ。お土産よろしくね」
「なんで!?」
みんながハモる。
「ぎすぎすした雰囲気の旅行とか、そんなの絶対楽しくないじゃん。私、みんな仲良くしてるのが一番好きなんだもん」
皆が笑顔じゃなきゃ、旅行なんか絶対楽しくないよね?
私を分裂させる方法は、さすがのアランにもないだろうし。って言うか、あっても怖いからお断りかな。
「では、こうするのはどうでしょう」
「なあに、レイラ」
「日替わりでペアになるのです。五人が五日間旅行するんですから、ぴったりなのではないでしょうか?
異論はありますか?」
「いいね、レイラさん。わたし的にはありだよ」
「僕もいいと思うよ。とても平等だしね」
「ボクもー! リリアナお姉ちゃんと一緒の日があるならそれでいいっ」
「オレも異論はない」
「けど、最後の日は自分とがいい!」
これまた皆がハモった。
「……何で最後?」
思わず私は尋ねる。
「だって、一番の思い出になるよね?」
「そうかなあ、アラン。私は別に……」
「いいや、なるね! 一番濃い思い出ができるね!」
「エディまで……」
「わたしもそう思うけど……そう考えるのは普通だと思うよ。リリアナさん」
「ボクが一番かわいいから最後っ」
「メルさん、わがままはいけませんよ! リリアナ様、女の子同士楽しみましょう!」
うーん、困った。頭が痛い。思わずため息をついて、私はうなった。
「いっそくじ引きとか」
苦し紛れに提案する私。みんながつばを飲む音が聞こえる。
「しかたがないね、そうしようか」
アランが代表するように言うと、皆が頷いた。
なので公平になるように、私がくじを作る。
神の大きさは同じになるように、空き箱を使って作っていく。
(なんだかなあ、嬉しいんだけど、複雑な気分)
これって本当は、ヒロインのレイラのポジションじゃないの?
私は不思議に思いながら、くじ引きを完成させた。
「さあ、引いて!」
「ボク一番! ……一日目」
ホワイトボードに私はキュキュッと書き込んでいく。
「はい、メル一日目」
「次はオレ……四日目だな……」
「エディは四日目ね」
「わたしは……三日目で」
「バイオレット先輩は三日目」
「僕は……五日目だ!」
「はい、おめでとう。アラン五日目ね」
「さすが運命だね」
「えっと、レイラは二日目になったね」
「そうですね」
「え、僕の言葉無視!?」
アランはショックを受けているようだった。
だって、なんて言っていいかわかんないんだもん。
誰が来て、喜んでも他の人がががっかりするし。
私はホワイトボードを手帳に写して座った。
「くしゅん」
「リリアナ、どうしたの?」
「ん、なんか華がむずかゆいだけだよ、アラン」
「気を付けてね、風邪はやってるから」
「そうだよリリアナお姉ちゃん。最近の風は長いって言うし」
「気を付けろよ? リリアナ姉」
「そうそう、あったかい格好して」
「バイオレット先輩の言う通りです」
皆がめちゃくちゃ心配してくれて、すごく嬉しい!
私はへらへらと笑った。
「大丈夫大丈夫」
私は体が頑丈なのが取り柄なんだから。
そんなの心配ないって……その時は思ってたんだ。
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「げほっ、ごほごほっ」
旅行当日。私は風邪をひいていた。
頭が痛い、鼻水が止まらない。そして席にくしゃみに熱……。
ふらふらする私に、レイラがおかゆを食べさせてくれる。
「大丈夫ですか? リリアナ様」
「旅行が……みんなの楽しい旅行が……」
「延期ですね、仕方がないですけど」
「そんなあ……」
「皆さんお見舞いに日替わりできてくれるそうですよ、楽しみですね」
泣きそうになる私を見て、レイラは心底同情した顔で言った。
そして、私は叫んだ。
「そんなの全然楽しくないー!!」
その叫び声は、屋敷中に響いたらしく、すぐにお母様にこっぴどく叱られた。




