婚約破棄!? 指輪が行方不明!
ないっないっないっ。
どうしよう……。
(アランにもらった婚約指輪が行方不明だなんて……)
最悪だ。アランにバレたらどうしよう……王家に伝わる大切な指輪なのに……。
私は青い顔をしてそこら辺を探し続けた。
そこに、レイラがやってきた。部屋を荒らす私に、慌てて駆け寄る。
「どうかしたんですか、リリアナ様」
「アランからもらった指輪がないの! 昨日お風呂の時外して……そのあと記憶がないっ」
「あらまあ……アラン様以外にも連絡して、皆で探しましょうか」
「それがいいかも……」
泣きそうな顔をしたまま、私は頷く。
数時間後、皆が集まってきた。それぞれ色々探してくれたらしく、ぐったりしている。
「指輪か……いまはつけてないんだな、リリアナ姉」
「そうだよエディそれが?」
「いや、別に……」
「バイオレットもなんか考え込んでない?」
「気のせいだよ」
「メルは遊んでるし、なんか楽しいことあったの?」
「別に?」
なんなんだろう。このみんなのおかしな様子は。
そこにアランが登場した。どうして!?
「はい、指輪。川に流されてたよ、さっきレイラに捕まえてもらった」
「アラン!? なんでわかったの?」
「発信機がつけられてるからね」
「さらっと怖い事言うたー!」
「王家の大切な指輪だよ? なくなると騒動だからね」
「……たしかにそうだけど!」
(私がどこにいるか王族の人たちにはもろバレって事じゃん!)
「てかレイラ、アランも伝えたの?」
「はい、やっぱり後ろめたくて……あれ? 指輪に宝石がなくないですか?」
レイラが冷静に突っ込む。え、嘘。
思わずアランのほうを見つめる私。
「宝石には発信機は……?」
「そんなのついてるわけないよね、リリアナ」
「ですよねー! やばい、絶対高いし。あのでっかい宝石!」
冷や汗が止まらないっ! 弁償するとしたらいくらぐらいなのかしら……。
「リリアナ? 顔色が優れないようだけど」
「この状態でいい顔色出来るわけないよね」
「ちょっと僕お手洗い借りるよ」
「どうぞ!」
私は投げやりにそう言って、レイラが入れてくれた紅茶を飲んだ。
味なんかまったくわかんないけれど、やたらとのどが渇く。
私もトイレに行きたくなって、トイレに向かうと、アランが笑顔で立っていた。
「お手洗いのそばに、落ちてたよ。宝石」
「えっ、本当!?」
「ほら」
アランが宝石を見せてくる。すごく得意げな表情をしていた。
私は思わずトイレに行きたい気持ちが引っ込んだ。
「本当だ……」
「見つからなければよかったのに」
そう言ったのはメルだった。
「アランお兄ちゃんの指輪、する必要ないよ。だって、婚約って言ったって事故だって聞いたよ? リリアナお姉ちゃん、この際だからやめちゃいなよ。婚約者」
指輪をもったアランがメルをじっと見る。
「王族の決まりだからね? メル君」
「そんなの関係ないよ。気持ちだよ。そうだ、ボクの指輪をはめてよリリアナお姉ちゃん。この前露店で買ったんだ。皆もね」
「リリアナさんは、アラン王子の指輪を首にかければいいと思うね」
「バイオレット」
「リリアナ姉。これ」
「なあに、エディ。この指輪私にくれるの?」
思わず私は前に進み出る。すると皆が私にかわいらしい指輪を渡してきた。
メルのはハートの石が付いていて、バイオレットはバラが付いている。エディはちょうちょだ。思わず受け取り、それを眺める。
「誰か好きな人のを指につけるといいと思うよ」
メルが無邪気にそう言った。と、言われましてもね。
私がうなっていると、レイラがアランの指輪を渡した。
「リリアナ様。そういう問題ではなく、アラン様の指輪を外していたら、国を巻き込んだ騒ぎになりますから、アラン様のをつけるべきです」
「たしかに」
「……その理由は不本意だけど……まあいいよ」
「アラン」
私は振り向いた。
「いずれ僕に振り向いてもらうのは、決定事項だから」
アランは可憐に笑った。思わず頬が染まっていくのがわかる。
そこで膨れた顔をしたのがメルだ。
「ずるいーアランお兄ちゃんだけ、権力で……」
「国民が心配するよりはマシなんだよ、メル君」
「うう……僕の指輪も、リリアナお姉ちゃんに持っててほしい」
「そうですね、指輪は友達の証ってのどうですか?」
「レイラ! それはいいわね!」
「僕のは違うからね」
レイラの提案に私は頷く。横でアランが口を挟むけれど、まあ、王子様との婚約指輪は、かざりだとしても違う意味があるだろう。
いつかまた、その指輪について悩む時期が来るかもしれないけれど……まだ結婚するわけではないのだから、大切に指につけているべきなのだ。
「この、小瓶のネックレスに入れるのはどうでしょう?」
レイラは中にクローバーの指輪の入った小瓶を差し出した。
「この指輪は?」
「わたくしからのプレゼントです。友情の証なら、わたくしも参加していいでしょう」
「もちろん!」
私はレイラに抱き着く。可愛い小瓶に、アラン以外の指輪をを入れた。
「いずれは、アランお兄ちゃんの指輪といれかえるつもりだよ」
メルが得意げに言った。アランがにっこり笑って彼の唇を抑える。
「それは絶対あり得ないから。あの指の定位置は僕の指輪だから」
「どうだか」
ぼそりとエディが言った。バイオレットは苦笑いしている。
アランがエディをきつく見るけれど、エディは表情を変えなかった。
「皆からの指輪、大切にするね!」
「僕も、リリアナとの指輪は大切にするよ」
「いつかボクだってリリアナお姉ちゃんに指輪貰うもんっ」
「ふふ、それはきっとないよ」
「まあまあ」
大人げないアランと子供丸出しのメルをなだめて、私はレイラに紅茶を入れてもらうようにした。そして窓辺に立ち、指にはまった指輪と、小瓶の指輪を眺める。
(友情の証かあ……)
キラキラ光るそれは、とてもみんなの気持ちが詰まっていて、とても素敵な指輪に見えた。




