ハッピーバースディメル♪
今日はメルの誕生日! メルがすでに期待からそわそわしている。
子供にとっての誕生日は、とても価値のあるものだ。
だから、私達はメルをがっかりさせないように、豪華な誕生日会を用意しなければいけない。そこで、私は私がいた世界でのごちそう、お寿司をここで作ることを思いついた。
意外とお寿司の道具はここにそろっている。新鮮な魚も、用意できた。
「いったい何を作るんだい? お米に御酢を入れて……ああ、お寿司と言うのは名前だけ知ってるよ。異世界の食べ物で、こっちでは高級料理だ」
バイオレットに説明すると、そう返ってきた。
「アラン王子なら食べたことあるんじゃないかい?」
「残念だけど、僕は食べたことないですよ。魚は焼いて食べるほうが好きだから」
「へえ、意外だね。高級料理は食べつくしてるのかと思った」
「王家だからと言って、贅沢ばかりしているわけじゃないですよ、バイオレット先輩。リリアナもなかったはずだけど、どこで知ったの? そんな知識」
「え、えと、本で読んで」
普段読書しない私の、苦しい言い訳だ。
「それこそ意外だよ。まあ、いいんじゃないかな。ソーセージでも巻いておけば、おいしいと思うし……」
「巻き寿司と握り寿司については知ってるのね、アラン」
「知識上だけね」
そこで、だんまりなのがエディだ。
「皆すげぇな……オレ無知だから、よくわかんね」
「まあ、別にいいんじゃないかなあエディ」
「今度からもっと勉強するわ。社会の知識もないし」
「飛び級できるだけ十分だと思うけど……」
エディって、なんだかんだでわかんない事も習えばすぐ覚えるじゃん。
それってすごい事だと思うのよね。私はなかなか繰り返して覚えようとしなきゃ無理だから。
「まあ、個別にメルへのプレゼントも用意しないとな。オレはおもちゃ」
「僕は本かなあ」
「わたしはぬいぐるみ」
「子供扱いですねぇ皆さん。わたくしは、文房具です」
「まあ、実際子供だからねー私はメルにハグを頼まれてる。そんなものでいいのかしらねぇ」
「……メル君にはしっかりしつけをしないといけないね?」
「アラン?」
「そうだな、しっかりとな」
「エディ??」
なんなの、ふたりとも。怖いんだけど。バイオレットは笑いこらえてるし、レイラは呆れてる。そうこうしているうちに、具材やごはんが届いた。みんなでマスク手袋をして構える。
「よし、頑張ろう! メルのために!」
「おー」
まずは私が見本のお寿司を作る。実は私、粘土細工で押しす作りまくってたから、自信があるんだよね! 案の定綺麗なシャリと切ってある具材をのせると、素晴らしくおいしそうなお寿司が出来上がる。
隣ではアランが焼き物系のお寿司を量産していた。エディは悪戦苦闘して、ポロポロとお米をこぼしている。
「難しいな……」
「エディ、力み過ぎなのよ」
「なるほど……お、うまく行った。仕上げに砂糖を塗って……」
「塗らない塗らない。そんな余計な事はしないで」
「甘いほうが子供は喜ぶだろ?」
「……ええ……」
思わずドン引きする私。どうやらエディは料理のセンスがないらしい。
まあ、男子だから、仕方がないよね! バイオレットは、割と器用にこなしてるけど、兄弟多いから料理が得意なのかもしれない。
レイラは予想通り、丁寧にじっくりと綺麗なシャリを作り上げていた。
卵焼きもレイラお手製だ。つまみ食いしたけれど、すごく甘くておいしかった。
「メル、喜んでくれるといいね!」
「そうですねー。わたくしはきっと喜んでもらえると思いますが。エディ様、その量ではおにぎりですよ……」
「大きいほうが子供は喜ぶだろ?」
「そういうものではないですよ……」
「エディはミキサーでジュースでも作ってればいいよ」
「アラン兄さん、何気に面倒に思ってない? オレを」
「気のせい気のせい」
いや、多分図星だと思う。アランは巻きずしに手を出して、金太郎みたいな花柄の太巻きを作り出した。まんなかが赤いウィンナーで、外が普通のウィンナー。あれ? ウィンナーしか入ってなくない? まあ、まずくはなさそうだから気にしないでおこうかな……。
「で、肝心のメルはどこなわけ?」
「メイドと遊んでるわ。準備ができたら呼べるように、部屋のセッティングは昨日私とレイラでやっておいたし。プレゼントはみんな持ってきてるんでしょう?」
「持ってきてるけど……やっぱ女子はそう言うの細かいな」
「まあ、ほとんどレイラだけどね」
「だと思った。リリアナ姉はそう言うの得意じゃないし」
「エディもメルみたいにお姉ちゃんって読んでくれてたこともあったのにね」
「唐突になんだよ、嫌味なのか? 嫌味なのか?」
「さあ?」
気が付けばリリアナ姉に変わってたんだもの。正直寂しかったなあ。
まあ、そういうお年頃何だろうとは思って、流したけど。
私はお寿司をお皿において、可愛くテーブルに並べた。
テーブルの上にはレースのテーブルクロスがかかっていて、いかにもパーティって感じ。
もちろん、折り紙で作ったわっかもぶら下がってる。
「リリアナって、意外に料理旨いんだね」
「えへへ、お寿司だけだよ、アラン」
「あとで食べていい?」
「まずはメルだけどね」
「わかってるよ」
「さあ、メルを呼ぼうか」
そして、レイラがメルを呼びに出て行った。
みんながプレゼントを手に持って、わくわくそわそわしている。
しばらくして、キラキラした顔のメルが現れた。
「お誕生日おめでとう、メル!」
みんなの声がそろう。メルが無邪気にほほ笑む。
「ありがとう! 皆!」
「僕からのプレゼントはこれだよ」
「うわあ、高そうな本。大切に読むね、アランお兄ちゃん」
「オレからはこれ」
「おもちゃ! これずっとほしかったんだよね! 調べてくれたの、エディお兄ちゃん」
「ああ」
「わたしからはぬいぐるみを」
「バイオレットお兄ちゃんありがとう、おっきいぬいぐるみだねっ」
「わたくしはこれです」
「文房具だー。キラキラしたラメ入りだあーすごいー。レイラお姉ちゃんの趣味はいいよね、さすがだよ。で、次はリリアナお姉ちゃん」
「うん」
「ハグして!」
走って飛びついてくるメルを、私はぎゅっと抱きしめる。
メルはなかなか離れようとしなかった。
それを、アランが静かに引っ張った。
「メル、おなか減ったよね? お寿司ってものがあるよ」
「アランお兄ちゃん邪魔しないでよー。もっとボクはリリアナお姉ちゃんの貧相な胸に抱かれていたいんだからさー」
「ひとこと余計なんだけど?」
思わず私はメルを突き飛ばした。メルが頬を膨らませる。
だけど、後ろを振り返り、お寿司を見て目を輝かせた。
「なにこれ! お魚とウィンナーがいっぱい!」
「まあ、ウィンナーはアランの犯行だけど」
「ボク大好きなの!」
「え、アラン知ってたの?」
「まあねー」
なるほど。だからウィンナーまつりを開催していたわけね。
てっきりアランが好きなのかと……。
メルはまず、アランの作ったウィンナー寿司にかじりついた。
「うーん、おいしい!!」
「それはよかったね」
アランは満足げだった。
「つぎはリリアナお姉ちゃんのが食べたい」
「いいわよ、これ」
「うわあ、めちゃくちゃきれいじゃん! すごいねぇ、つやつやだし、すごくおいしそう」
「さあ、食べてみて」
「うんっ」
メルは豪快に私の握ったお寿司にかぶりついて……気絶した。
悲鳴を上げるレイラに、メルを抱きかかえるエディ。
そして冷静に、ひとつまみ食べてみるアラン。
「……なんか、すっごい味がする。見た目はまともなのに」
「ウソォ」
「リリアナ、なんかした?」
「……あ、私の手袋すべるからねり香水つけてみたんだ」
「それだってば!」
みんながハモる。
「え、食べても問題ない材料でできてるやつだよ? ほら、これ」
私はねり香水をアランに渡した。
「……これはね、口に入っても問題はないし普段は味がしないけど、酢と混ざるとすごいまずい味になるやつだね……」
「ウソォ」
私は真っ青になる。そんなの注意書きになかったよ?
「まあ、毒はないからそのうち目が覚めるよ、メル君は」
「どうしよう、アラン……ってなんでアラン私の作ったの食べようとしてるの?」
「だって、リリアナの手作りだよね? 食べるよ」
「作り直すから!」
「もう具材ないよ」
「今度のお弁当に!」
「なら、オッケーかな……」
そうこうしているうちに、メルが目を覚ました。
頭が痛いのかふらふらしている。
「大丈夫? メル」
「うん、なんとか。お詫びにハグして」
「ハグでいいなら……」
「はいはい、リリアナさんいがいの作ったお寿司皆で食べますよ」
「バイオレットお兄ちゃん、邪魔しないでよ」
「腐るよりましでしょう?」
「うう……」
こうして、メルの誕生日会は無事(?)楽しく終わったのだった。
みんなでお寿司を食べて、エディの作ったジュースを飲んで、わいわい騒いだ。
こんな日々も、たまにはいいよね! そう思って私は目の前にあったお寿司を食べて……気絶したのだった。




