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メインヒロインは健気な私のメイドさん

 私は夢を見た。前世の私が、乙女ゲームをやっているところだ。

 

 パッケージに描かれた数々のイケメンにつられて、絶対楽しそうと思い購入したのを覚えている。ヒロインレイラが健気で魅力的で、私はかなりあこがれた。


(いかにも、ヒロインって感じで王道の聖女だったわね、それにたいしてリリアナは……王道のライバル)


そして、ライバルであるリリアナは、ぶん殴ってやりたいほどむかついた記憶がある。高飛車で、わがままで……そしてレイラがハッピーエンドを迎えたときには、最後には火あぶりになって死んでしまうのだ。そう、魔女とののしられながら……けれど、ゲームにはその理由は描かれていなかった。なぜなら、ゲームは恋愛が成就するところで終わってしまうからだ。


「わたしのバカ……」


 目覚めたあたしは頭を抱える。広くゴージャスな部屋は、赤いバラと黒いレースでいかにも悪役令嬢と言った感じで、気分が悪くなる。

 風の噂で、リリアナが火あぶりになったと知ることはできても、見れるスペシャルエピソードは全部ラブロマンスな内容で、リリアナのその後なんか適当である。

 バッドエンドはあいにくプレイしていない。なぜなら、ヒーロー達に振られる話なんか絶対楽しくないからだ。一度ノーマルエンドをプレイしたのち、あとは攻略サイトを頼って、安全にハッピーエンドへ向かった私だった。


(どうせならもっとやりこむんだったわ……)


 今思えば、バッドエンドでのリリアナの境遇は、知っておくべきだったのだ。もしかしたら、バッドエンドではリリアナが幸せにほほ笑んでいるエンディングが見れたかもしれないのだから……でも、それって、私以外幸せじゃないわけで、それもやっぱり絶対楽しくないし、嫌だと思う。


「でもさ……まさか、乙女ゲームの世界に転生するとは思わないじゃない……」


 しかもたしか、私が死んだ理由は……ゲームのことを考えながらぼーっと歩いていた時、車に轢かれて死んだんだっけ。思い出すだけで恥ずかしい! そんな理由で死んで、乙女ゲームの世界に転生なんて、どんだけ乙女ゲームに執着してるの?


「リリアナ……何ぶつぶつ言ってるんだ?」

「お兄ちゃん!」


 冷静になってみると、隣にはホットミルクを持ってきてくれたお兄ちゃんがいた。もう、きっちり着込んでいるので帰宅前なのだろう。わざわざ顔を出しに来てくれるところがやさしい。


「お兄ちゃん、もう帰っちゃうの? 寂しいな」

「……リリアナ……」

「気を付けてね」

「リリアナが、人の心配するなんて……どうしたんだ? 頭がまだ痛いのか?」

「……ううん、そんな事ないよ、ありがとう」


 ……たかが、人の心配だけで驚かれる女。それが、悪女リリアナ・ローズ。

 そんな最悪最低の女に、私は生まれ変わってしまったのだ。


**********


 お兄ちゃんがお母様お父様に、私の異変を報告すると、私はかなり心配された。

 なかなか帰ろうとしないお兄ちゃんに、早く帰るようせかして、今は医者に囲まれている。


「お医者様! リリアナは大丈夫なんですか!?」

「奥様、お嬢様は特に何も問題ないです、なあ、ほかの方」

「そうですね、こちらの医学でも何も問題は見受けられません」

「そんな……あんなわがままでお転婆だったリリアナが! 素直で人の気遣いができる子になるなんて、きっと何かの病気よ!」


 顔を真っ青にして叫ぶお母様は、本気の目をしていた。

 まともな行動をしただけで、こんな扱いを受けるリリアナっていったい。

 困ったような顔をした医者たちは、お母様に頭を下げる。


「では、わたし達はこれで失礼します。きっと、打ち所がよかったのでしょう」

「リリアナは頭をぶつけてないわ!」

「奥様、まあ、いい事なのですから、前向きにとらえられては?」

「……確かに、前のリリアナは目に余るところが多かったわ。そうね、この状態が続いてくれるといいのだけれど……」

「……お母様」

「リリアナ、どうしたの?」

「私、これからいい子になるって決めたの。だから、応援して?」


 だって、悪役令嬢の性格が嫌いなんだもん!

 それに、私気が付いたんだ。バッドエンドになるまでのリリアナは、すっごく性格が悪かった。だから、性格を変えちゃえば、まったく同じエンディングにはたどり着かないんじゃなくって?


「リリアナ……おお、神様……神様はいらっしゃったのですね」

「お母様……お父様は?」

「お薬を買いに行っているはず、もう戻ってくるわ」

「お薬なんて、必要ないのに……」


 私は思わず呆れた顔をする。すると、ドアをたたく音がした。


「はあい、入って」


 そう私が言うと、心配そうな顔のレイラが現れた。

 この前と違い、着ているのは……。


「メイドの服なんて着てどうしたの? レイラ」

「あの、大丈夫ですか、リリアナ様……」

「リリアナ、よく聞いて。これからレイラは貴女のためのメイド見習いになったの。同じ歳の友人のように、仲良くしてほしいの。貴女はわがままで、友人なんかいなかったから……」

「わたくし、がんばります! リリアナ様のために、立派なメイドになりますから、よろしくおねがいします!」


 ぺこぺこと頭を下げるレイラの髪は、ふたつのおさげに結ばれていた。

 そういえば、ゲームでは、リリアナのメイドとして物語が始まるのだっけ。

 私は一生懸命笑顔を作り、手を彼女に差し出した。ぎょっとするお母様。


「もちろんよ、仲良くして頂戴ね」

「リリアナ様……」

「リリアナ、立派になって……そう、この子はね、貴女と同じで魔法を使えるのよ」

「魔法? レイラが?」


 そういえば、レイラは……。


「水の魔法が使えるの」


 そんな設定、あった気がする。雨を降らしたりできるのよね。

 レイラはもじもじと恥ずかしそうに、手から水を出してハートを作ってくれた。


「わあ、素敵な魔法ね。私は風の魔法が使えるの。魔法が使える者は珍しいのよね。なかなか出会えないけれど、十五になれば学校に魔法科があるから、そこで出会えるわ」

「リリアナ様は博識なのですね」

「あ」


 そういえば、それって今のリリアナは知らないかもなんだっけ。

 しまったしまった。お母様もきょとんとしてるし。


「わたくしは、かならず、リリアナ様をお守りしに、学校へとついてまいります」

「ひとりじゃないのは心強いわ、ありがとうレイラ」

「そんな、照れますわ……これからたくさん勉強して見せますね!」

「応援してるわ」

「応援よりも、貴女も勉強しなさいな。いくら魔法が使えれば特待生扱いだからと言っても、学校では恥ずかしい思いをしますよ、リリアナ」


 お母様の言葉に、ついつい舌打ちをする私。勉強は嫌いなんだもん。

 まあ、ゲームのリリアナは才色兼備だったけれど……中身が私になったことによって、それはまずありえないということになった。


「はあい……一応頑張る」

「一応じゃありません! 絶対!」

「だって、勉強なんて絶対楽しくない……」

「勉強、一緒にしましょう! リリアナ様!」

「ほら、レイラもそう言ってくれてるじゃないの!」

「んー」


 一番の不安要素は、エンディングまでの流れがまだはっきり思い出せてないところだ。

 キャラとの出会いぐらいは、ちゃんと記憶に戻って来てるんだけど……ああ、困ったなあ。


「頭痛い……」

「また!? 大丈夫なの!? リリアナ。もう元には戻らないで……」


 慌てて寄り添ってくるお母様を見ながら、私は遠い目をした。




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