禁断!?××と××の××!!
ざわつく街を馬車で走る。
今日はバイオレットの家に招かれて、学校帰りにみんなで向かっている。
帰りは寄り道できるといいな。きれいな布を売っているのが見えたし、それで新しいドレスを仕立ててもらえたら嬉しいな。みんなでお揃いの生地とか、そんなの絶対楽しいじゃん?
「つきましたよ」
「おお……」
バイオレットの言葉に思わず声を出したのは、思った以上に質素な家だったからだ。
ボロボロではないものの、あまり大きくはない。
一般市民の家としても小さいほうだろう。
「お兄ちゃんおかえり!」
そう言って子供がたくさんかけてくる。七人はいるんじゃないだろうか。
どの子もバイオレットにそっくりで、すごく綺麗な顔立ちをしている。
「紹介します、わたしの弟妹です。わたしの家、家族が多いんですよね」
「なるほど……」
「両親は共働きなので、学費免除のために生徒会長をやっているんです」
「えらいね」
「いえ、当たり前のことです」
いやいや、偉いよ。つまりは十五歳の頃には覚悟を決めていたってことでしょ?
私だったらとてもじゃないけど頑張れない。
「僕が学費を持ちますか?」
「アラン王子。それは気持ちだけ受け取っておくよ」
「そうですか……差し入れにと、パウンドケーキですが持ってきましたが、1本で足りますかね?」
「お気遣いなく。気持ちだけでうれしいよ。こうやって、王族の方と仲良くできるだけでも、両親はかなり喜んでいるしね」
「そうですか。困ったことがあれば、僕を頼ってください。いつでも力になりますから」
アランは優しいなあ。いい王様になるんだろうなあ。
私はにこにこしながらふたりの様子を見ていた。
しばらくして、私達は手作りに見える木の木目がむき出しのテーブルとイスに座らされる。質素なお茶と、クッキーが出てきた。クッキーが誰かの手作りなのか、無駄なものが入ってない素朴な味がした。
「なかなかこうやって友人とも遊べないので、かなり今は幸せかな」
「すごいなあ。ボク一人っ子だからよくわかんないけど、大変そう」
「かなり楽しい毎日だよ、メル君」
「そうなの?」
「でも、たまには遊びたいかな」
「じゃあ、僕の家のメイドにベビーシッターを頼ましょう」
アランが突然の提案をする。
「悪いよ」
「僕がバイオレット先輩と遊びたいんです」
「……そう。なら、お言葉に甘えて」
バイオレットが優しく笑った。なんだか弟妹も心なしか嬉しそう。
大好きなお兄ちゃんが幸せそうだと、嬉しいよね。
「では、行きましょう」
アランの一声で、皆は頷いた。
**********
たくさんの木々が豊かな公園に、ボートはあった。
大きな湖は、水が澄んでいる。
カップルがやけに目立つけれど、家族づれも多い。
ファンタジー世界でも大体のことは同じらしい、と私は育つにつれて理解した。
「一番大きいボートを借りたよ」
アランが満足げに言った。アヒルの顔のついた、どでかいボートだ。
「自動で動くみたいだから、ゆっくり景色を眺めれるね!」
アランが異常にはしゃいでいる。よく考えれば王子と言う立場で公園で遊ぶことは、めったにないのかもしれない。メルは真っ先にボートに乗り込んで先頭を取った。
「すごいすごい、おっきー!」
「メル、あんま騒ぐと落ちるぞ」
「わかってるよエディお兄ちゃん」
頬を膨らませて不満を見せるメル。アランはバスケットを取り出してサンドウィッチを配りだした。
レイラも紅茶を紙コップに入れて配っている。
この世界に来て色々あったけれど、来てよかったなあと改めて感じた一瞬だった。
いい香りのする紅茶を飲みながら、サンドウィッチを頬張る。
メルが湖をのぞき込んでいる。魚がいるらしかった。
「きれいだね、リリアナ」
「そうね、アラン」
「バイオレット先輩は、どうです? きれいでしょう? 僕調べてきたんですよ、これでも」
「すごくきれいだよ。ありがとう、アラン王子」
バイオレットは心底幸せそうに笑った。フェロモンも一緒に飛んでいる気がする。
アランは満足げに頷いた。
そこで、エディがぐったりしていることに気が付いた。顔色も悪い。
「エディ?」
「悪い、酔った」
「ええええ、止まらなくちゃ。でも……もう湖のど真ん中だし……どうしよう」
「薬があるよリリアナ。僕は準備が万端だから」
「アラン! ありがとう」
「ふふふ……別に大したことじゃないさ」
「薬、あまっ」
薬を飲んだエディが噴出した。
「子供でも飲めるようにいじったのさ」
「え、おいしいの? ボクも欲しい!」
「メル君、病気じゃない人が薬飲んじゃダメだよ」
「ぶー……」
不満たらたらなメルを無視して、エディをさすってあげる。
すると、エディの顔が赤くなった。
「エディ、熱ない? 顔が赤い」
「気のせいだ、リリアナ姉」
「って言うか虫が来たんだけど!?」
「うわああああああ」
発狂するエディ。そういえばエディは虫が苦手だっけ。
混乱するボートの中。そしてボートは……ひっくり返った。
「うわっぷ」
変な声をあげて私は泳ぐ。みんなもバタバタしている。
そこで気が付いた。バイオレットがおぼれていることに。
慌てて私は駆けつけるけれど、体格差でどうにもならない。
とっさにアランが気が付いて彼を助けてくれたけれど……。
「水を飲んでるね……」
駆けつけるボートの係の人に頭を下げて、アランはバイオレットを芝生に寝かし……人工呼吸を始めた。ぎょっとしたけれど、私はそれをよく見ることにした。
もしまた同じようなことがあれば、私もできたほうがいいに決まってるからだ。
そういえば、なんだか光ってるような気がするけれど、なんだろう? 気のせい?
アランは手早く人工呼吸をしていき、バイオレットは蘇生した。
「大丈夫!?」
私はバイオレットに言った。
「ありがとう、アラン王子……わたしのはじめてのキスだけど……」
モテる割には初めてのバイオレットに驚きつつ、私は飲み水を渡した。
レイラは馬車を呼び戻している。早く帰って着替えなくちゃだもんね。
「意外です」
直球でそういうアラン。気持ちはわかるけど。
「そう言うのは、やっぱ、遊びでしたくないから」
「それは僕も同じですね。これは命がかかってますから、ノーカウントです」
アランとしても、なるべく男とはキスしたくないだろうしなあ……。
いくら見た目が中性的なバイオレットでも、そうだろうなあ。
「そういえば、新聞部のロイをさっき見たけど……」
エディが困惑した顔で言った。
真っ青になるバイオレット。
「さっきのきっと撮られていたんだ」
頭を抱えるバイオレットに、石になるアラン。
気持ちは痛いほどわかる。
「王家の力でヒネリつぶせないものか……」
「無理だよアラン、権力使うほどのことじゃないし」
「リリアナ……」
めまいがしそうなアランを、私はなだめるように肩を抱いた。
確かロイって腐女子だったよね。これはやばい予感。
**********
次の日、掲示板にはでかでかとふたりのキス写真が貼られていた。
アランがその場で気絶するのをエディが受け止める。
「王子様と禁断の美少年の恋……またまたすごい見出しですね、リリアナ様……」
「レイラもそう思う? あんまりよねぇ……」
バイオレットに至っては、新聞を破っている。メルは大爆笑だ。
こうして、この噂は二週間近く学校を駆け抜けたのだった。