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成績最悪!?リリアナ大ピンチ!

 どうしようどうしよう。


「リリアナ、成績最悪だね。下から数えて五本の指に入るよ」

「わかってるよアラン……」

「これはどうしたらいいんでしょうね、リリアナ様。わたくしの責任ですね」

「レイラまで言わなくても」


 最近テストがあった。魔法ではなく、全校同時開催の学力テストだ。

 案の定アランはトップで、レイラがそれに続く感じの結果を出した。

 三年生での一位はバイオレットだ。そして私の成績も予想通り……。


「これはひどいね」

「メルにまで言われた……」


 暇を持て余して遊びに来たメルすら呆れている。


「このままだと補習だねえ。うちの学校の補修は長いって噂だよ。夏休みも返上して頑張るしかないねー」

「そうなの!? バイオレット先輩」

「わたしは補習とは無縁だから、言い切れないけど……」


 ですよね。だって生徒会長は、成績がよくないとなれないもん。

 私はぐったりしながら成績表を見た。どれもEとDばかりだ。

 ゲームのリリアナは、勉強も魔法もできて、それでレイラと張り合ってたのに……。

 ただっぴろい学校では、私は空気だ。

 もちろん公爵令嬢で王子の婚約者だから、ある意味目立ってはいるんだけど、成績発表に至っては、あえて触れないように気を使われている気がする。


「オレも教えてやるからさ、リリアナ姉」

「……弟に指導受けるとかプライドが傷つく!」

「そんな事言ってたら一緒に卒業できないぜ? この学校は金さえ払えばいくらでも留年できる。今の最高留年は二桁だって噂」


 学校在籍二桁のリリアナ・ローズなんか、嫌すぎるわ!

 私はぶんぶんと首を横に振った。頑張ろう。絶対みんなと一緒に卒業するんだ!


「勉強会とかしたらどうかな。僕の家で」

「アランの家で?」


 私は尋ねる。つまりはお城って事?

 お城に行くのも久しぶりだなあ……なんて思っていると、周りの空気は重かった。


「お城ですか」

「そうよ、レイラ」

「緊張しますね」

「たしかに、わたしは生まれて初めてだよ」

「ボクも」

「オレは……いつもは断ってきたから」


 なるほど。一般庶民にとってはお城はすごいものなのね。

 でも、普通の家より広いし、おいしい紅茶も出るから居心地いいのよ。

 白いレンガはいつだって新品のようにきれいだし、どこもかしこもいい匂いがするし。

 プールだってあるし。


「そんな緊張しなくても、僕の部屋には従者は入れないつもりだよ。気が散るからね。さすがにお茶やお菓子は運んでもらうけど、それぐらいさ」

「それなら、いいですけれど。私はメイドですから、そういうことをされると落ち着かないのです」

「なるほどね。じゃあ、放課後お城まで。学校の前に馬車で迎えに行くよ」

「そんな、悪いよ……アラン王子」

「バイオレット先輩、遠慮なさらず」

「遠慮と言うより後ろめたいというか……」


 まあ、気持ちはわからなくもないけど。

 私はおいしいお菓子が楽しみで仕方がなかった。


**********


 そして放課後。


「何もお土産がないけど、いいのかな」

「バイオレット先輩、落ち着いて。僕が誘ったんだらいいんです」

「でも……」

「遊びに行くわけじゃないんで」

「たしかに」


 アランの笑顔は、何物も黙らせる力がある。

 馬車に揺られて街の景色を眺める私。学校の近くの街はこじゃれていて、おしゃれなお店も結構出ている。こっちの世界に来る前はカラオケとか、よく行ったなあ。


「つきました」


 アランが真っ先に降りて、お城を案内する。

 私以外のメンバーはきょろきょろしていた。

 それにしても、相変わらず広いなあ。


「僕の部屋に案内するよ」


 アランの部屋に通されて、一息つく。

 中には入学祝いの写真がいっぱい飾ってあった。

 ファンタジー世界だけど、写真は普通にカラーである。


「すごい、大きなぬいぐるみ!」

「触っていいよ、メル君」

「うわあい」


 大きなぬいぐるみに抱き着くメル。子供は容赦ない。

 そしてメイドが、おいしそうな焼き菓子を持ってくる。ソーダの入ったフレーバーティーは、すごくおいしかった。

 そして、テーブルに円陣のように座り、勉強を始める。今度は、正座でカーペットの上に座っている。そのほうが、効率がよさそうな気がするから、私が提案した。

 正直、正座はつらいけれど……。


「とりあえず、勉強の対策は練っておいたよ」

「さすがアラン! われらの王子様!」

「褒めても勉強は軽くしないよ? リリアナ」

「……はあい」


 おだててもだめかあ。そう言われて、私は仕方がなく勉強を始めた。

 うーん数式とか全部暗号に見えるわ。外国語とか、何それおいしいの?

 外国語がしゃべれなければ、通訳を使えばいいじゃない!


「難しい……」

「頑張ったら、ご褒美をあげるよ。もちろん、皆にもね」

「王族のご褒美!?」


 飛びついたのはメルだ。


「そう、メル君にも用意してあるよ。楽しみにしてね」

「するする!!」


 大はしゃぎのメルは、ワークを自主的に開いて解きだした。

 メルは頭はいいんだよね。と言うか、レギュラーメンバーで成績が悪いのは私だけ……。

 うーん、ある意味悪役令嬢らしくはないわね。


「楽しみだな……」


 何気にエディも楽しそうだ。勉強が楽しいなんて羨ましい。

 ご褒美はお菓子かしら、宝石かしら。レイラは黙々と勉強を続けている。


「で、エディは何に躓いてるの?」

「歴史……この国の歴史とか、正直知らないし……王族の前で言うのもなんだけど」


 この国かあ。現世で例えると中世以上の生活はできているように思える。

 魔法も当たり前に流通しているし、割と便利な世の中だ。

 そして温厚な王様のおかげで、世界の中でものんびりとした国として知られている。

 それを私がエディに語ると、エディは驚いていた。


(ゲームの知識なんだけどね)


 そして、私はあることに気が付いた。


「ちょっと、お手洗いに行きたいわ」

「場所はわかるよね、リリアナ」

「うん、アラン、でも……」

「でも?」

「足がしびれてたてないの……」


 立とうとするとふらふらする私。


「大丈夫?」

「このままだと最悪の事態が待ってるわ」

「ちょっと、その場から動かないで」

「えっ」


 私と目があったアランは……私をお姫様抱っこした。

 部屋中に響くざわめき。私は顔を熱くした。

 アランは軽々と私をもってそのままトイレまで運んでくれた。

 もちろん、帰りもだ。当然メイドや執事がざわついていた。

 すごく恥ずかしかった。


「……さすが婚約者同士は違うね」

「バイオレット先輩、違うんですよ」


 部屋に戻るなり、苦笑いを浮かべるバイオレット。

 これは日常茶飯事ではない。


「そうですね、婚約者ですから」


 しかもその言葉を肯定するアラン。

 なんでよ!?


「僕とリリアナは特別な関係ですから、邪魔しないでくださいね?」

「あはは……」


 困ったように笑うバイオレット。まあ、笑うしかないよね。相手は王子だもん。

 私はとりあえず足を崩して座りなおす。もう二回目は嫌だ。

 そして一生懸命ワークを解いた。すると、バイオレットが隣でいろいろ教えてくれる。


「ここは、こう解くと簡単だよ」

「さすが先輩、詳しいですね」

「伊達に二年長く学校に通ってないからね。同じ学年だったらアラン王子に負けると思うけど、わたしは先輩だから」

「なるほど……」


 さすがバイオレットは先輩だ、後輩のアランを立てるのも忘れない。

 慣れた手つきで数式を書いてはすらすらと解説するバイオレットに、エディが寄ってきた。


「先輩、オレのも見てくださいよ」

「もちろん、大歓迎だよ。ここはこう」

「うわあ、すごい、するする解いてく」


 感心するエディに、メルもそれに倣う。


「バイオレットお兄ちゃん、これあってる? あってる?」

「メル君、上出来」

「やったあ、これでご褒美貰える!」

「期待しておくといいよ、皆」


 アランがどや顔で言った。本当に楽しみだ。

 おかわりの紅茶が運ばれてくるころには、皆の勉強は大体が終わっていた。


「今度はわたしの家にも遊びに来てくれると嬉しいね。狭い家だけど」

「バイオレット先輩が言うのなら、僕行きたいです」

「私も」


 バイオレットの家は、どこにあるんだろう? 遠いのかなあ。

 そんな事を考えていたらバイオレットはここからそこまで離れていないことを教えてくれた。


「おもてなしはあまりできないけどにぎやかさには自信があるよ」

「本当? にぎやかなの私大好き!」

「リリアナは、お祭りとか好きだよね」

「うん、アラン。毎年お祭りはアランとエディと三人で行くもんね」

「今年はわたしもご一緒したいな」

「ボクも!」

「ぜひぜひ」


 私が笑顔で言うと、なんだかアランはちょっとつまらなさそうな顔をした。

 エディは苦笑いしている、なんでかな?


「よし、ワークできた!」

「おめでとう、リリアナ。ご褒美を持ってくるね」

「アラン、よろしく」

「ボク達もできたよ!」


 そう言ってアランは立ち上がり――ご褒美を持ってきた。

 きれいにラッピングされたそれには、薄い何かが入っていた。

 なんだろうと思いそれぞれ包みを開いてみると。


「王家特製のワークだよ」


 ……新しいワークが入っていた。

 私以外のメンバーは大喜び。


「ありがとう」


 笑顔で私はそれを受け取って、バッグに押し込んだのだった。




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