おいでませ!生徒会!
「その子供は誰? リリアナ」
アランが静かに怒ってるように見える。
ほかの人から見れば、愛想よく笑っているように見えるのだろうけど……。
(付き合いの長い私には、アランがやきもち焼いてるのはわかっちゃうのよね)
「アラン王子! ボクの名前はメルです。メル・ホークです」
**********
「元気な子だね、はい、こんにちは」
「こんにちは!」
「この子も学校に来ていいの? リリアナ」
「授業には出れないけどね。入学試験の結果が張り出されてるよ。アラン、一位なんだね、すごい」
「まあ、僕は王子だから、国民の見本であらないといけないしね」
あ、ちょっとアラン調子に乗ってるね? 鼻を鳴らしたよ?
ちなみに次点でレイラ、エディと続く。みんな頭いいねえ。
「リリアナは?」
「下のほうにいるわ、アラン」
「そんな自信満々に言わなくても……」
「うるさいわねエディ」
「リリアナ姉……」
「お姉ちゃんって呼びなさいよ」
「もうオレ子供じゃないんだぜ? 恥ずかしいだろ」
「その恥ずかしがるエディがかわいいのよ」
「…………」
エディは頭を抱えてため息をついた。何故かしら?
レイラはしとやかに学校を眺めていた。レンガ造りのミルクティー色の大きな学校は、普通学科と魔法学科がある。
入学試験は本来は普通学科のみなのだけどレイラは腕試しに受けたのだ。
「ねぇ、見て見て! アラン王子よ! 素敵ねー!」
「隣にいるのはリリアナ様と、誰かしら? 見たことのない女がいるわ」
「メイドだって噂よ」
こんな声だって、当然聞こえるんだけど……。
「やあねぇ、魔法が使えるのだろうから、仕方がないけれど……」
「メイドが学生だなんて、ずうずうしいわ」
「いくら才色兼備でも、メイドじゃねぇ」
(うざったいなあ……)
聞こえないふり聞こえないふり。
それよりもきれいな花が満開で、いい空気なんだからそれを楽しんじゃおう!
そんな時、長い黒髪に赤い目の、和風で中性的な雰囲気の青年が歩み寄ってきた。
たしか彼は攻略対象で、名前は――。
「こんにちは、王子様と皆さん。わたしの名前はバイオレット・ミント。生徒会長をしている三年生だよ」
最上級生であり、生徒会長であるバイオレット。謎めいた雰囲気の妖艶な美形、
いつもうっとりした瞳で遠くを見ている。まるで何かを知っているように。
「こんにちは、バイオレット先輩」
「王子様に先輩と呼ばれるのは、むずかゆいね」
「実際先輩ですから」
確かにそうだけど、逆の立場なら私もむずかゆいだろうな。
アランはにこにこしながら彼の手を取って、ゆっくり笑った。
「アラン王子は副会長になりますから、よろしく」
「え? バイオレット先輩、どういう事です? 僕が副会長? それは来年ではなく、今?」
「はい、なんでかほかの部員が続かないんで」
私はその理由を知っている。バイオレットの色香みんなやられてしまうのだと。
バイオレットはいわゆるお色気キャラで、何をしてでも色っぽいのだ。
現代だったら、常にはだけた着物を身にまとってるイメージ。
しかも男女両方に効いてしまうところが、危ない感じ。
「王子様なら、優秀ですし……そうですね、レイラさんには補佐についてもらいましょうか」
「そんな! 私はたかがメイドで! それならば我が主リリアナ様を!」
「まあ、いいでしょう。補佐ですから、ふたりいても問題ありません。リリアナさん、よろしくお願いしますね」
「えっ、私!?」
そういえば、ゲームでもレイラと同時に役職になってたような……。
結局リリアナは、仕事を全部押し付けるわけだけどね。
本当、ゲームのリリアナってばヤな女。
「よろしく、リリアナ・ローズさん」
「はい、バイオレット先輩」
「弟さん? だっけ? そこの君」
「エディです」
「君もお願いできるかな? 頭数がほしいんだ」
「かまいません、姉がいるなら特に……」
「そこの少年は? 学生じゃないと思うけど」
「メルです!」
「遊びにおいで」
「わーい」
気さくな人だなあ,バイオレットってば。
メルは嬉しそうに小躍りしている。さりげなく、今お菓子をバイオレットがメルに渡した。そういえば、バイオレットって、兄弟とかいたようないないような……?
キャッキャとした雰囲気になっているのを、誰かがにらんでいる。
名前も思い出せないその誰かが舌打ちをした。私は無視するけれど、レイラが少しおびえた。気にしなくても私達がいるんだから、大丈夫なのに。
「顧問の先生とかに挨拶はいらないのかしら?」
「……大丈夫かと。わたしがいいと言えば、通るんで」
なんという事でしょう。彼の色香は教師までもをマヒさせる力がるのね。
すごすぎるというか、なんというか。
「それにわたしの火の力は、学年一だから」
「それが?」
私は少し不安に感じながら尋ねた。
「だから、お察しください」
「……脅すのはよくないと思うけど」
「実行しなければ、平和的手段で」
そうかなあ……。まあ、バイオレットはなかなかに好戦的な性格のはずだから、設定どおりな感じ? さすがに実行はしないと思うけど……。
「それにまず、王子様が首席な時点で、生徒会は自由が利くかと」
確かに王族の存在は絶対だろう。
「僕は、ひっそりリリアナと幸せな学園生活を送れるほうがいいけれど……王家である以上は上に立つ経験をしておかないと、いけないだろうね……」
確かにそれは言えている。いずれアランは王様になる。
そして私は……。
「王妃になる私も、って事!?」
「そういう事になるね、リリアナ」
「私、王妃なんて……荷が重いわ」
「大丈夫、すべては僕がサポートするから」
にっこり笑って、私の手を包み込むアラン。
泣きそうになりながら、今後のことを考える私。
結婚して、国の代表になって、子供を産んで、国の恥にならないようにふるまって……そんな事が私なんかにできるわけ!?
「大丈夫ですよ! わたくしもついていきます、どこまでも」
……レイラに王妃を変わってもらえば、楽だけど、そしたらバッドエンドかしら!?
ああ、嫌になっちゃう……。ゲームのリリアナなら高飛車に当然よと笑うんだけど。
「レイラ、ありがとう」
「わたくしは、リリアナ様だけのメイドですから!」
「僕は、リリアナだけの許嫁でありたいね」
「アラン……」
「オレだって、リリアナ姉だけの弟だっ」
「エディまで、何よ、皆して」
あはは、と私は笑う。皆どこか焦ってる感じがするし、かわいいなあ。
「リリアナは、笑顔が一番だよ。僕は常に君が笑顔であるように願う」
「アランって、たまに気障よね。昔は押しが弱い感じに感じるときもあったのに」
「そりゃ、こんなにライバルがいれば僕だって……」
「誰がライバルなの?」
「…………」
あ、アラン呆れてる? 何で?
ため息をついたアランを見ていると、メルが暇を持て余して遊びだした。
窓の上によじ登り、外を見ている。慌てて私はメルを確保した。
「……リリアナお姉ちゃんは、やっぱり胸ない、っと……」
「メル、怒るよ?」
「そういえば、バイオレットお兄ちゃんの力って、どれぐらい強いの? 見せてよー」
メルがぴょんぴょんはねて言った。
バイオレットは困ったよう苦笑い。
「ここは室内だから」
「見たい―見たいーボク見るもん! 絶対今すぐ見るもん!」
駄々をこねるメルに、バイオレットはため息をつく。
そして何か小さくつぶやくと、指の上から小さな炎を出した。
「うわあ、すごい。何にもないところから、火が生まれた!」
「これでいいかな、メル君」
目を宝石のように輝かせるメルは、大きく頷いて……どこかからか風が吹いてきた。
炎が風により大きくなっていく。慌てて炎を消そうとしているバイオレットだけど、うまく行かない、そして――。
「水よ! 出よ!」
レイラが叫んだ。そして小さな雨が部屋を濡らした。
次第に小さくなり、消えていく炎。みんながドッと疲れた様子でため息をついた。
メルなんか、座り込んで泣きそうな顔をしている。
ぜえぜえ言っているレイラは、水を止めた。そして、レイラは倒れた。
急な魔法の使用でつかれたのだろう。エディが率先して彼女をお姫さん抱っこして、保健室に運んだ。
**********
「レイラ、起きた?」
「……リリアナ様、すみません……その、お恥ずかしい」
白いベッドから顔を出すレイラの顔色は悪くない。どちらかと言えば、顔が赤いレベルだ、
「ううん、皆レイラに感謝してるよ。レイラのおかげで大事にならなくて済んだんだから」
「いえ、水の魔法が使える私が動くのは当然のことです」
「レイラ……今、アランが飲み物を買いに行ったわ」
「アラン王子が!? 申し訳なさすぎます」
「エディ達は部屋の後始末をしているの。メルは帰ったし、気にしなくていいのよ、そんなの」
「はわわわ……」
目をぐるぐるして混乱しているレイラは可愛い。
ぬれたシャツは私が着替えさせたけれど、それを告げるとさらに恐縮するだろう。
私はそれをあえて告げずに、アランを待った。
「これからは、学園生活が始まるわ。三年間、学友としてよろしくね、レイラ」
「そんな! 私はメイドですから、おまけですよ!」
「勉強は教えてくれるわよね? お願いね」
「それは、もちろん!!」
ガッツポーズをするレイラに私は笑う。
こうして、私のはじめての異世界学園生活が始まった。