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生物戦争  作者: ニトロ
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今現在の状況

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 ほの暗い部屋の一角から、ジリリリリン!と目覚まし時計の甲高い爆音が鳴り響く。数秒すれば部屋の真ん中にひかれた布団から手が伸びる。


「うるせえよ…」


 目覚まし時計を少々雑に止め、織部空士おりべくうじは目を覚ます。気怠そうに体を起こし、電気もつけずに身支度を始める。彼の住む寮は狭く、部屋はフローリングの六畳間と洗面台、トイレだけである。そのため、顔を洗うための洗面台にはすぐ到着する。適当に顔を洗い、歯を磨く。そのあとは迷彩柄の軍服に袖を通し、腰回りのポーチやポケットに必要なアイテムを入れていく。


「いってきまーす…」


 誰にでもなく、空士はそう言ってから木目が見える木の扉を開けて外へ出る。向かうは寮の西にある階段。そこにはもう織部と同じ軍服を着た少年がおり、大きく手を振っている。それに対して織部は小さく手を挙げる。


「毎日、毎日、おまえはほんと元気だな」


「それなら空士だって毎日、同じ台詞じゃないか。これで何度目?」


「ん?多分、四月からずっと」


 他愛のない会話で織部空士と親友の近江龍二おうみりゅうじは笑いあう。近江もこの寮に住んでいて、彼らはとある日課のためにこうして階段前で待ち合わせいているのだ。この寮の最上階は四階だが、目的地はもう一つ階段を上った先にある屋上だ。

 屋上には柵も何もないので端まで行き、着くと風が二人の横を吹き抜ける。空士の眼前に広がる光景は背後から昇る朝日が美しく照らしていた。

 手前にはこの寮と同じ寮が等間隔に建てられ、その奥には先端を鋭くした木を斜めに配置した柵、逆茂木さかもぎとその間に建てられた見張り台が見える。さらに奥を見ると80m~100mの大樹が静かに立っている森や山があり、遠くから見ても翼長6メートルを超える巨鳥が鷹取山から飛び立った。


 西暦2116年5月10日日曜日。現在、人類は滅亡の危機にあった。


 全ての始まりは2020年。東京オリンピックが終わり、世間のオリンピック熱が冷めてきたころだった。本当に何の予兆もなく、世界中で突如として人類以外の生物が巨大化という『進化』を遂げ、人類に攻撃を開始した。この突発的に現れ、人類に害をなす『進化』した生物を『新生物』と呼称した。世界規模の緊急事態に各国はすぐさま対処し、反撃。日本も自衛隊を動員して反撃をした。


 1年ほど戦ったが結果は敗北に終わった。


 火器が効かないなどのことはなかった。敗因は『新生物』の個体数。要は物量作戦に負けたのである。世界中のネズミを合計すれば世界人口を超えると言われており、昆虫はそれをはるかに上回るのだ。さらに言えば人類は戦うのに武器が必要なのに対して『新生物』はその体自体が武器となる。後世から見れば無謀な戦いだった。


 織部は後ろを振り返って朝焼けに照らされた街と畑をを見る。

 巨大生物に侵攻されても人類は生き延びている。今、世界はどうなっているのかは分からないが、日本ならかろうじてわかる。大阪や新潟、そしてここ神奈川。相模川河口を中心として、約10㎞の半円が神奈川で人が住める範囲で半円の周りには前線基地、中心には町と農業地帯がある。


 織部と近江は西神奈川前線基地に所属する兵士の一人であり、これから他の仲間と共に任務―――『新生物』の討伐に向かう。 


 だが今は『新生物』と戦う手段がない。今からそれを取りに行くのだ。


「じゃあ、そろそろ行こうか」


「よし、今日は鍛冶屋までだな。……龍二、競争でもするか?」


 普段は面倒が嫌いな織部の意外な提案に驚きながらも近江はOKする。二人は寮の端から数歩下がり、その場で軽くジャンプをし、一度互いの顔を見合わせると全速力で走り始める。そして屋上の端から別の寮の屋上までジャンプで飛び移る。軽々と6mの幅を飛び越えた。


 『進化』したのは人類以外の生物だけではなかった。遅れながらも人類も進化が訪れたのだ。2020年に生まれた子供を『第一世代』とし、『第一世代』が産んだ子供を『第二世代』とすると『第二世代』以降の子供たちは高い身体能力を得た。それも巨大化せずに『第一世代』以前のアスリートとは比べものにならない程の力だ。

 ちなみに『第五世代』である織部と近江の日課は寮の屋上を使って目的地まで移動することだ。


 二分ほどハードル走のように屋上から飛んで、着地、走る、また飛ぶ、を繰り返すと目的の鍛冶屋に一番近い寮に到着する。競争の勝者は近江龍二だった。そこからは普通に寮の階段を下り、石造りで煙突が目印の鍛冶屋の入り口をノックする。


「はいはーい!」


 ノックしてすぐに若く元気のいい声が鍛冶屋から響く。勢いよく扉が中から開かれ、空士たちと同い年で鍛冶見習いの長船海斗ながふねかいとが顔を出す。


「おはよう!空士、龍二!ちょっと待ってくれ、すぐ持ってくるから」


 そう言うと顔を引っ込め、1分立たずに二人の得物エモノを両手にして現れる。

 織部に渡されたのは黒の鞘に収められた日本刀。近江が手にするのは革の鞘に入った160cmある大剣。彼らは鞘から自分の武器を抜き、メンテナンスから戻ってきた愛刀の仕上がり具合を確認する。


「……うん、今回も完璧だ。ありがとな」


「礼なんていいよ。それよりももっと刀を気にかけてやってくれ。普段の手入れをもっと丁寧にな」


「そうか…あれよりも丁寧にか…」


 これは面倒だな…、と考える織部から目を離して長船は近江に話しかける。


「剣が抜けやすいように鞘をちょっといじってみたんだけど、どうだ?」


「確かに抜きやすくなってたよ」


「ならよかった!」


 長船のこの丁寧な仕事は仲のいい友人だけでなく、全ての人にしているのだから驚きだ。なので人気があり、まだ見習いなので刀の手入れくらいしか仕事はさせてもらえないが将来有望と期待されている。

 面倒くさがりな織部に長船はもう一度忠告しようと思ったが鍛冶屋から老人の怒声がする。


「悪い、じいちゃんが呼んでからもう行く。空士はしっかり手入れしろよ!」


 最後に念押しをして彼は走って帰っていく。


「さて、俺たちも行くか」


 織部と近江は仲間の住む寮に向かって歩き始める。



 二人が女子寮につくのと同時に彼女たちは寮から出てきた。


一葉かずは~今日は休みましょうよ~」


「任務だから休めないの。帰ったら寝てていいから」


 女性用の軍服を着てギターケースのような物を背負った寝ぼけ眼の少女の手を、同じく軍服姿で腰のホルスターにハンドガンを二丁入れた快活な少女が引っ張って織部たちの方に来る。


「おはよ!」


 今にも寝そうな少女を引く手とは反対の手を挙げながら宮垣一葉みやがきかずはは元気に挨拶する。続いて目をこすりながら花風霞はなかぜかすみも挨拶をする。


「あ、おはよう班長。ねぇ、ねぇ、おかしいと思いませんか?日曜日なのに任務なんて!」


 休みたい一心か、語尾が強くなり、瞼が少し開く。


「霞、何度も言うが『日曜日は休日』って言う旧時代的な考えはやめろ。一葉の言う通り、後で寝てもいいから」


 織部からの同意を得れず、霞が肩を落として諦めたところで織部は三人の顔を見て声を上げる。


「よし、これで織部班全員そろったな」


 近江龍二、宮垣一葉、花風霞、そして班長・織部空士。この四人で今年4月に結成されたのが織部班だ。


「今日は任務で『群狼』を討伐する。さっさと終わらせて朝飯でも食おう」


 班長が言った後、織部班は歩き出す。『群狼』がいるのは西の森。今から彼らは戦場へ向かう。








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