第二話 ちょっとした失敗
結論から言えば転移魔法は失敗に終わった。
いや、転移魔法事態ではなく、魔法陣がいい加減だったために想定外の場所に出てしまったのだ。
家の中と言ってもあまり目立たない物置とか裏庭へ飛ぼうとしていたのだ。
しかし、魔法陣の線が若干間違っていたらしく当初考えていたよりも少しずれて母親が食事を用意していた食卓の上に希望ともども転移してしまったのだ。
このことにより、両親から二人共々大目玉をくらう羽目となってしまった。
「あーあ。歩夢のおかげで私まで説教をくらちゃったよー的な?」
「……前々から気になっているけれど、その口調はわざとやってるの?」
「さぁ? どうでしょうね?」
二人は今、第十三管理区の中央通を歩いていた。
独立都市ユートピアは王宮を中心に丸型でそれをちょうど、十三等分に分けてそれぞれの管理区としている。
その管理区には、それぞれ王宮から街の端まで続く中央道と呼ばれる道が通されていて、そこから枝分かれするように道がひろがり、街がある。
それぞれの管理区の間には大きな壁があり、そこを行き来するには王宮の周りにある中央広場を通らなければ他の管理区には行けない。
今、二人は教育施設が多数点在する第八管理区へと向かっていた。
「それにしても、なんでわざわざ第八管理区の学校へなんか行かなきゃいけないかな? 別に各管理区の教育水準を統一すればいいじゃん! 的な?」
「まぁここは、何もないところから造った街だから、それぞれの管理区でそれぞれの分野を特化させているって話だろ? ボクとしては、わかりやすくていいと思うけど? 買い物がしたければ第七管理区へ行き、行政組織に用があるなら第一管理区へ行けばいい……至極シンプルじゃないか」
「なるほどね。それにしても、私の中では無口な印象がある歩夢が私の前ではよくしゃべるね! 的な?」
「頼むから普通に話してくれ」
幼馴染にも困ったものだ。
コロコロということが変わるし、勝手なイメージを植え付ける。そのくせ自分の考えが間違っていることはまずありえないと決めつける。
そういったところはなおいてほしいと常々思うのだが、こればかりはどうしようもないかもしれない。
仮に彼女がある日突然、おしとやかになっていたり昨日のように真面目に話をしてきたりしたら彼女との接し方に困る自信がある。
「何考えてるの?」
「別に」
「あれ? 私が考えた通りの無口の歩夢になっちゃった! 的な?」
あからさまに顔にめんどくさいと書かれている歩夢と対照的に希望はこの状況を楽しんでいるかのように満面の笑みを浮かべていた。
「なんか話してよー」
「はぁ少し静かにしてくれ」
もう一度、転移魔法を使おうかという考えが頭をよぎるが、それはさすがにまずいだろうと頭をふるって打ち消した。
そもそも、彼女と向かっているところは一緒であるし、何よりも朝失敗したばかりだ。
あのような状況だったとはいえ、ちゃんと魔法陣が書けなかったというのは何よりも未熟である証拠だし、重大な事故につながる危険性があったのもまた事実だ。
だからこそ、しばらくは使用を控えるよう言われてしまったのだ。
「もしかして、朝の失敗気にしている?」
「……してない。というか、希望があんなところにいなかったらそもそもこんなことは起こらなかったんだ」
「おやおや、いきなり人のせい? まぁ私も悪かったと言えば悪かったけれど……根本にあるのは歩夢の発想でしょ? もしかして、今度は町の外にでも飛ばされるかもね?」
「結界があることぐらいわかるだろう? それはありえないよ」
歩夢は至極当然のようにそう言い切った。
「さぁどうかしらね?」
そこら辺まで話したころには、すでに二人は第八管理区の入口へと差し掛かっていた。