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「とにかく、なんとかして片づけないと」
ため息交じりで吐き出した僕の言葉に、びくりと肩を震わせてはぐみが顔を上げる。驚愕の色が浮かぶその双眸は、見開きすぎて今にも零れてしまいそうだ。
「片付ける?」
「このまま放置するわけにもいかないだろ……」
ほっとけば虫もわくだろうし。そもそも得体のしれない死体の転がる学校で授業なんて受けたくない。
「さつきはお人よしだねえ」
「常識人と言ってくれ」
「でもさつき、片づけるったってなにをどうやって片づけんの? 埋めんの? 燃やすの? 食べんの?」
「さすがに自力じゃ埋めるのも燃やすのも無理かな僕一般人だし、食べんのはまあできそうだけど食べたくないし、そもそもこれ食べ物じゃないし」
「えーでもあれよ、掃除屋とか掃除しかしないくせに殺し屋に人殺し頼むのとおんなじくらいよ料金、あれ絶対ぼったくりだと思うんだけどあたし」
腕を組んでうーんとうなって死体を見下ろし考える。片付けるとは言ってみたものの、死体の処理なんてもちろんのことしたことがない僕には具体的にどうしていいかなんてわからない。
僕らの横を通り過ぎていく生徒たちは立ち止まるどころか一瞥をくれることすらしようとしない。はぐみときたらすでに飽きているのか、ふあっとあくびをこぼしながら死体の脇腹をつんつん足でつついて遊んでいる。
「警察でも呼ぶべきかな」
「これだから一般人は」
はんっと鼻で笑い飛ばされた。僕の提示した警察案は問答無用で却下らしい。
「ばらして細かくするなりして適当にそこらへん埋めときなって」
「誰がするかそんなこと」
僕は根っからの一般人だぞ。
「しっかたないなー」
やれやれとわざとらしく肩をすくめて、死体の脇腹を思い切り蹴り飛ばすはぐみ。あおむけだった死体はごろりと音を立てて廊下の隅にうつぶせに転がってしまう。そんな様子を眺めて満足したようにうなずいたはぐみは、視線を死体から僕に移した。
「ついといで。やさしいやさしいはぐみちゃんが特別価格でさつきにいいこと教えてあげる」
「金取るのかよ」
「あったりまえよ。世の中そんなに甘くないっつーの」
そう言うと、はぐみは踵を返してすたすた歩いていってしまう。
「え、ちょ」
遠ざかるはぐみの背中とうつぶせの死体を交互に見やりながら僕は一人困惑する。これ放置してっていいの?
「あ、そうだ」
どうすればいいかわからずに立ち尽くしていたら、なにか思い出したように声を上げてはぐみがすたすた戻ってきた。と思ったら転がったまま動かない死体が着ている上着のポケットに無造作に片手を突っ込んで、なにやら黒い物体をすっと取り出す。目を細めてまじまじと見つめたあと、自分のパーカーのポケットにそれをしまいこんだ。
「なにそれ」
「ん? 拳銃。ほらもーなにぼけっとしてんの行くよさつき、さっさと済ませて激辛殺人カレーの拷問級ライス食べんだから」
「あ、うん」
ぐいぐい腕を引っ張るはぐみに連れられて、昼休みの喧騒に包まれた廊下を歩き出す。混雑する廊下を縫うように進む下枝はぐみの迷いのない足取りに、ふと、首をかしげた。
……行くって、どこに?