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否日常ハイスクール!  作者: はり
第1章
2/15

 榊山高校に入学してから早半年。

 この半年の間で気づいてしまったことといえば、どうやらこの学校には僕以外、誰ひとりとして一般人という存在がいないということだ。

 たとえば隣の席の永倉さんは利用者数ナンバーワンを誇る運び屋らしいし、前の席の月島なんかは業界でも群を抜いて有名な詐欺師らしい。現に先ほどなぜか僕に説教してきた春川さんなんてそれなりに腕のある大泥棒なわけで、噂によれば某超有名美術館から某超有名美術作品を盗んだのも彼女らしい。

 そのほかにも情報屋だったりハッカーだったり挙句の果てには殺し屋だったりといった非日常を具現化したような面々がこの学校中を闊歩している。

 ……うーん。

 なぜそんなトンデモ高校に、一切合切なんの肩書きもない正真正銘完全無欠に生粋の一般人であるところのこの僕が入学できてしまったのか甚だ謎なわけだけど、入学してしまったものは仕方がない。一般人は一般人らしく、裏業界の余計なことには一切関わらないように気を付けながら、ひっそりと高校生活を送っている。

 ……はず、なのに。

「なんだこれは」

 放課後。

 さっさと下校しようと向かった昇降口、開けた下駄箱の中から大量のチラシがなだれ落ちてきた。足元に散乱する紙の山。なにがなにやらわからずに呆然とそれを見下ろし、それから顔を上げてあたりを見回してみる。

 柱の影やら壁際やら天井やらから数多の期待に満ちた視線が様子を窺うようにして僕をじっと見つめていた。

「…………」

 深々とため息をつく。

 しゃがみこんで足元のチラシをかき集め、とんとん角をそろえて丁寧にまとめ、よっこいしょと立ち上がり、チラシの山の左側を踏みつけ右側をつかみ、力をこめて一気に手前に引く。

 びりびりといい音を立てながらまっぷたつになっていく大量のチラシに、あちこちで上がる落胆と失望の声。いい気味だ。

 肩を下しながらちりぢりになっていくスカウトマンたちを横目にすっきりした気分でチラシを拾い上げた。この束をどこに処分しようか考えながらぱらぱらとめくってみる。

 と。

 ふと、一枚の紙きれが目についた。

 ほかのチラシに比べてそれだけ異常に白い部分の面積が大きいのである。しかも使用されている紙はびりびりに破かれた大学ノートの一ページだ。真っ黒なマジックペンででかでかと「屋上」と書かれている。全体的にやる気のなさがにじみ出ているその文字はお世辞にもきれいとは言い難い。

 どうやらこれだけほかのものと趣旨が違うらしかった。首をかしげながら、ちょっぴり気になって片割れを探してみることにする。再びぱらぱらめくってみると、すぐに「五時」とこちらも簡素な二文字が書かれたノートの切れ端を発見した。

 うーん五時に屋上に来いってことか? なんの用だろう。ていうかそもそも誰だよこれ書いたの。裏返してみてもそこに差出人は書かれていないし、字体からは男子か女子かも判別できない。

 左手首にまいた腕時計を確認する。現在時刻は四時五十五分。五時まであと五分だ。腕を組んで逡巡する僕。

 これがごく普通の高校でごく普通の生徒しかいない中での呼び出しだったらちょっとはいろいろ期待したり邪推したりできるけど、なんせここは泣く子も黙る榊山高校だ。まともな女子はおろかまともな人間がひとりもいない学校である。こんな紙をもらったところで覚えるのは嫌な予感だけだ。

 うーむとうなりながら眉をひそめて、ノートの切れ端と見つめあう。

 差出人不明からの呼び出しに応じる義理はないし、かといって無視したら無視したでなにをされるかわかったもんじゃない。ここの生徒たちの間には常識も法律も存在していないのだ。コンクリート詰めにして東京湾に沈めることくらい簡単にやってのける。

 仕方ないなあともう一度ため息をついて、それからゆっくり立ち上がった。まっぷたつになった大量のチラシを再び下駄箱の中に突っ込んで、出口に背を向ける。

 こんな高校に入学したことに、もう何十度目かわからない後悔を抱きながら、屋上に向かって歩き出した。


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