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その場所は…そう例えるならば、さやさや鳴る葉擦れにも似た微かな音と、冷んやりとした清涼な空気に満ちていて、安らぎを含んだ寂しさをもたらす場所。
静かな館内に響く音は、本のページをめくる音。
夏場でも冷やりとする空気には、古い紙のものか古いインクのものなのか独特の匂いが混じっている。
『世界樹図書館』
ここの年齢不詳の館長ほどには活字中毒なわけではないが、本好きな私にとっては非常に幸せな空間である事には間違いない。
世界中のありとあらゆる書物を集め続ける館長は、悪魔の罠が潜んだ書物であろうが、死をもたらす呪われた書物であろうが、気にすることなく書架に置く癖がある。
やたらめったら神に愛されている館長は、悪魔の罠も死者の呪いも不発に終わるので、危険な書の判別がつかないのは仕方が無い。
私も本は好きだがちゃんと好きなジャンルはある。
私が好きなのはライトファンタジーノベルであって、黒い腕が本の中に引きずり込もうとするとか、真昼間にもかかわらず周囲が幽霊だらけになるような状況は断じて望んでなどいない。
それ以前に、ホラーもオカルトも大嫌いなんだけれど…。
古今東西のありとあらゆる書物が納められた、この世界最大の『世界樹図書館』。
館長の名前はリヴィアン・ヤノッシュ・タスクール。