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Experience Point  作者: にぃ
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第八十二話 私を好きになってもらいたいなって……

告白→回想を終えて、再度場面は告白後の屋上に戻ります。

月羽の告白に対し、一郎はどう返すのか。


 何が起こったのか分からなかった。

 何を言われているのか分からなかった。

 約30秒の沈黙の後、僕はようやく事態の一部分を把握した。


 つまり……だ。


 僕は月羽に告白しようとした。

 だけどコンマ数秒早く月羽の方が先に告白した。

 そういうこと。


 どういうこと!?


「ど、どうして……何も言ってくれないのですか……?」


 この長い沈黙に不安を憶えたのか、月羽は泣きそうな表情を僕に向けてくる。


「あっ、いや、その……驚いて……めちゃくちゃ驚いて……いや……まさかの展開で……その……」


 中学時代を彷彿とさせるくらいキョドりながら、喉ガラガラな声をようやく絞り出した。


「全然まさかじゃないです。私、結構あからさまに好意を向けていましたよ?」


「いや、全然気づかなかったけど……そうだったの?」


「なんで気付かないんですか! 普通、好きでもない人の手を握ったり、近づいたり、膝枕してあげたりしませんよ!」


 膝枕というのは僕も初耳なのだが、そこはスルーして月羽の言葉に耳を傾けた。


「で、でも、どうして僕なんか……」


「『なんか』、じゃありません。一郎君は私から見たらとっても素敵な男の子です」


 僕は僕自身に素敵要素など微塵も見出せないでいるが、月羽には何か不思議なものが見えていたようだ。


「一郎君は私なんかのお誘いに嫌な顔一つせず、付き合ってくれました」


 経験値稼ぎのことだろうか。

 アレは僕自身も楽しんでいたからこちらこそありがとうと言いたいくらいなんだけど。


「私なんかつまらない人間を親友にしてくれました」


 月羽が自分を『つまらない』というが、それは瞬時に否定してあげたい。

 僕が経験してきた17年ちょっとの人生の中で、月羽ほど面白い人物は出会ったことはない。


「中間試験の時、カンニング疑惑を晴らしてくれて、私を復学させてくれました」


 対青士さん戦の時か。でもあの時僕がやったのは疑惑を晴らして田山先生に交渉しただけだった。

 それに月羽は自分の意志で学校に来てくれた。復学は月羽の強さが生んだと言ってもいいだろう。


「アルバイト前、不安がっている私を元気づけてくれました」


 アルバイトの不安を取り除く経験値稼ぎをした時のことか。

 アルバイトのことで不安だったのは僕も一緒だったし、一緒に不安がっている月羽が居たからこそ僕は少しだけ冷静になれていた。


「私が怖がっている時、手を繋いでくれました。私が落ち込んでいる時、励ましてくれました。私が楽しい時、いつも一緒に楽しんでくれました。一緒に経験値を獲得した時、ちゃんと毎回ハイタッチを交わしてくれました」


 畳みかけるように僕を褒めまくる月羽。

 なんだか少しくすぐったい。


「全部、全部、一郎君の優しさです。そんな優しさを向けられて惚れないわけないじゃないですか……」


 顔を真っ赤にしながら……だけど真っ直ぐな瞳は逸らさずに月羽は渾身の一言を僕に向けてきた。

 万年ぼっちで、人から避けられて、口下手で、席替えで隣になった女子に泣かれたことのあるような、そんなダメダメな僕を好きになってくれた。

 こんなに嬉しいのは初めてだ。

 きっと僕なんかに好意を向けてくれるのは世界中で彼女一人だけだろう。

 その『たった一人』が月羽で本当に嬉しかった。


「その、できれば一郎君にも私を好きになってもらいたいなって……そんな風に思って……だからその……だから……た、例え今私の事好きじゃなくても好きになってもらえるように頑張りますから! 一郎君好みの女の子になってみせますから! だから……だから……側に居させてくださいっ!」


 強気に弱気な発言を申す月羽。

 だけど月羽の健気な気持ちがこれでもかってほど伝わってきた。


「今は一郎君の彼女になれなくても……その……予約というか……他の人に一郎君を獲られるのだけは嫌というか……ええっと……せ、せめて経験値稼ぎだけはいつも通り……一緒に……」


 ……って、何を黙っているんだ僕は! 驚きのあまり声を失っていたので、月羽がドンドン弱気になっていっているんじゃないか!


「あ、その……ぼ、僕は……僕も……その……ええっと……」


 やばい。月羽の動揺が移ったのか、僕までドモり声になってしまった。

 しかも月羽以上に言葉が上手く出てこなかった。


「ほ、ほらっ! 私達の経験値は今510EXPじゃないですか! ちゅ、中途半端ですよね!? 500EXPならともかくこんな中途半端な経験値数じゃ経験値稼ぎを終わりにするのって悔しいですよね!? ねっ!? だ、だから……その……」


 その言葉を聞き、僕は二つの事実を悟った。


 月羽は自分がフラれたら経験値稼ぎはそこで終わってしまうと思っていたんだ。

 でも確かにそうだよな。仮に……まぁそんな気はサラサラないのだけれど、本当に仮に自分の想いが拒否されたら経験値稼ぎを今まで通り行うのって気まずいもんな。


 先を越されてしまってけど、僕も月羽に想いを伝えるつもりだった。

 だけど僕は経験値稼ぎが出来なくなるかも、なんて全く考えてなかった。

 告白することで今までの楽しみが無くなってしまうかもしれないなんて考える余裕すらなかった。

 月羽はその覚悟を持って告白に臨んでいたのだ。


 もう一つ。

 先ほどの経験値稼ぎが20EXPだった理由が何となくわかった。

 遇えて総経験値数を510EXPにすることで、キリの良い数字を避けていたのだ。

 仮に10EXP獲得して500EXPになっていたら、それだけで経験値稼ぎを終了するキッカケになっていたかもしれない。絶対にありえないけど『500EXPだし、経験値稼ぎを辞めるのにもいいキッカケかもしれないね』というセリフを避けさせる為の細やかな抵抗。

 例えフラれても経験値稼ぎだけは続けたいという健気すぎる気持ち。


「……ぷっ」


 その健気さがあまりにも可愛らしくて、思わず軽く噴き出してしまった。

 同時に肩の力もすーっと抜けた感じがする。

 今なら、とても素直な気持ちを伝えられる気がした。


「月羽。僕も……さ。月羽が好きだ」


「えっ? ……えっ!?」


「それも、月羽が僕を想っている気持ちよりも、僕が月羽を想う気持ちの方が大きい自信があるくらい好きだ」


「そ、それはありえません! 私が一郎君を想う気持ちの方が大きいもん! ありえないもん!」


 どれだけ自信を持っているんだ月羽。

 だけど、こればかりは譲る気持ちはない。


「月羽は僕がどれだけキミのことが好きなのかわかってないからそんなこと言えるんだよ。僕の想いは……それはもう計り知れないほど大きいんだから」


「う、嘘です! 一郎君、全然そんな素振り見せなかったですもん!」


「いやいや、僕だってかなりあからさまに好意を向けていたよ」


「それこそ嘘です! そんな好意微塵も感じたことありませんでした!」


 うーむ、僕の好意はそんなに伝わりづらいものだったのか?

 今まで何回かプレゼント送ったり、手が触れ合うだけで実はかなりドキドキしていたりと、そこに多大な好意が詰まっていたと思うんだけどな。

 月羽にはそれが伝わなかったか。なんだか悔しい。

 しかし、これから伝わればそれでいい。


「月羽、僕からもお願いします。僕なんかで良かったら――」


 いや、告白の場面で『なんか』はないな。

 せめてこの場面くらいは格好つけたい。


「色々と残念な僕だけど……ちゃんと成長するから……月羽と経験値稼ぎをして一緒に成長していきたいから……だから僕と付き合ってください!」


「はい!」


 告白から1秒も間を置かず、月羽は肯定の返事を返してくれた。

 同時に先ほどの月羽の告白に対し、言葉を失っていた自分が急に恥ずかしくなった。


「きょ、今日から、こ、恋人同士です! だ、だから、一郎君は私だけの物です!」


 この子、もしかして独占欲が強い? さっきからやたらと誰かに獲られることを危惧しているけど……

僕なんかを好きになってくる人、目の前にいる子以外に居る訳がないのだし、心配性だなぁ。


「親友から恋人へランクアップだね」


「はい!」


 ん? でも親友と恋人ってどっちがランク上なんだ?

 人によっては親友の方が位は上って解釈もありそうなものだけど。

 しかし、僕らの中では恋人>親友が決定したみたいだった。


「い、今から私が一郎君の恋人ですからね」


 念を押すように確認してくる月羽。


「う、浮気は絶対に許しませんからね!」


 確信した。この子の独占欲は半端ないようだ。

 ヤンデレの素質というやつだろうか?

 恋人になった途端に月羽の新たな一面を発見したようだ。 

 まぁ、とにかく言うことは一つだ。


「これからもよろしくね。月羽」


「はい! これからも……ずーっと一緒です!」


 9月1日。

 20EXP獲得。

 総経験値数:510EXP。

 報酬称号:『親友』から『恋人』へランクアップ。


 新学期早々、幸先の良すぎるスタートとなった。


見てくれてありがとうございます。

82話にしてようやく恋人同士になった二人。

しかし物語は終盤だったりします。

こういう学園物って主人公とヒロインがくっ付いたら後は蛇足な気がするし……

でも終章に突入する前に二人のラブラブ日常を少しだけ描こうかなと思います。

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