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Experience Point  作者: にぃ
71/134

第六十八話 おみゃ抜けなパーリーですね

今回は短めです。

  【《二年前》 main view 高橋一郎】



 玲於奈さんと別れてから一ヶ月。

 僕を取り巻く環境は劇的に変わっていた。


「(またアイツがやらかしたらしーぜ)」


「(マジかよ。今度はアイツ(高橋)何やったんだ?)」


「(落書きだよ。体育館に飾ってある横断幕に悪戯書きしたらしいぜ)」


「(うわー。餓鬼くせぇ悪戯。まっ、アイツがしそうなことだけどな)」


 ま・た・か。

 また僕が何かをやらかしたのか。

 勿論僕は何もやらかしてなどいないのだが、何故か僕が色々な悪戯をやらかしているという噂だけが勝手に飛び交っているのだ。

 今週だけで何回目だろうか? 確か昨日は『化学室を水浸しにした』という罪を着せられることになったっけ。

 きっと誰かが悪戯をして、それを僕に罪を被せて面白がっているだけなのだろう。


 僕的にはただ迷惑なだけなのだが、別に真犯人を突きとめようとかは思わない。

 仮に真犯人を探し出せたとしても、悪戯をやめされることなんて僕には出来ない気がするからだ。

 きっと真犯人は調子に乗っている。調子に乗っている人間はある意味吹っ切れている。そんな人間とは極力関わりたくないのだ。

 だから僕はひたすら『守り』に徹している。

 いや、性格には『耐え』と言った感じか。

 積み重なっていく冤罪を受け流し、ただ卒業を待つだけの日々だ。


「(あー、そうそう、そういえば数学教師のでっかい三角定規を叩き割ったのもアイツだろ?)」


 ……また一つ、妙な冤罪事実が確認されてしまったみたいだった。




  ☆  ★




  【main view 星野月羽】



 昨日、私が二日酔――頭痛で休んでいる間にお店では大変なことがありました。

 お店に怖い団体さんが来店され、それに応対した一郎君が病院に送られるという大変な事態に陥ってしまいました。

 私がお休みなんかしなければ……いえ、私が出勤できていた所で事態が好転したとも思えませんが……

 私に出来ることと言えば、今日お休みの一郎君の代わりにバリバリ働くこと! あとお見舞いもしたいですが、未だ一郎君の家が分かりません。せめてメールくらいは後で送らないと!


「いらっしゃいませ。装備も付けずに魔王城へ乗り込むとはお間抜けなパーティですね。いいだろう。このイケメン自らメニューを聞いてあげましょう!」


「きぃぃやぁぁぁぁ。イケメンきゅんが今日もイケメンを振りまいているざますわぁぁ! イケメンきゅんの残り香だけで寿命が3ヶ月伸びるザマァァァァス!」


「ふっ、今日の俺はイケメンオーラを多めに振りまいていますからね。親愛なる友の為に今日はいつもの五倍頑張らせて頂きますよ」


 今日は魔王喫茶で接客。池さんとペアです。

 って、私のやる気以上に池さんがやる気満々です!?

 ま、負けていられません。私も一郎君の為にいつもの五倍頑張ります!


「いらっしゃいましぇ! 装備も付けずに魔王城へ乗り込みゅとはおみゃ抜けなパーリーですね! いいでしょう! このフェジャー自らメニューを聞いてあげましょう!」


 いつもの五倍噛んでしまいました!

 ぅうう、で、でもでもまだまだ挽回のチャンスはあります!


「フェザーよ。ドリンクを2番テーブルへ運んでくれたまえ」


「はい! 魔王様!」


 トレイを受け取り、意気揚々にドリンクを運ぶ。

 ふっふっふー、いつもの私ならばここでダイナミックに転んだりしますが、今日の私は一味違います。

 足元へ細心の注意をはらって慎重に移動を――


    グィッ!


「あいたっ!」


 不意に後ろ髪が引っ張られ、そのまま真後ろに転び尻もち付いてしまう。

 だ、誰ですか、急に髪を引っ張ったのは……


「あ、あれ?」


 誰も居ない。

 てっきりお客様に悪戯されたのかと思ったのにそういう訳ではないみたいです。


「あれー?」


 視線をそのまま足元へ移動してみる。


「あっ……」


 犯人見つけました。

 ……私でした。

 私自身が自分の髪を踏ん付けて転んでしまっていたみたいです。

 早い話が自滅でした。

 うーん、また髪伸びたかもしれませんね。もう切ろうかなぁ……


「星野クン、髪を纏め上げたらどうだい? ポニーテールだ。萌えるし燃える髪型だぞ」


「は、はぁ、そうですね」


 池さんの言っている意味は良く分かりませんでしたが、確かに纏め上げた方が動きやすいですね。

 って、よく考えてみれば飲食店で髪を結んでいないのっていけないことな気がします。

 衛生面まで気が回っていませんでした。これからはポニー月羽さんバージョンでお仕事しないといけませんね。


「これで……よしっと」


 さー、今度こそ頑張りますよー!


    ズルっ!


「うひゃぁああ!」


 髪を縛ったことで安心してしまい、今度は足元への注意を怠り、店内に落ちていたリンゴの皮を踏ん付けて転んでしまう。

 ど、どうして店内にリンゴの皮が落ちているんですかぁぁ。

 せめてバナナにして欲しかったです。


「大丈夫かい? 星野クン」


 尻もちをついている私に手を伸ばしてくれる池さん。

 私はやや遠慮気味にその手を握った。


「あ、ありがとうございます。気を付けます」


「ああ。そうしてくれたまえ……って、おや?」


「どうかしましたか?」


「い、いや……以前どこかで……気のせいか……?」


「……?」


 池さんが不意に怪訝そうに私の顔を見てきます。

 私を見ながら必死に何かを思いだそうとしているような、そんな視線でした。


「……悪い、何でもない。さぁ! セカンドイケメンの為にバリバリ働こうじゃないか!」


「はい! 頑張りましょう!」


 先ほどの池さんの視線は気になりますが、とりあえず今は今日の一日の仕事に集中しましょう。

 もう絶対に噛まないし、転びません!


「おみゃたせいたしました!」


    ズルっ、ガシャーン!


 メロンの皮に躓き、転倒してしまった。

 今のは無効です。

 今度こそ絶対に噛まないし、転ばないもん!







  【main view 青士有希子】



「一番モブには程遠い二人がキタ!」


 いきなり失礼なことを言われちまった。その通りだけど。

 今日はモブ子の部屋の手伝いだ。パートナーは小野口。

 喫茶魔王では調理という分かりやすい役割があったからいいけど、ここでは何すればいいんだ?


「んじゃ、私は裏で休んでいるから後はお願いね♪」


「おい待てこら」


 本当に裏に下がろうとしていたモブ子の首根っこを摑まえてこちらに引っ張り出す。


「ちょっとー、何するのよスノコっちー」


「何するのよー、じゃねーよ。何にも説明しねーで勝手に下がろうとすんなよ」


「説明も何も、心の底からモブになりきるだけでこの仕事はできるんだから。後はテキトーにお客様の相手をしていればいいだけじゃない」


「逆ギレしながら仕事愛がまるでねー発言してんじゃねーよ。何のためにあんだよ、この施設!」


「あたしが知るわけないでしょうが! 給料と待遇が良いから適当に仕事して何が悪いっつーのよ!?」


「アタシが言うのもアレだけどどんだけ駄目人間なんだよアンタ! おい、小野口もなんかいってやれ!」


「…………」


 まさかの無言かよ!

 こいつ、昨日のことを引きずってやがんのか?

 くそ真面目なコイツのことだから『自分は何もできなかったー』なんて思いながら悔やんでいそうな気―すんな。


「私……何も出来なかったなぁ……」


 即フラグ回収か。

 こりゃあ本気で参っている顔だぞ。調子狂うな。


「アレー? オノグチちゃんどうしちゃったの? いつものチート美少女はどこに行っちゃったわけ? なんで本気でモブっぽくなっちゃってんの?」


「…………」


 考え事に夢中でモブ子の質問もスルーだ。

 でもなんかこの無言小野口に妙なデジャブを感じてるのはなんでだろうな?


「いつもいつも肝心な時、私は逃げてばっかり……やだなぁ……こんな自分……」


 乙女か、こいつは。

 暗ぇな。昔の星野を見ている気分だ。

 ……いや、違うな。

 昔の星野って言うより、昔の小野口だな。

 高橋達と関わる前の目立たなくて、クラスの隅っこで勉強しているだけの優等生だったあの頃の――


「今のおめー、アレだな」


「…………ん?」


「アタシが大っ嫌いだったころの小野口だわ」


「……何よ。急に」


 おっ、表情に少しだけ覇気が戻ったか?

 元気が無くても煽りに弱い所はかわんねーみてーだな。


「何? 自分は優等生だからもっといい手段を考えられたかもってか? 高橋が怪我しねーで済む方法を自分なら見つけられたかもってか? さすが優等生様だな。すげーわ。アタシみたいな凡人とは違うっつーわけか」


「だ、誰もそんなこと……」


「まー、確かにおめーは優等生だから最善の方法を思いついたかもしんねーな。高橋が怪我しなくて、店の評判も落とさなくて、無銭飲食もされなくて、アイツらが暴れ出さねーで済む超究極の手段をおめーなら思いついてもおかしくねーと思う」


「究極の手段……そう……それを私が思いついていれば……」


 こいつ!

 アタシが言ったことが皮肉だってことすら気づいていねー。

 こんなの小野口じゃない。

 もうめんどくせー。回りくどい皮肉なんかで悟らせないで直接言ってやる。


「アタシは高橋が取った行動が最善だと思う。アンタがどんな凄い手段を考え付きようが高橋の行動以上とは思わねぇ」


「どうせ私なんかに良い手段なんて思いつきっこないって思ってるんでしょ?」


「あぁ? んなこと知るかよ。どんな究極な手段よりも高橋の取った行動が最善だって言っただけだろ?」


「ど、どうしてそんなこと言いきれるの?」


 普段の小野口ならコンマ数秒で気付くのにな。

 やっぱり今日の小野口は駄目だ。駄目駄目だ。劣化小野口だ。


「究極の策を考えるってことは、心のどこかで高橋の行動に不備があったってことを認めているわけだろ? アタシはおめーみたいな薄情な奴とは違って、ツレの行動を誇っているからな」


「……!!」


「だから何度でも言うわ。高橋の取った行動が最善だ。あれ以上の策なんてありっこねーんだ」


 高橋だって自分が怪我することを危惧していなかったわけではないだろう。

 だけどアイツは怪我してまで店のことを考えて動いた。

 アイツはすげーことをやってのけたんだ。

 まー、アタシもちょっと思う所はあるけれど、高橋の行動自体は最善だった。


「わ、私も……」


 ん?

 俯き加減だった小野口が少しずつ顔を上げる。


「私も高橋君の行動が最善だと思う!」


「だろ?」


「うん! 絶対絶対最善だった!」


 死んだじゃがいもスターみたいな目をしていた奴の瞳に輝きが戻った。

 さすが優等生、復帰も早ぇな。


「私、高橋君にメールしよーっと!」


「って、おい。いちおー仕事ちゅーだろうが!」


「えー。今お客さん誰もいないじゃーん。ねっ、ちょっとくらいならいいですよね? モブ子さん」


「……ぐぅ……すー……」


「私達がシリアスやっていた間に寝てた!?」


「さすがモブだな、メインキャラの対談に決して邪魔をしない。これぞ真なるモブ魂ってやつか」


「ただのサボりを無理して賞賛しなくてもいいと思うよ!?」


「アタシらも見習って寝るとするか」


「一番駄目な選択肢だよ! それ!」


 つーても本気で人こねーぞ、この施設。

 まだ魔女様の部屋がマシに思えるレベルだ。

 ていうかこのテーマパークの存在自体すでに危険領域に達している気がする。

 ちゃんと儲け出てんだろうな? この客数で。


「ねね、青士さん」


「あん?」


「昔の私の事、大っ嫌いって言ってたけどさ」


「ああ」


「今は?」


「そこそこ嫌い」


「即答された!? しかもまだ嫌いベクトルに伸びてるの!?」


 いやまぁ、嫌いだった相手を突然好きにはならんだろ。


「むー、いつになったら私の事好きになってくれるの?」


「知るかよ。気持ち悪いこというなよ」


「私は青士さんのこと、結構好きになっているんだどなー」


「だから気持ちわりーこと言うなっていってんだろ!」


「いいじゃないのー。このこのー」


「触んなっ!」


 くそっ! いつもの調子に戻ったら戻ったで扱いづれー、こいつ!

 やっぱアタシは喫茶魔王で一人で料理作ってる方が性に合ってるわ。


見てくれてありがとうございます!


今日(2月27日)で第一話を投稿してから丁度一年が経ちました。

一年間で68話、キャラクター紹介を合わせれば71話分投稿してきていたわけですが、これは中々のハイペースなのではないかと自分で思います。

出来ればこの調子を保ちつつ、一気に完結までいければと思います。

これからもExperience Pointをよろしくお願いします。

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