第六十七話 顔が赤いのはイチゴの食べ過ぎです
久しぶりにスラスラ執筆できました。
DQN来店事件の後編です。
その前にいつもの過去編からどうぞ。
【《二年前》 main view 高橋一郎】
僕が盗聴モードを身に着けたのはこの頃からだ。
といっても、耳を研ぎ澄まさずとも他人の言葉というのは頭に入ってくるものだ。
いつものように机に突っ伏す僕。
突き刺さるような視線と、悪意に満ちた言葉が僕の耳に入ってきた。
「(――うわー。いたそー。アイツ、頬晴れてんじゃん)」
ああ。中黒君に殴られた痕か。一日経っても痕が残るとは……ダメージ大きいなぁ。
「(――でも、まぁ、我らが玲於奈様と仮とはいえ十日も付き合えたんだろ? その報いは必要だろ)」
やはり玲於奈さんとクラスメートはグルだったか。
知ってはいたけど、今の言葉で確信に変わった。
「(でもいくらなんでも可哀想じゃない? 高橋君からしたらいきなり知らない人に殴られたわけでしょ?)
おぉ!? このクラスにも良心なんて物を持ち合わせている人が居た!?
しかも女生徒! ありがとう女生徒! 名前も知らない女生徒!
……クラスメートの名前が出てこない時点で僕も相当な気がする。
「(いや、アイツ、本当にクズだって噂あるぜ?)」
「(そうなの? 私、それ初耳)」
僕もそれ初耳なんですが。
「(隣のクラスの友達から聞いたんだけどよ。アイツ、過去にも女の弱みに付け込んで何人もの奴と付き合ったことあるらしいぜ)」
「(まじ? サイテー)」
あるあ――ねーよ。あるわけがない。
この万年ぼっちのどこをどうみたらそんなプレイボーイな行動を起こせるというのだ。
そもそも女子とまともに話したのも玲於奈さんが初めてなんだぞー。
「(俺も別クラスの奴から高橋の噂聞くわ。ほら、生徒会長の腕章に悪戯書きされてた事件あったろ? アレ、犯人高橋って説があるらしいぜ)」
だからないって。
そんな事件あったなんて今初めて知ったくらいなんだけど。
「(そういえばC組の麻衣子が高橋からのラブレター貰ったって言ってた)」
誰だ。C組の麻衣子さんって。
「(最低にも程があるっしょそれ。玲於奈姫にフラれた腹いせ?)」
「(女に捨てられて寂しかったんじゃね?)」
「(んだよ。元からクソみたいな奴なんじゃん。ちょっとでも高橋を可哀想だなんて思った自分が恥ずかしいわ)」
ないことないこと噂が増え続けているようだ。
しかも何故か他クラス経由で色々と僕のことが囁かれているようだ。
「おい、高橋!」
不意に声を掛けられる。
うお。昨日のデジャブ!?
まさかまた……と思ったが、さすがに中黒君の姿は目の前に無く、代わりにクラスメートの男子が目の前に立っていた。
「てめ! 人の彼女を……麻衣子に手を出そうとしやがって!」
まさかのC組麻衣子さんの彼氏!?
「アイツ、気持ち悪がって泣いてたんだぞ。どうしてくれんだよ!?」
そんなこと言われてもまるで身に覚えのないこと故に何も言い返せない。
「なんとか言えよ! ごらっ!」
バンッ!
机を強く叩かれる。
同時に僕の身体も大きく震えた。
しかし顔を上げることもできずに、僕はその場に俯いたまま黙ってしまう。
「んだよ! その顔は! 何とか言ってみろよ!」
「…………」
何も言えない。
自分には関係ないとか――
状況が把握できないとか――
そんなこと関係なしに……ただ単に怒鳴られて怯えていた。怖かった。
だけど、僕に反論できる勇気もなんてあるわけもなく、俯くしか出来ない自分が情けなかった。
ゼロに等しい自分の経験値の低さが歯痒かった。
「クソがっ! 無機物みたいな顔しやがって!」
無機物……
今の僕にピッタリの呼称だと思った。
この日から僕は『無機物高橋』と周りから罵られることになり、その称号は中学を卒業するまで解放されることはなかった。
☆ ★
「おい! おっせーよ! 料理! はやくしろっつーの!」
おおぅ。まだ五分しか経っていないのに騒ぎ出していらっしゃる。
いくら青士さんが料理上手でスピーディ調理スキルを持っていると言っても五分じゃ無理があるだろう。
「ど、どうしよう、高橋君……」
小野口さんが小動物みたいに怯えた表情をしている。これはたぶんレア顔だ。
って、そんなこと思っている場合じゃないな。どうしようか、本当に。
「青士さん、あんなこと言われているけど、どんな感じ?」
「そーだなぁ。料理を完成させるよりもあいつ等を怒鳴りつけて追い出す方が早く済むとおもーけど?」
思考が恐ろしかった。
やばい、青士さん、表情には出してないけど、かなりキテる。
いや、あの青士さんが怒りを我慢できていることに賞賛すべきかもしれない。
「つーか、本気で追い出した方がいんじゃね? 出禁でいーっしょ出禁で。変なことし出す前に追い出そーぜ」
「いやいや、たかがバイトに出禁を与えられる権限はないよ」
そもそもまだあのグループは何もやっていない。多少騒がしいくらいで。
「んじゃどうするん? あいつらが満足するまでご奉仕するってか?」
青士さんは早めに追い出してしまいたいようだ。
でもそれもいい手なのかもしれない。青士さんならそれが出来るだろうし、小野口さんも怯えているから何とかできるので在れば何とかしてしまいたい。
でも、先ほど僕も言った通り、僕らはたかがバイトだ。変に騒ぎを拗らせて店の評判を落としてしまったりしたら最悪だ。
とりあえず今僕らに出来る最善で無難な選択をしなければいけない。
「小野口さん、魔王様を呼んできてくれる?」
「わ、分かったよ!」
魔王様は現在魔女様の部屋で集会をしていると聞いた。
一番怖がっている小野口さんに行かせるという判断も間違いじゃないだろう。
しかし集会ということはモブ子さんや田中さんもいるのだろうか? あのオカルトルームで魔族衣装の皆さんが会議をしている姿を思い浮かべるとちょっと面白い。
「青士さんは調理の続き。なるべく早く作ってくれると嬉しいかな」
「あ、ああ……分かったよ」
「高橋君はどうするの? まさか、お客様を宥めになんか行かないよね? 危ないことなんてしないよね?」
小野口さんの心配そうな表情もレア顔の一種だろう。
って、さすがに不謹慎か。この人は本気で心配してくれている。
「まさか。そんな怖いことしないよ。幸いにも他にお客様も居ないし、言いたいこと勝手に言わせて放置しておく」
大体僕なんかが出て行った所で事態が収まるとも思えないしね。
放置しておけば疲れて野次も出なくなるだろう。きっと。そうであってほしい。
「そ、そう。良かったよ。じゃあ、急いで魔王様を呼んでくるね!」
終始心配そうな顔を向けながら、小野口さんが裏口からダッシュで飛び出していく。
魔王様がケータイ持ってくれていれば楽だったんだけどなー。魔族っぽさのイメージを大事にして文明利器持たないからな、あの人。店の電話も黒電話だし。
「……おめー、冷静だな」
青士さんから意外そうな顔を向けられる。
「そうでもないって。内心焦っているよ」
「……そうは見えねーのがすげーんだよ」
それだけ言い残すと、青士さんは調理場へ戻っていく。
「おい! まだかって言ってんだよ! 店員出てこいよ!」
さっ、無視無視。
「っつーわけで、料理は出来たわけだけどよー」
青士さんがチラッと客席に視線を移す。
「おいおいおいー! 飯まだかっつーてんだけどー?」
「何露骨に無視っちゃってんのー?」
「お客様は神様じゃないのー? 神なる俺らが腹ペコなんだけどー、神がお怒りなんですけどー、それって宗教的にどうなのー?」
「あっ、やべ、コショー、テーブルにぶちまけちゃった」
「アンタ、さっきも爪楊枝ぶちまけてたでしょー」
何故か彼らの席はすでに乱れまくっていた。
やんちゃなお子様ですらこんなにも散らかしたりはしないぞ。
「無視しまくったせいでアイツらめっちゃ怒ってるぞ。まー、こうなることは最初から分かっていたけども」
「…………」
あんなやんちゃな神様達にこれから料理を持っていかなければいけないのか。憂鬱だなぁ。
だけど、料理が出来るまでの間に頭の中でシミュレーションは終了している。
構想では流れるように料理を届けて、颯爽と立ち去る僕。大丈夫、できる。440EXPを持つ今の僕ならできる。
「よしっ! 行ってくるよ。応援よろしく」
「おー。生きて帰ってこいよ」
青士さんからトレイを受け取り、震える足をロボットのように起動させ、お客様の元へ向かう。
視線は合わせず、言葉は短く、表情は不動に。その三点を守れればきっと絡まれないはずだ。
「お待たせいたしました。ごゆっくりどうぞ」
「おい、待てや」
あんれー?
瞬時に絡まれたんですが。
しかも腕なんか掴まれちゃっているのですが。
「なんで謝罪ないのー? 俺達めっちゃ待ったんですけどー?」
実際そんなに待ってないだろうが。むしろ早い方だぞ。
この人達、もしかして他のレストランとかでもこんな風に騒いでいるんだろうか? 騒いでいるんだろうなぁ。
「もうしわけありませんでした。失礼します」
「いやいやいやいや、待てってーの!」
ぐいっ!
うぉ!?
引っ張られた!
「何その言葉だけの謝罪。頭下げるのが普通だろうが!」
「あー、もうこれ土下座だね。土下座」
「んだな。おらっ、この爪楊枝ばら撒けた床に手付けて頭さげろよ、店員」
はぁ。
こういう輩って本当に好きだよね、人に土下座させるの。
中学時代にも居たなぁ。無意味に土下座させたがる変な人達。
「おい、てめーらいい加減しろよ。ちょーし乗ってんじゃねーよ」
速やかに土下座でも何でもして早く帰ろうと思った矢先、僕の背後から援護があった。
青士さんだ。
顔には分かりやすく怒りの表情が浮かんでいた。
僕らのやり取りを後ろで黙って見ていた青士さんだったが、ついに黙っていられなくなったのだろう。
「あ!? なにアンタ」
「そっちこそ何だよ。つーかその鼻ピアスが一番何だよっつー話? そのピアス思いっきり引っ張ったら鼻抜けねーかな。ちょっと引っ張らせてくんね?」
「はぁ!?」
さすが青士さんだ。煽り負けない。ていうか押してる。
「んなことよりもさ。なんで店員が土下座しなきゃいけないん? 何が気に入らなかったんだよ」
「料理くんのが遅すぎなんだよ! 何時間待たされたと思ってんだよ!」
「知るかよ! 15分も待ってねーだろうが! ていうかアタシの料理にケチあるん? アタシが丹精込めて作った料理が気に入らねーって話なん?」
「そういってんだよ! 運ばれてきた料理もクソ不味そうだし、最悪すぎ」
「あぁん!? 運ばれてくんのがおせーとかって話ならまだ納得してやれるよ。だけどアタシの料理が不味そうだって話なら黙ってらんねーな!」
んー、これはまずい。
青士さんの援護は頼もしくて、正直ほっとしているけれども、お客様とガチで揉めるのはまずい。
しかし、一度出てきた青士さんを引っ込めるのは難しいだろう。
……仕方ないな。
「お客様、申し訳ありませんでした。この通り、謝罪しますのでこの場は気を沈めてください」
床に両手を付く。ばら撒かれた爪楊枝が少し手のひらに刺さった。
そのまま頭を下げて床に額を付ける。
その状態でもう一度言う。
「申し訳ありませんでした」
僕は別に土下座することに屈辱は感じない。
むしろこの程度で場が収まるのであればこんな体制何回でも取って見せる。
とにかくこれでお客様の気も済むだろうし、ようやく穏便に――
「ぶはははははっ! こいつ、マジでやりやがった!」
「ウケるー! 実際に土下座したやつ初めてみたー」
「おい、写メ! 写メとろーぜ。俺、画像待ち受けにしよっと」
僕の土下座姿がよほど滑稽なのか、彼らは揃って大笑いをし出す。
しかし、これで良い。先ほどの一触即発の空気よりは笑われて写メられている方がまだいい。
「おい、高橋。なにやってんだよ。別におめーがそんなことする必要は――」
何かを言いかける青士さんだったが、言葉の途中で僕と視線が交じり合い、言葉を止めてくれた。
視線だけで僕の考えを察してくれたのだろう。
青士さん的には相手の思う壺な展開に納得いかない所はあるだろうが、この場はこれでいいのだと僕は思っていた。
「うひゃひゃ、これでも喰らえ。秘義、唐揚げ乱舞」
ボタボタボタ
僕の頭上から何かの固形物が落下してくる。
恐らくは唐揚げなのだろう。唐揚げ乱舞って言ってたし。
「このやろ――!」
「青士さん」
「……ぐっ!」
握りしめた拳をゆっくりと開く青士さん。
ここでキレてしまっては僕の苦痛が意味を成さなくなってしまう、それを瞬時に悟った青士さんは怒りを鎮めてくれたのだろう。
「んじゃ俺も秘義見せちゃお。喰らえ、コーヒーシャワー」
ジャバっ!
「あつっ!」
今度は頭上から液体が欠けられる。
この独特な臭いはすぐに分かる。コーヒーだ。しかもホットの。
まさかホットドリンクをかけられるとは思わなかった僕は、つい声を上げてしまった。
「何、顔上げてんの? おらっ、頭下げろよ!」
ガゴンっ!
「ガッ……!」
またも頭上から何から降ってきた。
しばらくの間、何が降ってきたのか理解に至らなかった。
それよりも頭部に響く痛みに気を取られていた。
「高橋っ!」
青士さんの悲痛の声が響く。
痛い。ズキズキ痛む感じだ。血とか出ていないだろうな? これ。
ゴロンっ
目の前に何かが転がっていた。
見覚えのある真ん丸の食器。
プラスチック製の丸カップだ。
まさかこれが頭上から降ってきたのか? これが頭に当たったのならば痛いはずだよ。うん納得。
「さて、次なる秘儀を――」
「てめっ、いいかげんに――!」
言葉が止んだ。
青士さんがキレて相手に掴みかかるシーンが展開されるはずだったが、不思議な沈黙が場を支配している。
怪訝に思い、僕は痛む頭を手でさすりながら顔を上げてみる。
「あっ……」
顔を上げると、僕が待ちに待っていた人物がお客様の腕を掴んでいた。
気配からも分かる。その人物は怒りに震えていた。
「ウチの幹部に……何をやっているのだ?」
「ひっ!」
魔王様。隣にはンイオウヤ衣装の田中さんに、魔女様とモブ子さんまで居た。
腕を掴まれた少年は魔族軍団の覇気に威圧され、恐れ震えていた。
「高橋君っ! 高橋君っ!」
魔王様達と一緒に戻ってきた小野口さんが僕の元へ駆け寄り、ハンカチで駆けられたコーヒーを拭ってくれる。
ふぅ。もう安心だ。
後は大人たちに任せておけば何とかなる感じだな。
「いてて……」
ホットコーヒーをぶっかけられた部分はもう大丈夫そうだけど、最後に喰らったコーヒーカップでの一撃が今も響いている。
「大丈夫!? 痛む? ねぇ、しっかりして、高橋君!」
小野口さんに超心配されている。
いつもなら心配かけまいとしてやせ我慢する所だが、正直今はそんな余裕は全くなかった。
「ファースト!」
「今だ! 逃げろ!」
魔王様が僕に気を取られた瞬間、客達は一斉に逃げかえってしまった。
あっ、これ普通に無銭飲食?
「めぎゃー!」
田中さんがその後を追いかけていくのが見えた。
「モブ子! 救急車を呼ぶのだ!」
「はい!」
救急車!?
「い、いやいや、そんな大げさにしなくても大丈夫ですって。僕なら平気ですので」
「「「いいから、キミは少し横になっていなさい!」」」
なぜかその場に居たほぼ全員にツッコまれ、僕は言われた通りに並べられた椅子に横になる。
とにかくこれで騒ぎは終焉だ。
被害者は僕だけだ。それだけが唯一の救いだ。
そう、痛い思いをしたのが僕だけで本当によかった。
……あれ? なんか中学の時にも似たような気持ちになったことがある気がするなぁ。
その後、本当に救急車が到着し、僕は担架で運ばれることになった。
店は青士さん達に任せ、魔王様は終始、僕に着いていてくれた。
魔王様は終始申し訳なさそうな表情で僕に謝り続けていた。
その度僕は『全然大丈夫ですから』と言い続けていたが、結局一日中謝られることになる。
そして――
「一郎君っ!」
「セカンドイケメン!」
病室での治療中に月羽と池君が駆け付けてくれた。
「月羽! それに池君も。二日酔いは大丈夫なの?」
「もともと二日酔いなんかじゃないもん! 顔が赤いのはイチゴの食べ過ぎです! そんなことよりも一郎君こそ大丈夫なんですか!?」
肩をガクンガクン揺らしながら僕を心配する月羽。
「普通に何ともなかったよ。ちょっとコブが出来たくらいで2、3日もすれば治るってさ。バイト明日から出れるしね」
「休め! お願いだから明日は休んでくれ、ファーストよ」
「いや、僕昨日休んだばかりですし」
「いいから休むのだ!」
「そうですよ! 一郎君! 休んでください!」
「それが良い。俺が五人分くらい働いてくるからセカンドイケメンはゆっくり休養するが良い」
皆から休養を勧められる。
まぁ、せっかくの好意だし、ここは素直に甘えるとしよう。
「話は小野口さんから聞きました。一郎君が無事で良かったです……本当に」
若干涙目になりながら僕を見る月羽。
「大げさだって。本当に大丈夫だからさ。ていうか月羽こそ大丈夫? 二日酔いって相当きついって聞いたことあるよ?」
「私のことなんかより、自分を心配してください! 自分を大切にしてくださいよぉ……本当に……本当にぃ……」
小野口さん、どういう風に月羽に伝えたんだ? 僕が臨死体験を経験したくらいの心配されようだ。
ポンポンっ
安心させてあげる為に月羽の頭を軽く叩く。
「大丈夫大丈夫。それじゃ明日は休んで明後日の魔王ショー打ち合わせにはちゃんと出るからさ」
「はい……はい……ぐすん……」
たくさんの人が僕を心配してくれる。
心配してくれている人には悪いかもしれないけど、こういうのも悪くないななんて思っている。
中学時代は何をされても相手が正義みたいな風潮があったし、僕を心配してくれる人なんて居なかったからなぁ。
「ねぇ、月羽、やっぱりちょっと具合悪そうな顔色しているよ?」
「顔色が悪いのはカキ氷の食べ過ぎです!」
あくまでも強情な親友に僕は少しばかり笑みを零していた。
【main view 青士有希子】
高橋が救急車で運ばれ、アタシと小野口は後片付けをしていた。
あのクソ客共、派手に散らかしやがって。くそっ! 腹立つわ。
「ひっく……高橋君……大丈夫かな……ひっく……高橋君……」
こいつは何で泣いているんだ? 星野の泣き虫が移ったか?
いつもの完璧超人の面影は今や全くねーな。
「なー、小野口」
「ぐすん……なーに?」
「いや、なんつーかさ。高橋のやつ、なかなかすごかったな」
「うん……うん……本当にすごいよ。私には……絶対できないよ」
それはアタシも同意だ。
今日の高橋は凄すぎた。
客観的に見れば相手に良いようにされていただけに見えたかもしれないけど、今思い返せばアイツの行動は最善だったようにも思える。
だけど、いくら最善とはいえあんなにも躊躇せずに土下座とかできるところがすげー。
すげーんだけど――
「だけどさ。前から気になってたんだけど、アイツ――」
「……?」
今日のアイツは……本当ならだれもが怯える場面で立ち向かっていっていた。
本来ならそれは『すげー』の一言で尊敬されるべき行動だ。
だけど、あいつのそれはちょっと違っていた。
以前、アタシと揉めた時もそうだった。
アイツは怯えながら立ち向かってきた。
それは強さ――なのかもしれない。
でもアタシはこう思ってしまう。
「アイツ、なんであんなに不安定なんだろうな」
見てくれてありがとうございます。
さて、DQN君はいくつの罪を犯したでしょうか?
傷害に無銭飲食に営業妨害……他にもなんかありそうですね。
答えは僕にも分かりませぬw