第六十二話 アレが小野口さんのクオリティなんです
インフルエンザに掛かってしまい、更新が少し遅れてしまいました。
しかも今回は短めです。
【《二年前》 main view 高橋一郎】
これが初恋だったのか、完膚なきまでフラれた今となってはわからなかった。
付き合う前までは確かに憧れていた。
だけど付き合ってからはどうだっただろう?
玲於奈さんは可愛い。そして美人だ。容姿に至っては文句の付けようがなかった。
だけど玲於奈さんの中身を知るほど……その……ほんの少しだけど……窮屈だった気がする。
もしかしたら玲於奈さんも窮屈だったのかなぁ?
『今日は貴方が私をフッたということにするのよ』
だとするとこの条件を出す理由が分からない。
玲於奈さんには何か考えがあるんだろうけど、結局最後まであの人のことはよく分からなかった。
しかし、玲於奈さんにフラれた翌日――
この第四の条件の意味を少しずつ理解することになるのであった。
☆ ★
翌日、僕らのバイトは本格的に動き出した。
二人二組+お休み一人のシフト制。
本日のお休みは青士さん。
月羽、小野口さんペアは喫茶魔王城での接客。
そして僕、池君ペアは魔女様の手伝いらしい。
「ふっ、久々に二人きりに慣れたな」
「う、うん……」
そんなイケメンな眼差しで変なことを言いださないで欲しい。
でも確かに彼の言う通り、池君と二人きりになることは珍しい。
しかし、見れば見るほどイケメンだ。
190cm近くの長身。制服だろうが私服だろうが魔族衣装だろうが全て格好良く着こなす美形。
男から見てもイケメンってどんなマジックだ。
「ヒ~~~~ヒッヒッヒ! 魔女様の館へ~~ようこそ!!」
魔女様の館の暖簾を潜ると、今日も元気いっぱいの魔女様が出迎えてくれた。
「魔女度チェック! 耳相占い、顎占い、相性占い、七味唐辛子一気飲み占い等々様々なことを見てやるよ。どれにするかい~ひっひっひ!」
なんかこの前と占いの種類が違う気がした。
ランダム性なのだろうか?
「魔女殿。本日13時よりこちらのお手伝いをさせて頂く、幹部ネーム『イケメン』と『ファースト』です。ご指導よろしくお願い致します」
「お、お願いします」
急に池君がかしこまった喋りをするものだから驚いてしまった。
社交的なんだなぁ池君。さすがだ。僕にはこんな素晴らしい挨拶何年経ってもできない。
「ほぉ。昨日来た青年と一昨日来た少年か。今日から入るバイトとはキミ達だったのね。い~ひっひっひっ!」
池君は青年で僕は少年……とな? 同い年なのに。
まぁ、気持ちは分かるけども。
「イケメン君、それにファースト君。キミ達アルバイトには相性占いのやり方をマスターしてもらう」
「あれ? 相性占いだけでいいんですか?」
「良い。どうせ客人は相性占いしか頼まないしのぉ。全く。どうして最近の若い者は七味唐辛子一気飲み占いをやらんのか……」
昔の若い者はやったのだろうか? その占いを。
「最終的には私の代役が出来るくらいにまで成長してほしいんじゃ。私の休みの為に。私の公休を週1から週4にできれば最高じゃ」
休みが週1ってのはさすがに可愛そうだけど、二日に一回休みたいと言うのもどうだろうか?
「あの……ここにも他のバイトさんはいらっしゃらないのですか?」
昨日から気になっていたけれど、顔見知り以外のスタッフを未だに見ていないのだ。
「というより、キミ達が初めてのバイトさんじゃ。ていうか私も派遣だしのぉ」
まさかの派遣社員だった。
派遣を雇うほど人が少ないのかここ。
「このミニテーマパークネメキは支店長の魔王様、社員のンイオ――田中さん。派遣のモブ子と私、謎の人材のレッド。そしてバイトのお主らだけで現在成っておるのじゃ」
社員二人しか居なかったのか。
てことは僕らを入れても十人しかスタッフが居ないのか。
そりゃあ面接無しでも採用されるわけだよなぁ。
「早速相性占いのやり方を教えるぞい。と言っても二人とも体験済みだから大体の流れは理解していると思うが……」
確か二人で手を繋ぎながらパネルの上に手を置き、後は魔女様がPCで操作し、結果を印刷するという流れだった。
「PCの使い方も簡単じゃ。こんなオババでも出来るくらいじゃ。お主ら若者じゃったら10分もあれば出来るようになるじゃろ」
「甘いですね、魔女様。僕のポンコツっぷりを軽視しています。常人で10分も掛かるのであれば、僕の場合マスターするまで45分掛かると思ってください」
「……非常に冷静に自分を分析できるのはエライが……なぜそんなにネガティブなんじゃ?」
「俺は逆に5分でマスターしてやろう」
「……こっちは逆にポジティブすぎるのぉ」
大きなため息を一つ漏らすと、魔女様はわざわざ丸椅子を用意してくれて、ゆっくりと分かりやすく操作説明を行なってくれた。
【main view 星野月羽】
本日も私は喫茶店のお手伝いでした。
最初のペアは小野口さん。
私の方が一日先輩だからお手本になる動きをしましょう……なんて考えは最初から持っていませんでした。
一日経験を積んだ私よりも初見の小野口さんの方が凄いと最初から分かりきっていますから。
それでも小野口さんに負けないくらい私も頑張る――つもりでした。
「いらっしゃいませ~♪ 装備も付けず魔王城へ乗り込むとは間抜けなパーティさんですね。良いでしょう。このオノグチサン自らメニューを聞いて差し上げましょ~う!」
少しアドリブを加えながら、接客に臨む小野口さん。
負けました! この時点ですでに負けました!
小野口さんに負けないくらい頑張るつもりでしたけど、すでに心折れそうです。
「フェザーちゃん。MIZUと純白の暗黒お願~い。あと魔王様―、漆黒パスタ二つお願いします」
「は、はい!」
「お、おう!」
小野口さん気合入っています。こっちが委縮してしまうくらいに。
「のぉ、フェザー。あの子接客初めてと言っていた気がするが……」
「……アレが小野口さんのクオリティなんです」
勉強も出来て、人当り良い性格で、スポーツも万能で、可愛くて……ここまで揃っていれば接客くらい初見で出来ても不思議ではありません。
「会社に勤めたら半年で昇進しそうなタイプじゃな」
いえ、小野口さんなら三ヶ月で昇進すると思います。
逆に私は10年経っても昇進できないんだろうなぁ。
……いえ、そうならない為の経験値稼ぎです!
「フェザーちゃん。まだー?」
「は、はい! ただいまお持ちします!」
二人分のお飲み物を入れて、トレイに乗せてから少し駆け足で運ぶ。
しかし、私は自分の身体能力の低さを甘く見ていました。
「わ、わぁぁぁっっ!」
足が縺れ、体制を崩してしまう。
しまった。売り場に出てからはまだ一度も転んでいなかったのに、油断してしまいました。
床にグラスを叩きつけられてしまうを覚悟して両目を閉じる。
「――でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
両耳に小野口さんの叫びが入ってきた。
……あ、あれ?
グラスの割れる音が聞こえない……?
「大丈夫? 月ちゃん?」
ゆっくりと眼を開けると、小野口さんの姿がドアップで映りました。
彼女の左手には無事である二人分の飲み物がある。
状況を察するに、どうやら小野口さんは転びそうになった私を片手で支えて、尚且つ二つのグラスをキャッチしたということでしょうか?
そんな超人技普通ではありえませんが、小野口さんなら……
「あ、ありがとうございます。その……助かりました」
「どういたしまして♪ がんばろっ、フェザーちゃん」
「は、はい!」
小野口さんの凄い所は自分の能力を得意げに見せない所です。全く嫌味に見せないのは彼女の人柄の良さが成せる業なんだろうなぁ。
「さぁ、これから昼ピークが来るぞ! 我が幹部達よ心して掛かるが良い!」
「「はい! 魔王様!」」
まだまだ失敗が減らない私ですが、いつか小野口さんみたいに完璧な女の子になることが私の目標です。
【main view 高橋一郎】
『いよ~~~! ポン!』
魔女様のPCから謎の一本締め音声が流れる。
相性占いの結果が出た時に流れる音だ。
ちなみに今は池君と魔女様の相性占いを僕が主導で行っている。
公言通り池君は5分で操作を憶え、僕と魔女様を占ってすでテストを終えている。
ちなみに僕と魔女様の相性は22%だった。
僕も公言通り45分で操作を憶え、今に至るというわけである。
「出ましたよ。お二人の相性結果。25%でした」
「ふむ……低いな」
「ふぉっふぉっふぉ。この相性チェッカーは辛口評価が売りじゃからの」
それは占いの館として大丈夫なのか?
その内大規模クレームくるぞ。
あれ? でも前に僕と月羽が占った時は78%だったはず。これって相当高い数値だったんだな。
占い機がデレてくれたのかな。
「セカンドイケメン。どうせだから俺達も占おうじゃないか」
「い、いいけど……」
いいけど、池君と手を繋ぐのか?
まぁ……いいか。
うお。池君の手あったけぇ。
『いよ~~~! ポン!』
一本締めと共に二人の相性結果がプリントされる。
「……なんと!?」
魔女様が驚愕している。
なんだろう? 少し嫌な予感がするんだけど。
手渡された紙にはこう書かれていた。
『相性97%。将来二人は結婚すること間違いなし♪ 婚約指輪のご購入はお早めに』
「「…………」」
改めて分かった。
これ、同性間でやっちゃ駄目なタイプの占いだ。
僕は今果てしなく後悔している。
「婚約指輪のご購入はぜひ魔女様印のエンゲージリングを」
「売ってるんかい!」
見てくれてありがとうございます。
とりあえずバイト日常回を一回挟みました。
魔王ショーについての概要は次回決めていく予定です。