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Experience Point  作者: にぃ
63/134

第六十話 闇の眷属が居ます

今回から新章です。

でもその前に懐かしの過去編からスタートです。

39~41話の前置き話の続きです。

    【《二年前》 main view 高橋一郎】



 付き合おうと言い出したのは玲於奈さんだった。


『一つ、私に触れないこと』


『二つ、貴方から私に話しかけてこないこと』


『三つ、質問は一切受け付けません』


 付き合う上で三つの条件を出してきたのも玲於奈さんだった。

 全部玲於奈さんが主導で僕達は交際していた。

 僕はただ玲於奈さんの言う通りにしていただけだった。

 忠実に守っていた。

 なのに10日後。


「ごめんなさい。貴方一緒に居る理由が無くなったの。別れるわよ」


 別れ話を言いだしたのも玲於奈さんだった。




    ☆  ★




  ――――――――――

  From 池=MEN=優琉

   2012/07/26 09:00

  Sub ( -`д-´)イケ!

  ――――――――――


  本日14時よりバイト始動だ

  よって13時に駅の東口にある

  イケメン像の前に集合だ


  -----END-----


  ―――――――――――



 12時30分。

 イケメン像なんてあったかな? なんて思いながら駅に着くと、確かに東口の隅っこの雑貨屋の前に変なオッサンの像があった。

 やたら威厳がある像。石堀で『ヴァーゲスト様ここに眠る』と書いてある。誰だヴァーゲスト様って。

 そのヴァーゲスト様の像の前にはやはりというべきか、僕以外の全員がすでに集合していた。

 知ってはいたけど、このメンバーは時間管理が凄まじく出来ている。30分前行動は当たり前のようだ。


「こんにちは一郎君」


 僕を一番に発見したのは月羽。昨日プレゼントしたブローチも付けている。

 バイトをするに至って僕以上に不安がっていた月羽だけど、今は安定した表情を浮かべている。


「よっす」


「こんちゃ!」


「よう」


 他三人はいつも通りすぎる。緊張とか無縁そうだからなぁ。羨ましいことこの上ない。

 そういえばみんなの私服初めてみたなぁ。って青士さんだけは見たことあったか。

 その青士さんは相変わらず大人っぽい服装だ。タンクトップの軽装だが妙に色気がある。


「ねーねー、池君。そろそろ教えてよー。何のバイトするの?」


 小野口さんも意外と大人っぽい私服だった。彩りは控えめだけど、なぜか目を引く。知的美人という言葉がピッタリだった。


「そうだな……ここではちょっと説明しづらい。現場に到着したら一から説明しよう」


 池君は私服姿もイケメンだった。

 言うまでもなくイケメンだった。

 細かい描写も必要ないくらいイケメンだった。


「バスに乗るぞ。皆、着いてくるがいい」


 今日もバスに乗るのか。

 しかし、バスで移動しなければいけないくらい遠かったらちょっとこの先辛い気がするぞ。


「心配するなセカンドイケメン。バス移動は今日だけだ。自転車でも十分いける距離さ。さほど遠くはない」


「心を読まれた!?」


 心眼の持ち主多すぎじゃないか?

 それとも僕の方が顔に出やすいのかなぁ。


「さぁ、行くぞ。俺らのバイト先、ミニテーマパーク『ネメキ』へ!」


 ……ん?







 ミニテーマパークネメキ。

 どこかで聞いたことある名前だった。

 昨日行ったばかりなのだから聞いたことあるのも当然だった。


「い、一郎君……ここ……」


「うん……また来ようとは行ったけどまさか翌日に来ることになるなんて……」


 呆然とする僕と月羽。

 それを尻目に小野口さんが目を輝かせながら入場門へ駆けていった。


「うわぁ! ここ今月頭にリニューアルしたばかりのテーマパークでしょ!? ここで働けるの!? うわぁぁ! わぁぁぁぁ!」


 これで学年20位以内の優等生なのが信じられない。

 そういえば期末は何位だったんだろう? 絶対一桁順位だよこの人。


「つーか、アタシ達面接も何もやってねーのに採用でいいん?」


「ああ。俺の推す友人達だからな。社長には話は通してある」


 池君の顔の広さすげぇ。推すだけで即採用とか。


「池さんは社長さんと知り合いなのですか?」


「まあな。というより俺の親父がこのテーマパークの新社長だ」


「「「うぇぇ!?」」」


 まさかの社長の息子!?

 この人は家系までもイケメンなのか。


「ミニテーマパーク『ネメキ』。ネメキをローマ字にしてから逆から読んでみるといい」


 ネメキ……NEMEKI。

 これを逆から読むと……んと……IKEMEN……いけめん……

 分かるか! こんな伏線!


「どうだい? ここでバイトをする気が増しただろう?」


 正直一ミリたりともやる気増したりしていないけど、池君の顔を立ててここは素直に頷いておいた。


「とりあえず支店長がいる喫茶店にまで行こう。話はすでに通してある」


「喫茶店……」


 僕の知る限り、このテーマパークには喫茶店が一つしかない。

 それも従業員は一人しか居なかったと思う。

 まさかとは思うけど……まぁどうせそのまさかなんだろうな。


「あの……池さん。もしかしてその支店長さんって……その……ラスボスっぽい方ですか?」


「ラスボスって何さ!? 月ちゃん!」


「いや、星野君の言う通り、支店長は魔王様だ。前世はラスボスと言っていた」


「まさかの正解!?」


 小野口さんが徐々に疑心暗鬼になっているのが分かる。

 まぁ、『支店長が魔王様』っていう情報だけで帰りたくなる気持ちは分かるけど。


「ってことは喫茶魔王城で働くの?」


「『喫茶』なのか『魔王城』なのかどっちなの!?」


「いや、テーマパーク全域の手伝いだ。それとどちらかというと喫茶というより魔王城だな」


「どちらかというと喫茶であって欲しかった!」


 小野口さんのテンションが悪い意味で上がっている。

 先ほどまで子供のように目を輝かせていた人とは思えない表情をしていた。


「つーか、おめーら妙に詳しいじゃん? リニューアルしてから来たことあるん?」


 今まで何のリアクションも示さなかった青士さんが質問を投げてきた。

 ここで変に隠してもしょうがないので僕は正直に回答した。


「ていうか昨日遊びにきたばかりなんだ」


「へぇ。夏休み初日からデートとはやるじゃん。やっぱ、付き合ってんじゃね? お前ら」


「昨日は月羽の誕生日だったからね。思い出作りだよ。強烈な思い出が出来たよ」


 茶化すような口調の青士さんをかわし、淡々と答えを返す。

 しかし、小野口さんがその返しに噛みついてくる。


「月ちゃんの誕生日!? なんで私に言ってくれないの! 私も月ちゃんと強烈な思い出作りたかったよ~!」


 この人が言うと、なぜ百合百合しく聞こえるのだろう。

 月羽もその空気を察したのか、若干引いていた。


「だ、黙っているつもりではなかったのですが……あっ、そ、それなら来月の1日一郎君の誕生日なんですよ。その日に一緒に思い出を作りましょう」


 この子、僕の誕生日に標準を移し替えてきた。

 百合百合しい小野口さんを押し付けられても困るんだけどなぁ。


「それは良い情報を聞いたなぁ。ふっふっふー。高橋君! 来月1日は覚悟すると良いよ!」


 この人は僕の誕生日に何をやらかすつもりなんだろう。

 今から自分の誕生日が不安で仕方なかった。


「そろそろ向かうぞ。いざ! 喫茶魔王城へ!」


「「「おー」」」


 セリフだけ見ると、最終決戦へ向かう勇者一行みたいだった。


「いらっしゃいませ! ミニテーマパークネメキへようこそネメ!」


「「「うわぁっ!」」」


 わ、忘れてた。








 入場門のレッドさんのお出迎えの後、僕らは寄り道せずに喫茶魔王城へ向かった。

 しかし、昨日も思ったけど、あまり繁盛していないお店のようだ。

 まぁ、その理由は内装にあることは分かりきっているけれど。


「魔王支店長。俺の友人達を連れてきたぞ。今日からよろしく頼む」


 『魔王』の称号と『支店長』の称号の組み合わせがこんなにも噛みあわないとは……


「ふはははは。よくぞ参られた我が精鋭達よ。池殿の知り合いと聞くからには頼りにさせて頂――って、おぉ! お主らは!」


「ど、どうも」


 僕と月羽の姿を発見すると、魔王様は嬉しそうに表情を輝かせた。

 その勢いのまま、僕の両手をガッツリと掴む。


「今日から来てくれるバイトとはお主らのことだったのか! はっはっはっ! キミらなら大歓迎だ! 喜んで我が配下に加えてやろうではないか!」


 昨日、長い時間魔王様と談笑したおかげでやけにフレンドリーに接してくれる魔王様。

 まさか昨日はこの人がこのテーマパークの支店長だとは思わなかったなぁ。


「あっ、えと、今日からよろしくお願いします」


 知った仲ではあるが、一応上司に当たる人になるんだし、委縮しながら挨拶をする。


「おう! キミらならいい魔族になりそうだ!」


 できれば人間のまま働きたいのだが、それすらもかなわないのだろうか?


「そういえばまだ名を聞いてなかったな。初顔合わせも居ることだしここは自己紹介と行こうではないか」


 そっか。言われてみれば昨日も名乗って居なかった気がする。


「ではトップバッターは俺だな! 俺の名は池=MEN=優琉。イケメンだ。それ以上でもそれ以下でもない」


 やたら格好良い自己紹介だけど、池君の名前だけはこの場にいる全員が知っているのではないだろうか?

 まっ、細かいことは気にせず、僕もさっさと自己紹介を済ませてしまおう。


「えっと……僕は高橋一郎と言います。よろしくおねがいします」


 無難に済ませた。やっぱり自己紹介は無難が一番だよなぁ。


「ほぉ! 一郎クンと言うのか! 良い名だ! メジャーでも通用しそうだな」


「……名字が鈴木じゃないのでそれは無理かと」


 とっくに引退された方を名だしされてもツッコミもしづらい。


「わ、私は星野月羽って言います。よろしくです」


 さすが親友。月羽さんも僕と同じように無難に自己紹介を済ませていた。


「よろしくのぉ。それにしても綺麗な名だな。名だけなら幹部クラスであるぞ!」


「は、はぁ……」


 悪の組織の女幹部って、やたら露出度が高く、常に高笑いをしているイメージがあるけど、魔王様はそのビジョンを月羽に見たのだろうか?


「小野口希です! アルバイト経験は初めてで何も出来ないかもしれませんけど、精一杯頑張ります!」


 ……小野口さんなりの謙遜だろうか?

 それとも小野口さんのギャグだろうか?

 あの小野口さんが『何もできない』と言った。笑いどころがあるとしたらここしかない気がする。


「青士有希子。アタシもバイト経験は初めてだ――です。たぶんこの中で一番扱いづれーと思うけどよろしく」


 自己紹介で積極的にポンコツアピールする人初めてみた。

 でもいい手だな。初手でハードルを下げるという意味では悪くない。


「はっはっは。皆バイトは初めてか! 結構結構! 当社のウリは『客を楽しませ、従業員はもっと楽しむ』がモットーなのだ! 最近は実績重視やらで人件費がどうのこうのやらで職場スタッフの扱いが悪くていかん。一生ここで働いていたいと思える環境を作ることがワシの理想じゃ」


 理想の上司みたいなことを言う魔王様。

 働かせていただく身としては非常にありがたいウリだけど、経営を任された人として大丈夫なのか心配になる考え方でもある。

 実際それほど流行っているように見えないしなぁ。


「ところで今日はどんな仕事をすればいいのですか? やっぱり最初は研修みたいなことをするんですか?」


 僕的には研修をガッツリ積んだ後に現場に出たいと思っている。

 接客メインっぽいし、キチンとした研修は絶対必要だろう。


「いや、今日は皆に我がテーマパークの全容を理解してもらいたい。つまり、今日はみんなにお客様になってもらおうと思ってな」


「え? でもそんなのでいいのですか?」


「無論じゃ。実際客目線になってみるのも大切な仕事じゃぞ」


 魔王様、理想過ぎる上司じゃないか?

 従業員を大切にする姿勢がすごく伝わってくる。

 今、素直にこの魔王様の期待に応えるスタッフになりたいと思えた。


「っと、イチローくんと星野さんは昨日全部回ったんだったな。ならばキミらにはワシの手伝いをして頂こう」


「あ、はい」


「わかりました」


 僕と月羽は魔王様の手伝い、小野口さん、青士さん、池君の三人はテーマパークを実際に体験することになった。

 いきなり皆と別行動となるのは正直心細かったが、まぁ頼れる親友が居てくれるだけいいか。

 それにしてもどうして僕だけ名前呼びなのだろう?


「それじゃ、二人とも、また後でねー」


「んじゃな」


「アディオス」


 三人組が退室していく。

 全ての施設を回った後、彼らがどんなリアクションをするのかちょっぴり楽しみだ。


「さて、まずは二人には魔族の衣装を着てもらうわけだが……」


「「…………」」


 この日、僕らは魔族として生まれ変わった。







 黒装の鎧のデーモンをイメージした衣装。当然本物の鎧などではないので全く重さを感じない服だ。

 個人的には大きな槍でも背負いたい気分ではあったが、無いモノ強請りしても仕方ない。

 喫茶店の制服というよりは魔族のコスプレをしている気分だった。


「わぁぁ。一郎君格好良いです! 闇の眷属が居ます!」


 すでに着替え終えていた月羽に出迎えられる。


「月羽もすごい格好しているね。似合ってるよ」


 月羽も月羽で別の魔族の格好をしていた。

 銀色の翼をちょこんと背に装着し、真っ黒なドレスのような服を着こんでいる。全体的に僕よりも軽装だ。

 でもなんだろう。目の前に居るのは月羽なのに妙な色気を感じる。月羽なのに。


「がははは! よくぞ参られた幹部達よ。さっそく仕事の勉強から始めるぞ」


 いくら僕らが着飾ってもこの人以上に似合うことはないんだろうな。

 魔王様は何というか……外見以外もしっかり魔王様な感じがする。

 この仕事をするうえで、僕らもしっかり魔王様の幹部に成り切らないといけないんだろうな。


「まず、メニューを目に通してほしい。接客の基本とかよりも先にメニューを憶えることが重要だ。喫茶では特にな」


 それは魔王様個人の意見のような気もしないこともないが、我らが王様がそういうのであればそうなのだろう。

 さっそく目を通してみる。

 結構多かった。



 黒の神水。

 緑の泉。

 地獄のマグマ。

 ゴッドウォーター。

 オロミナンC

 THE ミカン。

 黄金の煌き。

 純白の暗黒。

 父さんの靴下みたいな味の水。

 魔王シェイク。

 ピンクの悪魔。

 MIZU。

 右近のパワー。

 サキュバスの魅惑。



 ドリンクだけでもこれだけ種類があった。

 これを憶えるのか。ふむ……


 ………………

 …………

 ……


「名前だけ憶えても無意味じゃありません!?」


「このメニューだけ眺めても現物が全く想像できません!」


 僕と月羽のツッコミが重なるように放たれた。


「む? そうか? ニュアンスでわからんか?」


「「分かりません!」」


 全体的に厨二に連ねられた羅列を眺めても何が何やらさっぱりだった。

 本当に飲み物なのか疑わしい単語もあるし……


「仕方ないな。写真付きメニューはないから、現物を試飲しながら覚えるがいい」


「えっ? 飲んじゃっていいんですか?」


「無論だ。王が幹部を労うのは当然だしな。心配せずとも当店ではアルコールは出していないから安心するが良い」


 魔王様、どんだけいい人なんだ。普通に王様でいいじゃないか。どうして頭に魔を付けたし。


「待たせたな。これが魔族の飲料だ。さぁ、飲むが良い。そして味と名を憶えるのだ」


「「はい!」」


 コーラ、メロンソーダ、カルピス、水、レモン水、その他もろもろ。

 現物は至って普通のソフトドリンクだった。

 ある意味安心した。現物まで禍々しい物だったらどうしようかと思った。

 さて、どれが『父さんの靴下みたいな味の水』だろうか……


「ふっ、幹部達よ。このメニューを30分で覚えられるか?」


「任せてください! 1時間もあれば余裕です!」


「……いや、30分と……ま、まぁいいが……では私は売り場に戻るとしよう。一時間後、オーダーの取り方を教えてやろう」


「はい」


「わかりました」


 それから僕らは意地でドリンクメニューを憶え――られたかは未だに不安が残るが、その後魔王様にオーダーの取り方を教えてもらい、2時間後僕らは売り場に出ることになる。

 接客の基本すら知らないまま……


見てくれてありがとうございます。

今週からメインの話の前置きとして一郎君の過去話を入れて行こうと思います。

しかし、こんな職場で働きたいものですよね……

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