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Experience Point  作者: にぃ
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第五十四話 T子ちゃんの戦いはこれからだ!

キャラが増えてきて、誰視点の一人称なのか分かりづらい所が出てきたので、キャラ視点を変える際は【main view 〇〇】と表記することにしました。

テイルズ二次を書いていた時に使っていた手法です。

 試験が近づくに連れ、周りの空気が重くなっていくのは誰もが感じたことがあるだろう。

 2-Aのクラス内でも『やべー、俺勉強全然やってねーよ』とか『終わった。今度の期末絶対赤点だよぉ』とか毎度恒例の茶番が僕の後ろの席で繰り広げられていた。

 たぶん彼らは余裕で70点以上取っちゃう人だろう。この茶番をやっておくことで何らかの保険をかけているのだろう。

 まぁ、そんな茶番をやる相手なんて僕には居ないのだけれど。羨ましくなんてないんだからっ!


 ――いや、待てよ。


 そうか! 今の僕には彼らがいるじゃないか!

 そしてからかうと最高に面白い親友も居る!

 これは、やってみる価値があるのではないだろうか。







「やばいよ、月羽。僕全然勉強やってないよ!」


「……クラスメートがそんな会話をしていたので、自分も言ってみたくなったんですね。そして一番からかいがいがある私に試してみた……と?」


「一瞬で悟られた!」


 そうだった。最近小野口さんのエスパーっぷりに隠れがちだったが、月羽も中々のマインドリーダーっぷりだったっけ。


「っつーか、一緒にベンキョーしてんのに『全然勉強やってねー』なんて言われても説得力の欠片もねーんじゃね?」


「うぐっ……!」


 そして青士さんに正論を突かれ、僕はもう黙るしかなかった。


「ほらー、そこー。遊んでないで勉強やるよ~」


「もう試験まで三日しかないからね。もてる限りのイケメンを使って勉学に勤しもうじゃないか」


 優等生二人はすでに教科書を広げて勉強モードに移行している。

 そっか。もう後三日しかないのか。

 この集まりも三日で解散なんだな。

 ……っと、感傷に浸っている場合じゃない。この中で最も勉強が必要なのはたぶん僕か青士さんだろうし、頑張らねば。


 僕達は机を並べ、向かい合うようにそれぞれ勉強をしている。

 席順も定着していた。僕の左隣には月羽、正面には青士さん、月羽の正面には小野口さん、小野口さんの隣には池君。そして教卓には絵をかいたりチョーク飛ばしたりする西谷先生が――


「あれ? そういえば先生は?」


 一番存在感のある人が今日は姿が見えない。


「テスト前だから先生も忙しいみたいですよ。現国のテスト作るの西谷先生らしいですし」


 そうなのか。

 新任教師だけどテスト作りとか任されているんだなぁ。特訓無しでも先生は頑張っているみたいだ。


「んで、今日はどの教科を勉強するん?」


 何気にこの集会で一番やる気を見せているのがこの青士さんな気がする。

 この集まりの中でも口数も多いし、いつの間にかリーダーみたいな立ち位置に居る。


「そうだなぁ。今日は各々が苦手な教科の克服をしてみない?」


「おっけー。じゃあ僕は数学だ」


 迷うことなく僕の弱点は数学だ。

 他の教科が得意というわけではないが、数学の苦手っぷりは抜き出ている。

 相性が圧倒的に悪いのか、これだけはいくら勉強してもマスターできる気がしないのだ。


「ふっ、数学なら俺の得意科目さ。俺が数学のコツを伝授してやろう」


「えっ? いいの?」


「勿論さ。その代わり、社会系の科目を教えてくれるかい?」


 池君、社会が苦手だったのか。

 といっても学年22位の池君に教えてあげられることなんてあるのだろうか。


「私は日本史や地理がちょっと……」


「おや、意外だねー。月ちゃん苦手な教科とかあったんだ」


 全教科90点近く取る小野口さんこそ苦手な教科とかあるのだろうか。


「青士さんは苦手な教科あったりする?」


「あっ? あるに決まってーじゃん。つーか得意な教科一つもねーけど何か?」


「どうして得意げに卑屈なこと言えるの!?」


「アタシはオールマイティな女子だからな」


「目線が低いオールマイティでどうするの!?」


 何か青士さんを見ると安心する。

 テスト前に猛勉強したのにも関わらず『勉強してねー』とか茶番している人に比べればすごく好感持てる。


「仕方ないから青士さんにはアタシがみっちり教えるからね! 悪いけど月ちゃんも手伝って! ついでに日本史教えてあげる」


「は、はい」


 結局男女で分かれて勉強を進めることになった。

 人の事を心配している暇はないな。池講師の元で数学の苦手を克服しなければいけない。


「いいかい、数式というのは全てイケメンと直結する」


 やばいぞ、これ。いきなり意味が分からない。


「例えば加法定理。一見難しそうな公式に見えるだろう?」


 加法定理……あのsinさんやcosくんやtan先輩でなる宇宙語の公式か。


「まずこのsinの公式、何も考えずにただ見つめてみるんだ」


「はぁ……」


 言われるがままに公式を見つめてみる。


 sin(α±β)=sinαcosβ±cosαsinβ


 うん、相変わらず吐き気を催す公式だ。訳が分からないにも程がある。

 っと、何も考えずに公式をじっと見るんだったな。


    じ~~~~~~~~~~


「どうだい? セカンドイケメン。段々と公式がイケメンに見えてこないかい?」


「…………」


 見えてこない。

 いくら見ても憎き仇にしか見えない。


「公式がイケメンに見えさえすればもう怖い物はない。イケメン同士は共鳴し合うものだからね。数学の勉強のコツは公式や図形をイケメンとして捉えられるか否かにかかっているのさ」


「そ、そうだったのかっ!」


 つまり僕が今まで数学が苦手だったのは、数式をイケメンとして認識していなかったからと言うのかっ!


「大丈夫。セカンドイケメンなら出来るさ。数式は敵じゃない。イケメンだ」


 数式は敵じゃない。

 数式はイケメン。

 イケメン……イケメン……イケメン……


「なんか……sin先輩がイケメンに見えてきた気がする!」


「そうだ! その勢いでcos、tanも俺達と同じようにイケメンにしてやろうじゃないか!」


「うん!」


 やばい。

 僕は今日初めて数学の勉強が楽しく思えた。

 そしてこの日、努力の甲斐あって僕はcos、tanをイケメンとして見るスキルを身に着けることに成功したのであった。







    【main view 星野月羽】



 一郎君達が必死に数学を勉強している最中、青士さんは小野口さんを講師に日本史の勉強に勤しんでいた。


「いーい、月ちゃん、青士さん。日本史のコツは教科書をただ読むだけじゃなくて理解しながら読んでいくことが大切だよ」


「なるほどっ。日本史を楽しみながら読めば覚えられるんですね」


「そう! さすが月ちゃんだね。年号や出来事を組み合わせて自分なりのごろ合わせを作ったりするのも楽しいと思うよ」


「はい! ありがとうございます!」


 さすが小野口さんです。

 さりげなくコツを教えながらとても楽しそうに教えてくれます。

 何だかそれだけでこっちまで楽しくなってくるような不思議な気持ちにさせてもらえる。


「えー、日本史のどこが面白いん? 昔のおっちゃんおばちゃんの武勇伝を憶えて何になるん?」


「身も蓋もないこと言わないの! 偉人さん達に謝りなさい!」


 こちらもさすがと言うべきでしょうか、青士さんの持論も我の道を進んでいますね。

 一瞬で全国の考古学者さん達を敵に回す勇気、私にはとてもできないことです。


「つーかさ、日本史や世界史ってなんでいつもあんなに範囲広いん? 教科書60ページ分が範囲とかありえねーだろ。これただの暗記能力を計るだけの試験じゃね?」


「私も思ったことあったけど、言葉にしちゃ駄目! ますます苦手意識が強くなっちゃうから!」


 青士さんが全国の学生が思っていても言っちゃいけないタブーを連発して言っている気がします。

 この勇気と度胸は私も見習わなければいけないところかもしれません。


「青士さん、それなら記憶術です! 『記憶術でキミも学年トップになれる!』です」


「ああ。なんか雑誌の背表紙でそんなマンガみたことあるな。でもあれ、入学金を分捕る為の詐欺広告だろ?」


「だから身も蓋もないこと言わないの! 記憶術って本当にあるんだよ」


「そ、そうですよ! 漫画のT子ちゃんはいつも赤点だったのですが、記憶術スクール総帥のT先生との出会いを経て、壮大な修行の後、ついに学年のエリートであるT男君を下して学年一位になったんです! だから記憶術は凄いんです!」


「どうして『T』の付くキャラしか居ないの、その漫画!?」


 記憶術漫画のT子ちゃん。

 後日談として、学園一位になったT子ちゃんは飛び級で進学し、アメリカの学校へ留学するのです。


「いや、それ、T子がすげーんだろ? もともと才能があったんだよ。T子は出来る奴なんだ。もともと出来る奴なのに遇えて今まで手加減してたんだよ」


「そ、そうだったんですか!?」


「そうさ。T子は今話題の俺TUEEE系の主人公だったのさ。記憶術取得を境目にT子の無双が始まったんだ」


「た、確かに……アメリカへ留学した後、T子ちゃんの記憶術バトルは負けなしでしたっ!」


「バトル!? 記憶術漫画でどうしてバトル展開に突入したの!? ていうか背表紙マンガだよね!? 1ページマンガだよね!? それ!」


 記憶術漫画のT子ちゃん、その2。

 アメリカへ渡ったT子ちゃんはそこで出会った記憶術老子のT様に教えを乞い、T子ちゃんは更なるパワーアップを遂げるのです。

 そして記憶術バトルの強さを競うトーナメントが始まるのです。


「最近の背表紙マンガは内容が濃厚なんです」


「濃厚すぎるよ! 絶対に尺足りてないでしょ! T子ちゃんのマンガ!」


「大丈夫ですよ。ちゃんと『T子の戦いはこれからだ!』っていう終わり方していましたし……」


「1ページ漫画で打ち切り展開ってどういうこと!? 逆に気になってきた!」


 T子ちゃんのマンガが読めるのは少年誌だけ♪

 お近くの書店へ急げ、です。


「しかし、記憶術か……アリかもしれねーな」


「無しだよ! 圧倒的無しだよ!」


「いや、そう決めつけるのは早えーよ小野口。いいか? まず一日で記憶術をマスターする」


「一日でマスター出来てたまるかぁ!」


 小野口さんが決死のツッコミを繰り出しますが、青士さんは気にせず自論を展開し続ける。


「次に記憶術を行使し、一日で教科書をフル暗記する」


「記憶術ってそんなに万能じゃないよ!」


「そして残り一日、寝て過ごす――どうだ!?」


「穴しかない予定だったよ! いいから! 真面目に勉強するの! いいね!?」


 結局青士さんの自論はすぐさま却下され、真面目にテスト勉強するということに落ち着いた。

 青士さんを両側に囲むように私と小野口さんは席に着いた。

 後ろの方で一郎君が『イケメン……イケメン……』と何かに憑りつかれたように呟いていましたけど、これは私がツッコむべきなのでしょうか?

 ……一時間経ってもこのままだったら、考えましょう。


「星野、日本史飽きたから化学教えてくんね?」


「まだ始めてもいませんよね!?」


「気分転換だよ、気分転換。な、小野口もそれでいーだろ?」


「んー、まぁ、気分転換で他の教科に取り掛かるのは割といい手だよね。概ね賛成だよ」


 何だか青士さんに振り回されてばかりな気がしますが、小野口さんがそういうならいいのかなと思います。


「青士さんって化学の実験とか好きそうだよね」


「ん? いや? 化学って移動教室じゃん? アタシ移動メンドーだから実験サボりまくってたわ」


「移動が面倒だからという理由でサボってたの!?」


「まー、復学してからは真面目に授業出てるがな。でも内容わからねーのは変わりないから班の奴等にまかせっきりだわ。しかも班の奴等アタシと一緒になるとすげー嫌そうな顔すんの。傑作だわ。はっはっはっ」


 そこは笑うところなのでしょうか?

 青士さんが順調にぼっち化されていっているような気がします。

 だけど私と違ってすごくポジティブな思考がすごく好感的でした。


「つ、月ちゃんは実験とか好きだよね~?」


 対象を青士さんから私に移した小野口さん。

 たぶんですけど、小野口さんは実験が好きなんでしょうね。だから実験好き同士を探しているのでしょうけど……

 でも残念ながら私の答えは青士さん寄りでした。


「実験は私も苦手です。なんというか、皆楽しそうな中私なんかが混ざってごめんなさいというか、明らかに場違い感の中、その場に居続けるという苦痛は何とも耐え難いものです」


「実験中ずっと委縮して過ごしていたの!?」


 さすがにもう慣れましたけど。

 でも過去の苦手意識は中々克服できず、『実験』という言葉を聞くと無意識に冷や汗が出るのは悩みの一つです。


「駄目! 化学の勉強中断! 何か悲しくなってきたら他の教科やる!」


 なぜか駄々を捏ねるように教科チェンジを提案する小野口さん。

 特に反対する理由も無かったので私も青士さんも頷いて答えた。


「じゃあ、英語にしましょう」


 基本五教科である英語。

 英語は勉強すればするほど結果に結びつく教科な気がします。

 その分、濃厚な勉強が必要ですが……


「英語か。どうでもいいけど、英語の教科書に登場する『トム』率は半端ねーよな」


「ホント、どうでもいいよ!」


「でも確かにトム君、ちょくちょく出てきますよね。物語が完結したと思ったら章跨ぎで新たなストーリーで登場したりしますよね」


「そーそー。よく見ると教科書の半分はトムだぜ。教科書という名のトムストーリーをアタシ達は読まされてるのさ」


 うーん。言われてみればそんな気がします。

 最初の話と最後の話は大抵トム君メインで作られている気がします。


「英語あるあるはいいから勉強しようよ~」


 悲願するような小野口さんの声が向けられる。

 そうでした。またも話が明後日に逸れるところでした。

 勉強しなくちゃ!


「テスト範囲は三章と四章のストーリーでしたよね?」


「そうなのか。どんな話なんだ?」


 青士さん、話の大元くらいは理解をしていて欲しかったです。

 英語の先生が聞いたらきっと涙目でしょう。


「えっと……三章はトム君が日本へ留学してくる話だよね」


「ですね。そして四章はトム君が伝説の剣を手に魔王場へ乗り込むお話です」


「三章と四章の間に何があったんだよ!?」


 基本、英語は非フィクションですからね。

 言うならば何でもありな世界観です。

特にこの教科書は英語さえ学べればストーリーなんてどうでもいい感が強いですしね。

 日常回からファンタジー回へのシフトチェンジが突然でも誰もツッコまないですし。


「重要なのはストーリーじゃなくて文法と単語だよ。そしてぶっちゃければ中学英語と高校英語はそれほど差が無かったりするんだよね。英語は教科書を丸暗記しなくていい数少ない教科なんだよ♪」


 小野口さんは簡単そうに言いますが、英語はその分引っかけ問題も多い。

 私なんてよくその引っかけにハマってしまいますし。


「不安そうな顔しないの。大丈夫大丈夫。英語の問題はパターン決まっているからコツ教えてあげるよ」


「は、はい。よろしくお願いします」


「あ、ずりーぞ星野。小野口、アタシにもコツ! 無勉強で80点取れるコツ教えろ」


「ないよ! そんなのあったら私が知りたいよ!」


「なんだよ、使えねーな、小野口」


「理不尽甚だしいよ!」


 結局小野口さんと青士さんの言い争いになってしまう。

 でも言い争いというには微笑ましいです。

 最近このお二人、すごく仲良しさんになっている気がします。


「英語飽きたわー。なぁ、他のベンキョーしね?」


「だからまだほとんど勉強してないでしょうがっ!」


 結局この後も青士さんがすぐに飽きてしまい、全教科一周した所で本日は解散となりました。

 ちなみに一郎君は結局ずっと『イケメンの呪い』に掛かっていましたので、二時間後に解呪してあげたことをここに記しておきます。


 こんな調子で本当に大丈夫なのでしょうか?

 激しい不安を残す最中、私達を嘲笑うようにテスト本番の日がやってきたのです。


見てくれてありがとうございます。

今回は日常回でしたね。

メインキャラが期末テストの勉強をするだけの話でしたw

僕的にはこういう日常回を増やしていきたいなーなんて思っています。

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