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Experience Point  作者: にぃ
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第四十一話 自慢のパートナーなんですから

高橋君の過去回想はとりあえず今回で一区切りと致します。

 僕と玲於奈さんが付き合いだした翌日。

 周りの反応に怯えながら僕は登校した。

 中学生と言えど、異性とお付き合いをしている人は他にも居る。居るには居るが、多数派ではない。

 いや、それよりも僕が懸念しているのは、『学校のアイドル的存在』である玲於奈が相手だと言うことだ。

 もしそのことがクラスメートに伝わったらと思うと正直怖い。具体的に言うと嫉妬による嫌がらせが怖いのだ。

 ただでさえ僕みたいな根暗ぼっちは周囲との関わりを嫌う。ベストなのは僕達が付き合っているいうことを卒業まで隠し通すことだ。

 よしっ! いつも通り空気のように教室に入場し、早々と机に突っ伏そう。


    ガラ……ガラ……


 なるべく音を立てずに教室に入る。

 だが、次の瞬間、教室中の視線が僕に集まった。


 バレてる。これバレてる。

 と、とにかく机に座ろう。


「「「「………………」」」」


 ――?


 何かがおかしい。

 クラスメートはただこっちを見ながらニヤニヤ笑っているだけで何もしてこない。何も言ってこない。

 本当にただ笑っているだけ。

 気味が悪かった。


「おはよう。高橋くん」


「ぅお!」


 誰も話しかけてこないなと思ったら玲於奈さん本人が僕に言葉を向けてきた。

 と、とにかく挨拶だ。挨拶を返すくらいは普通普通。クラスメートとして普通すぎる。周りに『あの二人付き合ってんじゃね?』って疑われることはないはず。


「お、おひゃおう!」


 噛んだけど、僕が対人会話で噛むのはいつものことだ。なんも不自然なことはない。


「緊張なんてしなくてもいいわよ。私達付き合っているんだから」


「ちょ……っ!」


 僕が卒業まで隠し通したかったことをいきなり言っちゃってるんですが、この人!

 ていうか玲於奈さん的にはアリなのか? 僕みたいなぼっちと付き合っているなんて周りにバレても。


 そーっと、周りの様子を覗ってみる。

 相変わらずニヤニヤしながらこちらを覗っていた。

 この『ただ笑いながらこっちを見ているだけ』という反応が一番解せない。なんていうか不気味さすら感じられる。


「高橋君。とりあえず休み時間は空けておきなさい。ていうか貴方の空き時間は全部私のモノですからね」


 背を向けながら片目ウインクを決める玲於奈さん。

 そこには完成された可愛さが存在していた。







 一つ、玲於奈さんに触れないこと。

 二つ、僕から玲於奈さんに話しかけないこと。

 玲於奈さんが出したこの二つの条件、僕は守り通す気でいた。


 だけど――


「高橋君、結構綺麗な肌してるわね。ちょっと触らせてね」


    ペタペタ。


「ノーメイクよね? これ。どうなってってるのよ、コレ。オートコラーゲン?」


 なんですか、そのスキルは。

 いや、それよりも触り過ぎです玲於奈さん。僕からは触れちゃいけないとか言っておきながら。

 くそっ、紅潮で失神しそうだ。


「まぁ、いいわ。お昼にしましょう」


「う、うん」


 ようやくペタペタ地獄から解放され、気の休まる時がきた。

 南中は中学校にしては珍しく給食がない。なので生徒が弁当を持参する。

 僕の親は面倒くさがりで弁当は作ってくれないので、昼食はいつも購買パンだ。

 今日はツナサンドを取り出す。更にマヨネーズ付きのツナマヨサンドだ。やっぱりツナマヨが最強だろう。


「あら、美味しそうね。半分私に頂戴」


 玲於奈さんが僕のツナマヨを見て物欲に狩られ出した。

 同じツナマヨラーであれば分け合うことも悪くない。


「ど、どうぞ」


 半分取り出し、玲於奈さんに手渡す。

 その際、玲於奈さんの指に触れないよう細心の注意を払うことを忘れない。


「ありがとう」


 ツナマヨサンドを受け取り、小さく千切って口に放る。


「そこそこね」


 あら? 意外と評価低い?

 おかしいなぁ。ツナマヨは人を選ばないと思ったのに。

 僕もツナマヨサンドにかぶりつき、吟味する、

 うん。上手い。何回食べても上手い。


「はい。高橋君」


 不意に玲於奈さんが自分の弁当箱を向けてくる。


「可愛い弁当箱だね」


「そうじゃなくて! 食べなさいって言ってるの」


「えっ!?」


 ぼ、僕が女の子のお弁当を食べろと?

 僕風情がアイドルの弁当を食べていいとでも?

 な、なんだか恐縮してしまう。でもせっかくだから……その……うん……頂いちゃおうかな。


「赤い部分だけ食べていいわよ」


 僕が手を伸ばした瞬間、玲於奈さんから制限が下った。

 赤い部分って。トマトの部分しか赤い所ないんですが……


「ほら、早く食べなさいよ。トマト」


 もはや名指しだ。

 玲於奈さん。トマト嫌いなんだね。

 つまりは残飯処理っすか。そうっすか。


「い、頂きます」


 トマトの縁を掴み、口に頬る。

 ……うん。普通にトマトだ。


「美味しいかしら?」


 美味しいかって聞かれても普通にトマトだしなぁ。

 ていうか実は僕もトマトは苦手だったりするんですが……

 でもこの場合の選択肢は一つだ。まさか不味いっていう訳にもいくまい。


「は、はい。おいしい……です」


「トマトが美味しいなんて変な人ね。感性を疑うわ」


 まさかの選択肢ミスですか!?


「食べ終わったわ」


「は、はやいですね」


「ダイエット中なのよ。お弁当も少なめにしてきたしね。てなわけでお先に」


 えっ? 自分が食べ終わったからって普通に先にいくんですか?

 僕が食べ終わるまで楽しいお話なんて……しませんよね。そうですよね。


「…………」


 一人ぼっちの中庭ベンチで僕はツナマヨサンドを頬る。

 さっきまであんなに美味しかったのに、僕の手の中にあるものはもはや味気ないパンでしかなかった。







 付き合いだして10日が過ぎた。

 僕と玲於奈さんは一緒にいた。

 『ずっと』ではなく、『たまに』。

 玲於奈さんは終始つまらなそうだけど、僕と一緒に居てくれた。

 だけどそれでも僕は幸せだった。

 でも玲於奈さんは幸せなのだろうか?

 いや、僕は未だに一度も彼女の笑い顔を見たことがなかった。


 だから僕は玲於奈さんの笑顔を見てみたいと思った。

 僕自身が彼女を笑顔にさせてあげたいと思った。


 だからこそ僕はこの日を境に変わろうと思う。

 もう成り行きに任せて流されるのをやめる。

 僕自身が動いて、話しかけて、時には触ってみて。彼女と付き合う上での制約違反かもしれないけど、まずそうすることから始めないといけないと思った。


 この日から僕は変わろうと思った。

 そしてこの日――


 僕が変わる前に玲於奈さんにフラれた。




    ****




 僕と月羽はすでに10EXPを獲得していた。

 僕達が映画館に着く頃に丁度1時間が経過していたのだ。

 もちろん一度も彼女の手を離していない。


「さて、何を見るかなんだけど」


「…………」


 僕と月羽は映画館の看板の前で固まった。


『ラブと100回言わせて』


『飲み過ぎてカンゾウオジサンの肝臓がやばい』


『学園殺人事件 ~ラブと10回言わせて~』


『身体弱すぎてシンゾウオジサンの心臓がやばい』


 今上映中のラインナップだった。

 僕達はこの中から見る映画を選ばなくてはならなかった。

 って、無理して映画見なくてもいいんじゃない?


「け、経験値稼ぎを始めます」


 うお! しまった! 月羽さんが退路を断とうとしていらっしゃる!

 僕は月羽が言おうとする内容をすでに察してしまった。

 こういうとき、彼女は無謀なチャレンジをしたがるのだ。


「『飲み過ぎてカンゾウオジサンの肝臓がやばい』を最後まで見続けることができたら10EXP獲得! ということで」


「せめて見る映画変えようよ!」


 見るのがツライ映画の完走シリーズだとは思っていたがまさかそのチョイスだとは思わなかった。


「『シンゾウオジサン』の方にしますか?」


「なんで次の選択肢がそっちなの!?」


「だって、残るは恋愛映画じゃないですか」


「女の子の方が恋愛映画否定してる!?」


 普通女の子っそっち(恋愛映画)の方を好むんじゃないの? なんでこの子の思考はオッサン寄りなのだろうか。

 不思議な感性な持ち主なのは知っていたけどここまでとはなぁ。


「しかし残る二つは両方とも恋愛映画――いや本当に恋愛映画なのか?」


 タイトルだけじゃ判断できない。


「学園殺人事件の方はサスペンスっぽいですよね」


「そうだね。うん、こっちを見てみようよ」


「そうですね。ガッツリとした恋愛映画よりはサスペンスの方が面白そうです」


 だからその思考は女の子としてどうなのよ?


「とにかく最後まで見ることを目標に経験値稼ぎ頑張ろう!」


「はい!」


 かくして、僕と月羽の本日二回目の経験値稼ぎが始まった。







「……サスペンス?」


 二時間後、映画館から出てきた僕らは放心気味に見つめ合っていた。


「ここまで斬新なサスペンスは初めてみました」


 結果から言えば僕らは経験値獲得に成功していた。

 というより、映画の内容が意外すぎてついつい最後まで見てしまったというのが正しい。

 前回の映画視聴による経験値稼ぎは見るに堪えない内容で色々な意味で辛かったが、今回はそうでもなかった。

 面白い……とは言えなかったが、新しかった。


「まさか被害者だと思っていた10人が全員『自殺』だとは思わなかったですね」


「うん。仮面を付けた人物や全身真っ黒な『あからさまに怪しい人』が出てきながら、まさか一回も殺人が起こっていなかったなんて」


 ていうか最終的に仮面を付けた人物も自殺してたしな。


「しかも10人全員の自殺原因が『恋人にフラれたから』なんて……」


「『ラブと言わせて』のサブタイトルの回収をそんなところに折り込むとは……」


「『学園殺人事件』というタイトルにも見事に騙されましたね。絶対他殺だと思いましたもん」


 正直、見事に脚本に騙された。なんというか悪い意味で騙された。

 誰だよ、コレを映画化した監督は……


「とにかく……まぁ……」


 いいのかな?

 まっ、いっか。


「経験値……獲得だね」


「はい♪」


    バチィィィィィンっ!


 いつもの経験値獲得の謎ハイタッチが交わされる。

 手を握り合っているミッション遂行中なので、暇しているほうの手で二人の手が合わさった。

 その『手を握り合う経験値稼ぎ』は遂行中であるが、それを省けば総経験値はこれで270になった。

 300の大台も見えてきたな。

 しかし僕らの見る映画はいつもどこかおかしいのはなぜなんだろうなぁ。







「さて、次はどこにいくか……」


 この街には娯楽施設が本当に少ない。遊園地どころかゲーセンすらないからなぁ。

 僕が次のプランを考えている中、月羽の方から意見を申してきた。


「一郎君が通っていた中学校を見てみたいです」


「えっ?」


「この街にあるんですよね?」


「あるけど。でもあんな所みても何も面白くないよ。たぶん中には入れないし……」


 そもそも開いているのかなぁ? 高校と違って日曜日は校門が閉まっていた気がするけど。


「一郎君がどんな所で学んだのか興味があるんです」


「う~ん……」


 正直言って気が乗らない。

 嫌な思い出の方が多いし……

 でもまぁ、せっかくの月羽の申し出だし、見に行くくらいはいいか。


「じゃあ行ってみる? 南中学校」


「行きたいです!」


 どうしてそんなに見たがるのかなぁ?

 学校なんて見ても面白くも何もないのに……

 あー、でも逆の立場だったら――月羽の中学校だったら僕も見てみたいかもしれない。


 とにかく行ってみるか。

 中学時代の知り合いに出会わないことを切に祈りながら。







 南中学校卒業生の進路は大体私立南高校へと進む。

 行ってしまえば南中は南高校への付属高みたいなものだった。

 所謂エスカレーター式ってやつかな。


 でも中には遇えて別の高校へと進む生徒もいる。

 金銭的な問題で別高校へ進む人、自分の可能性を信じてもっと偏差値の高い学校へ進む人、そして僕みたいに――まぁ、僕のことはいいや。


「ぅお。体育館の屋根の色が変わってる」


 真っ赤な屋根が赤から青色に変わっている。

 それ以外は僕の知っている南中学校だった。


「大きな学校ですね」


「うん。市内で一番広大な所なんだってさ」


 やっぱり校門は閉まっているが、外からでもその広大さは覗える。

 生徒数が多すぎて、東校舎と西校舎の二つの校舎が存在しているのだ。半端ない。

 そう――生徒数が多すぎて、僕は――


「あっれー? 高橋じゃね?」


「「!!?」」


 聞き覚えのある声に驚き、一瞬手を離しそうになる。

 辛うじて耐え抜いたけど。


「うっわ。やっぱりそうだ、おまえ『無機物高橋』だろ?」


「……!!」


 せっかく忘れかけていた僕の二つ名。

 くそっ! これだから昔の知り合いに遇いたくなかったんだ。


「むきぶつ?」


 僕の二つ名に対し、月羽が不思議そうに首を傾げている。

 だけどそれを説明している余裕は僕には無かった。


「相田くん……鷲頭くん……」


 僕を『無機物』と呼ぶ二人組、相田君に鷲頭君。

 中3時代の僕のクラスメートだった。


「うっわ。久しぶりに見たわ。相変わらずチビだな」


「ていうか何俺らの名前呼んでるわけ? お前のキモすぎる声で呼ばれるのってすっげー不快なんだけど」


 迸る青士さん臭。名前呼ぶだけでアウトってどんだけだよ。

 ここまでくるとぶっちゃけただのDQNだ。

 最近こういう人と接する機会が多い気がする。


「…………」


 こういう輩は無視するに限る。

 言いたいだけ言わせて満足させる。そうすれば勝手に帰ってくれる。


「相変わらずだんまりかよ。さっすが無機物だな」


「どうせ言い返す度胸もねーんだろ。玲於奈姫にも何も言えずじまいだったもんな」


 顔を見合わせて含み笑いする相田くんと鷲頭くん。

 くそっ! 最も思い出したくないことを。

 最も思い出したくなかった人の名前をこんなところで思い出すことになるなんて!


 ――っと、いけないいけない。僕はダンマリを続けるって決めたんだ。抑えろ。こんなつまんないことで怒る必要なんてないんだ。


「お前今どこの高校だっけ?」


「ほら、あそこだよ。イケメンの――池・MEN・優琉が居る西高に逃げたんじゃなかったか?」


 池くん、他校にまで名が知れているのかよ。彼レベルのイケメンともなると他校のファンとかも付くのかなぁ。

 そんなことよりも『逃げた』……か。事実な故に何も言い返せないや。


「ていうか、女連れ? 無機物のくせに」


「つーか、めっちゃ可愛いじゃん!」


「……!」 


 しまった。

 この場には月羽も居たんだ。


「ねえ、キミ? どうしてそんなツマンネ―奴と一緒にいんの?」


「会話ねーっしょ? コイツといても。なんてたって無機物高橋だもんな」


「あ、あの……」


 いけない。月羽が怯えてしまっている。

 ぶっちゃけ僕も怯えているけど、このままではいけない。

 なんとか彼らの興味を月羽から僕に戻さないと。


「あっ、相田くん! 鷲頭くん!」


「あっ? 俺ら今、彼女と話してんの。無機物は黙ってろよ、中学の時みたいによ!」


「大体どうして手握ってんの? まさか彼女だったりしねーだろーな?」


 くそっ! 奴らの興味が中々月羽から逸れない。

 どうすれば――


「ねー、キミさー。コイツなんかと一緒に居ると絶対後悔するよ」


「だな。知ってる? コイツ玲於奈姫にフラれた後、全校生徒から嫌われてたんだぜ」


 ……!

 こ、こいつら……

 僕の傷口を抉り始めやがった!


「そうそう! 上履きどころか外履きも燃やされてたしなー」


「体操着も燃やされてなかったっけか?」


「あったあった! 中でも一番傑作だったのがさ、覚えてるか? 伝説の卒業式のとき!」


「ああ。無機物(たかはし)が卒業証書を受け取っている最中に丸椅子を隠してさ。戻ってきたこいつ、ずっと空気椅子していたっつーアレだろ?」


「結局卒業証書も燃やしたんだっけ。あの時、生徒会長が言った『てめーなんて一生中学生してろ』って言葉マジ名言!」


「「ぶははははははははははははっ!!」」




    ****




 南中校門前の出来事は当然プリティ総帥を見ていた。

 それも割と近くの茂みで聞いていた為に彼らの会話は全て耳に入ってきた。

 普段の彼女は温厚で人懐っこい女の子。

 だけどそれ以上に感情的になりやすい子でもあった。


「さて……と」


 当然、自分の友人がここまで侮辱されて黙っていられる性質ではない。

 彼女は静かに怒りの闘志を燃やし、相田と鷲頭とかいう憎たらしい男共にありったけの怒りをぶつけるつもりでいた。

 しかし――

 彼女が茂みから飛び出すよりも先に怒りを示した者が居た。



    

    ****




 馬鹿みたいに大声で笑いだす二人。

 くそ。忌々しい過去。僕の心の中だけに閉まっておきたかったのに、月羽にまで聞かれてしまった。

 彼女が今どんな顔をしているか、見なくても想像できる。

 たぶん……同情。

 泣きそうな目できっと僕の顔を――


「……なにが……おかしいんですか……」


「「「えっ?」」」


 突然言葉を発した月羽に驚きの言葉が三人重なった。


「そんな酷いことをしながら、なぜ笑ってなんかいられるんですか!」


 月羽が吠えた。

 僕の為に吠えてくれた。


「いや、彼女さー。コイツには別に何やったっていいんよ。全校生徒から嫌われる理由もちゃんとあってね――」


「何やったっていいわけないです! どんな理由があろうが貴方達のやってきたことは最低です!」


「いや……そのね……」


「これ以上、一郎君の悪口を言うことは許しません!」


「「…………」」


 僕もみたことのないその力強い視線で月羽は相田くんと鷲頭くんの暴言を止めた。

 月羽……こんなに……こんなに強い子だったんだ。


「行きましょう! 一郎君! もうこんな人達に関わる必要なんてありません!!」


 吐き捨てるように言うと、月羽は僕の手を引っ張りながらその場を去ろうとする。

 僕は彼女の怒った横顔を眺めながら足を進め出す。

 その背後にはポカーンと口を半開きにしたまま立ち竦む相田くんと鷲頭くんの姿があった。







「すみませんでした。一郎君」


 帰りの電車。

 月羽が突然謝ってきた。


「え? ど、どうして謝るの?」


「だって……私が一郎君の通っていた中学校を見たいなんて言ったから……知らなかったとはいえ一郎君のツラかった中学時代の傷口を広げるようなことになってしまいました」


 申し訳なさそうに僕の目を見る月羽。

 表情から読み取れる悲痛。

 この表情をさせてしまったのは相田くんでも鷲頭くんでもない、僕自身だ。


「謝る必要なんてないよ。むしろ……その……ありがとう」


「えっ?」


「僕なんかの為に怒ってくれてありがとう。嬉しかった」


 そう――本当に嬉しかった。

 自分の為にあそこまで感情を露わにしてくれる人なんて今まで居なかったから。

 それがたまらなく嬉しくて、新鮮だった。


「一郎君。自分のことを『なんか』なんて言ったらだめです」


 叱りつけるように言ってくる月羽。

 表情も『悲痛』から『怒り』へ――というより少し拗ねているようにも見えた。


「一郎君は私の大事な親友――んーん、自慢のパートナーなんですから」


「月羽……」


「だから自分を卑下にすることだけはやめてください。私の大切な人を悪く言われている気分になっちゃいます」


「……わかったよ」


 この時、改めて僕は思った。

 僕と月羽はやっぱり『対等』なのだと。

 月羽が僕を大切に思ってくれているように、僕も月羽を大切に思っている。


 『対等』。

 玲於奈さんと付き合っていた10日間には決して存在しなかったもの。

 それが僕と月羽の間には確かに存在していた。


「ジャスト五時間経過です♪」


「いきなり何!?」


「忘れたんですか? 私達、経験値稼ぎの真っ最中だったんですよ?」


「あっ――」


 言われ、思い出す。

 そういえば『手を握り合う』という経験値稼ぎの真っ最中だったっけ。

 なんか手を繋ぐという行為があまりにも自然すぎて、もはや手を繋ぎっぱなしであったことも忘れていた。


「電車降りたら解散ですし、この経験値稼ぎはここらで潮時ですね」


「ってことは50EXPも獲得したのか、すっごい」


 映画の経験値稼ぎを合わせると今日の収穫は60EXP。総EXPは320だ。まさか今日中に300の大台を突破できるとは。

 やっぱ休日経験値稼ぎは安定して稼げるな。


「車内ですので、静かにいきますよ」


 いつものように月羽が手を前に突き出してくる。

 そして僕はいつもとはちょっと控えめにその手に自分の手を合わせた。


    ペチン


 いつもより味気ない音。

 その音が何だかおかしくて僕と月羽は静かに笑い合っていた。


見てくれてありがとうございます。


なぜ玲於奈さんにフラれたのか、なぜフラれたあと全校生徒から嫌われるようになったのか。その辺が語られるのは結構後だと思います。とりあえず頭の片隅にそんな過去があったんだなーくらいに留めて頂ければ幸いです。


それよりも今日総合評価見てビックリしました。前回の更新から3~4日放置していたのですが、30pt近くも上がっていて、一体何が起こったの……状態でした。

「お気に入り登録」数も格段に増えていて、本当に光栄でございます。

評価付けてくれた方、お気に入り登録してくれた方、もちろんそれ以外の読者様にも本当に感謝しております。またモチベーションが上がりました^^



獲得経験値:+10EXP&+50EXP

総経験値数:320EXP

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