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Experience Point  作者: にぃ
4/134

第四話 ぁうう……緊張したぁ~

  ――――――――――

   From 星野月羽

   2012/04/24 20:59

  Sub 星野月刃です

  ――――――――――


 こんばんは。起きていましたか?

 私は元気です。

 いい天気ですね。


  -----END-----


  ―――――――――――



 どこからツッコむべきなんだろう?

 一つずつ消化していこう。


 まず誰だ? 星野『月刃』って。

 どこのファンタジー漫画のキャラクターだ?

 中ボスチックな厨二ネームに思わず感嘆してしまった。

 ……まぁ、単なる誤字なんだろうけど、誤字にしてもセンスあるなぁ。さすが星野さんだ。


 次に本文。

 一行目は良い。さわりとしては無難で好印象だ。

 二行目は悪い。星野さんが元気なのはとてもいいことだけど、なぜ書いた、この文章。

 三行目は酷い。急に話が変わりすぎだ。たぶんメールを送ろうとしたのは良いモノの話題がなくてとりあえず天気の話を降ってみたんだろうな。まぁ、夜じゃなければ良かったんだろうな。そして雨が降っていなければもっとよかったんだろうなぁ。


 ツッコミどころはこのくらいかな。文章も長すぎず、僕にはなかなかの好印象だ。

 しかし、何だか先を越されてしまった感が否めない。

 たぶん僕にメールを送るのだってすごく勇気を出したはずだ。

 きっと星野さんは一人で経験値を獲得しちゃったのだ。放課後に共に30Expを獲得したというのに、これでちょっとだけ経験値に差が付いてしまった。

 このままでは悔しいので星野さんがくれたもの以上に心に染みるメールを返そう。


 星野さんが『無難』でくるならば、僕は意外性で勝負だ。

 星野さんに書けないような内容にすることで僕は経験値を得てやる!


 僕は早速メール作成に取り組んだ。

 そして十分ほど掛けて完成したメールがこれだった。



  ――――――――――

   From 高橋一郎

   2012/04/24 21:09

  Sub 高橋さんです

  ――――――――――


 こんばんは。からだ巡茶というブレンド茶に挑戦していました。

 どくだみ茶の成分が強い茶でした。

 いい天気ですね。僕は雨が大好きです。


  -----END-----


  ――――――――――



 まぁ、こんなものだろう。

 星野さんと同じく無難なメールになっちゃったなぁ。でもこれでいいか。今の僕にこれ以上の良メールは作れないや。

 う~ん。それにしても三行以上のメールなんて初めて書いたぞ。なんか感動だ。コミュ症でもやればできるじゃないか。

 よしっ! 誤字脱字もないし、これで送信っと。


 これ、どれくらい経験値獲得できたのかな?

 放課後の会話で30Expだったから10Expくらいは獲得したんじゃないか?

 いいぞ。着々と経験値を積んでこれている。未だにレベルアップの基準はわからないけど。


 さて、気分も良くなってきたことだし、ゲームでもするかな。

 なんだか今日はRPGの気分だ。リアルで経験値うんぬんって話題が上っているからかな。

 ゲーム、起動起動っと♪。







    ~~♪ ~~~♪


 スマホからメロディが不意に鳴り響く。

 滅多にならないスマホだけにめちゃくちゃビビった。

 驚愕と同時にほのかな期待感を抱く。

 父、母は滅多にメールなんてしてこない。

 だから僕なんかにメールを送ってくれる人と言えば――



  ――――――――――

  From 星野月羽

   2012/04/24 21:19

  Sub 月刃さんです

  ――――――――――


 どくだみ茶が高橋くんの元気の源なんですね。

 私も元気です。

 雨なのに「いい天気」だなんて、高橋くん相変わらず変わっていますね。


  -----END-----


  ―――――――――――



 この娘はツッコミ待ちなのだろうか?

 いいだろう。ツッコんであげよう。

 とりあえずゲームは中断し、僕はメールに向き合う。


 まずサブタイトル!

 もしかしたら僕の勘違いなのかもしれないけれど、星野さんの名前って『月羽』と書くのが正しかったような気がする。

 本人が二度も強調してくるのであれば、自分の認識の方を疑ってしまう。

 二回連続で誤植した、という可能性が一番高いけどね。


 次に本文だ。

 今回も三行文だが、全行おかしい。

 まず一行目。先ほど自分が送ったメールのおかげで星野さんは酷い誤解をしているようだ。

 たしかに僕は『どくだみ茶の成分が強い茶でした』と書いた。

 しかしそれはどくだみ成分のツンッとする感じが嫌だったという意味で書いたのであって、実は好きでもなんでもないのだ。

 んー、しかし一々訂正しても星野さんが恥ずかしい思いをしてしまうかもしれない。

 ここは甘んじてどくだみ大好きっ子として彼女と向き合おう。


 二行目。

 なぜ星野さんは自分の元気っぷりをアピールしてくるのだろう?

 どうして同じ内容を二度も文章にして送ってくるのだろう?

 いくら考えても理解に至らなかった。

 ただ星野さんがすごく変な子であることだけは理解できた。


 三行目

 ここは声を大にして言いたい。

 『雨なのにいい天気だと主張し出したのはキミが先だったじゃないか!』と。

 まるで僕が元凶のように書くのはやめてほしい。変わっているのは僕じゃなくてキミなのだ。


 よしっ、ツッコミしきった。

 心の中でツッコミ大会を無事終えた。

 ツッコミ大会の閉会式を終えた所で、僕は早速返信メールの作成を開始する。

 先ほどは少し茶目っ気溢れた内容で送ったが、今回は無難で行こうと思う。

 なんというか、これ以上茶目っ気を出すと、星野さんが色々と誤解し出しそうだから。







「ぁうう……緊張したぁ~」


 二通目のメールを返信すると、私はうつ伏せのままベッドへダイブした。

 小奇麗に彩られた私だけの部屋。ただし、ぬいぐるみとかファンシーグッズは皆無。

 普通女の子部屋というともっと可愛らしい小物とか飾られていたりするんだろうなぁ。

 ただ、悲しいことに私の部屋にはぬいぐるみの代わりにゲーム機が並べられている。

 私のたった一つの趣味だ。


 ゲームは私を裏切らない。

 クソゲー仕様でも私は裏切られたとは思わない。

 ゲームをしている時間こそが至福で至高な時間なのだから。

 もちろん誰にも言えない趣味だ。女の子なのにゲームが趣味なんて。まぁ、普通なのかもしれないけれど、なんか他人に喋りたくない。

 そもそも自分の趣味のことを話すような友達なんていないんですけどね。


 ……あっ、一人居た。


 ――高橋一郎くん。


 自分と酷く境遇が似ている同学年の男の子。

 そして自分が初めて勇気を出して想いを伝えた男の子。


『じゃあ、私と一緒に……経験値稼ぎをしてください!』


 今、思い返すとアレはおかしかったと思う。

 でもあの時の私は、頭が真っ白で、ただ率直に自分がしたかったことだけを伝えた。

 普通あんなことを言われたら警戒するだろう。変な子だと思うだろう。

 だけど、高橋君は――


   ~~♪ ~~~♪


「……っ!?」


 胸に抱いていたケータイが不意に鳴り出した。

 さっきも滅多にならないケータイが突然鳴り出したので驚いたけど、今回も不意を突かれてしまった。

 着信は電話ではなく、メール。

 ここ数ヶ月お父さんともお母さんともメールはしていない。故に今回の送り主も容易に想像がつく。



  ――――――――――

   From 高橋一郎

   2012/04/24 21:29

  Sub 一郎です

  ――――――――――


 喉を通過する瞬間に広がる独特の風味。

 意に落ちた後の痛快感。それこそがどくだみの醍醐味です。

 だから僕は今日も元気です。


  -----END-----


  ―――――――――――



 思わずクスリと笑ってしまった。

 高橋君と知り合ってまだ二日だけど、あの人はとても面白い人です。

 このメールもただのどくだみ解説になっちゃっているけれど、それがなぜか私の頬を緩ませる。

 高橋君は面白い人であると同時にすごく一生懸命な人なんだ。

 今日の放課後だってずっとリードしてくれていた。

 本当は前に出るタイプじゃないのに一生懸命話題を作ってくれた。


 ふふっ、普通居ないですよ、こんな変な子に真剣になってくれる人なんて。

 私も負けてられないんですからっ!


 返信メールを作成する。

 なぜだか私達のメールのやり取りは三行で固定されている。

 変な暗黙なルールが出来ちゃってます。でもそっちがそのつもりならこっちもそのルールに従うまで!


 ……できたっ!

 改心の三行メール!

 でもまださっきのメールが送られてきてから四分しか経っていない。

 だから私は完成したメールを送らずに六分待つ。


 いや、なんか、メールをすぐに返したりして、『コイツがっついているなー』とか思われたら嫌ですもんっ!

 だから私はあえて十分間の空白を作ってからメールを送信する。

 ……って、あれ? なんか高橋君のメールもピッタシ十分置きのような……もしかして私と同じことを考えてる?

 そう思うと私は再び頬を緩めて笑ってしまった。


 私と高橋君は境遇だけでなくて行動も似ている。

 そして思考も似ているみたいですね。


 妙な緊張をしながらベッドに転がっていると、やがて六分が経過した。

 そして私はメールを送信し終わると、その場に脱力する。



  ――――――――――

   From 星野月羽

   2012/04/24 21:39

  Sub 月刃です

  ――――――――――


 そんなにどくだみが好きなら今日の放課後もその話題で行けばよかったじゃないですか(笑)

 そうそう、明日の経験値稼ぎも厳しいですから覚悟してくださいね。

 明日も私は元気です。


  -----END-----


  ――――――――――



 ううぅ。(笑)とか調子に乗りすぎたでしょうか?

 メールってわかんない。

 でもこれからですよね! 経験値を積めばきっとメールスキルも上がります! そうに決まってます。


 そうだ。メールであんな風に書いてのだから、明日の経験値稼ぎの内容も考えておかないと。

 今日のミッションでも私達いっぱいいっぱいでしたし、明日も今日くらいの難易度にしておこうかなぁ。

 それとも一気に経験値を獲得するために、少し難易度の高いミッションにしましょうか。


 う~、そもそも具体的な経験値稼ぎの内容が全く思いつかないです。

 ちょっと時間を掛けてじっくりと考えてみましょう。







 あぅぅ。私は駄目な子だ。

 分かっていたけど、駄目な子だ。

 ベッドをゴロゴロしながらず~っと考えていたけれど何も思いつきません。

 まぁ、明日の放課後までにはまだまだ時間ありますし、焦ることもないですよね。


    ~~♪ ~~~♪


「うひょわ!」


 思わず甲高い声が出てしまった。

 ケータイが鳴って私は初めてその上をゴロゴロしていたことに気が付いた。

 心臓が飛び出しそうなほど驚いた。今度からケータイを少し手の届かない場所にまで離しておこうかな。



  ――――――――――

  From 高橋一郎

   2012/04/24 21:49

  Sub 一郎です

  ――――――――――


 明日の経験値稼ぎも楽しみにしています。

 そして僕は星野さんが今経験値稼ぎの内容を考えているのではないかと疑っております。

 明後日も僕は元気です。


  -----END-----


  ―――――――――――



「なんでバレてるんです!?」


 メールに対して大声でツッコミを入れてしまった。

 高橋君はまさかエスパーさんなのでしょうか?

 不思議な力で私の今考えていることを悟っているのでしょうか?


 む~、どうせ高橋君なんてゲームの合間にメール返しているくせに~!

 私の勝手な想像ですけど、なんかそんな気がする。

 ゲームやっていて、私からメールが来たら中断して一生懸命返事を打っている姿が予想できる。

 あなたの行動なんて簡単に予想できるんですからっ!


 もしかして私が高橋君の行動を予想できるように、高橋君も私の考えていることなんて予想できちゃってる?

 うわぁ、なんかそんな気がする。


 ぼっちの考えはぼっちにはすごくわかる。

 それ故に今相手がどんなことをしているか、どんなことを考えているか、なんとなくわかってしまう。

 そんな妙なシンクロが存在するのだ。

 なんだかそう考えるとすごく恥ずかしくなってきたっ!


 む~、高橋君め。離れていながら私を赤面させるなんてなんか許せないです!

 今頃のうのうとゲームをやっているだろう姿を思い浮かべるともっと許せないです!

 よーし、次のメールで高橋君の現行動を予知したメールを送っちゃおう。仕返しだ。

 なんか楽しくなってきました。


 あっ、でもいつメール切ろう?

 深夜にメールを送り続けるのも迷惑ですよね。

 私が楽しくても高橋君は楽しくないのかもしれないし……


 あぅぅぅ! やっぱりメールって難しいです!


見てくれてありがとうございます。

そしてストックが完全に無くなりました(笑)

只今第5話をゆっくり執筆中です。完成次第更新しようと思います。

いつになるか分かりませんが……



 ~(2/8)追記~

ソタ。さんよりイラストを頂きました。


挿絵(By みてみん)

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