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Experience Point  作者: にぃ
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第三十七話 間違ってもあの人みたいな真似しないでくださいね

ついに男の新キャラ登場。

女の子ばかり出ていたから執筆している僕も何だか新鮮でした。

 なぜだ。

 なぜ僕という圧倒的足手まといが居るにも関わらず……

 なぜ決勝まで来てしまったんだ。


「一郎君、頑張ってくださいね」


「高橋君、ちゃんとやらないとダメだよ」


 月羽には応援され、小野口さんには駄目出しされた。

 ちなみにこの二人の試合も良い所まで行ったのだが、準決勝で惜しくも破れていた。

 少し詳しく回想すると、小野口さんが常人の3倍の動きで活躍していたのだが、月羽含め他のメンバーが常人の3分の1くらいの堅い動きだった為に、足の引っ張り合いが起こり、ほとんど自滅した形となっていた。

 まぁ、自滅と言ってもE組ほど酷いものではなかったが。


 さて、僕の方はどうするか。

 決勝において、憂鬱な要素が二つある。


 一つは、決勝という大舞台。

 この場でミスをしてしまったらその後の学園生活に支障が出るレベルで叩かれる。

 球技大会や体育祭が原因でクラス内の雰囲気が悪くなったという話は事実あるのだ。


 そして憂鬱な要素の二つ目。

 こっちの方が大問題だ。

 即ち、謎のギャラリーの多さである。

 一回戦の時は観戦者など雀の涙ほどの人数しかいなかったのだが、なぜか今は体育館の外周を覆い尽くすくらい大勢のギャラリーが居る。

 確かに決勝戦となればその注目度は増す。

 だけどこの集まり具合は聊か不自然じゃないかね?


「なんか、女の子の応援が多いですね」


 月羽も異常を察したのか不思議そうに辺りを見渡している。


「あぁ。たぶんE組男子目当てじゃないかな?」


「え?」


「正確にいうとE組の池くん目当てなんだよ」


「……誰ですか?」


 誰だろう? 僕も知らない。

 でも小野口さんの言い方だと有名人らしいけど……


「我が高の王子様、らしいよ。ていうか他校にもファンがいるくらいのイケメンくんなんだって。背も高くて、頭も良いらしいけど……私もそれくらいしか知らないなぁ」


「へぇー。初めて知りました。そんな人がウチの高校に居たんですね」


 なんだか淡々と喋っている二人。

 小野口さんも月羽も然程興味を示していないように見える。

 もしかしてイケメン苦手なのかな?

 なんかこの二人だけが特殊な気がしてならない。基本変な子らだし。

 しかしイケメンが相手か。イケメンとなるときっとスポーツ万能だろうし、ボロ負けもありえるな。

まぁ、決勝に来ちゃったからもう勝っても負けても変わらないんだけど。


「「「きゃ~~~~~~~~~~~~っっ!!」」」


 な、なんだぁ!?

 変質者でも出たのか!?


「ふっ、ついに来たな俺様の最大の見せ場が!」


 バラを咥えた変な人がコート上に入場してくる。

 どうやら先ほどの歓声はこの人に向けて放たれたものらしい。

 ちなみに黄色い歓声ね。ある意味変質者の入場でもあるけれど。

 ってことは、この人が例のイケメンくん、名前は池くんだっけか?


 確かにイケメンだ。口に薔薇咥えてるけど。凛々しくて白い顔面は確かに女子受け良さそうだ。口に薔薇咥えてるけど。おまけに背も高い。アレ、190cm近くあるんじゃないか? チートだチート。

 茶髪でロンゲだけど、サラサラと流れるような髪質はチャラさよりも清潔感漂う。口に薔薇咥えてるけど。美男子とは彼のことを言うのだろう。口に薔薇咥えてるけど。


「なんというか……派手な人ですね」


 月羽、派手さよりも彼が口に咥えているものについてツッコむべきでは?


「確かに格好良いけど……なんであんなに人気あるのか理解できないなー」


 僕も理解できない。人気うんぬんじゃなくて口に薔薇を咥える意味が理解できない。


「ふっ、そこのレディ。俺様からのフラワープレゼントだ。受け取りな」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 あっ、口に咥えてた薔薇を女子生徒に渡した。

 僕が貰ったらコンマ1秒で捨てるだろうが、受け取った女子生徒は目をハートにしながら大事そうに薔薇を胸に収めていた。


「なるほどー。女の子というのは口に咥えた薔薇をプレゼントされると嬉しいのか。初めて知ったぞ!」


「一郎君、間違ってもあの人みたいな真似しないでくださいね」


「アレは池君以外の人がやったらドン引きされるよ。まぁ、池君がやっても私はドン引き気味だけれど」


 この二人にはイケメンの行動は理解できなかったらしい。

 会場の中にいる唯一の女子アンチだった。


「とにかくあの池君とこれから戦うのか。なんだか恐縮するな」


 言うならば、アイドルと同じ舞台で歌うような感じ。場違い感が半端ない。


「ふっ、キミ達がこれから俺にやられる可哀想なクラスか。先に言っておく。30点差が着いても泣かないように」


 セリフまで格好良いな。一度でいいからあんなこと言ってみたい。そんな機会絶対ないだろうけど。


「おっと。勘違いしないように。それはキミ達が弱いって言っているんじゃない――」


 ポケットから薔薇を取り出し、再びそれを咥える。

 さすがイケメンだ。池君クラスのイケメンとなると薔薇のストック常備は当たり前なのか。


「――この俺が――強すぎるのさ!」


 サラサラの前髪を掻き揚げる池くん。

 その瞬間、再び場内から『キャー!』と黄色い歓声が飛んだ。


「アレは人気出るの分かるなぁ。格好いいや」


「そ、そうでしょうか?」


「高橋君も大概面白い思考してるよね」


 んー、月羽と小野口さんはなんであの良さが分からないのかなぁ。

 チート系スペックというのは全人類の憧れだと思っていたけれど、この二人は考え方が違うみたいだ。


『只今より、男子バスケットボール決勝戦を行います。A組とE組の出場選手は速やかにコートへ入場してください』


 おっと、イケメンに見惚れてる場合じゃない。試合の準備しなきゃ。


「行ってきます」


 月羽と小野口さんに向けて言葉を放つ。


「いってらっしゃいです♪」


「高橋君。今度こそ十秒以上ボールに触れるんだよ!」


 月羽は笑顔で見送ってくれて、小野口さんは無理難題を押し付ける言葉を投げてくれた。

 やっぱりいいなぁ。自分を応援してくれる人がいるのっていうのは。

 それに応えたくなる。

 彼女達の為に、少しくらいは良いシーンを作らないとな。







 実際、そんな上手くいくわけなかった。


「イケメン―――――シュッ!」


    スパッ!


 池くんの放ったシュートが大きな弧を描いてリングを通過する。

 すごい。リングに触れずに今通過したぞ。

 このイケメン、やはり顔だけではなく、運動神経も抜群だった。

 ていうかそんなレベルじゃない。バスケ部なんじゃないのか? この人。上手すぎる。

 現スコアは0点対16点。E組が圧倒的リードしていた。


「絶好調だぜ☆」


「きゃーー! 優琉(すぐる)くん素敵~!」


 池君のシュートが決まるたびに会場が沸いた。

 ちなみに『優琉』というのは池君の名前らしい。池優琉(いけすぐる)か。語感もいい。


「どうした? A組諸君。一本くらいこの俺、池=M=優琉からゴールを奪ってみなさい」


 え、М?

 えっ? この人、今名字の名前の間に『M』とか付けた? 僕の聞き間違いじゃないよね?


「小野口さん。あの人、今ミドルネームみたいなものを言っていた気が……」


 月羽も僕と同じ疑問を抱いたみたいで、小野口さんに回答を求めていた。

 

「正確には、池=MEN=優琉らしいよ。本名なのか自分で付けたニックネームなのかは私にも分からないけど」


 くそっ! フルネームが格好良すぎる!

 池=MEN=優琉(いけめんすぐる)か。名前からイケメンすぐるぞ。


「さぁさぁ! ドンドンいくぞー!」


 イケメンすぐる彼がボールを奪い、再びA組のゴールに迫る。

 早い試合展開に着いて行けず、ただ棒立ちの僕。

 気が付けば池君が真っ直ぐこちらにドリブルを仕掛けてきていた。


「「しまったっ!」」


 池君と僕の言葉が同調する。

 彼のドリブルコースを僕が邪魔している形になっているのだ。


「だからどうして高橋君が『しまった!』なんていうの~!」


 小野口さんの罵声が聞こえた気がするが、こっちはそれどころじゃない。

 イケメンの華麗なドリブルを僕風情が妨げるわけにはいかない。

 ここは彼の動きを読み取り、池くんと逆の方向に避けるしかない!


 ――読めた!


「「こっちだ!」」


 またも僕と池君の言葉が同調した。


 僕は右に。

 池君はその反対側――と見せかけて僕と同じ方向に身体を傾けている。


 しまったっ! フェイントか!


    ドンッ!


『ピピーー!』


 池君がフェイントなんぞ入れてくれたもんだから僕達は衝突してしまい、僕はディフェンスの役割を全うしてしまった。


「やったっ! 高橋君!」


「一郎君! 凄いです!」


 小野口さんと月羽は喜んでいるが、それ以外の人間はしーんと静まり返っている。

 くっ、出しゃばり過ぎたか!? 僕的には目立ちたくないのに。


「ディフェンス! チャージング! バスケットカウントワンスロー!」


 って、僕の方がファウルを取られたか。ならいいや。

 池くんの華麗なシュートはきっとフリースローで見られることだし、これなら観衆も納得してくれることだろう。


「一郎君、大丈夫ですか?」


 月羽が心配そうにこちらを見つめている。

 そっか。今の衝突、僕は気付かなかったけれど結構派手にぶっ飛ばされていたみたいだな。

 とりあえず月羽に無事を伝える為、彼女と視線を交わしてアイコンタントで無事を伝えた。


「ちょっと! 今のオフェンスファウルでしょー!」


 って、うぉぉおおい! お、おおおおお小野口さぁん?

 何を審判様に物申してやがってるんですか!?


「いいえ。今のは完全にディフェンスファウルよ。そうでしょ? みんな!?」


「そうよ! そうよ!」


「優琉様がファイルをするはずないわ!」


「そうよ! イケメンはファウルしないのよ!」


 なんていう名言。

 イケメンはファウルしないのか。


「そんなぁ~」


 何故だか小野口さんが一番悔しそうだった。

 なんというか、審判が女子の段階で僕達に勝ちはないような気がした瞬間だった。

 

「ふっ、ファウルにはなったが、キミの動きは素晴らしかった。小さいけど、さぞ有名なバスケットプレイヤーと見たよ」


「い、イケメンに褒められたっ!」


 『小さいけど』というのは余計なお世話だが、渦中の人に褒められると悪い気はしない。


「こらぁ。そこぉ。喜ぶところじゃなーい!」


 小野口さんからお叱りの言葉が飛ぶ。


「きぃぃぃ! 優琉様に褒められるなんて、なんて疎ましい!」


「死ねばいいのに。あの小さい奴」


 そしてギャラリーからは嫉妬が飛んできた。


「ていうか吹っ飛ばされたチビの動きキモくない?」


「あー、サッチーも思った? キモイよね。優琉キュンが吹っ飛ばしてくれてちょっとスカっとしてたり」


 おっ、いつもの批評も飛んできてるな。

 ただ『きめぇ』って言われるくらいなら可愛いもんだ。酷い時は『なんでアイツと同じクラスなんだろ』とか『生理的以前に人間的に無理』とか言われるもんな。他クラスの人間だから多少自重して批難してくれているのかも。


「ちょっと! どこがキモイっていうのよ! 貴方達、よくそんなひどいこと言えるね!」


 お、おおおおおおおおお小野口さぁぁんん!?

 こっちにもまさかまさかの物言い!?

 こんなに正義感強い子だったのか。いい人だ。


「そ、そうです。全然キモくなんてありません」


 月羽も精一杯の勇気を出して反論してくれた。

 小野口さんの背中に隠れながらだったが、それでも反論してくれたことに嬉しさを憶える。


「な、なによ!?」


「キモイ奴にキモイって言って何が悪いのよ。そいつ別に反論とかしないじゃん。あたしらが何を言おうが勝手じゃない」


 漂う青士さん臭。あの人より威圧感はないが。

 しかし、よく僕が反論しないって分かったな。

 あの子達、多少なりともぼっちの考えが分かっていらっしゃるようだ。

 しかしこのままではギャラリーが喧嘩始めそうだ。どうするか……


「こらこら、キミ達。女の子が汚い言葉を吐いちゃ駄目だ」


 まさかの伏兵!

 池君が僕を庇ってくれている!

 この人、まさか性格までイケメンだというのか!?


「この俺がそれで不快な想いをしたらどうしてくれるんだい?」


 僕を庇ってくれていたわけではなかったのね。

 この斜め上の発想こそがイケメンたる所以なのかもしれない。


「きゃあああああ! 優琉きゅぅぅん。ごめんなさぁぁぁい!」


「私達、今日から美しい言葉しか使わないざますわよ。優琉きゅんの為に!」


 でも池君のお陰で一触即発の空気は避けられた。

 なんだかんだいって発言力がある。さすがイケメンだ。


「イーケメン! イーケメン!」


 誰かがイケメンコールを放ちだす。

 それに続き、会場中が沸きだし始めた。


「「「「「イケメン! イーケメン! イーーケメン!」」」」」


 こ、これは……

 彼のイケメン力がこのイケメンコールを引き起こしたというのか!?


「ふっ、そんな本当のことを大声で言うなよ。照れるじゃないか」


 イケメンでも照れるんだな。この可愛らしさと愛くるしさもイケメン力が成せる業!

 今日、僕は本物のイケメンというものを目の当たりにした!


「おっと。フリースローだったね。俺がイケメンすぎて忘れていたよ」


 この人は3分に1回は明言を吐くなぁ。

 イケメンじゃないと言えない言葉って結構あるようだ。


「イケメンは――フリースローを――」


 ボールを拾い、位置に着く。

 そのままボールを天に掲げ――放る。


「――外さないっ!」


    ガンッ!


 リングがボールを弾いた。


「「「「…………」」」」


 は、外した?

 『外さない』なんて言いながら、外した?


「イケメンリバウンド! アーンド、シュウッ!」


 池君は自らボールを拾い、タッチアップでボールを再び放る。

 そのままボールはリングを通過した。


「ふっ、ワンスローは1点獲得のチャンス――しかし! 僕はそのチャンスをイケメン力で2倍の点数を獲得してみせたのさ」


 髪をフッサァと掻き揚げる。

 次の瞬間、会場は割れんばかりの歓声であふれかえっていた。


「きゃああああああああ! 池くんすごぉぉぉぉぉぉい!」


「ファンタスティィィク! イケメン・ファンタスティックよぉぉぉ! 略してイケスティックよぉぉ!」


「「「イケメン! イーケメン! イーーケメン!」」」


 凄すぎる。

 この人は何もかも規格外だ。

 僕なんかが太刀打ちできる相手じゃなかった。


「イケメンは世界を――?」


 突然池君がギャラリーに向けて言葉を投げた。

 ギャラリー達はすでに答えを持っていたようで揃ってこう叫んだ。


「「「「救うっ!!」」」」


 すごい。これだけ大勢の人数を完全に掌握してしまっている。

 ここまで綺麗に声がそろうことって滅多にないぞ。


「「「…………」」」


 沸きあげる会場。

 一方、僕含めA組のチームメイト、それに月羽と小野口さんは口を半開きにしたままただただその光景を唖然としながら眺めていた。


 そして当然ながら球技大会バスケットボールの部はE組がA組を圧倒して輝かしく優勝を決めていた。


見てくれてありがとうございます。

とりあえずイケメンこと――池=M=優琉君の登場回ですね。

今回は高橋君や星野さんとの絡みは少なかったけど、このイケメンが後々厄介な存在に――

だけどそれはまだ未来のお話。

次回はまた平和的な経験値稼ぎ回になると思います。

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