第二十八話 それでも一郎君は来てくれました
今回も長いです。
でも最後まで見てくれると嬉しいです。
月羽視点からスタートです。
昨日は久しぶりに一郎君とお話しした。
正確にはICHIRO君でしたけど、あの人とチャットしただけでこんなにも安らかな気持ちになれるなんて。
ここ最近のもやもやが嘘のようです。
一郎君にまた元気をいただきました。
もしかしたらまた学校に行けるかも。
学校に行って……また一郎君と経験値稼ぎを……
「…………」
できない。
学校に行きたいけど……
一郎君と経験値稼ぎしたいけど……
『カンニング女』
クラスメートにそう呼ばれることに耐えうるメンタルを私は持ち合わせていません。
『センセー。わたしー、星野さんがー、カンニングしているところをー、みたんすけどー』
先週の月曜日、突然言われたこの言葉が始まりだった。
もちろん私はカンニングなんてしていません。
でも、私はそう主張する勇気が無かった。
いつもみたいに成り行きに流されて……パニックで何も言い返すことができなくて……カンニング女のレッテルを成すがままに貼られてしまった。
私は何もできず、みっともなくその場で泣き崩れて学校にいけなくなった。
もしまた学校へ行ってクラスメートに罵られたら……
きっと私は耐え切れずに一人で泣き崩れてしまうだろう。
一人で……
一人ぼっちで……
このチャットルームの中に居るムーンフェザーみたいに、私は一人ぼっちで――
【ICHIROさんが入室しました】
「あっ――」
一郎君。
ホントに今日も来てくれた。
一人ぼっちで落ち込んでいる時、一郎君はいつも私を励ましてくれる。
――『じゃあ私と一緒に……経験値稼ぎをしてください』
私の我儘を聞いてくれた。
こんなふざけた申し出に答えてくれた。
いつも全力で答えてくれた。
私の親友――
大好きな――
ICHIRO{ちょっと月羽!}
一郎君が――じゃなくてICHIRO君が入室していきなり私の名を呼んできた。
ICHIRO{なんでまた部屋にパスワードかけてるのさ!? しかも昨日とパスワード違うし!}
ムーンフェザー{いいじゃないですか。それでも一郎君は来てくれました}
そう――来てくれた。
私のちょっとした悪戯にもめげずに今日も来てくれました。
ICHIRO{今日は解読に80分かかったよ!}
ムーンフェザー{だからかかりすぎです!}
むー、昨日もそうだったけど、答え丸わかりなヒントを部屋名に残してきたのに、どうして変な所で鈍感なんでしょう、この人は。
ムーンフェザー{それにしても今日も遅い時間ですね。お出かけしていたのですか?}
ICHRO{まあね。明日どうしても必要なものがあってさ。ずっとそれを探してたんだ}
ムーンフェザー{明日必要なもの?}
一郎君の言っている意味がよくわかりませんでした。
明日は月曜日。特にイベントもない普通の平日。
私が捨てた……学校での日常。
ICHIRO{メールで言ったでしょ?}
メール。
一郎君からもらった私を泣かせたあのメール。
『 月曜日にカンニング疑惑の真相解明する
火曜日に月羽の無実を先生に報告する
だから、水曜日にはまた会えるね。 』
もしかして!
ムーンフェザー{カンニング疑惑の・・・真相解明?}
ICHIRO{そそ}
本気……だったんだ。
この人は本気で私を助けようとしてくれている。
昨日、私の方が一郎君のことを信じていると言った。
でも心のどこかで私は一郎君のことを信じていなかったのかもしれない。
カンニング疑惑を晴らせることなんてできっこないと勝手に決めつけて諦めていた。
応えたい。
私も一郎君の頑張りに応えてあげたい。
でもどうやって?
どうすれば私は一郎君に報いることができるのですか?
ICHIRO{大丈夫だよ、月羽}
――えっ?
ICHIRO{月羽を助けられる}
画面越しでも感じられる一郎君の強い想い。
絶対に大丈夫、という気持ちにさせてくれる。
この人は……強い。
私も一郎君みたいに強くなりたい。
一郎君に報いたい!
ICHIRO{じゃがいもスターが月羽を助けてくれるよ}
6月4日月曜日。
衣替え期間だけあって彼方此方夏服学生が目立つ。
ていうか僕みたいに未だ冬服でいる生徒の方が少ないな。
って、衣替えの事なんてどうでもいい。それよりも今日は決戦の日だ。
即ち、今日一日で月羽のカンニング疑惑の真相を突き止め、更に冤罪の証拠を掴まなければいけない。
でも直ぐに行動に出るわけではない。
授業合間の休憩タイムでは時間が少なすぎるし、始業前でも時間が足らない。
きっと長丁場になることは予想できるから、対決には最低でも三十分は欲しい。
だから行動に移すのは昼休みだ。
昼食時間を省いてまで、僕は『彼女』との対決に挑もうと思っている。
だからそれまで英気を養おう。
僕はいつものように机に突っ伏しながら、来たる対決へのイメージトレーニングに励んでいた。
昼休み。
二年B組。
月羽のクラス。
月羽は居ないけど、犯人なら居た。
月羽を陥れた犯人は呑気に弁当箱を広げていた。
「ちょ! 青士の弁当やばくね? めっちゃうまそうなんだけど」
「昨日の残り物だっつーの。なんか全体的に茶色くてクソ不味そうだっての」
「えー。んなことねーっしょ。その唐揚げとかマジ美味そうだし」
青士――下の名前は知らないさん。
即ち犯人。
月羽を不登校に陥れた張本人。
なぜ僕がそんなことを知っているのかというと……まぁ、いいや。説明めんどい。とにかく彼女が元凶であることを僕は知っていた。
しっかし、妙な取り巻きがいるなぁ。取り巻きっていうより青士さんの友達か。どっか行ってくれないかな。
まぁ、そんなのを待っていたら日が暮れてしまう。
日が暮れた時点で自動的に僕の敗北が決まってしまう。
仕方ない。行こう。
――っと、その前に『じゃがいもスターの盗聴』の録音ボタンをONにして……と。
よし、準備完了。
見ててよ、月羽。
この昼休みに決着を付けてやるんだ。
「あ、あの……青士さ~ん――」
「しっかし、青士の弁当全体的に片寄ってね?」
「カバンの中で横になったんだよ。てーか、弁当の中身を寄らせずに持ってくる方が難しくね?」
「いや、お前だけだよ、毎日毎日弁当片寄ってんの。案外ドジよね、青士」
うおう。無視された。
あ、いや、普通に僕の声が小さすぎて聞こえなかっただけか。
しかしとことんヘタレだな僕。対決前の緊張感が台無しだ。
とにかく気を取り直して、もう一度。
「ぅおおおぉおい! あぁぁおしさぁっぁん!」
三世のルパンのみたいな情けない声がB組教室に轟く。
うおおお! 全員して僕を見るなぁぁあ! いいから青士さん以外は食事を続けていてくれぇぇぇ!
「青士―、ご指名―」
「あん?」
取り巻きみたいな友達が気付いてくれたおかげでようやく青士さんがこっちを向いてくれた。
その程度のことで安心している僕って何なのだろう。
「んだよ、高橋じゃん。無視無視―。放置でおけ」
ぅおおおい!
まさかの放置キタ。
やめてよ、そういうの。地味にメンタル傷つくからやめてよ。
――なんて風に二ヶ月前の僕なら思っていたんだろうな。
今の僕は違う。
ちょっと放置されたくらいで動揺したりしない。
むしろ自分から無視されるように努力したことすらあるんだ。
即ち、気配を消すオーラ。
弱点の考察と克服へのシミュレーションは月羽との経験値稼ぎで身に付けている。
放置されることにダメージを負うようなことはない。
更にいうと、僕は気配を消すオーラと共にもう一つのオーラを身に着けた。
自分に話しかけてくれ~というオーラだ。
主に休み時間の十分間に退屈しない為に身に着けようとしたオーラだけど、この場でも使える。
僕はゆっくりと目を閉じる。
そして静やかにオーラを醸し出す。
ふっ、これで青士さんは僕に話掛けざるを得ない。
「あ、あいつ、なんか目を閉じてニヤニヤしてんだけど」
「き、きめぇ」
僕のオーラに充てられたギャラリーが騒いでいるみたいだ。
さぁ、青士さんも来るがいい。
「痛ぇ奴だったんだな、高橋。まぁいいや、オモシレ―、相手してやんよ。こっちきな」
うぉ!
本当にオーラ通用したよ。
総経験値200のパワーすげぇ。ていうかいつの間にかオーラをマスターしていた僕もすげぇ。
とにかくこれで戦いの土俵に上がることができた。
ここからだ。
「で、あたしに用みたいだけど、なんなん? つーか、飯食うから勝手に喋って」
言いながら、本当にお弁当を食べ始める青士さん。
うわぁ、僕なんて眼中にないって感じだよ。
僕なんかよりよっぽどオーラあるなこの人。相手を圧倒するのに慣れてる感じだ。
「じゃあ勝手に喋らせてもらうけど……無実の月――星野さんに在りもしないカンニング疑惑を着せたのは青士さんだよね?」
「はぁ? お前何言ってんの? はぁ? はぁぁ?」
「女の子があまりハァハァ言わない方がいいよ。女子の変態は可愛くないから」
「ちょっ――!」
僕の煽りに顔色を変える青士さん。
思った通りだ。この人は他人に煽るのは得意でも自分が煽られるのは慣れてないようだ。
「今なら許してあげるから、星野さんの無実を先生の前で証明してくれないかな?」
「はぁぁぁ!? 別にお前に許してもらわなくてもいいし! つーかなんでそんなに偉そうなわけ?」
なんていうかこの人、思っていたよりずっとチョロイ気がする。
早くもボロを出し始めているんですが。
「ふーん。つまり青士さんが星野さんに冤罪をきせたのは認めるんだね。じゃあついで無実照明もお願いね」
「ちょ! んなわけねーし。あたしが星野にカンニング冤罪きせる意味がわからねーし。勝手に妙な言いがかりつけんじゃねーよ!」
「あれ? でもセンコーにカンニング報告したの青士じゃなかったっけ?」
今まで黙っていた取り巻きが不意に喋り出す。
ていうかこの子もチョロイな。勝手に青士さんが不利な証言を漏らしているし。
「ばらすんじゃねーよ、小野坂! あたしは星野がカンニングしていたのをたまたま目撃したから告発しただけだっつーの」
取り巻きその一の名前は小野坂さんと言うらしい。
って、今はそんな情報どうでもいいか。
「ふーん。じゃあ具体的に月――星野さんはどんな風にカンニングしていたの?」
「はぁ? どんな風ってなにさ? カンニングにどんなも糞もあるか」
段々と僕のペースになってきている気がする。
最初は聞く耳もたない感じの彼女だったけど、煽れば煽るだけ挑発に乗ってきてくれる。
正直言って煽ったり挑発したりするのは得意じゃないけど、ここは頑張りどころだ。
少し嫌な奴と思われるくらいが丁度いい。まだまだ煽っていくぞ!
「青士さん頭弱い人なのかな? カンニングって言っても色々あるでしょ? 他人の答案をコッソリ見たとか、答えの載っているメモ用紙を持ち込んでいたとか」
「ああ!? 誰が頭弱いって!? 言っとくけどおめーなんかよりあたし頭良いから」
「ハイハイ頭いいでちゅねー。んで? 星野さんはどんな風にカンニングしていたの?」
ちょっとやりすぎなくらい煽りまくる僕。
先ほどから教室中の視線全てを集めているけど気にしない。
本当は今すぐ逃げ出したいくらい気になるけど気にしない。
「てめっ! チョーシに載んなよ! あたしの人脈ぱねぇって前言ったよな? あたしがちょっと頼み込めばフルボッコだかんな! フルボッコ!」
「……ふーん。何が何でもカンニング方法について語りたくないんだね。まっ、そりゃそうだよね。全部青士さんの作り話なんだし。そこまで細かい設定考えてなかったんだね」
「こい……つ! どこまでも舐めやがって! この前まで絶望面していた奴がよ!」
おっ。
話題逸らしに必死な青士さんが僕の欲しがっていた話題を提供してくれたぞ。
正直、どのようにしてこの話題に持っていこうか考えていたけど、相手の方から話題を作ってくれたのはありがたい。
「あー、先週の木曜日だね。うん。それは認めるよ。絶望してた。友達が大変な目に遇っていたからね」
付け加えると友達が大変な目に遇いながら何もしていなかった自分自身の不甲斐なさに悔しがっていた。
「そうさ。あの時の顔しろよ。ほら今すぐしろよ。この場で泣き崩れなさいよ。おら!」
今度は青士さんが僕を煽りに来ている。
だけどそんなの最初から予想内。
ビビる必要など一切ない。
「あの時――さ。青士さん僕に言ったよね」
「あ?」
「『ざまぁ』って」
先週のことを思い出したのか、青士さんは愉快そうに表情を変容させる。
「ああ。あの時は傑作だったね。その一言でのアンタの面の歪みっぷりには笑ったわ」
「どうして『僕』にざまぁなんて言ったの?」
「あ?」
「どうして星野さん本人じゃなくて、『僕』に言ったの?」
あの時、僕からしてみたら突然すぎる絶望宣告だった。
その一言で絶望の淵にまで彷徨った。
でもそれが、僕に絶望を浴びせるネタ――即ち月羽のカンニング疑惑がもともと仕組まれたものだとしたら?
「青士さんはさ。最初から『僕』に絶望を浴びせることが目的だったんじゃないの? その手段として星野さんに在りもしないカンニング疑惑を与えた」
青士さんは僕を嫌っているのはあの食堂の事件で明らかだ。
隙があれば、僕に仕返しがしたいと思っていただろう。それも以前の計画性のない殴り込みで明らかだ。
つまり、月羽は青士さんのくだらない仕返しの為に犠牲になったということだ。
まぁ、それは僕の予想でしかないけど、もしそれが真実ならば……
カンニング疑惑によって僕が絶望すれば青士さんの目的は達成される。
例の『ざまぁ』は目的達成による勝鬨と考えるのが一番自然な気がしたんだ。
「ちょ、青士~、それマジだったらシャレにならないんじゃ……」
「うっせー! 小野田! ちょっと黙れや!」
取り巻きその2の名前は小野田さんというらしい。
小野何とかさん多いな、このクラス。
「高橋も何探偵気取りになってんの? 現実と漫画の区別がつかなくなっちゃった系? マジウケんだけど」
青士さんは僕の質問答えず、また話題逸らしを図りだす。
ちぇ。意外と冷静だ、青士さん。ここで怒りに任せて『そうさ! あたしがアンタ達を嵌めたんだよ! それが何か?』みたいに逆切れさせることが狙いだったのに。煽りが足りなかったかな。
でも、そっちがその気なら、こっちも強気で応戦するのみ。
「まぁいいや。話は戻すけど、星野さんはどんな風にカンニングしたか教えてくれる? 時間たっぷりあげたんだし、そろそろ思いついたでしょ?」
「思いついたって何だよ! ……いいさ。教えてやる! 見たんだよ、星野が他の奴の答案を覗き見ていたところをな!」
「ふーん。誰が目撃したの?」
「あたしさ! あたしがその犯行現場を現行犯で目撃していたんさ。巧妙に覗き見ていたつもりだったんだろうけど、正義感溢れるあたしの目は誤魔化せなかったってことさ」
何が正義だ大魔王め。
「星野さんは誰の答案を覗き見ていたの?」
「なんでんなことまで言わねーとならねえんだよ!?」
「あー。また考えてなかったんだね。青士さん。犯行にまるで計画性ないね。また時間あげよっか? 設定考える時間」
「てっめ……っ! ……っち! 小野口だよ! クラス一の天才ちゃん小野口の答案を覗き見てやがったんだ!」
また小野何とかさんか。どうなっているんだ、このクラス。
って、そんなことよりもこれは有力証拠じゃないのか?
月羽の答案とその小野口さんの答案を照らし合わせれば、月羽のカンニング疑惑が晴らせる。
「ほんっとうに小野道さんの答案を覗き見てたの?」
「誰だよ小野道って! お・の・ぐ・ち! あそこに居るさえねー眼鏡女の答案を覗き見てたんだよ!」
僕は表情には出さず、心の中でほくそ笑む。
もう十分だ。証拠は完璧に集まった。
指さしてまで指摘した時点で青士さんにもう言い逃れはできない。
無実が証明された後に、『あー、小野口じゃなくて小野山だったかな? てへ』みたいな手段はこれで通用しない。
青士さんは――もう詰んだ。
音声証拠として胸ポケットの中にいるじゃがいもスターがしっかりと盗聴してくれたことだろう。
よし、もうこの場にいる必要はない。昼休みの時間もまだ余っているし、今から教師に報告しに――
「おい、なんだ? それ」
あ――
青士さんが左手で僕の肩を掴むと、余った右手で僕の胸ポケットに突っ込んできた。
しまった。勝利を確信した時にチラッと胸ポケットを覗き見たのが災いした!
青士さんは僕の胸ポケットからじゃがいもスターの録音機と取り出した。
「なんだこれ?」
不思議そうに録音機の隅々に視線を充てる青士さん。
やがてそれが録音機あることに気付いた彼女は、不敵な笑みを僕に向けてきた。
「はーん。今までの会話、全部録音してたってわけだ」
わけです。
「ほんっとうにマンガみたいなことしてくる奴だな、てめぇ。でもまぁ、発見できてよかったわ……つーわけで」
つーわけで?
「おぉぉぉっとぉぉ! 手が滑ったぁぁぁぁぁぁ!」
バキィィッッ!
手が滑ったと豪語しながら机に思いっきり録音機を叩きつけた。
じゃがいもスターの上半身と下半身が分かれた。
「おぉぉぉっとぉぉ! 足も滑ったぁぁぁぁぁぁぁ!」
ダンッ! ダンッ!!
足が滑ったと豪語しながら、今度は続けざまに足で踏み倒しまくる青士さん。
もうこの時点で録音機としての機能も死んでいるだろう。たぶん再生もできない。
じゃがいもスターが青士さんに殺されてしまった。
「わっり、高橋。ベンショーすっから許して。ほれ」
ちゃりん、チャリン。
僕の目の前に転がってくる一枚の茶色い硬貨。
10円玉だった。
「金払ったんだし、これあたしが貰うわ。ハッ! 思い通り行かずに残念だったね、高橋」
上から見下すように視線を突き刺してくる青士さん。
形成逆転、と言わんばかりに。
「言っとくけど、この教室内にいる奴等は口を割らないよ。チクった奴はあたしの人脈使ってフルボッコにされるって知ってからね。あんたと違って利口な連中なのさ」
その言葉に納得がいかず、教室内を見渡してみる。
僕と目があった生徒は次々と下を向いていった。
うわぁ、本当に青士さんってクラスの総大将だったんだ。
「てなわけで早くき・え・ろ。あんたのせいでベントー食う時間無くなっちゃったじゃねーか」
「…………」
「んだよ? その目。まだいっちょ前に怒ってんの? 高橋の分際で」
「……帰る」
そう言い残すと僕はB組に背を向け、教室から出て行った。
「ぎゃははははっ! もう来んなよ、ヘタレ野郎!」
「…………」
青士さんの愉快そうな笑い声が廊下にまで聞こえてくる。
青士さんの言う通り、僕はたしかに怒っていた。
――B組のクラスの連中全員に対して。
お前らが青士さんなんかに服従しているせいで月羽は――
月羽が学校に行きたくない気持ちが少し分かってしまった。
あんな環境の中に月羽は今まで居たんだ。
一年間も。
「これはもう青士さんにとことん痛い目に遇ってもらわないとなぁ」
二度と月羽に手を出せないくらい徹底的に。
ああいうタイプは一度完全敗北を憶えておくべきなのだ。
その敗北により、青士さんの支配は薄れるかもしれない。
そうすれば取り巻きの連中も心を変えて、青士さんから離れていくかもしれない。
それに僕自身、この怒りをぶつけなければ気が済まない。
僕はB組生徒全員に対して怒っているけど、その怒りを青士さん一人に集中させることを心に決めた。
じゃがいもスター。仇は取ってやるからね。