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Experience Point  作者: にぃ
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第三話 第一回目の経験値稼ぎの件についてですが……

ちょっと更新が遅くなってごめんなさい。

第三話投稿致します。


 腕を平行に並べ、そこに頭を乗せる。

 僕の得意のポーズなのだが、実はポーズを維持するにはコツがある。

 第一条件として制服の袖を少し捲ること。

 これをやらないとオデコに制服の繊維の痕が残ってしまい、ちょっと残念なことになってしまう。


 第二の条件として、最低でも五分に一度、右腕と左腕の位置を入れ替えること。

 そうしないと、オデコを乗せている方の腕の血が止まってしまうのだ。

 ふっ、僕くらいのクラスになるとそれを瞬時に行うことができる。

 世界一どうでもいい自慢だった。


 おっと。今日の僕の目的はそんなプチ自慢じゃない。

 とりあえず盗聴モードに入っておこう。


『昨日のドラマみたー?』


 アニメを見ろ。アニメを。


『あー、あたし見てないわ。クイズ見てた』


 アニメを見ろ。アニメを。


『海王星トリオのクイズ? 好きだねー』


 アニメを見ろ。アニメを。


『それよりさ、あんたバイト始めたんだってー?』


 ………………


 …………


 ……


 ふーむ。

 今日の休み時間、全ての時間を盗聴モードに当てていたが、僕の欲しい情報は手に入らなかった。

 そう、星野月羽に関する噂をもしかしたら聞けるかもと思ったのだ。


 昨日の屋上にて、星野さんは寝たふりをしながら僕の噂を聞いたと言っていた。

 だから僕も同じことをすれば星野さんの噂を聞けるかもと思ったのだが、うまくいかなかった。

 もしかして『ぼっち力』というものが僕の方が上ということなのだろうか? 僕と星野さんは同じくらいぼっちだと思っていたのに。


 まぁ、なんにせよ今日の放課後だ。

 星野さんとは昨日と同じく放課後に屋上で待ち合わせをしている。

 例の経験値稼ぎが今日から始まるらしいのだ。

 楽しみな反面、変な緊張感が膨れ上がる。


 今思えば女子と二人で放課後過ごすってとんでもないことじゃない?

 やばいな。変な意識してきた。

 放課後までに平常心を取り戻すように努力しよう。

 ……寝たふりをしながら。







 星野月羽は小柄の女の子だ。

 女子並に背の低い僕よりも小さいのだから相当だ。

 一つ残念なのが、長くて綺麗な黒髪になんら装飾していない所だ。

 いや、別に染めろって言っているわけではない。寧ろ僕は黒髪が一番好きだ。

 そうじゃなくて、結んだり、留めたり、纏めたりすると可愛くなると思う。

 あっ、現段階でも僕は結構かわいいとは思っている。

 ……簾のような前髪とそこからチラリと見える瞳が少し怖いけど。ていうかこれが絶対人から避けられている原因な気がする。


 そんな星野さんは今日も放課後の屋上で僕を待ってくれていた。

 彼女は僕の姿を発見すると照れたようにはにかんでいた。


「こ、こんばんはっ」


 ……夜か? 今。


「早いんだね。急いだつもりだったんだけど……」


「い、いえ! 私も今来た――二分前に来たばかりですので!」


 うん。彼女と似たような思考をしているらしい僕には、星野さんが言い直した理由が何となくわかる。

 『今来たところ』ってリアルに言うのが恥ずかしいのだ。だって定番中の定番過ぎて。

 むしろ具体的な数値を出して待った時間を申した方が恥ずかしい気も……いや、どうでもいいかこんなことは。


「ごほんっ! それでですね、第一回目の経験値稼ぎの件についてですが!」


「うん」


 さあ、来たぞ。

 一番の心配点だった具体的な経験値稼ぎの概要が来たぞ。

 なんでもこい! 大火傷する覚悟はできているんだぞ!


「お、お話をしましょう」


「…………えっ?」


「きょ、今日の経験値稼ぎは、お、お話です!」


 いや、ちょっと待て。

 拍子抜けもいいところなんですが。


「金属バット片手に窓ガラスを割って回れ~とか盗んだバイクで走り出せ~とか言われるのだと思ってた」


「そんなわけないじゃないですかぁ! レベル1の村人が無装備で魔王に挑戦するようなものですよ!? それ! ていうか、そんなことやったら普通に犯罪です!」


 星野さんのツッコミはいつ聞いてもいいなぁ。キレがある。

 まぁ、今の例は確かに極端すぎたと自分でも思うけど、もうちょっととんでもないことをやるんだと思っていましたよ?


「お、お話するのだって今の私には――私達には十分すぎるほど高い経験値を得られます! た、高橋君は異性の人と会話をできるっていうんですか!?」


「僕達昨日していたような?」


「揚げ足とるの禁止です! と、とりあえずコミュ症のワクチンは会話しかないと思います!」


 言っていることは確かに正論だ。

 しかし異性との会話か。中々の難易度設定だ。でも第一回目の活動としては妥当かな?


「ま、まあ、確かにそうだね。んと、じゃあ、ここでお話し?」


「は、はいっ! 天気も、い、いいですし、ここ、で、お話しします!」


 この子、緊張すると面白いくらい声どもるな。

 僕も人のこと言えないか。さっきから声が震えているの自分でも気づいていますから。


「じゃ、じゃあ、そこのベンチで。あっ、いや、あっちのベンチで話す?」


「いいですね! 隅っこのベンチを指名とは! さ、さすが高橋くんです!」


「あ、ありがとう?」


「はい」


 なぜ僕達は話をしようとしているだけなのにこんなに緊張しているのだろうか?

 これがぼっちのコミュニケーション能力の限界なのか。親縁以外と会話しないもんな、基本。

 星野さんもそうなのかな? そうだったらいいな。いや、よくないけど、その、仲間意識みたいなのあるじゃん?


 そんな不毛なことを思いながら、僕たちは屋上隅っこの人目のつかないベンチに腰を掛けた。

 なぜかベンチの端と端に座ってしまった。

 これが僕と星野さんの距離か。

 経験値を積めばこの距離も縮まるのかな? そう願いたい。

 よし、やる気出てきたぞ。ここは僕から話題を降ろう。コミュ症予備軍ながら頑張らせて頂こう。

 ふっ、僕はここで天気の話を降るとかベタなことはやらないぞ。


「い、いい天気ですね!!」


 うわお! 僕のやる気を余所に星野さんが先に話掛けてきてくれた。

 そしてベタな子だった。


「あ、明日は天気悪いらしいよ」


「そうなんですか?」


「そうみたいだよ」


「そうなんですかぁ~」


「…………」


「…………」


 うん。わかってた。天気の話題が降られた時点でこうなるのはわかってた。

 僕の現経験値では天気の話題を広げることができないことくらいわかってた。

 しかし、まずい。このままでは気まずくなってしまう。それだけは避けなければ!


「ほ、星野さんはツイ〇ターとかで、いつも『ナンパされた』とか『告白された』とか報告している人が、『私、非リア充過ぎワロタ』とか呟いていることをどう思う?」


「へ、反吐がでます!」


「そ、そうだよね! うん、僕も同意見だ」


「は、はい」


「うん……」


「…………」


「…………」


 いや、ないだろ僕。今の話題の振り方はないだろ。

 まだ天気の話題を降っていた星野さんの方がマシだ。

 よし、リベンジしよう。


「星野さん、五分以上の会話持続を目標に頑張ってみよう。じゃないな、一緒に頑張ろう」


「へっ?」


 星野さんはキョトンとした後、なぜか驚いたような表情をしている。

 心なしか嬉しそうにも見える。勘違いかもしれないが。


「五分以上会話が切れることなく終われば経験値獲得。できなければ負け。それでどう?」


 第三者が聞いたら意味不明なことを言っているように見えるだろう。

 いや、実際意味不明だが。そもそも負けってなんだ。何に負けるんだ。


 しかし、星野さんは驚いたような顔でコクコクと大きく何回も頷いていた。

 よし、戦闘スタートだ!


「…………」


「…………」


 駄目な奴等か!? 僕達は! 初っ端から黙ってどうする!?

 気を取り直して、こ、今度こそ戦闘スタートだ。


「『食事の脂にこれ〇本』というブレンド茶って、食前と食後、どっちに飲んだ方が健康的だと思うかな?」


「高橋君、その話題で五分繋げる自信あるんですか?」


「星野さんの返し次第ではいける!」


「人任せじゃないですかぁ! ついさっき格好良いこと言っていたのに台無しすぎです!」


 格好良いこと? 僕なんか言ったっけ?

 まぁいいや。


「あのブレンド茶ってネーミングの勝利だと思うんだ! 正直僕はあの名前じゃなかったらハマるほど飲んでいなかった」


「繋げた!? あの話題つなげました!?」


「ネーミングと言えば星野さんって綺麗な名前だよね? 月羽……だよね? 月に羽で。いいよなぁ」


「突然変な方向に繋げました! で、でもお褒め頂き、ありがとうございます。だけどちょっと嫌なんですよ。ほら、今流行りのキラキラネームの先駆けみたいで」


 おっ、思ったよりも自然な流れができた。

 コミュ症予備軍にしては出来過ぎな展開だ。僕、超頑張ってる。


「そうかなぁ? キラキラネームなんて思わないけれど。むしろ羨ましいよ。僕なんて一郎だよ? 高橋一郎だよ? 日本中に同性同盟が何万人いるんだって思うよ」


「何万人はさすがに言い過ぎかと。でも私は良いお名前だと思いますよ? 少なくとも『月羽』なんて変な名前よりずっとず~っと親しみが持ちやすいです!」


 おおぅ。自分の名前について褒められるなんて初めてだ。

 たとえお世辞でもすごく嬉しいぞ。


「親しみと言えば、地域のマスコットキャラクターである『サーファーゴリラ』。あれ、どう思う?」


「あ、あれ? 突然話が……まぁ、いいです。サーファーゴリラくんですかぁ。可愛いですよね。あまりゴリラっぽくない所とかそそられちゃいます」


「でもさ、あれって明らかに失敗作だと思うんだ。だってこの辺に海なんて全くないし。どちらかというと山に囲まれた田舎町だもんね。どうしてサーファー? って思っちゃったよ」


「そうですよね。たぶん街の全ての人が思っていることだと思いますよ? でもそれをツッコまないのが街の暗黙の了解みたいになっちゃっていますけど」


「サーファーと言えば、どうしてサーファーってイケメンが多いんだろうねー? いや、むしろサーフィンをすることによって骨格がイケメン仕様に変格されるのかなぁ?」


「あれ? ゴリラ君の話は……ま、まぁ、いいです。わ、私はサーファーの人ってちょっと怖いイメージがありますね。なんというか、身体が大きくて体格が良い人って少し苦手なんです」


「そうなんだー。体格がいいと言えば英語のリチャード先生。あの人、きっと着痩せするタイプだよ!」


「わかりました。高橋君、ひょっとして会話が詰まりそうになると、わざと話題を変えているでしょう?」


 ちっ、もうバレたか。

 永遠と話題の綱渡りをすればミッション達成は軽いと思ったのに、さすが星野さんだ。思考が似ているだけあって僕の狙いが読まれてしまった。


「自慢じゃないけど、女子と二人っきりで話をするなんて偉業、入学以来昨日と今日が初めてなんだよ」


「本当に自慢じゃないですね。私も同じですけど」


「だからぎこちなくて当然。むしろ声が震えずに話せているのが奇跡みたいなものだよ」


「いえ、高橋君、さっきから言葉震えていますよ?」


 マジか。必死に震えを隠していたつもりだったけど、それでも緊張が表に出てしまっていたのか。

 本気でコミュ症かもしれない。


「でも気持ちはわかります。私、家族と電話するときも変に緊張しちゃいますもん」


「あー、電話か。あれは僕も無理だなぁ。会話が1分続かないもん」


「むっ! 高橋君。電話する相手がいるんですか!? 実はすでに経験値高い人なんですか!?」


 この人、時々おかしなキレ方をする。

 なんていうか……経験値脳?


「ふっ、こう見えても僕のケータイには三件も番号が入っているのだ」


「ああ、『父』、『母』、『自宅』ですね。高橋君も電話する相手は家族だけなんですね」


 エスパーか、この子は。なぜ僕のメモリ内容を知っている。

 そして嬉しそうに言わないでほしい。虚しくなるから。


「あ、あの……高橋くん」


「どうしたの?」


 なぜか星野さんが急にモジモジし始めた。

 突然俯いてどうしたんだ? 顔もほんのり赤い。


「け、携帯の番号、こ、交換しませんか?」


 その発想はなかった。

 いや、一緒に経験値稼ぎをしていく立場としては連絡先の交換なんて当然じゃないか。

 やばい。それがわかっているのに僕も妙に照れる。


「そ、そうだね。こ、交換しておこう」


「は、はいっ!」


 お互いの了承を得た所で、僕達は同時にカバンからノートを取り出し、名前、番号、メールアドレスをシャーペンで模写する。

 それを書き終えたところでお互いにノートを破り、相手に手渡す。

 最後に携帯に手入力すれば完了だ。


「おおおおっ! 二年ぶりくらいに登録番号が増えたよ!」


「私もです! 二年と三ヶ月ぶりに番号が増えました! 嬉しいです!」


 変なニアピンを見せる僕と星野さん。


「か、帰ってから、メ、メールとかしてみてもいいですか?」


「い、いいね! それはかなりの経験値を得られそうだ」


「で、ですよね! なんといっても同級生とメールですよ!? いっきにレベルアップしちゃいそうです」


 やばい、楽しみだ。メールを出し合うなんて、まるで普通の学生みたいじゃないか。


「と、ところで星野さん」


「は、はい! なんでしょうか?」


「実は信じられないことにアレから七分が経過してたんだ」


「……ぇええ!? 私達、いつの間にか戦いに勝っていたんですか?」


「そうみたい」


 携帯の番号を交換し合った時間がインターバルになったけど、それを差し引いても五分はとっくに経過しているだろう。

 つまり僕たちは『五分以上会話を持続させる』という戦いに勝利していたのだ。


「は、初経験値獲得です! や、やったああああ!」


 両手を振り上げ、バンザイしてよろこぶ星野さん。

 僕もそのテンションに連られて、同じように叫びながら喜んだ。


「いよっしゃああああああああ。これはすごい快挙だよ! 正直達成できるとは思わなかった!」


「私もです! やりましたね! 高橋君!」


 言いながら、星野さんは手を前に突き出してくる。

 ああ、ハイタッチか。

 ハイタッチって頭より上で手を合わせるやつじゃなかったっけ? どうして頭より下に手を出すんだろ? まぁいいや。


    ペチンっ。


 ハイタッチの割には響かない音が鳴った。

 いや、だってこうなるでしょ? 思いっきり手を叩いたら星野さん痛がるでしょ? 紳士の対応だよ。

 いや、ごめんなさい。女の子と手を合わせるのが恥ずかしくてつい弱弱しいハイタッチになってしまいました。


「ところでこれ、どれくらいの経験値を得たことになるの? なんかこう、具体的な数値的に」


「んと、30EXPくらい?」


 首を傾げながら言う星野さん。

 30ってどうなんだ? 序盤にしては多いのか? そもそもレベルアップに必要な経験値ってどれくらいなんだ?


「と、とにかくやったね! 30EXPゲットだ!」


「は、はい! 30EXPです!」


「さ、30Experience Point だね」


「30Experience Pointです」


「…………」


「…………」


 これ本当に第三者が見たら謎会話なんだろうな。

 ともかく二人して押し黙ってしまった以上、本日の経験値稼ぎはこれにて終わりの流れとなった。

 こんな感じで初日の経験値稼ぎは十分もせずに終了。

 しかし、それでも僕らには何とも言いがたい満足感があった。


 ちなみに――


「赤外線受信? なんぞ?」


 赤外線通信の存在を知ったのは、この日の夜であった。


見てくれてありがとうございます!

初経験値稼ぎ&30EXP獲得した所で第三話は終わりです。

『経験値稼ぎ』なんて名目だった故にもっととんでもないことをすると思っていた人ごめんなさい。

あくまでもコミュ症を治すことを前提とした経験値稼ぎなのでこんな感じの回が続いていくと思います。

青春モノっていうより日常モノって言った方が近いのかな?


獲得経験値:+30EXP

総経験値数:30EXP


~(2/18)追記~

ソタ。さんよりイラスト頂きました!

挿絵(By みてみん)

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