表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Experience Point  作者: にぃ
29/134

第二十七話 見つかっちゃいました

今回は久しぶりにちょっと長めです。

しかし7月はハイペースだったなぁ。見返してみたら7月中に7回も更新していました。

8月も同じくらいのペースを目指して頑張ります。

 カンニング疑惑の真相解明に必要な持ち物がある。

 ボイスレコーダーだ。

 それが今回の鍵となる。

 といっても録音さえできればなんでもいい。

 なるべく安くて音質の良い物もこの土日中に探す。


 まずは全国チェーンの大型電気店に行こう。

 ここならまず品切れってことはないだろう。


「え~っと……」


 しかし広い。

 えーっと、ボイスレコーダーは――

 あった。


 ――ICレコーダー『ボイストリック』。12000円(税抜)。


「たかいよ!」


 つい叫んでしまった。

 いや、これは最新型だ。旧型ならばもっと安いはず……

 おっ、これなんていいんじゃないか?


 ――ICレコーダー『クジラの声』。8300円(税抜)。


「だから高いって!」


 どうして最近の電子機器は高機能高価格なんだ!

 糞仕様でいいから安い物を置いてほしいものだ。切実に。

 おっ、これなんていいんじゃないか? ペン型ICレコーダーなんてものが置いてある。

 小さいし、これが高いってことはないだろう。もしかしたら3桁の値札が貼ってあるかもしれない。


 ――ペン型ICレコーダー『ナノスティック』。24000円(税抜)。


「嘘でしょ!?」


 3桁どころか余裕で5桁行ってました。

 そうだよね。小型イコール安いなんて昭和の話だ。今は小さい物ほど高い。なぜかこの国は高機能なモノを小さく作る変な癖があるからな。

 とにかくこの店は駄目だ。高い物しか置いてない。もとい良いモノしか置いていない。

 そうだ、中古屋に行こう。

 うん。最初からそうするべきだったんだ。よし移動だ。







 ――ICレコーダー『盗聴くん』3500円(税込)。


「う~ん……」


 前の店よりは安いけど、やっぱりまだ高い。

 それよりこのネーミングはどうなんだ? この商品を作った人の気持ちが知りたい。

 ええい! 別の店だ!


 ――ボイスレコーダー『海坊主』2500円(税込)。


 色々な店を回ってみて分かったことがある。

 変なネーミングの物ほど安い。

 ……や、たまたまだとは思うけど、なぜか安いんだもん。なんだよ海坊主って。もはやボイスレコーダーと関係ないネーミングじゃないか。

 しかし、それでも2500円か。高い。500円くらいで買えるかなと思っていた今朝の自分が笑えてくるレベルだ。

 とにかく諦める訳にはいかない。カンニング疑惑を晴らすためにはどうしても必要なんだ!

 ――安くて良質なボイスレコーダーが。







 僕にはカンニング疑惑を晴らす当てがある。ていうか十中八九カンニング疑惑に関わっているであろう黒幕を知っている。

 月曜日はその人と対話する予定だ。

 だけどただお話するだけでは意味がない。対話の中で決定的な証拠を生み出さなければいけない。

 それを録音するためのボイスレコーダーだ。


 僕の計画ではこうだ。

 月曜日での対話で決定的な証拠をつかむ。それを録音する。

 火曜日に録音した物を証拠として教師に提出する。

 そして水曜日に月羽復活で大団円だ。

 楽天的な手段ではあるが、それが一番効果的で確実だと思う。

 証拠として提出するには信憑性も高いしね。

 でも対話を録音するとなると中々に良質なモノを手に入れなければいけない。ノイズしか拾わない録音機じゃ意味ないからなぁ。

 だが高い。予算が2252円しかない僕にはそれを手に入れることが一番の難関かもしれない。

 でもここで挫けるわけにはいかない。今日一日全ての時間を使ってでも探し出してみせる!

 最悪今日が駄目でもまだ明日がある。







 6月2日土曜日。21時10分。

 明日どうにかするしかなくなった。

 もうどこも閉店だ。

 今日だけで何キロ歩いたか分からない。それくらい店を回った。

 結果、2252円以内のボイスレコーダーは見つからなかった。

 中古でさえどれも4000円近くするって詐欺じゃないか?


 とにかく明日だ。今の内にインターネットで電化製品店の場所を調べて――


「あ――」


 ふと目に入ったアイコン『アバタ―クエスト』。

 このアプリのおかげで月羽――というよりムーンフェザーと一緒に楽しみながら勉強することができた。

 なんとなく気になり、ダブルクリックをしてアプリを起動してみる。

 ムーンフェザーが居るわけないと分かっているけど、つい何かを期待してしまっていた。

 そういえば昨日月羽に送ったメールの返信がなかった。

 ついつい恥ずかしい内容のメールを送ってしまったけれど返信がないとこれきついな。スベったんじゃないかと思ってしまう。何か反応してよ、月羽。


「って、ぅええ!?」


 PCのディスプレイを見て僕はつい叫んでしまった。


 ――いる。


 フレンド登録している故にムーンフェザーのログイン状況が分かるのだが、そこに表示されているのが『オンライン』の文字。


 しかし、おかしい。

 ムーンフェザーがいるのはチャット部屋だ。ゲームをしているわけではない。

 それも一人。

 しかも部屋にパスワードを付けている。

 つまり月羽は誰も入れない部屋にたった一人でポツンと存在しているということだ。

 何をするわけでもなく、ただ居るだけ。


 まるで誰かを待っているように思えた。

 誰を?

 ……言うまでもない。

 このICHIROさんを待っているんだ。


 いや、もしかしたら誰かを待っているわけではないのかもしれない。

 僕を待っているなんてただの自惚れかもしれない。

 でも……


 自惚れでもいい。

 月羽は僕を待っていると思い込め。

 仮に待っていなくてもいい。

 僕が月羽に会いたいから会いにいくんだ。

 僕が勝手に月羽に――ムーンフェザーに会いに行くのだから誰にも文句は言わせない。


 さて、パスワード解読に挑もう。

 月羽がかけそうな鍵パスは……そうだな。

 ……これでどうだ?


 『EXP』


 入力完了。

 パスワードの入力は英字が数字だ。

 だとすれば一番月羽っぽいのがこの単語だ。

 さぁ、どうだ。


 【パスワードが違います】


 違うか。

 じゃあこれでどうだ?


 『keikenchi』


 もはや直球だ。

 でもすごく月羽っぽい。

 生粋の経験値脳である月羽っぽい。

 どうだ!?


 【パスワードが違います】


 マジか!?

 あの月羽が経験値とは関係ない鍵パスをかけたというのか?

 あの月羽が。

 ミス経験値と呼ばれた(勝手に呼んでいる)月羽が!

 ならば彼女の好きなモノで責める。


 これでどうだ?


 『tunamayo』


 オニギリの具材もサンドイッチの具材も彼女はツナマヨを入れると言っていた。

 もはや月羽イコールツナマヨといっても過言ではない。


 【パスワードが違います】


 なんだと!?

 あの月羽がツナマヨとは関係ない鍵パスをかけたというのか?

 あの月羽が。

 ミスツナマヨと呼ばれた(勝手に呼んでいる)月羽が!


 こうなったら片っ端だ。

 月羽っぽい単語をひたすら入力する!


 『moon_feather』


 【パスワードが違います】


 『bocchi』


 【パスワードが違います】


 『hetare』


 【パスワードが違います】


 『kawaii』


 【パスワードが違います】


 ………………


 …………


 ……


「だぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 知るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 もはや打つ手なし。

 月羽から連想できる単語をひたすら入力してきたが、どれもこれも【パスワードが違います】の一点ばり。

 早くパスワードを解読しないと月羽が部屋から退室してしまうかもしれない。

 何かヒントでもあればいいんだけ――ど?


「あっ……」


 ヒント、あった。

 普通に目に付くところにヒントあった。

 ていうか僕にとってはモロ正解がそこに記されてあった。


 そう――部屋名だ。

 月羽が作った部屋の名前がすでにヒントだったんだ。


 部屋名。

 《目標経験値は?》


「……ぷっ」


 やっぱり月羽だ。

 僕の知っている経験値脳の月羽だった。


 僕は一枚のプリクラを取りだした。

 そこにパスワードの答えが載っていた。


 『目標EXP100万pt』


 肩がぶつかってお互い見つめあったまま赤面している写真がそこにある。

 なんかコレを撮ったのもえらく昔のことのように思えるなぁ。

 とにかくパスワード入力だ。

 たぶんこれでいけるはずだ。


 『1000000』


 【ICHIROさんが入室しました】


 ほれ行った。

 僕と月羽しか知らないパスワード。

 つまり彼女はやっぱり僕を待っていたということになる。


ムーンフェザー{・・・見つかっちゃいました}


ICHIRO{うん。見つけた}


 そこに居たのは月羽そっくりのアバタ―、ムーンフェザー。

 ちなみにマイクは繋いでいないので、音声はない。

 何となく通話する気分でもなかったのでチャットのみの対話になる。


ムーンフェザー{でも一郎君なら見つけてくれると思っていました}


ICHIRO{入室に90分かかったけどね}


ムーンフェザー{かかりすぎです!}


 すごく月羽らしいツッコミだ。

 実に一週間ぶりである。

 でもなんか安心してしまった。思ったよりも元気そうで。


ICHIRO{それよりここで何していたの?}


ムーンフェザー{一郎君を待っていました}


 おぅ、

 おおぅ。

 おおおぅ!

 何その即答。めっちゃ照れる。めっちゃ嬉しい。

 そして自分を待っていたという事実が自惚れじゃないことに少し安心する。


ムーンフェザー{照れているんですか?}


ICHIRO{照れてないやい!}


 くそ。なぜ画面越しでも僕の内心を読めるんだ?

 どこまでもエスパーちっくな子だった。


ICHIRO{えっと・・・・いつから待っていたの?}


ムーンフェザー{んとー 火曜日からです}


 五日間も!?

 そんな長い時間月羽はずっと一人でこの寂しいチャットルームに居たというのか。

 今更ながら今週無駄に屋上で過ごしていた自分を呪いたくなった。


ムーンフェザー{一郎君が五日間も待たせました}


 怒っているのか拗ねているのかわからない。

 チャットじゃ相手の表情見えないからなー。ムーンフェザーも真顔だし。


ムーンフェザー{なんちゃって。上段ですよ}


 上段……?


ムーンフェザー{冗談です}


 なんだ、いつもの月羽か。

 別に怒っているわけでも拗ねているわけでもなさそうだ。


ムーンフェザー{ねぇ、一郎君}


ICHIRO{ん? どした?}


ムーンフェザー{その・・・}


 ………………


 …………


 ……


 ん?

 チャット止まった?

 サーバー落ちたとかそういうことじゃないよね?

 単純に月羽が何かを言い淀んでいるだけみたいだ。

 どうするかな。僕から別の話を振るか?

 それとも……


 ………………


 …………


 ……


 まぁ、待とう。

 時間はいくらでもあるんだ。

 ここは月羽の次の言葉を待ってみよう。


ムーンフェザー{私も・・・・その・・・・}


 おっ、きたきた。

 やっぱり待って正解だったみたいだ。


ムーンフェザー{ぅぅううううううううううううううううううう!}


 なぜ獣化した!?

 吹き出しと共にムーンフェザーの表情も変容する。相変わらず芸の細かいアプリである。


ムーンフェザー{なに恥ずかしいこと言わそうとしているんですか!?}


ICHIRO{なんのこと!?}


 あれ? やっぱり僕怒られてる?

 もう訳が分からないが、とにかく理不尽に責められていることだけはわかる。


ムーンフェザー{ぅうううう! と、とにかく私が言いたいことはですね!}


 責め口調で煽るようにムーンフェザーはICHIROに詰め寄ってくる。


ムーンフェザー{わ、私が言いたいのはですね・・・}


ICHIRO{う、うん}


ムーンフェザー{言いたいのはですね!}


 はよ言え。

 なんて思っているとムーンフェザーは顔を突然真っ赤になる。あくまでもムーンフェザーが。凄すぎだろ、このアプリ。

 そして彼女は意を決するように言葉を吐き出してきた。


ムーンフェザー{私の方が一郎君のことをたくさんたくさん信じているんですからね!}


 一瞬何を言っているのか本気で分からなかった。

 だけどすぐに月羽はこの間のメールのことを言っているのだと気づいた。


『 僕は月羽を信じてる。

 だから月羽は僕を信じてくれると嬉しいかな 』


 この文章も見られたってことか。改行も意味なかったな。

 しかし、ちょっと照れるな。月羽も僕を信じていると分かってちょっと――いやかなり嬉しい。

 ちゃんとお礼の返信もしなきゃ。


『ありがとう。月羽』っと。

 よし、Enterボタンを――


 【ムーンフェザーさんが退室しました】


「逃げた!?」


 あの子言うだけ言ってログアウトしやがった。

 たぶん赤面に耐え切れず逃げたんだな。

 このヘタレ具合、僕そっくりだ。

 でもせめてお礼くらいは言わせて欲しかったな。僕のタイピングスピードが至らなかったか。


 しかし、結局月羽はなぜこんなところに居たんだ?

 僕を待ってるって言っていたけど、そもそもそれがなせなんだろう?

 しかも先に退室しちゃうんだもんなぁ。

 結局謎は謎のままだった。


 【ムーンフェザーさんが入室しました】


 あ、あれ?

 月羽、戻ってきた?


ムーンフェザー{明日も来てくださいね! 絶対に絶対ですよ!}


 【ムーンフェザーさんが退室しました】


「それだけ言いに戻ってきたの!?」


 行動力あるのかないのか分からない子だ。

 とにかく明日もここで落ち合う約束ができた。

 また明日もこの場で会えることに僕は安堵していた。







 ――ICレコーダー『出涸らしの舞い』3300円(税込)。


 ――ボイスレコーダー『豆乳を投入』2800円(税抜)。


 ――ICレコーダー『曲がった靴べら』123400円(税抜)。


 音楽業界は消費者を舐めているんじゃないだろうか。

 こんな馬鹿げた値段のモノなんて誰が買うというのか。

 なんて負け惜しみを言っていたけれど、これがまた売れているみたいなんだよなぁ。おかしいのは音楽業界ではなく、無駄に金を持っている消費者の方か。

 持ち金2032円で買えるものはどこかにないものか。

 昨日より130円少ないのは気にしないで頂きたい。


 くっそ。タイムリミットは今日中なのに、このままでは月羽のカンニング疑惑を晴らすことができない。

 なんとしてもボイスレコーダーを手に入れなくては。

 もう機能なんてどうでもいい。買えればなんでもいい。

 この際オモチャでもいい。


 ……って、オモチャ?

 オモチャか。







 『玩具屋DONDON』


 街一番のおもちゃ屋。創立何十年も経つ老舗店だが、未だファンの多い店舗である。

 プラモ、ゲーム、電子部品、何故か初代たまごっちまで、何でもある。

 この品揃えならば、もしかしたら……と期待してしまう。


「まぁ、さすがにおもちゃ屋にボイスレコーダーなんて――ぅえっ!?」


 思わず目を疑った。

 そこに僕の探し求めている物が……あった。

 それはアッサリ見つかってしまった。


「まさかお前に救ってもらうことになろうとは」


 なんの伏線だよ、全く。

 でもまぁ、とにかく僕の探し求めている物が見つかった。

 これを持って明日の対決に挑むことになるのか。

 ……激しく不安が残るなぁ。



 ――ボイスレコーダー『じゃがいもスターの盗聴』110円(税込)。


見てくれてありがとうございます。

最近は全ての値段が高いですよね。特に電機機器。パーツですらとんでもない値段がすると聞きました。

お金が欲しいです(切実




 ~(6/28追記)イラスト紹介~

ソタ。さんから頂いたイラストです。

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ