第二十六話 経験値稼ぎ……したいよぉ
今回は二つの視点の話です。
とにかく心が決まった所で僕のやるべきことを思案してみる。
ていうか実はもう分かっていた。
心の中では分かってはいたけれど、行動力の無さ故に実行しなかっただけのこと。
それを今度こそ実行する。
やらなければいけないことは二つだ。
一つはクラス中に広がっている『カンニング事件』についての真相を調べること。
青士さんは言っていた。『星野月羽がこの前の事件でカンニングした』と。
なぜかそれが事実のように周りに伝わっている。そのせいで月羽は学校に来づらくなり、休み続けている。
更に月羽の処分は来週に決まるらしい。
こんなバカげた冤罪で停学とか冗談じゃない。
タイムリミットは来週だ。しかし僕が腑抜けていたせいで今週全く動かなかったからタイムリミットはすぐそこだ。
それに今日は金曜日の放課後。月曜日には真相を掴んでいないと本当に処分が下されてしまうかもしれない。
目標は早期真相解明と解明結果を教師に報告すること。
月羽が無実なのは僕には分かりきっているけれど、証拠が無ければ処分を覆すことはできないと思う。
ならばどうやってその『真相解明』を行うか……だけど。
大丈夫。僕には当てがある。
早速月曜日にソレに当たってみようと思う。
すごく勇気のいる『当て』だけど、頑張ってみようと思う。
それと僕がやらなければいけないことの二つ目。
それは土日の間にもできること。いや、今すぐにでもできることがあった。
即ち、月羽に声を掛けてあげることだ。
いや、声じゃなくていい。言葉が伝わればそれでいい。
ここ何日間か僕は月羽と会話していない。会っていないから会話できていない。
だけど、言葉を伝える方法なんて実はいくらでもあった。
メールだ。
月羽からメールはあったが、僕はそれに返事をしていない。
内容が突然の謝罪だったり経験値終了宣言だったりと衝撃的過ぎた内容故に返事が出せずに居たのだ。
それはまずい。
それではいけない。
僕の都合で返事をしないなんて愚の骨頂だ。
月羽の立場になって考えろ。
月羽の気持ちになって考えろ。
心細いはずだ。
真面目が取り柄の月羽が学校を4日間も連続欠席したのだ。それだけで精神的にかなりの苦痛だと思う。
それに月羽のことだから親にも相談していない。むしろ親にも後ろめたい気持ちで居るんじゃないのだろうか。
自分は無実なのに。何もやっていないのに。どうして自分がカンニング疑惑をかけられなければいけないのかと理不尽な気持ちでたまらないんじゃないのだろうか。
そんな鬱な気分で今週を過ごしてきたのだと容易に想像できた。
全部僕の推測だけど8割方当たっている自信がある。
そんな鬱気分をある程度霧散させる方法がある。
それがメールだ。
少しでも楽しい気分になれるメールを送ってあげることが僕にはできる。
早速渾身のジョークで彼女を笑顔――
笑顔に――
「………………」
送信、完了っと。
今日は……何曜日でしょうか。
私は何日学校を休んだのでしょう……
「…………」
問いたところで答えてくれる人なんて居ない。
一郎君も……隣に居ない。
当たり前です。ここは自宅。私の部屋。一郎君が隣に居る訳ないじゃないですか。
私から経験値稼ぎを辞めておいて一郎君が傍に居る訳がない。
今の私は一人ぼっちなのだから。
「……ぅう」
溜めていた涙が溢れ出た。
我慢していた嗚咽が流れ出た。
「ぅぇええぇぇ……」
目から熱い物が次々に出てくる。
一度出たモノを止めることは難しい。
今の私の経験値ではできっこない。
200程度の経験値ではできっこない。
「ぅ……うぅ……」
今の経験値ではできっこない?
ならば一生涙を止めることはできないのではないでしょうか。
だって、もう経験値が増えることはないのだから。
経験値を増やす作業を終わらせたのは自分なのだから。
「経験値稼ぎ……したいよぉ……」
嗚咽と一緒に本音も出てきました。
調子の良いことを言っている。
学校に行ってなくて何が経験値稼ぎでしょうか。
自分から一郎君を突き放しておいて……何が……
何が……っ!
「どうして……こんなことに……っ!」
どうしてこんなことになったのでしょう。
どうして私は引きこもっているのでしょう。
どうして……やってもいないカンニングを私がしたことになってるのでしょう。
~~♪ ~~~♪
「……っ!?」
メール!
一郎君っ!
私は飛びつくようにケータイを拾い、それを開く。
反射的にメールを開――かない。
「…………」
開けない。
このメールを開けるのが怖い。
恐らくこのメールは私が先ほど送ったメールの返事が書かれているだろう。
先ほど私が送ったメール――
『経験値稼ぎは・・・もう終わりにしましょう』
私がこのメールを見た瞬間、星野月羽と高橋一郎君の経験値稼ぎが終了してしまうのかもしれない。
そう思うと私はメールを開くを躊躇してしまう。
終わらせたくない。
私は経験値稼ぎを終わらせたくない。
一郎君との楽しすぎる一時を終わりにしたくなかった。
それが本音。
経験値稼ぎなんて二の次だった。
一郎君と一緒に遊べればそれだけで十分だった。
私の手元に未開封の一郎君からのメールがある。
開くのが怖い。
終わってしまうのが怖い。
「そうだ……」
開くのが怖いなら、開かなければいい。
いつものように怖いことから上手く逃げればいい。
見ずに削除するしてもいい。
そうだ、そうしよう。
「…………」
一郎君からのメールを私が削除する?
開けずに削除する?
一瞬でもそんな発想が出てきた自分が信じられなかった。
一郎君からのメールを削除できるわけないじゃないですか。
こんな私なんかの為に言葉をくれる優しいあの人の気持ちを無下にするなんてできるわけないじゃないですか。
「一郎君……」
開けよう。
メールを見てみよう。
例え、経験値稼ぎ終了を肯定する内容が書いてあったとしても……私はメールを開けずにはいられなかった。
あの人からの言葉がそこにあるのならば、私は今すぐにでも確認したかった。
一郎君。
一郎君っ!
――――――――――
From 高橋一郎
2012/06/01 21:11
Sub ショーを見せまショー
――――――――――
チーターが二階からおチーター
―――――――――――
一郎君っ!?
ど、どうして……
「どうして『経験値稼ぎはもう終わりにしましょう』の回答がダジャレなんですかっ!」
意味が分かりません。
そして全く面白くありません!
一郎君のセンスを疑うレベルです!
って、思わずツッコんじゃいました!
「あ、あれ……?」
いつの間にか涙が止まってます。
アレだけ涙を止めるのに苦労していたのに一瞬で涙が引っ込みました。
一郎君すごい。
メールだけどたった一言で私の涙を止めてくれました。
……って、あれ?
このメール何か変です。
文末が――これって改行――?
「……!?」
このメール。
一行で終わりでは……ない?
まさかっ!
――――――――――
From 高橋一郎
2012/06/01 21:11
Sub ショーを見せまショー
――――――――――
チーターが二階からおチーター
月曜日にカンニング疑惑の真相解明する
火曜日に月羽の無実を先生に報告する
だから、水曜日にはまた会えるね。
僕は月羽を信じてる。
だから月羽は僕を信じてくれると嬉しいかな。
-----END-----
―――――――――――
「一郎……くん」
この人は私の無実を信じてくれている。
私が無実なのを当然のように思ってくれている。
一人じゃなかった。
私には最高すぎる親友が居てくれる。
一度引っ込んだ涙がまた出てきた。
でも今度は無理して止めようとも思わなかった。
この涙は流すだけ流してしまいたかった。
「笑わせたいのか……泣かせたいのか……どっちなんですかぁ……」
一郎君が私の為に行動してくれようとしている。
私は――