第二十四話 本当にごめんなさい
ついに二次創作物の公開が停止されましたね。
寂しいです。
あれ? この小説は大丈夫だよね? 普通に公開されているよね?
試験後、土日の休日を挟み、週が明けて月曜日。
試験があった五教科はテスト返しに1時間使ってくれるので、生徒側としては非常に楽でありがたい。
まぁ、教師陣は休日返上してまで採点してくれていただろうから、本当にご苦労様としか言いようがない。
今日は二教科返ってきた。
現国と英語だ。
結果から言う。
1勝1敗である。
現国81点。
なんかアホみたいに良い点数が取れていた。
まぁ、もともと現国というのは勉強しなくてもそこそこ点数が取れる教科ではある故に、たっぷり時間を掛けて勉強した成果が抜群に出たということだろう。『一言で笑わせる対決』を繰り広げながらの勉強だったけど。
ちなみに平均点は70点。故に条件はクリア。月羽のテスト結果次第で20EXPが獲得できる。
英語61点。
平均は66点。
残念すぎる結果が僕の手元に返ってきていた。
平均点のプラス10点どころか、平均点にすら届いていなかった。
月羽のテスト結果がどうであれ、英語での経験値獲得はこの時点で無くなった。
テストの結果としてはそんなに悪くない点数だけど、経験値獲得が無くなった時点でため息しかでない。
B組はどの教科のテストが返ってきたんだろうか。
放課後はそれぞれのテスト結果を見せ合うことになるだろう。
今まではテストが返ってきても見せ合う相手が居なかったから、今、とてもワクワクしている。
早く放課後にならないかと逸る気持ちを抑えきれずに僕は今日も机に突っ伏していた。
この時点で何かがおかしいことに気が付いていた。
だけど深く考えようとしなかったことが後に後悔を生むことになる。
放課後。
屋上。
ベンチ。
「…………」
いつもの放課後。
いつもの屋上。
いつものベンチ。
「…………」
いつもと違う放課後だった。
いつもと違う屋上だった。
いつもと違うベンチだった。
「…………居ない」
いつも居るべき人が居ない。
僕がどんなに急いできても常に先に来ている子が今日は居なかった。
「待つ方っていうのは初めてだなぁ」
古びた青いベンチに腰を下ろし、月羽を待つ。
そういえば以前、先に屋上に来て待つ方の気持ちを味わおうとしたことがあったなぁ。結局できなかったけど。
まさかこんな突然味わうことになるとは思わなかった。
「…………」
今までそんなに気にして無かったけど、ここの景色って良いよなぁ。
眼前には広いグラウンド。少し角度を変えると狭いテニスコートが見える。
この時間はどちらも賑わっている。
運動部か。皆上手くなろうと一生懸命になっている。自身のレベルを上げようと頑張っている。
運動部なんて今まで無縁な世界だと思っていたけれど、経験値を得ようと切磋琢磨している今の僕と彼らはどう違うというのだろうか。
いや、逆に運動部から見たら今の僕らはどう映るのだろう? 頑張っている者同士共感を得てくれるだろうか? それとも子供の遊びだと鼻で笑うだろうか。
前者2割、後者8割と予想してみた。
でも正解を教えてくれる者など誰もいなかった。
月羽ならどんな風に思うかな。
「…………」
最近少し暑くなってきた。
5月も今週で終わりだ。来週から衣替え期間になる。夏の空気が漂い始める期間でもある。
夏は嫌いだ。暑いから。そんな子供みたいな理由で夏を毛嫌いしていた。
元々何の楽しみも無かった上に、暑さという強敵と戦わないといけないこの季節が嫌いだった。
いや、違うか。何の楽しみも無かったので暑さと戦うしかすることがなかったんだ。
ならば今はどうだろう?
楽しみがある今の僕は夏が嫌いのままなのだろうか?
好きにはなれないかもしれないけど、前より嫌いにはならない気がする。
夏の暑さなんて気にならないほど、楽しみなことが待っている気がするから。
そういえば夏休みは経験値稼ぎどうするんだろう?
いやまぁ、するんだろうな、経験値稼ぎ。生粋な経験値脳の月羽が1ヶ月間も経験値稼ぎをしないとも思えない。
夏休みの課題を一緒にやるのもいいかもしれないな。不断の僕が絶対にできないような経験もしてみたい。
月羽ならどんな風に思うかな。
「…………」
どれほど時間が経っただろう?
たった数分にも思えるし、1時間くらい経ったんじゃないかとも思う。
ちらっ、ケータイの時計に目を移す。
僕が屋上に来てから30分が経っていた。
月羽は……まだ来ない。
ケータイにも特に連絡が入ってはいなかった。
「B組で臨時HRでもあったのかな」
来れないならば仕方ない。
ただ待てばいいだけだ。
………………
…………
……
更に30分が経った。
僕が屋上に来てから1時間。
んー、月羽遅いな。
でもまだ全然待てるかな。
………………
…………
……
更に20分が経った。
僕が屋上に来てから80分。
少し涼しくなってきた。
風が気持ちいい。
まだまだ余裕で待ち続けることができそうだ。
………………
…………
……
更に20分が経った。
僕が屋上に来てから100分。
日の位置が低くなっている。
あれ? そういえば完全下校時刻って何時だっけ?
まっ、いいや。ギリギリまで待ち続け――
~~♪ ~~~♪
あと100分は待てるかなと思った矢先、僕のケータイが着信音を鳴らす。
メールが届いたようだ。
僕なんかにメールをしてくれる人物は、この世に一人しか居なかった。
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From 星野月羽
2012/05/28 17:52
Sub ごめんなさい
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本当にごめんなさい
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……?
驚愕だ。
いつも三行以上の文章を送ってくれる月羽が初めて一行メールを送ってきたことが。
ごめんなさい……か。
きっと急用で来れなくなったんだな。
まっ、そんな日もあるか。
仕方ないから今日は帰ろう。楽しみは明日だ! 経験値獲得できると良いなぁ。
翌日。
放課後。
屋上。
ベンチ。
「…………」
いつもの放課後。
いつもの屋上。
いつものベンチ。
「…………」
いつもと違う放課後だった。
いつもと違う屋上だった。
いつもと違うベンチだった。
「…………今日もかぁ」
今日も僕が待つ方みたいだ。
でも昨日思ったけど、僕は待つ方も嫌いじゃないみたいだ。
今日も張り切って待つかな。
……………………
…………………
………………
……………
…………
………
……
…
時が経つのが早く感じる。
もう100分経ってしまったのか。
月羽は……まだ来ていない。
今日も用事があったのかなぁ。でもメール来ないしな。それともこっちからメール送って確認するか? いやー、でも催促するようなメールを送るのはちょっとなぁ。
とりあえずもう50分くらい待ってみて、それでも来なかったら考えよう。
……………………
…………………
………………
……………
…………
………
……
…
更に100分経ち、二つ分かったことがある。
一つはこの学校に完全下校時刻はないこと。
小・中学校の頃は6時過ぎになると強制的に帰宅させられるシステムがあったが、高校ではそれがないらしい。この学校だけかもしれないけど。
そしてもう一つ。
月羽は――今日も用事で来れないってことだ。
別にメールがあったわけでもなく、僕から確認メールを送ったわけでもないが、午後7時過ぎになっても来ないってことは常識的に考えて今日は来れなくなったって考えるべきだ。
仕方ないか。今日もここらで帰るとしよう。
楽しみは明日だ。
翌日。
テストは五教科全て返ってきた。
また結果から言うとしよう。
三勝二敗だった。
平均点よりプラス10点以上取れたのは、現国、世界史、科学だ。まさか三教科も条件を満たすとは思えなかった。もしかしたら自分はやればできる子なのかと勘違いしてしまう程の出来の良さだった。
つまり月羽の結果次第で60EXPも獲得できるというわけだ。いや、もしかしたら二人で学年100位以内に入ってボーナスEXPも獲得できるかもしれない。そうすれば100EXP獲得だ。凄すぎる。
たぶん月羽の方も全教科返ってきているはずだ。今日にでも経験値獲得の有無が分かる。楽しみだなぁ。
早く放課後に――
「よーぉ。高橋。今日も根暗オーラ撒き散らかしてんな」
うわぁ。
うわぁ。うわぁ。
あまり聞きたくない声がすぐ近くで聞こえた気がする。
「今日もだんまりぃ? それともショック過ぎて言葉でないってか? んん?」
青士さん。
名字だけ知っているけど名前は知らない子。
正直言って苦手この上ない相手がまたもA組に乗り込んできた。
しかし、何やらおかしなことを言っている。
『ショック過ぎて言葉がでない?』
一体何のことだろう。
僕が何のショックを受けているというのだろう。
「…………」
いや、分かっている。
分かっているけど、遇えて考えないようにしていたんだ。
僕は――
月羽が屋上に来てくれないことにショックを受けている。
でもそれは考えてはいけないことだと思った。
月羽は何か事情があって来れないのだと思うことが正解だと思った。
だけど今みたいに誰かに――青士さんに事実を突き付けられてしまっては……
嫌でもそのことを考えなければいけなくなる。
僕は、『自分がショックを受けている』と言う事実を――認めたくなかった。
だけど青士さんは非情にも僕の傷を抉る言葉を掛けてきた。
僕の知らない事実で追い打ちを掛けてきた。
「いつまでも『カンニング女』の事なんて考えてんじゃねーよ。女々しいな、高橋」
「………………………………は?」
理解までに時間が掛かった。
体感的には100分以上掛かった。
実質10秒も掛かっていなかったけど、それが比喩とは思えないくらい僕の思考は停止していたのだと思う。
それくらい青士さんの言っている意味が分からなかった。
「『はっ?』って何さ。もしかしてアンタ知らなかったん?」
「な……なにを」
自分の声とは思えないくらい擦れた声。それを絞り出すように外へ出す。
「星野月羽は中間テストでカンニングしたのさ。それで昨日、今日と自宅謹慎。つーかもう学校来ないんじゃね? まっ、B組はあんなの居ても居なくても全く変わらないからどうでもいいんだけどね」
僕の擦れた声とは違って青士さんの言葉は弾んでいる。
そして妙に嬉しそうに言葉を続けた。
「でもまぁ、アンタのそんな顔を見れて少しは満足したよ。すっげぇいい気分だ。あんなどうでもいい奴でも役に立つもんだね。おい、もっとその顔見せてなさいよ。その絶望感あふれる顔サイコ―! サイコーすぎる! アタシ好みだ。ずっとその顔を浮かべてくれていたらアンタと付き合ってあげてもいいよ」
青士さんがすごく楽しそうだ。
だけど、その言葉の半分も僕の頭に入ってこない。
たぶん僕は彼女の言う通り、絶望感溢れる顔をしているのだろう。
「……なんつってね。誰がアンタなんかきめぇチビと付き合うかよ、バーカ! 一生絶望してろ。カンニング女と一緒にひたすら絶望してろ」
カンニング女。
これほど星野月羽を示す言葉として似合わないものはないだろう。
でも今はそれが事実となっている。
星野月羽
なんだ、それ。
「あー、高橋。最後に一個アンタ言っておくことがあるんよ」
愉悦に浸っていた青士さんが急に真顔になり、思わず鳥肌が立つような恐ろしい表情を僕に向けながら、たった一言、僕に言葉を投げた。
「ざまぁ」