第二十三話 記憶術を始めたおかげで学年4位になれました
もう23話なんですねぇ。
最近更新ペースが速いのは、エクシリア小説の執筆をやめたからです。
オリジナルの新作でも上げてみようかなぁ・・・
テストが近づいてくると教室内も若干空気が変わる。
といっても机に噛り付いて勉強している生徒は皆無だが、テストの話題がどうしても耳に入ってくる。
僕もいつも通り机に突っ伏しながら皆の会話を盗み聞いているが、英語がどうだの数学がどうだの言っている。そんなことよりアニメを見ろ、アニメを。
なんて思ってはいるが、僕も勉強疲れが溜まっている状態だ。盗み聞きモードは終わりにして少し仮眠しよう。
「――ったかはしぃぃっ!」
うぉおおぅ!?
睡眠をいきなり邪魔された!
聞き覚えのある女子生徒が僕の名字を叫ぶ。
ちなみに2-Aな中で『高橋』は僕しかいない。つまりこの女生徒――青士さんは僕のことを呼んだのだ。
嫌な汗を掻きながら机から顔を上げる。
思った通り、不機嫌そうな顔の青士さんがそこにいた。
教室中の視線が僕の席に集まっているのが分かる。
「この間はよくもやってくれたね!」
この間――言うまでもなく学食経験値稼ぎの時のアレだ。
実はいうと、青士さんの性格からいってこんな風に攻め込んでくる可能性も視野に入れていた。でも遇えて考えないようにしていた。考えた所でどうしようもないことが分かっていたので考えないようにしていた。
でも考えておけば良かったと今更ながら後悔している。
「言っておくけどね! アタシの人脈ぱねぇから。あんま調子に乗ってるとアンタなんて瞬殺だから」
90年代の脅し文句みたいなことを言ってくるなこの人。
もしかして青士さん、人を罵倒し慣れていないのかな?
「おい! なんとか言いなよ!」
この人、なぜか勝手に焦っている。
恐らくだけど、思った以上に視線を集めているもんだからちょっと耐え難くなってきているのだと思う。
「なんか言え!」
バンッ!
ついに実力行使に出た青士さん。ただ机を叩いたなんだけども。
しかし、その行為は更に視線を集めることになる。
「…………」
ちなみの僕の反応はずっと変わらない。
変わらない反応が青士さんにとってジワジワとダメージになってきているみたいだ。
「ちっ! 覚えてろ!!」
勝手に乗り込んできて、勝手に言うだけ言って、勝手に帰った。
罵倒も90年代なら捨て台詞も90年代だった。
だけど実際に『覚えてろ!』なんて言われるとビビるなぁ。思いの外鳥肌が立った。恐ろしくて鳥肌が立つ僕のチキンっぷりが嘆かわしい。
ザワザワ……
青士さんが居なくなった後、教室中が変な風にざわつく。
その視線の先にはポカーンとしている僕が映っていることだろう。
嗚呼、早くチャイムならないかなぁ。去った青士さんも辛そうだったけど、残された僕も辛いよこれ。
それにしても青士さんは気付いたかなぁ?
僕の反応が鈍かったのは、ただ単にコミュ症で喋ることが出来なかっただけだということに……
ムーンフェザー{記憶術でキミも学年トップになれる!}
月羽が――じゃなくてムーンフェザーが何やら始まっていた。
この唐突な所が如何にも彼女っぽかった。
ムーンフェザー{イメージ脳と言われる右脳を利用して、覚えたことを忘れない脳にしよう}
画面の中のムーンフェザーがピョコピョコ跳ね動きながらコミカルな吹き出しを出し続けている。
ムーンフェザー{よーし、私も記憶術をやってトップを取るぞ}
ムーンフェザーが画面の中でやる気溢れるポーズを取っている。胸元に両手を集めて非常に可愛らしい。
ムーンフェザー{やったー、学年トップ!}
小さくジャンプしながらバンザイをするムーンフェザー。
やばい、この子可愛い。月羽がっていうより、ムーンフェザーが超可愛い。
『どうです!?』
不意にイヤホンから月羽の声が響く。
いや、『どうです?』って聞かれても……
『それ少年誌のラストページに載ってたよ』
『ネタバレ禁止です! ……で、どうです!?』
通話なので表情は見えないが、きっと彼女は本気だ。
本気で今度のテストを記憶術で何とかできないか検討している。
ていうか月羽、少年誌読んでいるのか。まぁ、この子はそんなタイプな気がした。少女マンガより少年マンガを楽しむタイプな気がしていた。
『現実逃避してないでさっさと勉強始めるよ。今日は数学だね』
『ぅううっ! 一郎君に正論言われました』
そういうけど記憶術って訓練期間か必要なんじゃなかったっけ? それも何ヶ月も掛けてようやく得られる代物なんじゃ……
そもそも僕みたいな底辺スペックの人間が会得できるとも思えない。
ムーンフェザー{記憶術を始めたおかげでみるみる成績伸びましたっ}
ムーンフェザーはまだ諦めきれないようである。
記憶術の販促漫画で代名詞的なセリフを吐いている。
ICHIRO{キィィィ! 悔しいですわ。あんな小娘にこの私が負けるなんてぇぇぇ!}
『何キャラですか!』
ありがちの優等生キャラを演じてみたらムーンフェザーじゃなくて月羽がツッコんできた。
ICHIRO{ワテも記憶術やったら学年トップ取れるかな。もぐもぐ}
ムーンフェザー{だから何キャラですか!}
なぜか今度はムーンフェザーがツッコむ。
『あっ、一郎君。微分積分と三角関数どっちが好きですか?』
『急に勉強の話に戻らないでよ!?』
ICHIRO{強いていうなら微分積分だよ!}
もう会話の流れが滅茶苦茶だ。
でもこのカオスな空間が妙に心地よかったのは内緒である、
時は無情に過ぎ去り、あっという間に試験当日となった。
やばい。月羽とのカオステスト勉強しかしていないから物凄く不安だ。
しかもこのテストには経験値も掛かっている。
例の『各教科で平均点より10点以上取れたら20EXPずつ獲得。二人とも順位が100位以内に入れば更に40EXP獲得』という大ミッションだ。
正直自分の成績うんぬんよりも経験値が獲得できるかの方が僕にとって重要であった。
「では、用紙を表にして……始めー!」
担当教師のやる気のない開始合図と共に僕らの経験値稼ぎが始まった。
そういえば月羽と離れた所で経験値稼ぎを始めるのは初めてだなぁ。
なんかあの子が隣に居ないと途端に経験値稼ぎっぽくなくなるのが不思議だった。
………………
…………
……
本当に時間というのはあっという間に過ぎ去ってゆく。
特に描写する必要性が無かったので故意に時間が勧められていく感が否めないが、とにかく時は過ぎ去った。ほんの数行でテスト期間が終わってしまった。
とにかくこれで後は結果を待つのみだ。
で、肝心の手ごたえなんだけど。
……これ、そんなに悪くないんじゃないか?
なんてちょっぴり自賛できるくらい解答欄を埋められた気がする。
たぶんアレだ。月羽とのカオステスト勉強が以外にも頭に入っていたということだ。
記憶術とは違うけど、楽しいことは頭に入る。その理屈だと思う。
スピードラーニングの理屈に近いのかな? 読み流すように暗記した教科書やノートの内容が意外にも頭に入っていた……そんな感じである。
何はともあれ、ベストは尽くした。
全教科での経験値獲得……というのはさすがに難しいとは思うけど、ある程度の経験値は得られるのではないかと思える。
そして100位以内に入るというボーナスポイントだけど……んー、こればかしは何とも言えない。イケる気もするし、問題外の順位な気もする。まぁ、少なくともまたド真ん中ということはないだろう。
でもまぁ、どんな結果になろうと互いを責めることがないのがこの経験値稼ぎの良い所だよな。
内緒だけど、それが一番の美点だと思っている。
その平和な雰囲気が僕は大好きだった。
……だけど。
平和というのはいとも簡単に崩されてしまう。
それを痛感するような事件が、この後起こってしまうのであった。