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Experience Point  作者: にぃ
126/134

Hyper Bonus Point +2 最近運が悪くてさ

番外編最終章2/4です。

まずは青士さんがメイン視点参戦です。

    【main view 青士有希子】



 あれは数日前のことだった。


「ういーす。今日もきてやったぞー。高橋―」


「……いや、だから来てほしいなんて頼んでないのだけど」


「照れんな照れんな。このアタシが毎日飯を食いに来てやってんだ。素直に喜べ。さあ喜べ」


「……僕の昼食を強奪さえしなければ別にいいのだけれど」


 アタシ的にはもう慣れた昼の光景。

 A組の奴等もアタシの存在を気にしなくなっている気がした。

 さて、飯飯――


「って、高橋。どしたん?」


「何が?」


 飯を食おうとしたら、目の前の相方の異変に気が付いた。

 コイツは平然としているけど、見た目からしていつもと違う。


「その怪我だよ。痛々しい。そんな顔で居られたら飯が不味くなるんだが」


「それは全面的にごめん。まぁ気にしないで居てくれると嬉しいかな」


「気になってしかたねーから訪ねたんだよ。何があった? 星野とリアルファイトでもしたか?」


「するわけないよ。っていうかそれじゃあ僕が負けてボコボコにされる方になってるし……」


「痴話喧嘩じゃねーとなるとイジメか? 顔に怪我を負わせるなんて素人のイジメっ子だな。二流め」


「視点がイジメっ子側に向いてる!?」


 つーか、こいつも今更イジメになんか遇うなよ。

 池とか深井とか、もっと厄介な奴らに勝ってるんだからおめーは。

 2流イジメっ子くらい放置でいいやっていう余裕か?


「別にイジメとかじゃないよ。なんか最近運が悪くてさ」


「どんだけ運が悪ければ顔に傷なんて負うんだよ?」


「いやー、廊下の一部分だけワックスが掛かってて滑った表紙に顔面から転んじゃったりさ、飛んできた消しゴムのカスが鼻に入ってクシャミをした反動で机に顔面ぶつけただけだからさ」


 こいつ、器用に顔面を怪我しやがるな。


「月羽にも心配されちゃってさ。なんでもないって言っているのに信じてもらえないんだよね。どうしたもんか」


 どうしたもんか、はお前に言いたいよ。

 こいつ、自分で気付いてねーな。


「お前、それイジメられてるからな」


「それはないよ。僕の中学時代のイジメられ歴、略して『イジメら暦』を知っているでしょ。この程度をイジメというのなら中学時代のアレは虐待レベルになっちゃうよ」


 話の流れで変な造語作りやがった。なんだイジメら暦って。


「……いや、その認識でほぼ間違いねーから。おめーの中学時代は壮絶すぎんだよ。普通に虐待されてたんだよ。おめー」


「ぅええ!?」


 声を上げて驚愕する高橋。

 ほぼ全校生徒に嫌われるなんて所業をただのイジメ程度に思っていたコイツが信じられねえ。


「でも今回は本当にただのドジだよ。怪我は誰のせいでもないんだしさ。強いて言うなら自分のせいだし」


「いやいや、その原因というかキッカケの所に別の奴の介入があったと考えられね?」


「あはは。誰かが廊下の一部分にだけクリーニングワックスを塗ったっていうの? それこそおかしい話だよ。仮にそうだとしても無差別事件じゃん。人が転んでいるところを見て楽しむ愉快犯で片付くよ」


「……まー、そうかもしれねーけど。それなら消しカスの件はどうよ。おめーに向けられて放たれた嫌がらせだよ」


「そうなの? 消しゴムの切れ端なんて日常茶飯事的に飛んでくるでしょ?」


 こいつ、普段から消しゴムのカスを受けるような日常を送ってきているのかよ。

 さすがのアタシもそれにはひくわ。


「とにかくおめーはもっと他人の悪意に過敏になれ。以上」


 コイツが虐められていようがいまいがアタシに出来るのは話を聞くことくらいだ。コイツならアタシが力を貸すまでもなく自力で何とかするだろうし。手を貸すのめんどいし。


「他人の悪意といえば、もしかしてコレも関係あるのかなぁ?」


「コレ?」


「コレ」


 言いながら高橋はポケットの中から小さなカードを取り出した。

 カード……じゃねーな。なんだこれ。名刺か?


『お前は裏切った

 裏切ったったら裏切った

 制裁するったら制裁するった

 By 光の親衛隊』


「なんて頭の悪い文章だ……」


 頭悪い代表のアタシが言うんだからこの文章の主も相当だぞ。


「つーかどうしたんだよ、コレは」


「なんか朝から机の中に入ってたんだ」


「はぁ……わけのわかんねーな。誰だよ光の親衛隊って」


「それは僕もしらないんだ。ていうかこの光の親衛隊さんの名刺、最近よく僕の手元に届くんだ」


「おめーも災難だな」


「せっかくだから名刺ケースも買ってみたんだけど」


 なぜだ。

 コイツ、めちゃくちゃ余裕あるじゃねーか。

 まぁ、VS深井玲於奈に比べれば今更ただのイジメっ子なんてコイツの敵じゃねーってことか。

 

「――光の親衛隊……か。その名前、聞き覚えがあるな」


「そうなの池君?」


「ああ。俺のクラスにいる佐藤光。彼を囲う親衛隊の名称だ」


 物凄く自然に会話に入ってきやがったな池の野郎。

 でもコイツの神出鬼没っぷりにも誰も気にしなくなってきたな。


「佐藤光くんってこの前小野口さんが試験で争っていた人だよね」


「そうだ。元学年一位。現学年二位。超秀才生徒、それが佐藤光。またの名もシュガー=ライトだ」


「……とんでもないね。あの小野口さんですら結局勝てなかったんでしょ。そりゃあ親衛隊もできるわけだ」


 そんな頭が良いだけのやつなんてどこがいいんだか。親衛隊とかばからし。


「いや、親衛隊なぞ存在しない」


「えっ? でも現に光の親衛隊から名刺が……」


「それが不可解なのだ。光の親衛隊はたしか佐藤光が周囲に注目を集める為に作った自演の親衛隊だったはずだ」


 うわ。痛いなそれは。

 過去のアタシですらそこまでやらなかったぞ。目立つためなら何でもアリか。そいつ。


「えっと……整理すると、僕は有りもしない親衛隊によく分からない文章の綴られた名刺を貰って、地味な嫌がらせとかされちゃっているってこと?」


「そうなるな」


 正直状況が意味不明だ。

 どうして高橋が『裏切り』と称されて狙われているのか……は、この際別にどうでもいいとして、なぜ狙っている奴は有りもしない親衛隊を語っているのか。

 そもそも、本気で高橋に嫌がらせをしたいってーんならもっと派手なことやれよな。

ワックスで転ばせたり消しゴムのカスを投げつけたりなんかしてもコイツは動じたりしねーだろうに。


「つーか、光の親衛隊はもともと佐藤光の自演なんだろ? なら黒幕は佐藤光本人じゃね?」


 アタシってば冴えまくってる。

 じゃああとは佐藤光を締め上げて事情を吐かせれば解決だな。


「うーむ。俺は同じクラスだから奴のことはよく知っているが、あのシュガー=ライトにしてはやり口が甘すぎる。奴ならばこんな頭の悪い手段は取ったりしないさ。なんて言ったって学年二位だしな」


 いや、学年三位の小野口がアレだからな。

 学年二位が愚かでも全然不思議ではないのだが。


「じゃあやっぱり光の親衛隊を名乗る別人が黒幕なのかなぁ?」


 コイツは自分が被害者である自覚があるのだろうか? いつも以上にのほほんとしているのだが。


「まぁ、どうであっても佐藤光本人に話を聞くのは間違いではないだろう。同じクラスだし、俺が話を聞いておこう」


「あっ、いいの? じゃあお願いしようかな」


「お安い御用だ」


 親指をビっと立て、いつものように口に薔薇を咥えながら去っていく池。

 アイツ、いつも突然やってきて真っ先に去っていくよな。

 ぜってー登場のタイミング図ってるよな池のやろー。


「池君に任せておけばもう安心だなぁ」


 コイツはコイツで完全に人任せだし、いいのかこれで?


「まー、アタシのしったこっちゃねーか」


 狙われてるのはアタシじゃねーし、別にかんけーねーや。

 いやー、ダチがピンチの最中に食う飯は美味い。

 ……なんて感じで呑気に飯を食っている余裕がねーことに気付くのはもうちょっと後だったりする。







「……マジかよ」


 昼休みが終わり、自分の席で寝ようと思った矢先、異変はアタシの机で起こっていた。

 嫌な予感に包まれながら、アタシは机の上に置かれたソレを拾い上げる。

 小さな紙切れ。アタシはそれを知っている。つーかついさっき高橋から見せてもらったばかりだし。

 んー、見たくない。でも発見しちまったからには見ずにはいられねーし。

 ……どれ。


『裏切り者の恋人。

 なぜあんなのに惚れたし。

 悔しいからお前にも制裁する

 By 光の親衛隊』


 ………………

 …………

 ……?


「………………??」


 何を言っているんだ? この差出人は。

 高橋がもらった文章も訳がわかんなかったが、アタシが貰ったコレはそれ以上の訳がわかんねーぞ。


 まず、一行目の『裏切り者の恋人』という文章。

 高橋の貰った名刺にも『裏切り者』と書かれていた。

 コイツのいう『裏切り者』とは高橋自身のことだろう。


 そしてここに書かれている『裏切り者の恋人』というのは……星野のこと……だよな?

 それがなんでアタシの机に?

 もしかして差出人を間違えた?

 ならこの名刺は星野の机に置いておくのが親切か?


「……って、そういうわけにもいかねーよな」


 こんな怪しいもん、星野に見せるわけにはいかねー。

 それに問題は三行目の文章だ。

 『悔しいからお前にも制裁する』。

 つまり高橋の恋人も面倒な目に遇うってことだ。

 そして、もし差出人を間違えていないとしたら……


「(アタシが高橋の恋人だと思われているってわけか)」


 何をどう勘違いしたらそうなるのか、手紙の主に問い質したい。

 つーか、それだと高橋の恋人だと思われていない星野が若干哀れだな。

 やっぱこの件は星野には黙っておくのが吉か。


 まー、このくらいの小さな事件なんてアタシと高橋、あと池が居ればすぐに片付くだろ。

 よし、そうと決まれば早速放課後から黒幕探しだな。

 見てろよ。すぐに見つけてやるからな。自称光の親衛隊!







 ――とは心に誓ったものの、放課後になるまでアタシに『制裁』とやらは無く、拍子抜けだった。


「んだよ。根性なしが。直接アタシを狙ってくれれば手っ取り早く返り討ちにしてやったっつーのによ」


 これだから陰でコソコソ悪戯するしか能のねー奴は嫌いなんだ。

 男なら直接打ん殴ってこいってんだ。

 ……いや、そもそも黒幕が『男』だなんて決まったわけでもねーか。

 むしろこういう姑息な手段を取りそうなのは『女』なのかもしれねーな。偏見かもしれねーけど。

 まっ、今日はさっさと帰って新刊のラノベの続きでも読むかな。


「あっ……」


 そういや文庫を机の引き出しに入れっぱなしだった気がする。

 文庫カバーを掛けてあるとはいえ、アタシがあんなのを読んでいるっつー事実をクラスの奴等にしられたくねー。

 今更自分の評判なんてどうでもいいが、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしーしな。

 めんどくせーが戻るか。







    ざわざわ……ざわざわ……


 なんだ?

 教室に戻ると妙に騒がしい。

 残っている奴らが一ヶ所に集まって騒いでいるようだ。

 鬱陶しい。B組お得意の集団陰口か?

 半年前まであの中心に自分が居たのかと考えると背筋が凍る。

 今は群れるよりも一人の方が――少人数の方が心地良い。


 こんなやつら無視して文庫文庫……って、こいつらが集まってるのって私の席の周りじゃねーか。

 邪魔くせーな。陰口なら別の場所でやれってんだ。


「おら。どけどけ。アタシに忘れ物を取らせろ」


 集団を掻き分けながら進む。

 半年前のカンニング事件の一件以来、アタシのことを毛嫌いしている連中だからアタシが声を出すだけで勝手に引いてくれる。


「って、なんじゃこりゃああああああああああああああああああ!」


 クラスメートを退けて視界が開けた瞬間、異変ははっきりと眼に入った。

 アタシの机に散らばっている紙切れの数々。

 それは一冊の本がビリビリ破けた惨状の痕だった。


「アタシの本じゃねえか!」


 見覚えのあるカラー表紙のおかげで机の上の紙切れがアタシの読み途中だったラノベであることを気付かせてくれた。


「おい! いくらアタシのことが嫌いだからってこれはねーんじゃねえか? 物に当たるなんて二流のやるこった! 気に食わねーんなら直接文句言いにこいや!」


「……い、いや、俺達は何も……」


「じゃあこれはなんだ!? こんな派手な悪戯の痕が残されていながら誰も目撃者がいねーわけないだろうが!」


「ほ、本当だ。気が付いたら青士の机の上がこうなってたんだ」


 都合の良い嘘だな。

 惨状をみると、アタシの本はかなり細かく破られている。

 ちょっと破られていただけのならこいつらのいうこともまだ信じられるが、この惨状だ。時間をかけてビリビリに破ったに決まってる。


 だとすれば考えられるのはこいつら全員がグルである可能性だ。

 複数集まれば何もこわくねーってか? 馬鹿じゃね? 愚かだったころのアタシみてー。


「わりーが全員この場に残っていろよ? 実行犯を見つけるまで一人たりとも外を出すつもりはねーから」


 眼光鋭く睨みつけると全員が凍りついたように動かなくなる。

 ガンつけただけでビビるようならわざわざアタシを怒らせるようなことすんなよな。

 あーあ。これ新刊なのに。せめて読み終わってからやぶってくれりゃーいいのに。いや、よくはねーけど。


「ん?」


 恨めしく机の上に広がる紙屑を見てやると、紙屑の中に一つだけ明らかに質感の異なる紙が混じっていることに気が付いた。

 こいつは――


『裏切り者の恋人

 これは挨拶変わりだ

 次はもっと非情な手段にでる

 それが嫌ならあんな根暗とは早く別れろ

 By 光の親衛隊』


 例の名刺。

 しかも今回の犯行を認めるような内容が書かれている。

 つーとあれか? アタシの本を破ったのは光の親衛隊ってことで、ウチのクラスの奴等は本当にかんけーねーってか。

 そーかそーか。

 …………


「……その……すまねえ……アタシの勘違いだったみてーだ。疑って悪かったな。帰っていいぞ」


「え? う、うん」


「じゃ、じゃな。青士」


 突然の謝罪に困惑している様子のまま教室から出て行くB組の面々。

 まー、あいつらからすればアタシが謝ったこと事態信じられねーのかもしれねーな。

去年のアタシは何があっても謝らない奴だったし。


 ……しかし、光の親衛隊か。げせねーな。

 そもそも――


「どうやって誰にも気づかれずにアタシの本をバラバラにしたんだ?」


 忍者みたいに行動が超早いのか、それとも何かトリックがあるのか。

 いくら考えても馬鹿のアタシにはわかりっこなかった。







 とにかく、アタシも実害を受けたとなれば行動は変わってくる。

 高橋の問題だからアタシは傍観して成り行きを見守るつもりだったが、読みかけの新刊を駄目にされたイライラを実行犯本人にぶつけねーと気が済まなくなった。


「高橋の奴はいるか!?」


 A組の戸をガラッと勢いよく開けると、教室に残っていた奴等は肩を震わせて驚いていた。

 ちっ、ビビらせてしまったか。皆固まっちまっている。


「おい、そこの男子。高橋はどこ行ったか知らねーか?」


「し、しらねーよ。アイツ放課後はいつもさっさとどこかにいっちまうから……」


 高橋の席の後ろの奴に話を聞いてみるが、有益な情報は得られなかった。

 そういや星野も放課後はさっさとどこかにいっちまうな。二人でどこかで何かしてるのか?

 この分じゃ誰に聞いてもアイツの行方はしらなそうだな。


「あ、アンタ、二年の頃から昼休みによく高橋と一緒に飯を食っているけど――」


「あっ!? それがどうしたってんだ!?」


「そ、その……い、いや……えっと……」


「男ならウジウジすんな! 聞きたいことあんならはっきりいいやがれ!」


「じゃ、じゃあ……その……高橋とどういう関係なのかなー……なんて気になっただけで」


「どうしておめーがアタシと高橋の関係を知りたがるんだよ? おめーこそ高橋のなんなん? そもそもおめー誰だよ?」


「い、いや、ただのクラスメートで斉藤というんだが……」


「そうか。斉藤。つまんねーこと聞いてんじゃねーよ。アタシは忙しいんだ」


「き、聞きたいことがあるならハッキリ聞けといったくせに……」


「あ!?」


「い、いや、なんでもないっ」


 ちっ。無駄な時間食ったな。斉藤のせいで。

 しかたねー。アイツにメールすっか。

 でも星野と一緒だと厄介だな。

アイツが本当の高橋の恋人だと悟られると光の親衛隊はアイツにも危害を加えはじめるかもしれねー。

 できれば高橋と二人きりで会いたいが……まー、とりあえずアイツにメールしよう。

 巻き込んだとしても星野も大概タフだし、なんとかなるだろ。


 アタシがメールして数分後、高橋からメールが返ってきた。

 メールの内容によると保健室にいるようだ。

 どうして保健室に? 光の親衛隊がついに暴力に訴えかけてきたか?

 無事なのか? ……まー、アイツのことなら無事だろうな。


『一郎君。飲み物買ってきます。ゆっくり休んでいてください』


『い、いいよ。そんなの。重病人じゃあるまいし、飲み物くらい自分で――』


『いいからっ! 一郎君は怪我人なんだから休んでいてください! いいですね!』


 保健室に近づくと、聞きなれた声が二つ聞こえてきた。


    ガラガラっ


 星野が保健室から出てきて、一階の自販機へ駆け下りて行った。

 どうやらアタシの存在には気付かなかったみてーだな。こりゃあ都合が良い。

 星野と入れ違いにアタシも保健室へ入った。


「あれ? 青士さん。どうしたの?」


「どうした――はこちらの台詞だ。なんでおめー保健室なんかで寝てんだよ」


「いやー、また例のワックス攻撃で滑った後、またまた床に顔面をぶつけちゃってさ。顔の傷を見た月羽が強引に」


 受け身も取れないのかコイツは。

 光の親衛隊の仕業ではあるけど、怪我の原因の半分はこいつのドジな気がする。


「アタシもだ。昼休みに教室に戻った後、アタシにも親衛隊からの名刺が届いていてな。ついさっきアタシの読みかけのラノベをビリビリに引き裂いてやがった」


「うわぁ。それはえげつないね。ていうか僕よりも酷い仕打ち受けてない?」


「だな。まだ顔面大怪我の方が許せたわ。くそっ!」


「災難だったね」


 まるで他人事のようなことを言うと、高橋はすっとベッドから立ち上がる。

 見た目通り、それほど大した怪我じゃねーみたいだな。


「光の親衛隊はアタシが見つけ出す。だから知恵貸せ」


「貸せって言われても……親衛隊のことについては池君の報告待ちしかないんじゃない」


「いや、何かできることがあるはずだ。とにかく今から作戦会議だ! 星野が戻る前に場所を移すぞ!」


「えっ!? どうして場所を!? 月羽にも知恵を借りた方が……ていうか僕ら二人だけじゃロクな知恵も出な――」


「い・い・か・ら! さっさと来い! いつもの多目的室に行くぞ!」


「わ、わわっ! 引っ張らないで!」


 確かにアタシと高橋だけじゃ光の親衛隊を見つけ出す知恵なんて出ないかもしれねー。

 佐藤光が本当に黒幕だったら話は早ぇのだが……それは池の探りに賭けるしかないし。

 小野口辺りを拉致って知恵借りるか? でも、アイツも放課後はさっさとどこかにいっちまうしな。

 こうなったらアタシが本気を出すしかねーか。高橋もなんだかんだいって頼りになるし、この作戦会議が無駄な時間になることはねーだろ。







    【main view 長谷川佐助】



「――いじょー。回想終わり。あー、話疲れた」


 青士の話は要点まとまっていて案外分かりやすかった。

 しかし思っていたよりも汚いことをやっていたんだな光の親衛隊。嫌がらせレベルを超えている陰湿っぷりだ。


「むむむむむむむむむむむむむぅぅぅぅぅっ!」


「むむむむむむむむむむむむむぅぅぅぅぅっ!」


 正義感の強い希や星野が唸る様に怒っている。

 まぁ、そうだろうな。俺も黒幕の陰湿っぷりに少しイラッとしていた所だ。


「一郎君っ! どうして私に相談してくれなかったんですか!」


 一郎に迫りながら怒鳴る星野。

 お前の怒りの矛先はそっちでいいのか。


「全くだよ! 青士さんも遠慮せずに相談して欲しかったよ!」


 希、お前の怒りの矛先も外方向いてないか。

 怒るなら光の親衛隊に怒れよお前ら。


「いや、黙っていたわけじゃないんだけど……」


「そんなこと言って! いつもいつも一人で無茶するんですからぁ!」


 星野に涙目で迫られて一郎も頬汗垂らしている。

 そんなに一人で突っ走るタイプには見えないが、一郎のやつ結構一人で暴走するタイプだったりするのか?


「青士さんも! そんなに私は頼りにならない!?」


「や、殴り合いになったらおめー戦力外だろ?」


「その暴力的な思考がすでにアウトだよ!」


 青士は青士で危ない奴だな。女子とは思えんメンタルの持ち主だ。

 本当にこいつら、二人きりだと何を仕出かしていたかわからんな。


「ま、まぁまぁ、お姉ちゃんも月羽先輩も落ち着いて。それで一郎先輩、ここで作戦会議していたんですよね。何か良い策は浮かんだのですか?」


「……やっぱりその『先輩』ってのに慣れないなぁ。なぜか僕が恥ずかしい気持ちになっちゃう」


「なんでですか! くすくす。一郎先輩って面白い人ですね」


「「むぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」」


 上手く話題転換をしてくれた七海だったが、なぜか再び一郎を睨みつける希と星野。


「なにデレデレしているんですか! 一郎君!」


「そうだよ! 七海ちゃんは渡さないんだから!」


 だからお前らの怒りの矛先はどこかおかしい。

 こいつらに進行を任せていてはいつまで経っても話が進まない。

 仕方ない。俺が少し仕切るか。面倒だけど。


「で、どうなんだ? 一郎。光の親衛隊……を名乗る犯人対策で良い案は出たのか?」


「まさか。僕と青士さんのポンコツっぷりが露わにされただけで全然いい案は出なかったよ。最終的に作戦会議諦めてUNOやってたくらいだし」


 その結論はなぜだし。


「ならばやはり俺の出番だったようだな」


 ここぞとばかりに池=MEN=優琉が前に出る。

 そういえばコイツ、シュガーっちと話を付けに行っていたんだっけか。

 まー、話を聞く前にシュガーっちが今回の黒幕でないことは予想付く。

今回の犯人は頭の悪い小者だが、シュガーっちは頭の良い小者だ。タイプが違う。


「結論から言うとシュガー=ライトは今回の事件に関係はなかった」


「そうか。なら帰っていいぞ。アタシもそんな気してたし」


 ズバッと退場を促す青士にこの場にいる全員が呆れ顔を向けた。


「帰ったりせん。俺が居なくなったらイケメン担当が居なくなるからな」


 コイツもコイツで冷静に返すな。しかも訳のわからん口上だし。


「シュガー=ライトは光の親衛隊を自称していた時代を忘れたがっていた。俺が『光の親衛隊』の名前を出した途端、ゆでだこのように顔を真っ赤にして泣きそうな顔になっていたぞ」


「……本人にとって黒歴史だったんだな」


 そりゃあそうだろうな。いくら目立ちたかったと言えど親衛隊を自演するなんて考えただけでも戦慄する。

 ドンマイシュガーっち。


「私はそんなのに期末試験で負けたんだね……」


 ドンマイ希。


「とにかく今ある情報だけでも整理しようではないか」


 池の言葉に頷く一同。

 なるほど。良い仕切りだ。コイツがこのグループの中のリーダーなんだな。

仕切ってくれる奴が場に居てくれると楽できていいわ。


「まず、光の親衛隊と名乗る者がセカンドイケメンやメンタルイケメンに悪質な悪戯をしている」


 うむ。これは間違いないだろう。

 わざわざ現場に名刺を残すくらいだからな。


「セカンドイケメンが狙われる理由は分からないが、メンタルイケメンは『セカンドイケメンの恋人』と勘違いされているから狙われている」


 だから一郎は星野に事件のこと何も言わなかった。

 黒幕に本当の恋人は青士ではなく星野であることを悟られない為に。

 良い奴だな。アイツがセカンドイケメンと呼ばれる所以が少しわかった気がする。


「………………」


「に、睨むな、星野。アタシだって迷惑してるんだからな」


「…………むぅぅ」


 だが星野本人は黙っていられたことに不服そうだった。


「次に、本物の『光の親衛隊』は昔に佐藤光が目立つために作った自演親衛隊ということ。そして佐藤光本人は今回の事件とは無関係だ。まぁ、100%そうだとは言い切れんが、佐藤光の犯行にしては今回の『光の親衛隊』は頭が悪すぎる」


 その通り。

 光の親衛隊を黒歴史と思っているシュガーっちが現場に名刺を残していくのはおかしい。


「手持ちの情報はこれくらいか」


「うーん。状況整理はできたけど、真相解明はできなかったね」


「せめて対策を練れればな。このままやられっぱなしってのは納得がいかねぇ」


 被害者からすればそりゃあ納得いかないだろうな。

 特に青士は勘違いで巻き込まれただけみたいだし。


「ねえ。疑問に思ったことがあるんだけど、いいかな?」


 希が遠慮がちに挙手をする。


「どうしました? 小野口さん」


「うん。ちょっと思ったんだけどさ、黒幕はどうして今更『光の親衛隊』の名前を使いだしたのかな? 一年以上前に発足してとっくに解散された自演親衛隊なんでしょ?」


「その通りだな。俺も『光の親衛隊』の名前は久しぶりに聞いたくらいだ」


「そもそもさ、話を聞く限りだと本物の『光の親衛隊』だってこんな嫌がらせとは無縁なはずでしょ」


 確かにそうだ。

 別に光の親衛隊は悪さをするために発足されたわけではない。

 むしろ悪名に使われてシュガーっちも完全に巻き込まれたと言える。


「お姉ちゃんも一郎先輩も今まで光の親衛隊の名前を知らなかったわけですよね。知名度もそれほど高くない名前を今更持ち出したっていうのもおかしな話だよね」


「もしかしたら僕達が知らなかっただけで本当はすごく有名な親衛隊だったのかも?」


「……なんか普通にそれありえますよね。私や一郎君は流行りには疎いですし、誰かが騒がれていたとしても別世界の出来事って感じでしたもん」


「アタシも別のクラスのことなんて興味なかったし」


 駄目だ。こいつら。どいつもこいつも自分中心に世界を創りすぎてやがる。

 まー、俺も人の事言えないけど。


「情報が足りないな」


「……そうだね。残念だけど、現状はどうしようもないかもしれない」


「相手がドジるのを待つしかねーか」


「「「「…………」」」」


 やりきれない空気が場内に漂う。


 不安そうな顔な一郎。

 その顔を心配そうに見つめる星野。

 同じく表情が暗い七海。

 力になりたくてもなれず、歯痒そうな希。

 打開策を必死で模索している様子の池。

 やられっぱなしで悔しそうな青士。


 俺は……どんな顔をしているのだろうな。

 なんてことを思っていると――


「――あー! やっぱりみんな居たわねー! 珍しくこの教室の電気ついているからどうしたのかと思ったわ」


「「「「「…………!!?」」」」」


 突然の新たな来場者が現れ、場に居た全員が入口の方へ振り返る。

 あれは……確か美人教師で評判の……名前なんだっけ。


「沙織先生!」


「沙織さん! 別の学校へヘルプに行っていたんじゃ?」


「今日帰ったのよ。もー、聞いてよ。あっちの学校で変な事件に巻き込まれちゃてさー」


 空き机に腰を掛け、いきなり愚痴り出す先生。

 沙織先生……って下の名前の方で言われてもピンとこない。

でもこの様子を見ると希達と仲が良さそうだ。


「先生、南高校に行っていたんですよね? その……大丈夫でした?」


「大丈夫じゃなーい! あの子の居る学校へ行って何も起こらないわけないでしょうー!」


「そ、そうですよね。なんか……すみません」


 どうして一郎が先生に謝っているのだろう?

 話の筋が全然読めない。


「深井さんだけじゃなくてね、変な事件も起こったのよ。闇の親衛隊っていう面白おかしい生徒がまた大変なことを起こしててさー」


「「「「闇の親衛隊!??」」」」


 それに似たような言葉でついさっきまで悩まされていた俺達。


「先生! その話! もっと詳しく聞かせてもらえませんか!?」


「い、いいけど……やけに喰い付いてくるわね。まっ、いいわ。ちょうど誰かに愚痴りたかったし♪」


 生徒に愚痴る先生ってどうなんだ?

 先生、というよりグウタラな先輩を見ている感じであった。


見てくれてありがとうございます。

長谷川兄妹のメイン視点が多いのは許してください。本編に出なかったキャラを出番増やす為にちょっと優遇させたかったので。

今回の番外編は今までのスピンオフの内容も大いに絡ませています。なのでもう一度スピンオフを読み直すと少し面白いかもしれませんよ。

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