Hyper Bonus Point +1 せっかくだし僕のことは一郎でいいよ
お待たせいたしました。
2ヵ月空いてしまいましたが、ようやく更新ができそうです。
ちなみに今回はスピンオフとは違います。ほぼ全員に見せ場がありますので。
番外編って言った方がしっくりくるかもしれませんね。
【main view 小野口希】
三年生に上がり、早一ヶ月。
そろそろ受験について考えなければいけない時期ではあるが、私の中ではある程度進路方針は決まっていた。
とりあえず大学進学。そこで私は教職を取りたいと思っている。
つまり私は先生になりたいのだ。
私が先生になりたいと思ったキッカケはやっぱりあの人の影響が一番かなぁ。
そういえば私に多大な影響を与えた張本人ももうすぐ南高校のヘルプから帰ってくる頃だ。
沙織先生ならあっちでも面白おかしくやっているんだろうなぁ。早く話を聞きたい。私も沙織先生みたいに面白おかしい先生になりたい。
でも今はそんな先の事よりも目先の事だよね。
とりあえず残された高校生活。約一年間の中でやり遂げなければいけないことがある。
それは――
「おっす希。今日もまったり勉強していくぞー」
のそのそと図書準備室へ現れたこの人物。
長谷川佐助くん。
あくび交じりに着席するこの男に私は惚れてしまったのだ。
私が残された高校生活の内にやらなければいけないこと。
この鈍感なんだか敏感なんだかよくわからない男に気持ちを伝えることだ。
進路はさすがに別々だろうし、卒業後も一緒に居る為には告白して恋を成就させるしかない。
だけど――
「やっほー。佐助君。今日は保体の勉強でもしようか」
「保体か。でもそれって次の中間じゃ試験ないだろ。あんまりやる意味ないんじゃないか?」
「いやいや。試験が無くても勉強すべきだよ。ほら。まずはさくっと応急処置の実技といこうか。私を溺れた人と思って人工呼吸してみて♪」
「……お前、今物凄いこと言っているからな」
そんなこと言いながら現国の教科書を広げる佐助君。
こんな調子なのだ。
私は割と本気でアプローチにいっているのに体よくスル―されてしまうのだ。
まぁ、ジョークと捉らえられているんだろうなとは思うけど……
だけどこの調子で一向に私達の距離は縮まらないのだ。
ガラっ!
「お姉ちゃん! 居ます?」
突然次なる客人が図書準備室に現れる。
これも最近ではお馴染みの光景。
佐助君の妹の七海ちゃん。
この子は最近こんな調子で突然現れることが多かった。
「居るヨー。どうした? 我が妹~?」
「いつ七海がお前の妹になったのか……」
実兄が呆れた目でこちらを見つめてきていた。
しかし、そんな兄を押しのけて七海ちゃんは真っ直ぐこっちに駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん。助けて! 田山先生が超難問な宿題を出してきたの!」
またあの担任は。
あの人、習っていない範囲も余裕で宿題にしてくるからなぁ。
教師には憧れるけど、田山先生のようにはなりたくなかった。
「いいよー。お姉ちゃんに任せなさい。解き方教えてあげる」
「ありがとう! お姉ちゃん、大好きです♪」
私の腕に自分の両腕を絡ませてくる七海ちゃん。
佐助君との好感度は変動なしであっても、なぜか最近七海ちゃんの好感度稼ぎは順調な気がする。
初対面の頃はあんなに避けられていたのにえらく懐かれたものだ。嬉しいけど。
コンコン……
七海ちゃんとイチャイチャしていると突然ノック音が聞こえてくる。
キチンとノックしてもらえることが何だか新鮮だ。
ここに居るメンバーは慣れ過ぎたせいかノックなんてしなくなったからなぁ。
佐助君に至っては最初からノックなんてしてなかったし。
「はーい。入ってどうぞ」
ガラガラ。
「お、おじゃましまーす」
遠慮がちに入ってきたのは私の愛人でもある月ちゃん。
「あっ。月ちゃんだ! いらっしゃーい」
月ちゃんが放課後にここに来るのは珍しい。いつも放課後は高橋君と過ごしているみたいだし。
「月羽先輩♪ こんにちはー!」
「あっ、七海さん。お久しぶりですね」
私のハニー達が手を取り合って挨拶を交わしている。
月ちゃんと七海ちゃんの組み合わせは本当見ているだけで癒されるなぁ。
「誰だ?」
「あっ。そ、その、わ、私……えと……」
そういえば初対面だっけ。佐助君と月ちゃん。
この組み合わせは異色すぎて新鮮だ。
「こら。月ちゃんを脅かすなー! くすぐりの刑にするぞ」
「い、いや、脅かしているつもりはなかったのだが……怖がらせたのならすまん」
「い、いえ。その……私が人見知りなだけで。あっ、私、小野口さんの友達で星野月羽と言います」
「友達以上の関係だよ♪」
「俺は希の……友達? ……であるC組の長谷川佐助だ」
「なぜ一瞬どもったー! 友達以下の関係なのかこらー!」
恋人になるどころか友達関係すらも怪しかったなんて……
密かにショックだぞー長谷川佐助め。
「まぁ、いいや。それで月ちゃん今日はどうしたの? 私といちゃいちゃしにきたの?」
「むっ! いくら月羽先輩でもお姉ちゃんは渡さないですよ!」
「な、七海さん、小野口さんと随分仲がいいのですね。大丈夫ですよ。取ったりしませんから」
「それならいいです♪」
……もしかして七海ちゃんを懐柔しすぎたかなぁ?
なぜだかちょっぴり身の危険を感じてしまったぞ。
「えっと、実は一郎君を探しているのですがこちらに来ていませんか?」
「高橋君? 来てないけど。ていうか月ちゃんと一緒だと思ってたんだけど」
「はい……一郎君まだ怪我も治っていないのに保健室から抜け出しちゃったみたいで……」
ちょっと待てい。
「怪我って何さ!? 何があったの!?」
「それが、私にもわからないんです」
「わからない?」
「はい。いつも放課後は一緒にいるのですが、会うたびに生傷が増えていたんです。でも傷の理由を頑なに教えて貰えなくて……とりあえず今日は怪我の治療の為に保健室へ連れていったのですが、ちょっと目を話した隙に居なくなっていたんです」
辛そうな表情で語る月ちゃん。
心配で仕方ないんだろうなぁ。
「おのれ高橋一郎め! 私の月ちゃんにこんな顔をさせるなんて許せない! こうしちゃいられないね! 私も探してくるよ!」
「えっ!? ちょ……お、小野口さん!?」
高橋君のことだからまた何か無理をしている可能性もある。
それも今回は何故か月ちゃんにも相談をせず、一人で何かを抱えている。
そういうの良くない。
良くないんだからっ!
【main view 長谷川佐助】
「お姉ちゃん。出て行っちゃった……」
猪みたいなやつだなぁ。相変わらず。
おかげでこっちは置いてけぼりだ。
まぁ、今分かっていることは、この星野という女子の知り合いが怪我をしたということだけだ。
しかし、それだけでは状況が呑み込めない。
「なぁ、星野……だっけか? 部外者の俺が事情を聞くのは非常識かもしれんが……なりゆきでここまで聞いちまったからな。ちょっと質問をさせてもらっていいか?」
「あっ、は、はい。私で応えられる範囲でしたら」
「それじゃ――」
「その『高橋』さんって人はもしかして月羽先輩の恋人ですか!?」
俺が質問を繰り出す前に七海のやつがどうでもいい質問を星野に投げかけていた。
その質問に対し星野は瞬時に紅潮してしまっている。
「は、はい。その……お付き合いをさせて頂いております」
「やっぱりそうなんだぁ。恋人さんが突然傷だらけになって現れたらとっても心配ですよね」
一応七海も星野の事情を汲んで心配はしているようだ。
「恋人の怪我の具合はどうなんだ?」
「あっ、それほど重症ではありません。今回は救急車を呼ぶほどの怪我には見えませんでしたし」
『今回は』ってなんだ。
過去に救急車で運ばれるような怪我をしたことがあったのだろうか。
「その怪我というのは何時負ったものなのか分かるか?」
「……いいえ。放課後以外だとは思いますが、一郎君とはクラス違いますし」
「じゃあ、クラスの人に聞いてみるのはどうですか? 何か知っているかもしれませんよ」
「それは期待できないと思います。きっとクラスの皆さんは一郎君が怪我をしていることすら知らないでしょう。一郎君の影の薄さを侮ってはいけません」
どういう奴なんだそいつは。
イマイチキャラが掴めないのだが。
「まー、どうしても本人が見つからないのならダメ元でもクラスの奴に聞いてみるのもいいんじゃないか? 何か知っている奴がいる可能性だってあるんだろ?」
「それも期待してはいけません。私の人見知りっぷりを侮ってはいけません。他のクラスの知らない人と話すなんて……」
……この星野もどういうキャラなんだ。
こんなにも堂々とポンコツアピールできるなんてある意味希少だぞ。
しかし、そうなると俺に出来ることはないか。
「じゃあ本人を探すしかないな。頑張――」
「任せてください! 月羽先輩! お兄ちゃんが恋人さんのクラスに行って事情を知っている人が居ないか聞き込みをしてくれますから!」
なんか我が妹が変な事言っている。
この流れ……不味いな。俺が面倒事に関わるしかない流れに導かれつつある。
断固阻止せねば。
「それこそ期待してはいけないぞ七海。俺の面倒くさがり屋を侮っていけない。諦めろ」
ゲシッ!
「うごっ!」
こいつ。脳天を叩いてきやがった。
行動が段々希に似てきたな。
「私が引きずってでも恋人さんのクラスに持っていくので。どこのクラスか教えて頂けますか?」
「さ、三年A組です。あっ、わ、私も行きます!」
結局着いてくるのなら最初から自分で聞けばいいじゃないか。
まっ、話を聞いてくるだけならいいか。
5分もあれば終わるだろ。
――と、軽く思っていたのが大きな間違いだったことに後々気付かされることとなるのであった。
【main view 長谷川七海】
わわっ。三年生の校舎に入るのって初めて。
緊張するなぁ。一つ年上の人間が集合しているだけの場所なのに、どうしてこんなに神聖さに満ちているのだろう。
私もA組だし、来年はこの教室で勉強するんだなぁ。
「月羽先輩~。なんだか緊張します」
月羽先輩の腕に絡みつくようにくっつく私。
「大丈夫ですよ七海さん。きっと私の方が緊張していますので」
身体越しに伝わってくる月羽先輩の震え。
どうして同じ三年生の先輩が震えているのだろう。
別のクラスに行くのって確かに緊張するけど、私以上の震えな気がする。
こういう所が先輩の可愛い所でもあるけれど。
……希お姉ちゃんならこういう時でも堂々としているんだろうなぁ。
もぅ、お姉ちゃんってば私を置いて行っちゃって……
温もりが欲しい時に居ないんだから。
「おーい。そこの男子生徒。ちょっといいか?」
お兄ちゃんが早速聞き込みを開始する。
面倒くさがり屋だけど、いざと言う時は行動力あって頼りになるなぁ。
「ん? 誰だ?」
「C組の長谷川だ」
「そうか。俺は斉藤だ。それで俺に何か用か?」
「ああ。ちょっと聞きたいことがあってな。コイツの恋人についての話なんだが――」
月羽先輩を人差し指で指しながら話題に入ろうとする。
グキッ。
月羽先輩に失礼なのでとりあえずその指にストレートパンチをお見舞いしてみせた。
「ぐぉぉぉっ! 七海! 何するんだ!」
「デリカシーの無いお兄ちゃんが悪い! ほら。突然指を向けられて月羽先輩の震えが震度4くらいになっちゃったよ!」
「……それは中々激しい揺れだな。まぁ、悪かった」
仕切り直しということで、お兄ちゃんが再度3-Aの人に身体を向ける。
「高橋という奴について聞きたいことがある」
「高橋って……根暗の?」
「根暗なのか? お前の恋人」
ビシッ!
失礼パート2。額突きの制裁をお見舞いする。
この駄目お兄ちゃんは……どうしてここまでデリカシーがないのだろう。
「えっと、間違いありません。私の恋人は表向きでは根暗さんです」
月羽先輩もなんか認めちゃってるし。
悔しくないのかなぁ? 自分の恋人を根暗扱いされて。
だけどもしかしたら本当にどうしようもない人なのかも。
駄目な人に惚れちゃうタイプの女の子っているし。
でも月羽先輩にはしっかりした人に引っ張って行ってもらったほうがいい気がする。
「その高橋が最近怪我しまくっているみたいなんだが、その理由を知っていたりしないか?」
「あー、なんか怪我してんなアイツ。でも知らんよ。俺、アイツのことすこぶる興味ないし」
「そうか。邪魔したな」
そのままお兄ちゃんは3-A教室から出て行こうとする。
「お兄ちゃん! まだ一人にしか聞いてないでしょ! どこいくの!?」
「いや、俺にしてはかなり仕事した方だ。疲れたから図書準備室で寝ようかと」
「時給100円にも満たない働きだよ! もっと他の人にも聞いてみるの!」
「面倒臭い……まー、しゃーないか」
後ろ頭をボリボリ掻きながらお兄ちゃんは教室に残っている人に再び声を掛けてゆく。
「高橋? え? あいつ友達居たの? 怪我? 怪我なんかしてたっけ」
「えっ? 高橋君が怪我? 知らなかった。喧嘩とかぜーったいにしなさそうなタイプなのに」
「高橋が怪我だって? そんなことよりもナイル川について語らないか?」
「怪我なんてしてたのかアイツ。普段視界にはいらねーからなぁ」
だけど、誰に聞いても最初に尋ねた人みたいに月羽先輩の恋人さんに興味すら示していないみたいだった。
「お前の恋人ある意味凄いな。これほどクラスメートに興味を持たれないって相当だぞ」
「えへへ。それが一郎君の特徴なんです」
お兄ちゃんの皮肉の言葉に、なぜかちょっと照れて返す月羽先輩でした。
その高橋さんと言う人はクラスでかなり浮いているみたいでした。
高橋さんが怪我をしていることすら知っている人が居ない様子です。
「しかし、これじゃこのクラスの連中に聞いても誰一人事情を知らなそうだぞ」
「そうですよね……」
クラスの人が知らないとなるともう手詰まりかもしれない。
「日を改めて出直したらどうだ? 明日になれば本人ここに居るだろ?」
「そうだよ。別に今日中に探し出して事情を聞く必要はないんですよね?」
「うーん……」
妥協案を出すけど、月羽先輩の表情は納得行っていない模様。
もやもやを残したまま帰りたくない、と顔がそう言っている。
「あっ、そうだ」
「どうしたんだ?」
「もしかしたら青士さんなら何か知っているかもしれません」
青士さん?
またも新しい人の名前が飛び出してきた。
「青士さんは私と同じクラスの人なのですが、毎日ここで一郎君と一緒にお昼を食べているんですよ」
もしかしてそれって浮気なんじゃ……?
私の中で月羽先輩の恋人さんの株がみるみる下がってゆく。
そもそもどうして他のクラスの人がここでお昼を食べるんだろう?
お姉ちゃんの交友関係は不思議が一杯だなぁ。
「その青士ってやつはどこにいるんだ?」
「ちょっと待ってくださいね。今メールで聞いてみます」
月羽先輩がカバンからケータイを取り出し、ディスプレイを覗く。
「あれ?」
そこで何かに気付いたみたいでした。
どうしたのだろう?
「一郎君と青士さんからメールが来てました」
「えぇっ!?」
「見てください」
月羽先輩がメール画面をこちらに向けて見せてくる。
――――――――――
From 青士有希子
2013/05/02 16:21
Sub ちょっと高橋借りてるわ
――――――――――
明日には返す
-----END-----
―――――――――――
随分とシンプルなメールだけど、状況が更に混乱してしまいました。
「一郎君からのメールはこちらです」
――――――――――
From 高橋一郎
2013/05/02 16:24
Sub 青士さんに拉致られた
――――――――――
保健室でまったりしてたら
青士さんに連れてかれちゃった
どうやら僕達が保健室へ入る所を
見られていたみたい
不覚だね
-----END-----
―――――――――――
この人、文章の言葉選びが可愛いかも。
怪我をよくしてしまうみたいなことを聞いていたからもっとワンパクな人かなと思っていていたけど、このメールで印象が変わった。
でもクラスメートさんは根暗とか言っているし、人物像がどうもイメージできない。
「青士さんと一緒だったみたいですね。でもどこにいるのでしょう?」
「それはこっちからメールして聞いてみたらどうだ?」
「それもそうですね。ではちょっと待ってくださいね」
慣れない感じの手つきでメールを打つ月羽先輩。
うぅー。代打ちしてあげたいくらいゆっくりとした手つきだ。
~~♪ ~~~♪
「わわっ!」
月羽先輩がメール作成中にケータイが強く震える。
誰かからの電話かメールかなぁ。
「小野口さんからのメールです」
「お姉ちゃんから!? 見せて! 見せてください!」
「は、はい。七海さん。小野口さんからのメールには凄く喰い付きいいですね」
月羽先輩の腕ごと引き寄せてお姉ちゃんからのメールを覗きこむ。
――――――――――
From 小野口希
2013/05/02 16:40
Sub 下駄箱に集合
――――――――――
高橋君の下駄箱が大変なことに
なってるよ!
早く来て!
-----END-----
―――――――――――
「下駄箱……?」
下駄箱がどうしたのだろう。
まさか悪質ないじめが発覚したとか!? 靴に画びょうとか片方隠されたりとか。
そういうイジメってクラスの目だたない人が標的にされたりしちゃうんだよね。
クラスメートさんの様子を見ると高橋さんがその位置の人のように思えるし。
「行ってみましょう」
「うん」
「俺は先に帰って――すんません。行きます。行くから睨むな七海」
本気で帰ろうとしてたお兄ちゃんの腕を引っ掴んで、私達は生徒玄関まで駆けるのであった。
【main view 小野口希】
「あっ、みんなー。こっちこっ――」
「お姉ちゃん!」
「――おっとぉ」
勢いよく七海ちゃんが胸に飛び込んでくる。
この健気さが癖になりそう。妹離れができなくなったらこの子のせいだな。可愛すぎるのが悪い。
「希。それで下駄箱がどうしたんだ?」
「まさか見知らぬ人の手紙とか入っていたんですか!? 約一年間ストーカーした挙句、やっとの思いで経験値稼ぎに誘おうとする女の子からの手紙とか入っていたんですか!?」
やけに具体的だけど、半分くらい何を言っているのか分からなかった。
「おちつきなさい月ちゃん。そんなのじゃないから……んーまぁ、それはそれで面白いけど」
「面白くありません!」
私の左肩を揺らす月ちゃん。
んー、右手に七海ちゃん、左に月ちゃん。これよこれ。このハーレムを私は築きたかった。
「話を戻して良いか? もう一度聞くが下駄箱がどうかしたのか?」
佐助君の一言でハッと夢から覚める。
「高橋君が外に出て居ないか確かめる為に下駄箱を開けてみたんだけど、なんかおかしなもの見つけちゃってさ」
「おかしなもの?」
「これこれ」
勝手に下駄箱を開けさせてもらい、皆にもアレを見てもらう。
「紙?」
「名刺……だよね?」
そう名刺だ。4号サイズの小さな名刺。
そこにはこんなことが書いてあった。
「『お前は調子に乗り過ぎた。よって我ら光の親衛隊が制裁を下す』」
「「「…………」」」
あっ、やっぱり皆黙っちゃった。
そうだよね。私も最初これを見たとき唖然としたもん。
「あー、つまり……だ。状況を整理すると、高橋が調子に乗ったことを羨んだ誰かがここに名刺を入れたってことになるよな」
「うん。で、高橋くんは最近生傷を増やしている」
「つまり、この光の親衛隊? と名乗る人が高橋さんに危害を加えているからってこと?」
「な、なんですか! それは!?」
月ちゃんが珍しく声を荒らげる。
驚愕と共に軽く取り乱しているようだ。
「お姉ちゃん、この光の親衛隊っていうの、知ってる?」
「いんや、全然しらない。佐助君は?」
「俺も知らん。『隊』って名乗るからには団体か……いや、決めつけるのも早いか」
「とにかく一郎君が光の親衛隊っていうのに酷い目に遇わされているってことじゃないですか! どうして何も言ってくれなかったのでしょうか」
「……まー、こんなあからさまに危なそうな奴に狙われちゃな。もし俺が高橋の立場だったらお前を巻き込まない為に誰にも言わないかもしれない」
うーん。佐助君ならそうするかもしれないけど、あの高橋君がそんな風に考えるかなぁ?
なんだかんだで周りを巻き込んで解決しようとするのが高橋君流な気がするけど。
「でも一郎君は青士さんと一緒に居るんですよね? なら青士さんと一緒にこの光の親衛隊を追っているのではないでしょうか?」
「そう……なの? でもどうして青士さんと」
「ボディーガードなら青士さん以上の人材は居ないでしょうし」
「まぁ、確かに……」
もしかしたら月ちゃんに知られる前に問題を片付けちゃおうとしていたのかもしれない。
でも知っちゃったからには私達も知らんぷりするわけにはいかないんだからね。
「とりあえず高橋と、その青士っていう二人と合流した方がいいんじゃないか? 光の親衛隊の存在を知ったことを話せば高橋もコソコソ行動したりはしなくなるだろ」
「あっ、そうですね。一郎君にメールしてみます」
月ちゃんが私の肩から離れてケータイを打ち始める。
離れてしまったことに若干の寂しさを憶えたのは内緒だ。私のハーレムもう終わりかぁ。
「……一郎君から返信がありました。今、旧多目的室に退避しているみたいです」
退避って……光の親衛隊から逃げているってことかなぁ。
旧多目的室なら逃げ場として打って付けだしね。
【main view 長谷川佐助】
旧多目的室。
こんな場所があったのか。
空き教室の割には清掃が行き届いているな。今でも誰かが使っているのか?
教室の中をキョロキョロ見渡していると、窓際の席に二人の生徒が座っていることに気付いた。
背の低い男子生徒と背の高い女子生徒。
きっとこいつらが――
「月羽―! やっと会えたよ~」
「こちらの台詞です! 散々探したんですよ、もぅ!」
「なんかしらねー奴等と一緒だけど。誰だ?」
『しらねー奴等』なのはこちらも一緒なのだが。
女子の方は口悪いな。
「この子は私の妹の長谷川七海ちゃんだよ!」
「は、初めまして。妹の七海です」
「小野口に妹いたのか。知らなかった」
七海が従順すぎるせいで偽りの情報が彼らに伝わってしまった。
「この人は……えっと……私の……んー、なんだろう?」
「俺に聞かれても困る」
「あん? 小野口の彼氏か?」
「ち、違うよ!」
おぉ。慌てる希が見られた。これは貴重だ。
せっかくだから手を合わせてみよう。ありがたやありがたや。
「おめーの彼氏。なんか拝み始めたぞ」
「面白い人だなぁ」
二人に変な奴扱いされてしまった。俺としたことがとんだミスを。
「俺は長谷川佐助。七海の兄だ」
「んぇ!? 小野口さんの妹の長谷川さんの兄の長谷川君?」
「つまり小野口の親戚か何かか」
希の間違った自己紹介のせいでやたらややこしいことになってしまっていた。
だけど説明するのも面倒くさいから訂正はしないでおくことにした。
「同じ長谷川で紛らわしいから俺のことは佐助でいい」
「分かったよ佐助くん。あっ、僕は3-Aの高橋一郎です」
コイツが高橋か。思ったよりもフレンドリーそうな奴じゃないか。
「わ、私がアレほど苦労した名前呼びをあっさりと……」
希がなぜか悔しがっていた。
「アタシは青士有希子。アタシは馴れ合いみてーなことはそんなに好きじゃねーから名字で呼ばせてもらうわ」
こっちが青士か。聞いていた通り気の強そうな性格のようだ。
「じゃあせっかくだし僕のことは一郎でいいよ。実は親と月羽以外の人に名前呼びされたことなくて少し憧れてたんだ」
「了解だ一郎」
「せ、せっかくなので私の事も七海って呼んでください。一郎先輩」
「う、うん……なんか名前呼びよりも先輩呼びされたことの新鮮さが半端ないや」
「あはは。なんですかそれ~。なんか一郎先輩って月羽先輩とそっくりですね。外見じゃなくて内面というか」
七海も打ち解けたようだ。
しかし、A組の連中はコイツのどこを見て根暗とか思ったのだろう。
ここまで好印象の自己紹介をしてくれたやつ初めてだぞ。
「わ、私がアレほど苦労した名前呼びをあっさりと……」
そして今度はなぜか星野が悔しがっていた。
「さあさあ高橋君! 青士さん! そろそろ事情を聞かせてもらうからね!」
互いの自己紹介を終えたところで本題に入る。
「そうですよー! 一郎君が光の親衛隊という団体に襲われているのはもう知っているのですから!」
「…………うーん」
一郎が何故か眉を潜めるように腕組みをする。
「どうした? 俺達には何か言いづらいことでもあるのか?」
「いや、そうじゃなくて……どこから説明したらいいのかなーっと思って」
「『光の親衛隊に襲われている』だけじゃ説明として不足なのか?」
「……実はそれすらも間違っているというかミスリードだったというか……」
ミスリード?
もしかして俺達は壮大な勘違いをしていたということか?
「――ではここから先は俺から説明させてもらおう」
「「「「「うわぁぁぁぁっ!?」」」」」
何の前触れもなく突然俺達の前に変なやつが現れた。
コイツのことなら知っている。
ていうかこの学校にてコイツを知らないやつなんていないだろう。
「い、池君。居たんだ。相変わらず気配消すの上手いなー」
「そんなに褒めるなセカンドイケメン。俺の方もちょうど『調査』が終わった所だ。その報告も兼ねて、ここからは俺に語らせてもらおう」
やっぱりコイツが池か。
試験の学年ランキング20位。池=MEN=優琉。
また濃い奴が現れたもんだ。あの希が影薄い奴に思えるほどに。
「――まず、先ほどセカンドイケメンも言った通り、今回の事件の黒幕は光の親衛隊ではない」
本当に淡々と語り出す池。せめて自己紹介くらいしろ。
ていうか――
「(セカンドイケメンってなんなんだ……)」
そのことばかりが気になって仕方なかった。
「そもそも光の親衛隊と言うのは――」
「あー、まて池。その前にこいつらに事の発端を話すことが先だ。いきなりおめーが結論話してもキョトンだろーからよ」
「それもそうだな。ならその役目、メンタルイケメンに任せた」
「ちっ、人任せかよ。しゃーねーな」
やれやれといった感じで仕方なく了承をする青士。
「(……だからメンタルイケメンってなんなんだ……)」
次々と炸裂する名詞がただひだすら気になる俺であった。
見てくれてありがとうございます。
今回はBonus Pointで活躍した面々が主役の回でした。
こんな感じで今回の番外編は色々なキャラにメイン視点が回っていきます。
ちなみにHyper Bonus Pointは4話に渡って更新します。もう執筆は終わっているのでそんなに間を開けずに更新できると思います。
それとスピンオフ及び番外編はこのHyper Bonus Pointで終了致します。