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Experience Point  作者: にぃ
124/134

Zero Point あの時に一つでも選択を誤っていたら

お待たせしました。

今回のスピンオフは一話におさめることができました。

スピンオフ……というよりは番外編ですね。

第一話よりも前の出来事を今回は書いてみました。

主役はお馴染み、ヒロインであり主人公でもある月羽です。

    【main view 星野月羽】



 中学時代、私に友達は居なかった。

 というより、小学生の時も友達と遊んだ記憶がほとんどない。

 中学三年間の中でクラスメイトとお話しをした回数なんて二桁いかない気がする。

 内気で自分から人に話しかけることを全くしなかったのが今の私を完成させた要因なのでしょう。

 でもそんな内気な自分は今日でおしまい。

 明日から念願の高校デビュー。

 本当の私、デビュー! です。







 1-B。それが私のクラス。

 入学初日は名簿順に着席し、クラス中がシンっと沈黙を静まり返っている。

 この学校はクラス替えがないと聞いたので、このメンバーで三年間過ごしていくことになる。

 つまり友人を作る期を逃してしまうと、三年間ぼっちが確定してしまう。

 それでは中学時代の二の舞です。

 それだけは避けなければいけませんね。

 なら、早いうちに私から声を掛けなければ。


「「「…………」」」


 でも初日というだけあって、周りはかなり静かです。

 腹の探り合いみたいな雰囲気が教室中に漂っています。

 うぅ~、この空気の中、私だけが誰かに話しかけるなんてことできません。

 ……いえ、この空気じゃなくても私から話しかけるなんて出来ない気が……

 と、とにかく今日は皆さんに習って私も沈黙を保つことにしましょう。

 明日から本気出します!







「今日から授業だね。楽しみ~」


「私、英語が得意なんだよね。小野里さんは?」


「あたしは体育くらいしか得意科目ないなぁ。小野沢さんは?」


「私は文系か全般かな。理系になると全然だめでさ。小野口さんはどう?」


「私は得意科目なんてないよ~」


 これはどういうことでしょう?

 あの沈黙空気から一日空けただけなのに、私以外の女の子達がほぼ全員打ち解け始めている。

 完全にタイミングを取り逃してしまいました。

 いえ! まだです。入学してからまだ二日目です。だからタイミング遅れなんてことはないはず。

 今ならば自然な流れで会話に入り込むことができるかもしれません。

 勇気を出して……勇気を出して……いざっ!


「…………………………………………………………………………」


 私の意気地なしぃっ!

 いえ。これはアレです。せっかく弾んでいる会話の邪魔をしてはいけないという私なりの気遣いなんです。

 さすが私。気遣いのできる女です。


「…………………………………………………………………………」


 と、とにかく今日は様子見ということにしましょう。

 でも周りが会話している中、私だけ机でポツンとしているのは頂けませんね。

 中学時代と同じように『あいつ(星野)友達いねーからいつも一人で居るなぁ』みたいに思われるのは避けたいです。

 私は好きで一人で居る。友達が居ないから一人で居るのではないのです――みたいな意志を周りに示したい。

 ならば私の取るべき行動は一つです!

 腕を交差に組み、前髪を少し左右に分ける。次に両腕の真ん中に自分の頭を軽く乗せれば完成です。

 この体制こそ私の伝家の宝刀。『腕を痛めない寝たフリ』です。

 この奥義は私が中学三年間で極めた完成形。私以上に寝たふりが上手い人なんているはずありません。

 ……何だか自分で誇っておいて悲しい気持ちになってしまいました。







 あっ……っと言う間に半年が経ってしまいました。


「ねー。今日バイトだっけ?」


「んーん。今日休みだよ。遊ぶー?」


「遊ぼっ! 遊ぼっ! ボーリングする? カラオケする? 剣玉する?」


「久しぶりに剣玉カラオケ行こうか。新機種なら剣玉採点もできるんだって」


「マジ? ちょー楽しみぃ」


 放課後になるとクラスメート達は仲間を引き連れてぞろぞろと遊びに出てしまう。

 当然その中に私の姿はなかった。


 どうしてこうなったのでしょう。

 気が付くと私は教室の隅で一人ぼっち。

 昼休みはゆ~~くりご飯を食べて時間をつぶし、放課後は即帰宅することで間の潰し方をマスターしていました。

 でもこれでは中学の時と一緒です。

 クラス替えも無いですし、これで三年間ぼっち確定ですか。たった半年で暗黒色の高校生活を送ることがほぼ決定してしまいました。


「(高校に入れば変われるはずだったのに……)」


 理想は果てしなく遠かった。

 自分から行動を起こさなければ理想に近づくことすらできない。

 分かっていたはずなのに私は行動を起こせなかった。

 それに行動を起こして良い期間には限りがある。

 半年も経ってしまってはすでに手遅れでした。


「(帰りましょう……)」


 帰ってゲームでもして時間を潰す。

 いつもの過ごし方、私の唯一の趣味の時間。

 楽しい楽しいゲームの時間。


「(だけど――)」


 だけど、やっぱり物足りなさを感じてしまう。

 でも自分が本当にやりたいことはなんなのか、この頃の私は見出せずにいました。







 あっ……っと言う間に、今度は一ヶ月が経過しました。

 一日一日が長いくせに、一ヶ月が経つのがやけに早く感じます。


 もう11月ですか。

 入学したばかりの頃に戻りたい。

 今、やり直すことが出来れば、私だってきっと……

 きっと――やり直したところで今と同じ結果なのでしょう。


 入学してから7ヵ月。この7ヵ月で私は全く進歩していない。

 弱いままやり直しても『強くてニューゲーム』の意味がない。

 7ヵ月も経ったのに私の経験値はまるで詰まれていない気がします。


「(経験値……かぁ)」


 私に経験値が詰まれていれば、今みたいに机に突っ伏したまま寝たふりなんてしないんだろうなぁ。

 でも、もうすべてが遅い。

 周りの子達は皆かなりの経験値を積んでいるのだろうなぁ。

 私だけが……取り残されてしまいました。

 そう考えると奮起する気すら起きない。

 一人、スタートラインで動けないでいて、周りの子が翔けていくのを遠目で見つめることしかできない私。

 スタートラインで一人ぼっちの私。


「ねえねえ。E組に超格好良い人居るんだって。見に行かない?」


「行く行く! このクラス。男子のレベル低くてガッカリしてたのよね」


「っていうか、この学校自体男のレベル低すぎでしょ。B組なんてまだ良い方よ。隣のA組なんて超悲惨よ。オタクっぽいのしかいなかったし」


「あー。確かにそんな感じだったわね。窓際の男子なんていっつも寝てるし」


「今はそんな根暗男子なんか放っておいてイケメンよイケメン! 早くE組に行きましょう」


 クラスの女の子達がぞろぞろとE組へ出ていく。みんなE組のイケメンさんに興味津々のようです。

 でも私はそれよりもA組の人の方が気になりました。



    ――『窓側の男子なんていっつも寝てるし』。



 この言葉。

 それがとても頭に残っている。

 もしかしてその人も私と一緒なのではないか……と。

 私と同じようにスタートラインに取り残されてしまっているのではないのでしょうか。


 気になった。

 気になって仕方なかった。


「…………」


 久しぶりにちょっとだけ奮起してみようと思った。


「(ちょっと見てくるだけ……)」


 見てどうなるというわけでもないですが、ここで突っ伏しているより何倍もアクティブな気がします。

 ゆっくりと起き上がり、静かに歩みを進めて教室を出ていく。

 当然、私の行動なんて見ている人はこのB組には居なかった。







 1-A。

 別のクラスなんて今まで全く興味もなかったのですが、私は生まれて初めて別の教室を覗き見る。

 と、言ってもかなり遠目で。廊下の窓から外を見るフリをして横から流し見るように1-Aの教室を視察する。

 例の方はどなたでしょうか?


「(あっ……)」


 その人はすぐに見つかりました。

 窓際の後ろの席で腕を交差して机に突っ伏している男子生徒。

 ただ寝ているだけではありません。

 同類……だから分かる空気……みたいなものでしょうか?

 あの人は私と同じように『自分は好きで一人で居る』アピールをしているのだと悟った。


 それでもあの人が『なんちゃってぼっち』の可能性もまだ否めない。

 あの人が真のぼっちかどうか……私が見極めてみせましょう。


「(……何やっているのでしょう。私)」


 ふと素に戻る。

 あの人がぼっちであろうとなかろうと私には関係ない。


「…………」


 それでもまだこの場に留まる私。

 私は何を期待しているのでしょう……?


「(……あ、あれ?)」


 ちょっと考え事をしている間に、例の男子の様子が少し変わっていることに気付く。

 たぶん、私にしか気付けない一つの真実。


「(いつの間にか、左右の腕の位置が変わっています!)」


 あの男子はさっきまで右腕にオデコを付けて寝ている――もとい寝たふりしていたはずでした。

 しかし、一瞬の隙に頭を付けているのは左腕になっている。

 その行動の意味は私ならば理解できます。

 机に突っ伏して寝ていると、体勢によっては血が止まってしまう。

枕の下に腕を入れて寝ていると腕の感覚が無くなってしまうアレに近い。

 それを防ぐために右腕と左腕を入れ替えつつ、寝たふりをするのがベストな体制です。


 しかしあの速さ……

 間違いありません。

 あの人は熟練された真のぼっちです!


「(あっ……!)」


 それだけではない

 あの人の脇を女の子が通り過ぎようとしたとき、机の脇に掛かっていたバッグを寝たふりの体制のままそっと引き寄せて、通路をさりげなく開けていた。

 女の子はそんな些細な気遣いなんて気付かず素通りしていましたが、ずっと観察していた私には気付けた。


「(優しい……人なんですね)」


 A組の方々は知らないのでしょう。いつも寝ている彼があんなに優しい人だということを。

 今、この場で彼の優しさに気付けたのは私だけ。

 何故だか知らないけど、そのことが無性に嬉しかった。


「(あ、あれ?)」


 窓に映った私の顔を見て、自分の表情の変化に初めて気付いた。


「(私……笑ってる?)」


 高校に入学してから愛想笑いすらしなくなったのに、頬の緩みが止められない。

 嬉しさから?

 それとも同類を見つけた喜びからでしょうか?


 表情の変化と共に動悸もするようになってきた。

 謎の笑み。顔の紅潮。不自然な動機。

 これって……これって――


「~~~~っ!!」


 きょ、今日の所は退散ですっ。

 こ、これで終わりだと思わないでくださいね! A組の寝ている男子さん!







 それから私はA組を覗いて例の男子生徒の様子を見ることが日課になっていた。

 といってもA組の前を通る時、わざとゆっくり歩いて覗いたりとか、登下校の時さりげなくA組の前を通って横目で見つめたりとかその程度ですが。

 って、私、軽いストーカーみたいですね。

 それくらい私は彼のことが気になっていた。


「(今日は本を読んでいるみたいですね)」


 本が好きなのでしょうか?

 それとも本を読むことで時間潰ししているのでしょうか?

 難しそうな本です。私には読めなさそう。


    ストンっ


「わわっ」


 ブックカバーから中身が滑り落ちて例の男子生徒が慌ててカバーを戻す。

 声、初めて聴きました。見た目通り可愛らしい声です。

 それよりも……


「(私は見逃しませんでしたよ)」


 難しそうなブックカバーの隙間から零れ落ちたライトノベルのカラー表紙を。

 見栄を張らずに難しそうな本のカバーなんて捨てればいいのに。

 うぅ~。今彼が読んでいる本、私も集めている作品の最新作じゃないですかぁ。私も読みたい。そして語り合いたいです。

 こんな風に――


    ――『あっ、その作品私も好きなんですよ。どこまで読みました? 私は二巻のあのシーンが好きなんですよ~』


    ――『へぇー。僕は四巻が好きだなぁ。主人公の格好良さが際立つあのシーンが好きでさ~』


 ………………

 …………

 ……


 夢のようですね。

 夢の夢。

 絶対にありえない光景。

 叶いっこない理想。


 だけど――


「(あの人と……お話し……してみたいなぁ)」


 理想を羨む影響か、今は素直にそう思った。







 それから更に二ヶ月が経過した。

 もう新年明けての新学期。

 私の高校生活は何もしないまま後二ヶ月で一年が過ぎようとしていた。


 入学後、10ヶ月も経つとクラスの中での自分の立ち位置は修正不可能になってしまう。

 クラスメートと会話らしい会話なんて両手の指で数える程度しかしていない私なんてクラスの置物同然となってしまいました。

 たぶんもうクラスの中で友達を作ることは不可能でしょう。


 でもあの人となら――


「――高橋のやつ、また本読んでやがる。面白いのかね?」


 いつものように廊下から彼を観察していると、彼のクラスメートの会話が私の耳に入ってくる。


「――面白いからいつも一人でああして本読んでいるんでしょ。高橋君、一人が好きそうだし」


「…………」


 分かっていない。

 別に一人が好きなわけではない。それに好きで本を読んでいるわけでもない。

 ああするしかないからああしているだけのこと。

 本人に気持ちを確認していないから私の考えも推測でしかないけれど、絶対私の推測の方が真実に近いに決まっています。

 私の方が……彼の気持ちは理解できている。そうでありたい。

 それはともかく――


「(高橋……くんかぁ……)」


 彼の観察を始めてから約二ヶ月。

 ようやく彼の名字をしることができた。

 ……嬉しい。


「(下の名前も知りたいなぁ)」


 って、私、完全に思考がストーカーになってます!?

 で、でも……


「…………」


 私の目に映るのは寂しそうな瞳で本を読み続ける高橋君の姿。

 その姿から自分と重なる物を感じざるを得ない。

 だからこそだと思うのだけど、彼とお話をしたいという欲が日に日に強くなっていくのだった。







 それから更に一ヶ月。

 来月には私は二年生になる。

 それを期に私はある行動を実行してみようと思っていた。


 私にはやりたいことがありました。

 それは自分と同じような境遇の人と共に人並みにまで成長していく計画。

 例えるならばレベル1の仲間同士が共に経験値を重ねていくような……そんな感じ。


 私一人だけではそれを実行する勇気がありませんでした。

 だけど二人なら……

 高橋君と二人なら……私はそれを積極的にやっていきたい。


 言うならば――


「(経験値稼ぎ)」


 レベル上げではない。

 『レベル』という概念で縛ってしまうと、やがてカンストが見えてしまうから。

 だから永遠に積み重ねることができる『経験値』という概念が一番しっくりきます。


 ただ、一つ――いえ、二つ問題があります。

 一つは、高橋君がこんな計画に賛同してくれるかどうか。

 こんなただの思いつき計画に付き合ってくれる保証はありません。

 むしろ断られる可能性が高い気がします。

 何か策を練らないと……


 もう一つは……私が未だに高橋君とお話ししたことがないということです。

 つまり経験値稼ぎうんぬんとかいう以前の問題が残っているわけです。

 何かをやりたいのならばまず自分から動かないといけない。

 心では分かっていても、それが中々実行できずにいた。

 ……まぁ、それが気楽にできるようならば経験値稼ぎなんてする必要ないのですが。


 とにかく今は行動を起こさなければいけない。

 まずは話しかけることからです!

 次に高橋君が廊下に出てきたときに私から話かけないと!


 ………………

 …………

 ……


 どうしてまったくの不動なんですか! あの人は!

 いつまで経っても席を立つ様子がありません。

 これでは話掛けることもできません。

 よその教室に入っていくことなんてできっこありませんし……

 ――なんて思っていると。


「(……あっ)」


 高橋君が不意に席を立つ。

 そのままゆっくりとこちらに向かってきます。

 い、今がチャンスです!


 ………………

 …………

 ……


 ゆっくりとトイレへ向かう高橋君。

 そして彼の後姿を見送る私。


「(知ってはいたけど、私の意気地なしぃぃぃぃぃぃっ!!)」


 しかし、他所のクラスの男子に話しかけるのがこんなに難しいだなんて。

 目の前をすれ違っただけで鼓動が跳ね上がるくらい緊張しました。

 ――駄目だ。この緊張感を克服できる気がしません。

 別の方法も考えないと。







 そして安定の一ヶ月後。

 最近一ヶ月が過ぎるのが早すぎません?

 高橋君とお話を――そして経験値稼ぎに誘う方法を考えていただけであっと言う間に二年生になっていました。

 しかし、無駄に丸一ヶ月浪費したわけではありません。

 おかげで凄くいい方法を思いついたのです。


「それがこの手紙作戦です」


 自室で数時間かけて書き上げた手紙。

 これを高橋君に渡し、手紙に指定された場所へ彼を呼び出す。そして私は彼を屋上で待つだけ。

 それならば確実に二人きりになれますし、その状況になったらいくら私でも逃げ出したりしない……はずです。


 まず、早めに通学し、高橋君の下駄箱にこの手紙を入れる。

 もちろん半年間の観察の成果もあって、彼の下駄箱の位置まで把握済みです。

 といっても下駄箱に名札が付いているので探したら一目瞭然でしたが。

 その時に彼のフルネームが『高橋一郎』であることも知り、ちょっぴり嬉しくなったのは内緒です。


 でもついついネガティブなことも考えてしまう。

 手紙を読んでくれなかったらどうしようとか、この手紙事態が悪戯と思われてしまったらどうしようとか、そもそも屋上へ来てくれないのではないのかとか……

 駄目です! そんなことを考えていては! 前向きに考えないと!

 全ては明日。明日からきっと私の学校生活がガラっと変わるんです!







 本当にこれで良かったのか。

 実はとんでもなく恥ずかしいことをしているのではないのか。

 翌日の放課後。夕暮れの屋上で高橋君を待っている間ずっとそんなことを考え続けていました。


 とりあえず彼より先に屋上へ居なければいけなかったので午後最後の授業が終わったのと同時にダッシュで向かいました。

 それから約30分後。高橋君はまだ来てくれていません。

 私が早く来てしまったのもありますが、それにしても到着が遅いです。

 やっぱり……来てもらえなかったのかなぁ。


    ガチャ……


「!!!????!?!?!??」


 突然屋上の扉が開き、そこから私の待ち焦がれていた人が姿を現した。

 高橋君は少し呆気に取られているように見えました。

 だけどそれ以上に私が多大な緊張に襲われてしまって、軽くパニック状態に陥ってしまっていました。

 ど、どうしよう。心の準備を整える時間はあったはずなのに、いざその時になると足が震えてしまって止まらなくなってしまった。

 高橋君は不思議そうな表情でこちらを見ている。でもあちらから話しかけてくる様子はありません。


 あっ、もしかして私が落ち着くのを待ってくれているのでしょうか。

 ありえます。彼が優しい人っていうことはすでに知っていますから。

 このまま待たせてしまうのは申し訳なさすぎます。

 早く落ち着いて私から話しかけないと! 私が呼び出したのだから。


「あ、あの! て、てぎゃみ! 読んでください……まましたか?」


 ……なんということでしょう。

 アレほどまで夢見た高橋君との会話。その第一声でいきなり噛んでしまうなんて。

 ちゃんと私の言いたいこと……伝わったのでしょうか。

 覗き見るように上目使いで彼を見ると、高橋君は小さく首を縦に振ってくれていた。

 よかった。ちゃんと私の意志が伝わっている。


「そ、そそうですすか」


 噛み噛みだけど……会話が……出来ている。

 ここで会話を切っては駄目だ!


「じゃ、じゃあ……えと……」


 私のやりたいこと……今きちんと伝えないとこれから先の人生で絶対に後悔する。


 逃げることは丸一年やってきた。

 彼を眺めるだけなのは半年間やってきた。


 そろそろきちんとお話しをしてもいい頃合いです。

 私はこの時を散々待ち続けてきたのだから。

 だから私はありったけの勇気を振り絞って、自分でも信じられないくらい大きな声ではっきりとこう言った。


「じゃあ、私と一緒に……経験値稼ぎをしてください!」







 経験値稼ぎのパートナーに一郎君を選んだこと。

 あの場でヘタレて逃げ出さなかったこと。

 恥ずかしさを我慢してまでしっかりと行動を起こしたこと。

 後々考えるとあの時の私の行動はベストでした。


「もし、あの時に一つでも選択を誤っていたらと思うと――」


「思うと?」


「一郎君が他の人に取られていたかもしれないんですね」


「……だからその謎の過大評価をそろそろ止めてもらえないかなぁ?」


「ふふっ。だから私は私が誇らしいです」


 だって、今一郎君が隣に居てくれるのはあの時の私が頑張った成果だから。

 これからもこの幸せを逃さないように頑張らないといけませんね。


見てくれてありがとうございます。

今回は『第零話』に相当するお話しと思って頂きたいです。それと第一話の月羽視点ですね。

いつかの後書きでも書きましたけど、スピンオフが始まったら「月羽が一郎に一目惚れした話」を書きますと明言していたので今回はそれを纏め上げてみました。

今回の話で第一話よりも結構前に月羽は一郎の事を知っていて、更に彼女にストーカー属性があることがはっきり分かりましたねw

ぼっち描写を描くのは得意なので今回はかなり早く話を仕上げることができました。

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