Extra Point +2 それを調べる秘策が私にはあるのよ!
更新遅れてすみません。
スピンオフ第二段。西谷沙織編の後半スタートです。
スピンオフは基本的に一話一話が長くなってしまうようですw
【main view 西谷沙織】
その日から全てが変わった。
今まではとにかく無難に、たとえ授業がつまらなくても一ヶ月をやり過ごそうと思っていた。
だけど気が変わった。
これからは私らしく、自分の授業をやっていこう。
そう誓った。
「(な、なんだあの絵?)」
「(なんのキャラクターなのだ? 深夜アニメを週に30本以上見続けている俺ですら見たことのないキャラクターだぞ)」
「(くそっ! 授業の内容よりも日直欄に描かれた謎のイラストが気になって仕方ない)」
「(かわいぃ~。西谷先生って案外お茶目?)」
皆が黒板の中心に描かれたイラストに注目してくれている。
これぞ半年前の授業特訓で身に着けた極意の一つ。
飽きさせない為のイラスト取り入れ授業である。
「センセ。日誌持ってきたっす」
「あら。花子さん。日直ご苦労様」
放課後の職員室。
残った仕事を片付けている中、日直の花子さんが日誌を持ってきてくれた。
「ちょうどよかったわ。花子さん。私、絶対に闇の親衛隊の正体を暴きたいの!」
「はい? 急になんすか?」
「貴方の仇を取りたいのよ!」
力強い言葉で返してみると、花子さんは目を見開いて驚きの表情へと変わっていった。
「その気持ちは嬉しいっすけど……でもやめた方がいいっすよ。闇の親衛隊には関わらないのが無難っす」
「いいえ! やめないわ! 親衛隊は明らかにやり過ぎよ。誰もやらないのならば私が説教してやるわ!」
「は、はぁ……センセってめっちゃ熱い人なんすね」
「意外かしら?」
「意外っすね。もっと冷静で物静かなセンセだと思ってたっす」
そんな風に思われていたのね。
無難にヘルプを終えることだけを考えていたから、周りからすれば大人しい先生に見えていたのかもしれない。
でも今は違うわ。
「花子さん。闇の親衛隊について知っていることを全て教えて! 今はとにかく手がかりが欲しいの」
「犯人捜しってわけっすね、いいっすよ。つーかセンセ面白いっすね。なんか私も協力したくなってきたっすよ。私、こういう面白そうなイベント大好きっす」
花子さんが乗ってきた。
楽しそうな表情が学生っぽくて可愛い。
「では闇の親衛隊講座始めるっす。まず闇の親衛隊は未だ誰も正体を掴めていないっす」
それは知っている。知っているけど気になっている事項でもあった。
「あんなに大っぴらに活動しているのに正体分からずなの?」
「そうっすよ。闇の親衛隊は名探偵もお手上げな完全犯罪っぷりを発揮してるっす」
廊下にワックス塗ったり、机の上にトランクスを置くだけの完全犯罪。
そう思うと闇の親衛隊がちょっぴり可愛く思えた。
「闇の親衛隊の目的は深井さんよりも目立つ生徒を取り締まることっす。まー、親衛隊自体がすでに深井さんより目立ちまくってるっすけど」
「それ、深井さん自身はどう思ってるの? 彼女も自分のせいで闇の親衛隊なんていう妙な組織ができちゃって内心では迷惑しているんじゃないかしら?」
前に本人へその質問をした時ははぐらかされてしまったけど、内心では迷惑がっているのかもしれない。
「あの天下無敵の玲於奈姫がそんなこと気にすると思うっすか? 彼女の口から親衛隊の話題がでたことなんて未だかつてないっす」
哀れね闇の親衛隊。
深井さんの為にやっていることなのに、当人に完全無視されているなんて。
「実はいうと私の知っている闇の親衛隊情報はそれくらいしかないっす。手がかりの一つでもあれば良かったっすけどねぇ。親衛隊は何人居るのかとか、どこのクラスに親玉が居るかとか、たぶん誰も知らないんすよ」
「ああ。それなら大丈夫よ」
「えっ?」
「どのクラスに親衛隊が居るのか。それを調べる秘策が私にはあるのよ!」
私は自分の奇策を信じて、思いっきりハジけた授業を繰り返していた。
青士さんのアドバイスで身に着けたゆったりとした喋りを発揮したり、池君のアドバイスである『眼力』でドヤ顔を連発してみたりし、生徒からの評判も大きく変わった。
「西谷先生って美人だと思っていたけど、究極的に面白い人だったんだな」
「そうね。私、最近西谷先生の授業が楽しみで仕方ないわ」
「美人って苦手だったけど、普通に先生のファンになってしまいました」
「先生の授業を最後の思い出とし、我はいい気分で異世界へ帰れる」
概ね好評価。
この調子でいけばヘルプも無事に終えることができるだろう。
しかし、未だ闇の親衛隊の正体は掴めていない。
先週、花子さんには『私には秘策があるのよ!』と意気込んでしまったけど、私の秘策に闇の親衛隊が引っかかってくれないのだ。
さすがに私も焦りが生じていた。
しかもヘルプは今日で終わりだったりする。
でもまだ1日ある。
最後まであきらめず、私はこのまま自分の授業を続けるまでよ!
「って、次はこのクラスかぁ……」
3-D教室前で一瞬呆然とする。
どうしてもこのクラスでだけは上手く授業が出来ていない。
理由は明白だ。
深井玲於奈さん。
あの子に視線を向けられているだけで、どうしても身体が硬直してしまう。
就活の最終面接官みたいな眼光しているのよね。どんな人生を送ったらあの年であんなに威厳を放てるのだろう。
まぁ、ここで愚図っていても仕方ないわよね。
よしっ! 気合いを入れていくわよ!
「皆さん。授業を始めます。席についてください」
「はーいっす」
皆が黙々と席に着く中、花子さんだけは従順に返事をしてくれる。本当に癒しだわこの子。
「あら?」
号令を掛けてもらおうと思ったのだけど、その前に教卓の下スペースにある物を発見してしまった。
これは……
「どうしたんすか? センセ」
「くくくっ。そんなに俺に号令を掛けられるのが怖いか。まぁ、無理もない」
「いや……その……なんでもないわ。黒田くん号令お願い」
「いいだろう。その指示を後悔しなければいいのだがな、くっくっくっ」
どうしてこの子は言動がいちいち怪しげなのかなぁ。
そういうお年頃なのかな。私にもそんな時期あったし。
って、それよりも今は教卓下のコレだ。
ついに来たわ。
「(闇の親衛隊の名刺)」
闇の親衛隊の被害者に送られる予告名刺。
私はこれを狙っていた。
遇えて授業内容を奇抜に面白くすることで闇の親衛隊の目に止まってしまおうという計画。
同時に親衛隊がどのクラスに所属なのかはっきりする。
教室という密閉空間、さらに授業中に親衛隊の制裁が加われば犯人はこの場に居る誰かということになる。
教師だからこそできる親衛隊割り出し術だった。
さぁ、闇の親衛隊さん。私の思惑通り授業中に行動を起こしてみなさい。
闇の親衛隊のトラップは結構露骨だった。
まず一つに教室の時計だ。綺麗に0時0分で止められている。恐らく電池が抜かれているのだろう。
次に黒板付属品であるチョークだ。
チョークが全く見当たらない。教師に対しては結構致命的な仕打ちかもしれない。
しかし、私は大丈夫。なぜならマイチョークを常に携帯しているからだ。
だけどこれではっきりした。
今回の悪戯トラップはこのクラスの生徒じゃないとできっこないということ。
つまり、このクラスに最低一人は闇の親衛隊の人が居るというわけだ。
問題はそれをどうやって特定するかだなぁ。
もう少し、行動を起こしてくれれば特定しやすいのだけど――
ピシっ
「ん?」
とりあえず無難に授業を進めてみると、小さな白い塊が黒板に当たって床に落ちた。
何かしら?
ピシっ、ピシっ。
これは……消しゴムの切れ端? もしかしてこれも闇の親衛隊の制裁の一環なのかしら?
妙に昭和っぽい悪戯ね。
ピシっ、ピシっ、ピシっ。
消しゴムの切れ端攻撃は止まらない。
私が板書している隙に飛ばしてきているようだった。
だけど私は遇えてそれを止めようとはしなかった。
板書をしながら消しゴムのカスが飛んできている方向を調べる。
どうやら窓側の方から飛んできているようだ。
窓際の席と言えば……
「…………」
深井玲於奈さん。
「~♪ ~~♪♪」
坂田花子さん(早弁中)
「……くくく。今回は俺自らが手を加えるとしよう」
そして無駄に怪しい言動を吐く黒田幕次郎くん。
うーん。このクラスの主要人物が見事に射程範囲に居るわね。
もちろんその三人以外にも窓際の生徒全員が消しカスシュートは可能だ。
でもこれでだいぶ絞れたわね。
「(あれ?)」
だけど一つ引っかかる所がある。
犯人は私の板書中に消しカスを飛ばしてきているので、もちろん私からは発射口は見えない。
だけど生徒側からは丸見えのはずだ。
正体不明の闇の親衛隊の仕業としてはお粗末すぎる悪戯なのだ。
でもどうして3-Dの皆はそれを指摘しない?
色々な可能性が考えられる。
まず、この消しカス攻撃は闇の親衛隊の仕業でない可能性。
私を良く思わない生徒が恨みを籠めて攻撃してきているだけかもしれないということ。
だけどそれならば他の生徒が指摘しない理由が不明だ。
こんなあからさまないたずらなのに他の生徒が誰も気づかないはずはないし……
ならばこういう結論ならどうだろう?
『指摘したくてもそれができない理由がある』。
つまり生徒達は闇の親衛隊の真犯人を知っているけれど、遇えてそれを口にしないということ。
それは何故か?
その犯人が『あの人』だとしたら。
すべて辻褄が合う――
……ような気がした。
ピシっ! ピシっ! ペチッ
でもさすがに鬱陶しいわね。
気付けば黒板の下が消しカスだらけになっている。
これは教師としてもちゃんとしかりつけておくべきよね。
でも普通に叱るだけじゃつまらないわね。
……そうだ!
「(いいこと思いついたわ……)」
高橋君達との授業特訓で身に着けた数々のスキル。
その中でまだ一つだけ南高で見せていないスキルがある。
……それ、やっちゃおうかしら。
ピシっ ピシっ
リズミカルに黒板に打ち付けられる消しゴムのカス。
上手くタイミングを見極めて、右手の指の間にそれをセットする。
……ここだわ!
「せいっ!」
シュッ!!!
板書の途中だけど、不意に皆の方へ振り返り、右手に潜ませていたソレを発射させる。
例の授業特訓で何度も投球練習をした私の秘義。その名もチョーク投げ。
軌道を読み、飛んできた消しカスにチョークを命中させ、空中で撃ち落とす。
「「「うぉぉ!?」」」
普段はリアクション薄いD組から驚嘆の歓声が鳴り響く。
しかし、私のチョーク投げはこれだけは終わらない。
カーーーーンっ!!
私の投げたチョークは景気の良い音を立てながら後部黒板に命中し、大きな弧を描くように私の手元に戻ってくる。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
パチパチパチパチパチっ!!
教室中から拍手喝采が木霊する。
ふぅ。久しぶりに秘儀を放ったけどちゃんと成功して安心したわ。
「私に撃ち落とせない消しゴムはないわ」
台詞もビシッと決まった。
これで消しカス攻撃は収まると良いのだけど……
「…………」
拍手喝采が鳴り響く中、表情を崩さず、ジッとこっちを見つめる視線が一つ。
これで私の中の予想は確信に変わった。
すなわち、この子こそが闇の親衛隊の黒幕であると。
「先生さようならー」
「寄り道せずに帰るのよー」
3―Dでの授業を終え、そのまま下校時間になったので、生徒達は次々と教室から出ていく。
ちなみに私が教室に残っているのには理由がある。
今日中に闇の親衛隊と話をするためである。
「…………」
そんな私の含みも無視して、闇の親衛隊の黒幕は何も言わず下校しようとする。
「ちょっと待って」
「…………?」
「話があるの。ちょっと残っていてくれる?」
「……私に言っているのかしら?」
「そうよ。貴方に言っているの」
すごく嫌そうな顔をされると同時に少し驚き混じりの表情を向けられる。
今まで私の方から避けるようにしていたから心底意外なのだろう。
「皆が居なくなるまで一緒に待っていましょう。深井玲於奈さん」
「…………」
今まで散々私を振り回してきた闇の親衛隊。
いや、『隊』なんて付いているから複数人の犯行であると思い込んでしまっていた。
つまり闇の親衛隊と名乗っていたのは一人だけ。
それも深井玲於奈さんの自演である。
それがさっきの時間で確信した真実――の一端。
「帰りたいわ」
あくまでもマイペースねこの子。
でもここで帰らせるわけにはいかない。
私は明日には西高校へ戻ってしまうのだから。
話を聞きだせるチャンスは今日しかない。
「センセ。さようならっす」
「はい。花子さん。さようなら~」
「と見せかけて私も残るっすよ! 面白そうな話してるっすね!」
「まさかのフェイントと共に残留!?」
「……くっくっくっ。俺が真の黒幕と知らずに玲於奈姫を疑うか。愚か……誠に愚か成り……」
「…………」
なんか自白っぽいことしている人がいるけれど、結局あの子は闇の親衛隊騒動とまるで関係なかったわね。
……なかった……わよね?
あそこまで怪しいと三周くらいして本当に彼が黒幕な気がしてきた。
「あー、今だから白状するっすけど黒田君はただ単に怪しい人に憧れて居るだけの黒幕マニアなんっす」
「黒幕マニア!?」
「名探偵よりも犯人側に感情移入するタイプっすね」
ただ怪しいだけで何もないいい子だとは思っていたけど、怪しかった理由がなんだか納得いかなかった。
「黒田君の趣味は全身黒タイツを着て、事件が起きていそうな現場で意味深な言葉を吐くことなんっす」
あの子も大概ね。その現場を嗅ぎ付ける能力を別の所で発揮すればいいのに……
「とにかく。これで皆居なくなったわね」
「深井さんも居なくなったっすよ」
「黒田君に気を取られている内に帰られた!? ちょっとまちなさーい! 深井さーん!」
全速力で深井さんを追いかける私と花子さん。
玄関先で靴を履きかえようとしている所を摑まえることが出来たけど、彼女は心底迷惑そうな表情をこちらに向けていた。
「探偵気取りは別に構わないけど、素人推理で人に迷惑かけるのはやめてほしいわね」
「はぁ……はぁ……その素人探偵の……推理くらい……はぁはぁ……聞いて言ってもいいでしょう? まさか推理ショー前に帰ろうとされるなんて思わなかった……わ……ぜぇぜぇ」
「深井さん。もしかして今日お仕事だったっすか?」
「違うわ。帰ってじゃがいもスターの再放送をみるの」
高橋君や星野さんもハマっているという謎の番組『じゃがいもスター』。
まさか深井さんまでハマっているだなんて。本当に何者なんだろうじゃがいもスターって。
「あっ……もしかして二期の方のじゃがいもスターっすか……」
なぜか悲しそうな顔をする花子さん。
「もちろんよ。一期には興味ないわ」
そのこだわりの理由は何だろう。
「って、そんなことより! 今は私の推理タイムのはずよ! そろそろ推理させて! お願いだからさせて!」
「ひ、必死っすね。センセ。で、では推理パートどうぞっす」
「待ってました! ではズバリ言うけど、闇の親衛隊の正体は深井さん! 貴方ね!」
「ズバリ言うけど、それは違うわ」
「いい加減認めなさい! 闇の親衛隊は貴方の単独犯であることは分かっているのよ!」
「意味が分からないわ。どうして私がそんな言いがかり付けられなければいけないのよ?」
「まだとぼける気ね。いいわ。説明してあげる! 貴方は黒幕である理由をね!」
気分はすでに名探偵。
格好良いセリフを吐き放題ないい職業だわ。ハマりそう。
「おぉ! さすがっすねセンセ。さっきの消しゴムのカスを投げつけられていた時、生徒側からは投げている人が丸わかりのはずなのに誰も指摘しなかった。それは何故かを考えた時、その犯人が深井さんならば生徒達が指摘しないのも納得ができる。そういうことっすね! 超名推理っす! このモブ子。感動で号泣っすよ!」
「「…………」」
私が言いたかったことを花子さんが先に全て述べてしまった。
「ただのこじつけじゃない。まさかそんな憶測で私を単独犯にするつもり? 大体どうして私が闇の親衛隊なんて意味不明な組織でこそこそ活動しなきゃいけないのよ」
「動機はわからないわ。でも貴方が黒幕ならば色々とつじつまが合うの」
「話にならないわ」
「貴方が犯人なんでしょう?」
「違うわ」
「そこを何とか!」
「貴方、個人的に私を犯人にしたいだけでしょう? ロクな証拠もないのによく推理パートに入ろうだなんて思ったわね」
「だってぇ~! 私がこの学校に居られるの今日で最後なんだもん! 今日中に解決しないともう活躍の機会がないんだもん~!」
「知らないわよ。探偵の真似事なんか諦めて普通の教師としてこの学校を去りなさい」
「嫌よ! せっかく事件が起きたのにそれを解決しないで去るなんて!」
「駄々を捏ねられても困るわ。とにかく私は闇の親衛隊じゃない。そういうわけで帰るわ」
「あぁーん! 待って! じゃあ私が無能みたいじゃない」
「ご明察。無能は早く去りなさい。そして二度と私に関わらないで」
久しぶりに炸裂する深井さんの毒舌だった。
うぅ。やっぱりロクな証拠もないまま推理パートに入るんじゃなかったわ。
「じゃあ別に黒幕が居るというの?」
「そうよ。少なくとも私は黒幕じゃないわ」
「じゃあ誰が――」
もう時間もない。
残り少ない時間で私は闇の親衛隊の正体を掴まなければならない。
なんでもいいから情報が欲しいわ。
こうなったらまた一から考え直すしかない。
花子さんにもう一度闇の親衛隊について知っていることがないか確認してみよう。
「花子さん。闇の親衛隊って――」
「ぐはぁっ! ついに見抜かれてしまったっすか! そうっす! お察しの通り、私が闇の親衛隊の黒幕っす!」
「「……はっ?」」
「さすがセンセ。真の黒幕の正体、そして私の正体まで全てお見通しだったというわけっすか。いやはや恐れ入ったっすっ!」
「あ、あの――」
「ぐはっ! なんてこったっす! 私が親衛隊を作った動悸まで見抜いているっていうっすか!? ぐっ……そこまで見抜かれていれば白状しなければならないっすね。そうっす。その通りっす。私は深井さんを恨んでいたっすよ。だから私は親衛隊を作って最初は深井さんに嫌がらせをしていたんすよ」
「え……えっと……」
「でも深井さん。私の嫌がらせ攻撃なんて全然効いてなかったっす。つーかガン無視されまくった挙句、闇の親衛隊の存在すら眼中にない感じでした。だから嫌がらせの方針を変えたんすよ。あえて深井さんをリスペクトするような方法で闇の親衛隊の存在を知ってもらおうと思ったんす」
「は……花子さん……だから……えっと――」
「『深井さんより目立っている生徒に制裁を』をスローガンにしたのは以上な理由っす。深井さんに間接的な嫌がらせをすることが目的だったんすけど、センセという超キレ者がやってきたのは最大の不覚っす。まさかこんなにあっさり闇の親衛隊の正体を見抜くなんて……一目見た時から只者ではないと思っていたっすけど……不覚っす」
「…………」
もはや声を失う私。
私が詮索せずとも花子さんが勝手にべらべらと語ってくれるのだから。
「バレてしまってはしょうがないっす。今日を持ってこの私、坂田花子は闇の親衛隊の活動を永久中止するっす。お説教も処分も甘んじて受けるっす。覚悟はできてるっす」
「…………」
なんか……一気に馬鹿らしくなってきた。
同時にどうでもよくなってきた。
「えっと……花子さん。反省してる?」
「してるっす!」
「深井さんも許してあげれそう?」
「許すも何も私はこの子の行動に何の関心も抱いてないわ」
「えっと……じゃあ……そういうわけなら別に許してあげるわ。お説教する気も失せたし、反省しているならもうそれでいい気がしてきたわ」
「ま、まじっすか!? なんて寛大な慈悲! 西谷センセは聖母っすか!? 母性に溢れた存在なんっすか!?」
24才で母性溢れるとか言われるのも何だか反応に困るわね。
「もう二度と迷惑かけちゃ駄目よ。それじゃ、二人はもう帰りなさい」
「は、はいっす! センセ、この学校での赴任お疲れ様っしたー!」
ああ。そうだった。この学校での先生は今日で最後だったっけ。
疲れたけど、なんだかんだ言って楽しかったわね。
「二人ともさようなら。またどこかで会いましょう」
「もちろんっす!」
「もちろんお断りよ」
深井さんは最後までデレなかったわね。
でも初めて会った時よりは印象が良くなったと思う。
ちょっと難しい性格をしているだけで悪い子ではない。
「――あっ、そうだ。深井さん。黒幕扱いしてごめんね。私、探偵としてまだまだね。精進するわ」
「教師として精進なさい。それと迷惑だから二度と探偵の真似事はしないことね」
「は、はい……すみませんでした……」
最後の最後で生徒に頭を下げる私。
なんだか閉まらない南高校での最終日だった。
【another view】
「花子」
「なにっすか? 玲於奈」
「貴方、私のことを恨んでいたのね」
「……そりゃあ恨むっすよ。いや恨むとはちょっと違うかもしれないっすね。ちょっとした嫉妬っす」
「私が貴方の仕事を奪ってしまったから?」
「そうっすよ。じゃがいもスター二期のヒロイン『いもこ』の声優は本来私の役だったはずなんすよ。それを突然芸能人枠と言って役を譲ることになるなんて……納得いかねーっすよ」
「そうね。私もどうかと思ったわ。素人がアニメの声優に関わるべきじゃないと言うのは同意見よ。ああいうのは貴方みたいに本気でプロを目指す人がやるべきだわ」
「ははっ。玲於奈に褒められると嬉しいような悔しいような複雑な気持ちになるっす」
「まっ、その辺は事務所の方針だから私からは遇えて何も言わないわ。だけど……」
「だけど?」
「私は貴方の声嫌いじゃないわ」
「玲於奈……」
「声豚が喜びそうなアニメ声してるわよ」
「またも嬉しいような悔しいような褒め方されたっす!」
「それよりも何よ闇の親衛隊って。ネーミングセンスを疑うわ」
「そこっすか!? 嫌がらせうんぬんは別にどうでもいいんすか!?」
「どうでもいいわ」
「本当に心底どうでも良さそうな顔で言われたっす! マジで眼中になかったんすね。闇の親衛隊」
「その中二病くさいネーミングは仕事柄なのかしら?」
「ち、違うっすよ! 『闇の親衛隊』って名前はオマージュっす」
「何のオマージュよ」
「いや、別の学校にそんな名前の親衛隊が本当に存在するんすよ」
「その学校も末期ね」
「あれ? そういえば西谷センセの学校が語源じゃなかったっすかね。そうっす。確か西高の親衛隊が元ネタっす」
「あの学校……高橋君に関わるものは全部がおかしいわね。それで誰の親衛隊なのよ? ……って、まって。今悟ったわ。あのイケメン君の親衛隊ね」
「池=MEN=優琉っすか? 残念ながら不正解っす。池君の親衛隊は規模が拡大しすぎて統率がとれていないらしいっすよ」
「じゃあ誰の親衛隊なのよ?」
「っつーか、その親衛隊は単独犯っすよ。確か佐藤光くんの親衛隊で……光の親衛隊って呼ばれてたっす」
「……自演くさい親衛隊ね。ってちょっと待ちなさい。その親衛隊『は』って今行った?」
「おっと。いけねっす」
「……まさか闇の親衛隊って……あなた以外にも居るの?」
「居るっすよ~。深井さんを恨んでいる人を有志で集ったら結構の数が居たりするんすよ。複数人のグループっすから親衛『隊』なんっす」
「……つまりこの事件は何も解決してないってわけね」
「まぁまぁ♪ センセに誓った通り、『私は』もう嫌がらせしたりしないっすから」
「ちなみに誰なのよ? 他の親衛隊のメンバーって」
「んー。まっ、言ってもいいっすかね。まず『ザ・ノーミス』の異名を持つ滋賀さん。それに『千の髪型を持つ男』後藤くん。『百の眼鏡を持つ女』久住さん。『十のパンツを持つ漢』番場くん。それに――」
「つまり、今まで被害者と思われていた人が全部自演だったと?」
「まっ、そういうわけっす。私の顔の傷も自爆っす。鉄砲の玩具も扱いミスると怪我するんすねー。いやー、それよりも敵が多い女は大変っすね玲於奈姫♪」
「……まっ、一番厄介そうな貴方が消えただけでも良しとしましょう」
「雑誌モデル戦士。深井玲於奈の戦いは続く~♪」
「嬉しそうに言わないの。はぁ……」
「ため息は幸せ逃げるっすよ。私みたいにポジティブなプラス思考で行こうっす!」
「ポジティブな思考の持ち主は闇の親衛隊なんて作ったりしないわよ」
「ぬはは。それもそうっすね。まっ、残党なんて玲於奈の敵じゃねーっす。適当にあしらってあげるといいっすよ」
「そうするわ。どうせこの学校には私の敵になりそうな人なんて居ないだろうし」
「まー、そうだろうとは思うっすけど」
「……でもあの先生は中々面白かったわね」
「そうっすね。また来てほしいっす!」
「……だけどあの先生、前にどこかで見たことある気がするのよね」
「あれじゃねーっすか? 前に玲於奈、西高に行ったことあるじゃねーっすか。その時会ったんじゃないんすか?」
「そうだったかしら? 全然覚えて無いわ」
「……マジで興味あること以外眼中にないんすね。まっ、それがすごく玲於奈っぽいっすけど」
「お褒め頂き嬉しいわ」
「別に褒めてねーっすよ……はぁ。玲於奈が気に留めるような人材って一生現れねーんじゃねーっすか?」
「あら。そうとも限らないわよ」
「そうっすかぁ~?」
「ええ。少なくとも西高に一人、ずっと気になって仕方なかった人が居たわね」
「をぉ!? なんかロマンスなかほりがするっす!」
「しないわよ。そういうのじゃないの……もうね」
「むぅ。ロマンスじゃないんすか?」
「ふふっ……さぁ? それは秘密ってことにしておこうかしらね」
見てくれてありがとうございます。
スピンオフということで西谷先生の格好良い所を存分にお見せ……しなかったですねw
いつも通り、若干ポンコツながらも奮闘する西谷先生のストーリーでした。
まぁ、先生はこれでいいと思うんだw
スピンオフでは続々と新キャラが出てきますが、個人的には新キャラに愛着が沸いてしまいました。
前回の長谷川兄妹もそうですし、今回登場の花子さんや黒田くんもスピンオフだけのキャラにするのは惜しいなぁと思いました。
次回のスピンオフも早めに更新出来たらなと思います。
一応書き始めてはいますので。