Extra Point +1 一年間の経験値が募っていたみたいね
おまたせしました。スピンオフ第二段の更新です。
一ヶ月以上の期間を開けての更新は初めてな気がします。
スピンオフ第二段の主人公は西谷先生です。
旧キャラも勿論でますけど、またも新キャラが多いです。
【main view 西谷沙織】
「転任!?」
突然校長に呼び出しを喰らったと思ったら、思いもよらぬ指令をいきなり言い渡された。
いくら新任とはいえ、こんなに早く異動があるなんて……
「と、突然過ぎませんか!? そ、それに私は二年生――じゃなくて三年生のクラスも受け持っていますし」
春休みが明けると私の担任は三年生になる。まぁ、今まで受け持っていたクラスがそのまま進級するだけなのだけど。
だからせめてあの子達が卒業するまで担任で居たかった。
「転任と言っても一ヶ月だけです。向こうの学校で現国の教師が不足していましてね。来月には人員の目途が立つらしいのですが、どうしてもそれまでヘルプをお願いしたいとのことなのです」
「あっ、そういうことでしたか。短期間でしたら喜んで。私もいい勉強になると思います」
「そうですか。快い返事を頂けて助かりました」
「でもウチの学校もそれほど現国教師居ませんよね? 大丈夫なんでしょうか?」
「それは問題ありません。学年主任の田山先生が3-Aの臨時担任を勤めてくれるそうですし、現国の授業も田山先生にお任せするつもりです」
田山先生って現国教師じゃなかったような……?
経験の長い人だから他の教科もできるということか。
それにしても高橋君達がちょっと可哀想だ。田山先生厳しいからなぁ。一時的にとはいえ担任になるなんて。
「それで赴任先はどこなのですか? 近くの高校なら助かるのですが……」
「それなら問題ありません。一駅くらいの距離で我が校とも親睦深い学校です」
「そうですか」
それを聞き、一安心する。
たった一ヶ月の為に引っ越しとかしたくないからなぁ。
「それでは早速明日からお願いします。向こうの学校には今日中に私から伝えておきますので」
「わかりました。それで具体的に私はどこの学校へ行けば……?」
「ああ。言っていませんでしたか――」
一息置き、なぜか校長は若干言いづらそうに言葉を濁す。
この時私は何故か嫌な予感が奔った。
「南高校へヘルプをお願いします」
「…………」
引き受けた以上、もう断るわけにはいかない。
嫌な予感というのはどうして必ず当たってしまうんだろうなぁ。
翌日。
翌日よ一生来るなと思っていたけど、やっぱり駄目でした。
うぅ~。憂鬱だなぁ。
何が憂鬱って会うのが怖い人が居るからだ。
私の中で『南高校』と言えば『彼女』の印象が強すぎた。
「ああ。玲於奈様。俺の玲於奈様。嗚呼嗚呼玲於奈様」
「ワタクシのデータによると、あと五分で玲於奈様はこの校門を通るはず。うぅ~ん! 今日こそワタクシは彼女と言葉を交わすことができるのだろうか……」
「玲於奈姫を出待ちして眺めることが日課となってしまった。俺は彼女を遠くから見つめているだけで幸せなのだ」
「れおなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! れおなあああああああああああああ!!!」
南高校の表校門。
その両サイドには郡中が集っていた。
校門を通るだけでこの難易度とはどういうわけだろう。
まぁ、ウチの高校もイケメン君のおかげで似たような風習はあるけれど。
って、ここで突っ立っていても仕方ないか。覚悟を決めて校舎に入ろう。
「お、おはようございます」
出待ちの皆さんに無難な挨拶を交わしつつ、早足で過ぎてゆく。
うわ。何だか注目されている気がする。
「(お、おい。誰だ今の?)」
「(先生……だよな? でも見たことないぞ?)」
「(めっちゃ美人……つーか好み……ドストライク……バッターアウト……)」
「(あの美貌……玲於奈様と匹敵するレベルじゃないか?)」
「(ばかっ! 玲於奈様の美貌は神のレベルだ! あの人はせいぜいトップアイドルレベルだ)」
「(いや、それでもかなりのレベルだって)」
何やらヒソヒソと内緒話されまくっている気がする。
うーん。所詮余所者は所詮余所者かぁ。アウェーの空気を感じる。
一ヶ月だけの臨時とはいえ、私はこの空気に耐えられるのだろうか?
まぁ、担任を受け持つわけでもないし、一ヶ月なんてきっとすぐよね。
卑屈にならず、前向きに行きましょう!
「えっと……皆さんの担任を勤めさせて頂く西谷です。といっても一ヶ月だけの臨時担任ですが、どうかよろしくお願い致します」
普通、臨時教師に担任までさせるものだろうか?
職員室へ挨拶に行った途端、返し言葉で『3-Dの担任をお願いします』だもんなぁ。人手不足にも程があるでしょう。生徒だって混乱するでしょうに。
だけど任された以上、頑張るしかない。この機会に学べるものは学んで帰らないと!
でも――
「「「「「…………」」」」」
この奇抜な視線だけは慣れない。
ていうか皆表情一つ変えないのが怖い。
うぅー。高橋君達のクラスを始めて受け持ったときはもうちょっとフレンドリーな感じで出迎えて貰えた気がする。
って、駄目よね。私の方が苦手意識を持っちゃ! ヘルプとはいえ私がこのクラスの担任になるんだから、私から引っ張っていかなくちゃ!
「受け持ちは現国です。受験生の担任になるのは初めてですが、私も出来る限りを尽くして精一杯やらせて頂きますっ」
「「「「「「…………」」」」」
無言。
アンチが一人くらい居てくれたほうがまだ良かった。
ど、どうしよう。場を繋げないわ……
「先生」
嫌な汗を背中に掻いていると生徒の方から助け舟が入る。
「は、はい。えっと……そちらの……お名前は――」
出席簿を見て背中の汗が更にバッと流れ出る。
どうして今まで気付かなかったのか。
三年生の担任をお願いされた時点で警戒しておくべきだった。
「出席番号28番、深井玲於奈です」
「そ……そう……それで何かしら? 深井さん」
3-D、出席番号28番、深井玲於奈さん。
当然私はこの子を知っている。
出来ることなら二度と会いたくなかったけど、こんな形で再開してしまうなんて。
相変わらず綺麗な子。それでいてこの子がクラスの主であることが空気で感じ取れる。
空間支配系女子。学園小説のキャラにしておくには惜しい人材だった。
「西谷……先生だったかしら。以前私とどこかで会ったことないかしら?」
この子、忘れているわ。
ま、まぁ、あの時は会議の場に居合わせただけだし、私のことなんて教師Aくらいにしか見えていなかったのかもしれないわね。
しかし、どう答えようか。正直に『会ったことがある』と言ってしまうと今後一ヶ月が過ごしづらくなる。
この子西高を毛嫌いしていそうだし、私が高橋君の担任であることを知ったらどういう扱いを受けるかわからない。
この学校で快適に過ごすにはこの子だけは敵にしてはいけない。過去の経験からそれだけは悟っていた。
「ええ……っと。そうだったかしら? ごめんなさいね。覚えてないの」
「そう……まぁ別にいいわ」
相変わらず教師にも敬語を使おうとしないスタイルね。別にいいのだけれど。
他の先生方は何も言わないのかしら? ……言えないのだろうなぁ。
「他に何か質問のある人は居ますか?」
静かなクラスみたいだし、おそらく沈黙で朝礼は終わるのかと思ったけど、違った。
窓際の後ろの席で一人の女子生徒がスッと無音で手を上げている。
あまりにも静かだったので見逃すところだった。
「えっと……そちらの窓際の貴方――」
「はいっす。あっ、先生、先に言っておきます。ウチ、モブですので」
「……はい?」
「しかし、出来るモブっすよ。あっ、名前は坂田花子っす。『花子』か『モブ子』のどちらかの呼び方で呼んで欲しいっす」
「じゃ、じゃあ、花子さん。何か先生に質問はありますか?」
「いや、質問があるのは先生の方じゃないっすか? ふっふーん、ズバリ聞きたいのでしょう? このクラスの沈黙の理由をっ!」
この子、過去に接したことのないタイプの生徒だなぁ。
つかみどころがないという点では高橋君や池君と通じる所があるけれど。
でも、元気で可愛い子だ。好きになれそう。
「このクラスには暗黙のルールがあるんすよ」
「暗黙のルール?」
「ずばりっ! 『玲於奈様より目立ってはいけない』というルールっす」
「……へっ?」
「このクラスは……いえ、この学校は深井玲於奈様の為にあるっす。玲於奈様より目立ってしまうと『闇の親衛隊』に制裁を加えられるんすよ」
「闇の親衛隊!?」
「親衛隊の制裁は恐ろしいっすよ。ルールを犯した生徒がいる教室の時計を三分遅らせたり、教室にある黒板消しをワザと真っ白にさせたり……連帯責任というやつっす!」
「地味な迷惑行為だわ!」
「そして何故かウチのクラスの時計や黒板消しも同じ惨状の仕打ちにあっているっす」
「深井さんの居るクラスなのに!?」
「闇の親衛隊はその辺公平なんすよ」
ていうか親衛隊の仕打ちの対象はこの子なのではないだろうか?
現時点において誰よりも目立っているのはこの花子さんの気がしてならない。
「先生も気を付けた方がいいっすよ。職員室の時計をずらされない為にこの学校のルールには従っておいた方がいいっす」
教師にも闇の親衛隊の制裁が加えられるんだ……
この学校、色々な意味で末期な気がする。
「深井さんは親衛隊に対してどのように思っているの? 迷惑じゃない?」
「私がその問いに答える意味がどこにあるの? 新任のくせに調子に乗らないで欲しいわね」
「……あ……はい……」
この感じ、間違いなく深井玲於奈さんだ。
ここに居る誰よりも威厳があるなぁ。私なんかよりずっと。
こんな調子でこれから一ヶ月やっていけるのかなぁ? 早くもくじけそうだわ。
「えっと……他に質問は……?」
「――唐突ですが、俺の名前は黒田幕次郎と言います」
「……は、はい?」
その男子生徒は挙手もせずに突然自己紹介をやってきた、
本当に本当に突然だったので呆然としてしまう。
「先生。きっとこれからこの学校でよくない事が起こるでしょう。その時、まず一番に俺を疑ったほうが良い。くっくっくっ」
どうしようこの子。どう反応していいのか分からない。
こんな風にあからさまな俺疑えアピールをされてもなぁ。
名前からして黒幕っぽいのだけど、無理して怪しさアピールをしているように見えてならなかった。
どうしてここのクラスはいちいち不穏な香りを臭わせるのだろう?
深井さんだけでも厄介なのにこの面々の濃さと言ったら……
突然の担任受け持ちに深井玲於奈さんとの再会、そして闇の親衛隊かぁ。
何事もなくヘルプを終えることができる気がしない。
気になることはたくさんあるけれど、まずは授業よね。
できるだけ無難に余計なことはせず。
それでいて目立たずに。
「「「…………」」」
なんか生徒全員『闇の親衛隊』に見えてくる不思議。
親衛隊を意識しすぎて、ちゃんとまともな授業になっているか不安になってくる。
「先生、そこの字、間違ってません?」
「えっ!? あっ、ご、ごめんなさい!」
生徒に指摘され、黒板の誤字に気付く。
教師生活二年目にしてこんな単純なミスをしてしまうなんて。
なんだか研修の頃に戻ったかのような気持ちだった。
「それでは最初のページを……えっと……」
しまった。誰かに教科書を読んでもらおうとおもったのだけど、生徒の名前がほとんどわからない。
「では今日は8日ですので出席番号8番の方読んでください」
「あっ、はい」
秘奥義、困ったらとりあえず日付に頼るの術。
便利だからついやっちゃうのよね。あまりこれに頼ると反感買っちゃうのだけど。
皆の名前……きちんと覚えないとなぁ。
去年はクラスの皆の名前を憶えるのに丸一ヶ月掛かったっけ。そんなんじゃ名前を覚えきった所でヘルプが終了してしまう。
って、そんなことを考えている間にも8番の子が1ページ読み終わっていた。
「ありがとう。それじゃあ次のページを出席番号18番の人お願いします」
「うぐっ! 今日が8日の時点で嫌な予感がしていたっすけど……やっぱ当たっちゃったっすか」
出席番号18番……坂田花子さんが嫌そうに立ち上がる。
この子はインパクトが強烈だったのでもう名前を憶えていた。
「9ページっすよね。ええっと……」
「(あっ……)」
花子さんの音読を聞いて思ったことがある。
この子……声がとても綺麗。一言一言の発音もはっきりと聞き取りやすい。
教科書の音読が上手い人は実は貴重なのである。どんなに読むのが得意な人でも授業中だとどこかぎこちなくなってしまうから。
にしてもこの子、音読が上手すぎる気がする。
そのことが少しだけ気になった。
「ありがとう花子さん、そこまででいいわ。それにしても読むの上手いですねー」
「ん? そっすか? 別に普通っすよ」
これが普通なら世の中アナウンサーで溢れ返りそうね。
「もしかして演劇部とか?」
「んー……まぁ、私の素性は秘密ってことで。それより『次は』気を付けた方がいいっすよーん」
なぜか秘密にされてしまった。
それよりも『次は気を付けた方がいい』ってどういう意味だろう?
「それでは次のページを出席番号28番の方」
ざわっ……!
え? 何? 何? 何故か教室が一瞬ざわめいたのだけど。
「新米先生。それは命令かしら。私にこのちんけな文章を読めというわけ?」
「…………」
次は気を付けた方が良いってこういうことね……
出席番号28番。深井玲於奈さん。
さっき深井さんの自己紹介の時聞いていたはずなのに、うかつだったわ。
それにしても新米先生って言い方はやめて欲しいかも。
「ま、まぁ、その……読みたくないのなら……別に……でも授業だし……」
「読みたくないわ」
「そ、そうですか……じゃあえっと……私が読みます」
今のやり取り、絶対に他の先生には見せられないわ。
生徒に怯えて代わりに教科書を読む教師……新米以前に教師失格な気がしてきた。
私の1年間の実績ってなんだったのかしら……
もしかして私って今まで生徒に恵まれ過ぎていたのかと感じてしまう。
「……ふんっ」
不貞腐れながら窓の外を眺めはじめる深井さん。
……今までが恵まれていたというより、このクラスが特殊であると考える方が正解である気もした。
「……くくくっ。やってやる……おれはやってやる……放課後……そう……放課後だ」
何をする気よ、黒田君。
「腹減ったっす。センセ。ちょっと早弁させて頂きますね」
そういうのはこっそりやりなさい花子さん。
「肩凝ったわ。ちょっと後ろの席の人? 肩もみさせてあげるわ。強めになさい」
「ぶ、ぶひぃぃぃぃぃぃぃぃ! ありがたき幸せ!」
授業中に堂々と肩もみを命令する深井さん……さすが過ぎるわこの子。
それと後ろの子。肩もみさせてもらえてうれしいのは分かるけど、貴方女子でしょうが。女の子が豚鳴きしないで。
皆して自由奔放過ぎて眩暈がする。
ヘルプに来て早々、すでに私の心は挫けてしまっていた。
でも他のクラスでは無難に授業を進めることが出来ていた。
「一応、一年間の経験値が募っていたみたいね」
普通のクラスでは普通に授業を進めることができる。
だけどどうしてもあのクラスだけは……私が担任する3-Dだけはどうしても上手く行かない。
まぁ、理由は明らかすぎるくらいに明らかなんだけど……
「きゃっ!」
突然背後から女子生徒の小さな悲鳴が聞こえた。
何事かと思い、急いで駆け付けてみると、一人の女子生徒が廊下で尻もちを付いていた。
「だ、大丈夫!?」
「は、はい。ちょっとスベって転んでしまって……」
手を差し出して女子生徒を立ち上がらせる。
こんな何もない所で転ぶなんて、この子結構なドジっ子ね。
「迂闊でした。『ザ・ノーミス』の異名を持つ私がこんな些細なミスをしてしまうなんて……」
誰が付けたのだろう。その異名。
「あら? よく見るとこの床――」
一ヶ所だけ少し光ってる?
このテカリ方。それに少し鼻につくこの臭いは……
「ワックス?」
大掃除とかでよく使うフローリングワックスだ。
でもどうしてこの教室の前だけ?
「これは……闇の親衛隊のオリジナル名刺!」
「名刺!?」
「闇の親衛隊は爪痕を残した後にかならず手作りの名刺を残していくのです」
つまりこのワックスは人を転ばす為の罠ってこと? ご丁寧に名刺まで残して、『これは親衛隊のしわざです!』ときちんと主張してまで。
でもどうして真っ白な名刺なのだろう。色鮮やかなカードにでもすれば格好いいのに。
その名刺を拾い上げてみると、確かにそこには『やみの☆しんえいたい♪』と記されていた。
案外ラブリーな名刺ね。『☆』とか『♪』マークが描かれているところがなんだか可愛らしい。
「私がノーミスすぎるのが闇の親衛隊の目に止まってしまったようですね」
……どうしてこの子がノーミスなだけで闇の親衛隊が動くのだろう?
確か『深井さんより目立つ生徒に制裁を』がスローガンじゃなかったかしら?
「闇の親衛隊に狙われなくするために、これからはそこそこミスをしながら生きていこうと思います!」
「力強く変な決意を固めないで! ノーミスで! 貴方は今まで通りノーミスで居てください!」
ノーミスの異名を持つ割に、ミスをしないことに拘りをもっているわけではないようだった。
「……くくくっ」
「だ、誰!?」
突然背後から笑い声が聞こえ、慌てて振り返る。
その含み笑いの主はすぐに身を隠し、走り去っていった。
しかし、私はその後ろ姿をはっきりと確認できた。
私と同じくらいの背丈、個性的な髪型をした男子生徒、そして臨時ではあるけれど私が担任するクラスの子。
黒田幕次郎君……なんて分かりやすい後ろ姿なのかしら。
「俺は『千の髪型を持つ男!』 今日の髪型は三つ編みモヒカンに……って、ぐわぁ! 突然ヘルメットが降ってきた!? と、取れん! これでは俺の決まりすぎている髪型を披露でじきないではないか! おのれ! 闇の親衛隊!」
「私は『百の眼鏡を持つ女』。今日の眼鏡の重さは15kgあるわ! 私の顔面が鍛えられ――って、これは! 教室の壁一面にコンタクトレンズの広告がっ! 私に対する嫌がらせ! おのれ! 闇の親衛隊!」
「おいどんは『十のパンツを持つ漢』。もちろんブリーフオンリーでごわす。今日のパンツの色は燃える情熱を連想させる赤色――って、これは! おいどんの机に謎のトランクスが敷かれているでごわす! おのれ! 闇の親衛隊!」
「ミーは『ゼロの友達を持つ異国人』。今日もソロ活動を堪能しまくりネー! 馴れ合いなんてナンセンス……ってこれは経験値稼ぎのお誘いレター! ミーのソロ活動が今日で終わってしまう!おのれ! 闇の親衛隊!」
闇の親衛隊は結構活動的だった。
一見無差別にも思える親衛隊の行動だけど、狙われる人は決まってキャラの濃い人だけだった。
つまり、深井さんより目立つ器を早期に潰しておく為に行動しているのだろう……と勝手に推測する。
だけど親衛隊の正体は一切掴めていないという。その辺りが『闇の』と呼称されている所以らしい。
だけど……
「……(ダッ!)」
被害現場には必ず黒田くんの後姿が発見されていた。
何度か追いかけては見たけれど、男子の足の速さに敵うはずもなく毎回取り逃がしてしまっていた。
――『先生。きっとこれからこの学校で事件が起こるでしょう。その時、まず一番に俺を疑ったほうが良い。くっくっくっ』
忠告されるまでもなく、闇の親衛隊の正体として一番怪しいのは黒田くんだった。
でもここまであからさまに怪しいと逆に犯人じゃないフラグよね。
しかし、毎回現場に姿が見えるのも事実。
今度、どうにかして話を聞いてみないとなぁ。
「って、今は親衛隊のことよりも授業よね」
この学校に赴任されてからもう2週間。
最初はかなり緊張していたと思うけど、半月も経てば無難に授業を進めることができるようになっていた。
だけど――
「では皆さん、授業を始めますね」
「「「「…………」」」」
誰一人、表情変化はなし。
まぁ、これから授業が始まるということで笑顔になるような生徒は居ないだろうけど、生徒たちは露骨に嫌な顔を浮かべていた。
これは3-Dの生徒に限ったことではない。どのクラスでも皆同じような表情を浮かべる。
つまり、私の授業は不評なのだろう。
「それでは号令を……って、花子さん!? どうしたの!?」
生徒の顔を見渡してみると明らかにいつもと違う様子の生徒――坂田花子さんの姿を見つけた。
彼女の右頬には見るからに痛々しいガーゼがテープで止められていた。
「あー、これっすか? ちょっと狙撃を受けてしまいましてね」
「狙撃!?」
「闇の親衛隊の狙撃っす。と言ってもBB弾入りの玩具鉄砲っすけどね。いやー、でも最近の玩具は侮れないっすね。きっちり腫れやがったみたいっす」
「何を笑っているの! これは一大事よ! そんなに痛そうな傷まで作って……っ!
「せ、センセ。別にそんなに痛いわけじゃねーっすから。私に気にせずにどうぞ授業を始めてくださいっす」
「授業なんてしている場合じゃないわ! 病院にはちゃんと行った? 狙撃されたのはいつなの?」
「あー、大丈夫っす。保健室でしっかり治療してもらったっすから。センセーってかなり心配性さんなんすね」
「当たり前じゃない! 私の大事な生徒なのだから! 闇の親衛隊ってこんなひどい事までするの!?」
私の知る限りだと闇の親衛隊の制裁は子供の悪戯レベルの可愛いものだったけど、その考えはたった今変わった。
まさか女の子の顔に傷を負わすような酷い連中だったなんてっ!
「許せないわ!」
「ちょ……セ、センセ?」
「決めた! 私! 闇の親衛隊を見つけて説教するわ! それが使命! 私がここに赴任してきた理由なのよ!」
「いや、センセが赴任してきたのはただの人材不足で……ていうかセンセ、そんな熱いキャラだったんすか?」
「花子さん! 安心しなさい! 沙織先生が仇をとってあげるわ!」
「いや……ウチ、割とピンピンしてるんすけど……って、聞いてねーっすね……」
私がこの学校に滞在できるのは残り十四日。休日を除くと十日しかない。
その期間内に絶対に闇の親衛隊を見つけ出してみせるわ!
この学校に来て、私はようやくやるべきことを見つけた気がした。
「あーぁ。次は現国かよ。俺、眠っちゃうかもしんね」
「あー、午後の現国って辛いよねー。ただでさえ西谷先生の授業は眠気との戦いだし……」
「あの先生、超美人だけど超授業つまんねーよな」
「こらこら男子―。そんなこと言わないの。現国の授業なんてどの先生がやってもつまらないでしょうが」
「まー、そうなんだけどよぉ……」
授業に対する不満。
教室に入る前にこっそり廊下から皆の会話を聞いていると、このような声が聞こえてきた。
こういう直接的な意見はやっぱりヘコむなぁ。
闇の親衛隊探しよりも先に、授業に対する不満解消もしないといけないわね。
しかし、授業不満解消の件に関しては秘策がある。
高橋君、星野さん、小野口さん、青士さん、池君……
みんなと行った授業特訓の成果が今も私の経験値となっているから。
「さぁ~て。ここからが西谷先生の本気なんだから」
教室の扉の前で不敵に笑う私。
素に戻った途端、何とも言えぬ恥ずかしさが込み上げてきたのであった。
見てくれてありがとうございます。
西谷先生の他校での孤軍奮闘。ラスボスとの再会。濃すぎる新キャラ。
時間軸的には本編最終話から約半年後、スピンオフ第一弾のBonus Pointから約三ヶ月後。深井さん達が三年生に成りたてな時期でのストーリーです。
Extra Pointは前と違ってそれほど長くありません。次話で終わります。
次話も近いうちに更新できると思いますので、今しばらくお待ちください。