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Experience Point  作者: にぃ
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第百八話 深井さんが無言で睨んできてますよ

最近投稿する度にお気に入り数が減っている気がしますw


    【main view 星野月羽】



「――以上が事件の全貌となります」


 私達が喫茶魔王で臨時アルバイトに入っていたこと。

 夕方前に深井さんが来店し、そのちょっと後に相田さんと鷲頭さんがお店にきたこと。

 そこで口喧嘩になってしまったこと。

 その果てに店外で青士さん達が衝突してしまったこと。

 それらが簡略的に説明された。

 ちなみに事件とはそれほど関係のないと思われる中黒さんのことや、喧嘩の理由の一端でもある一郎君の過去のことなどは話から省かれた。


「完璧に逆恨みではないか! その青士という生徒は何を考えているんだ!」


「子供同士の喧嘩にしては度を越してますな」


「そんな生徒を今まで放置していた学校側にも問題あると思うがね」


 話を聞いた南校の職員さん達が一斉に好き放題言い始める。


「ちょっと……待っ――」


「そもそもこの会議自体が無意味ではないかね? わざわざ生徒を証人として招いてまで」


「同感ですな。こんな会議今まで例がない」


「ちょ……聞いてくだ――」


「大体なぜ我らが出向かねばならんのだ? 加害者はそちらの生徒なのだから、そちらの職員方がウチへ来るのが礼儀ではないのかね?」


 駄目だ。

 私と小野口さんが必死に会話に割り込もうとしますが、ヒートアップしてしまった南校の先生方の間に入ることができない。

 でもどうにかしないとっ――!


「ちょっと待ってください! そんな一方的に青士さんが悪いみたいに言わないでください!」


 そんな風に声を張り上げてくれたのは沙織先生だった。

 沙織先生の迫力と会議室全体を響かせるような声量に騒いでいた職員達が一斉に黙って目を見開いていた。


「えーっと……貴方は?」


 怪訝そうに南校の先生が沙織先生を見る。

 先生は負けずと睨み返すように堂々と言葉を放つ。


「青士さんと同じ二年生の担任を持つ西谷です。僭越ながら私も意見を述べさせて頂きます」


 先生……格好良いです。

 力強い言葉に私と小野口さんも安心感を憶える。


「加害者の担任ですか?」


「担任ではありません。それに加害者って言い方も止めてくだ――」


「だったら黙って貰えませんかね? 関係ない人が私情で口を挟んでいい問題ではないのですよ」


「なんですか! その言い方は! 私は青士さんのことをどの先生方よりも詳しい自信があります! ですから彼女は理由も無しに暴力を奮う人ではないことを――」


「まぁ、待ってください」


 沙織先生の言葉を遮ったのは南校の先生……ではなかった。

 凛とした透き通る声。

 深井玲於奈さんが制止する言葉と共にその場に立ち上がる。


「貴方は担任ではないのでしょう? 単に生徒を仲良しごっこをしているだけの先生が何を言っても説得力ありません。貴方の発言は会議の邪魔になっていること分かりません? 空気を読んで大人しく議事録でも取っていては如何です?」


「……!!」


 堂々と先生に対して暴言に近い言葉を投げる深井さん。

 一応敬語を使ってはいますけど、深井さんの発言に私を含め、会議室にいる全員が戦慄した。


「それに青士という人が私のクラスメートに暴力を奮ったのは事実です。その責任を貴方程度の人間が取れるのですか? 多額の慰謝料を要求したとして貴方が全部払ってくれるとでも? それが出来ないのならば発言を慎んでもらいたいですわ」


「……ぅ……ぁ……でも……」


 深井さんの現実的な言葉を直接向けられ、言葉を失った沙織先生。

 それに追い打ちを掛けるように深井さんは言葉を続けてきた。


「どんな理由があったとしても、暴力を肯定してしまうのは教育者として在ってはならないのではありませんこと?」


「そ、そうだ。そうだな。うん。深井クンの言う通り」


「西高はどう責任を取ってくれるのかね? 温情染みた処分では怪我をした生徒に示しがつかないのだがね」


 南校の先生方の威圧にウチの職員達は完全に委縮してしまっている。

 沙織先生ですら先ほどの深井さんの一言で縮こまってしまっていた。

 やっぱり私が頑張らなくては!

 でも、南高の先生方はヒートアップしてしまっている。

 私にこの場を静ませることができるのでしょうか……?


「ねえ。深井さん。聞きたいことがあるんだけど」


 私が彼是思考を巡らせていると、先に小野口さんが深井さんへ話しかけていた。

 小野口さん、この中で一番関わるのが怖い人へ真っ先に話しかけました。

 凄い。私なんて目も合わせられないと言うのに。


「また関係ない話で会議を長引かせる気かしら? 高橋君の愛人さん」


「その呼び方でも私は全然構わないのだけれど、月ちゃんが怒っちゃうから名前で呼んでくれないかな? 希だよ。小野口希」


「そう。じゃあ希さん。聞きたいことって何かしら?」


「わわっ! ねえ月ちゃん月ちゃん! 初めて肉親以外に名前で呼ばれた気がするよ!」


 何故か話題が明後日な方向にそれている小野口さん。

 会議を長引かせることが狙いなのか、素で喜んでいるのか……どちらもありえるだけに同リアクションすればいいのかわかりませんでした。


「…………」


「(お、小野口さんっ。深井さんが無言で睨んできてますよっ)」


「ん? あー、そだそだ。ごめんね深井さん。それで聞きたいことっていうのは相田君と鷲頭君のことなんだけど。彼らも今日この会議に出席するって聞いたんだけど、どうして居ないの?」


「…………」


 再度無言の深井さん。

 しかし、小野口さんが質問を投げた時、彼女の眉が大きく動いたような気がした。

 そのまましばらく無言で小野口さんを見つめ、やがて静かに口を開いた。


「……どうしてそのことを知っているのかしら? 確かに相田君達も来る予定だったけど、それを貴方が知っているというのはどういうことでしょう?」


「んー、情報通のイケメン君がいてね。ほら、貴方も知っている人。彼が私達に教えてくれたの」


「…………そう」


 不自然なほど間を開けての『そう』でした。

 どういうことでしょうか? 相田さん達が来る予定だったことを知っているだけでここまで深井さんを動揺させられるなんて。


「ちょっと事情があってこれなくなっただけよ。それがどうかしたの?」


「……んー、いやー、こっちも青士さんが居ないし、相田君達も居ない。つまり当事者全員が欠席の場で第三者が話し合うっていうのはあまり意味がない気がしません?」


「それを私に言われてもね。彼女の発言、どう思いますこと? 先生方」


「愚問だよ、深井クン。いつの世も人を裁くのは第三者だ。例え当人が居なくてもキチンと処分を下さねばならん。そちらの女子生徒は会議を中断させたいみたいだがな」


「……ぅぅ」


 堂々としていた小野口さんの表情が一気に崩れる。

 どうやら会議を中止、もしくは延期の方向へ持っていきたかったみたいですが、簡単にかわされてしまいました。

 つまり小野口さんもいっぱいいっぱいだったらしい。


「退学だ! 退学っ!」


「まっ、それ以外ありえないでしょうな」


「警察沙汰にしないだけ温情があると思ってもらいたいですな」


 またも好き勝手言い始める西高の先生方。

 手詰まり感が私達を襲う。


 いえ、まだ希望が潰えたわけではありません。

 例えば――



  ――『とりあえず俺は今から準備に入る』


  ――『準備って?』


  ――『ふっ、それは企業秘密だ』



 朝の池さんの言葉。

 池さんには何か秘策があるようでした。

 この場に居ないことも池さんの計算の内でこれから大逆転劇が起きるかもしれません。


 それに――



  ――『あら、月羽ちゃん。もう帰るの?』


  ――『はい……その……実は今日はお母様にもお願いがあるんです』



 私がお母様へ託した最終手段。

 私のメッセージが入った録音機を一郎君が聞いてくれて、この場に駆けつけてくれるかもしれません。


 希望は……ある。

 だから私が今すべきことはその希望に全てを託して会議を長引かせること。

 それくらいだったらきっと私にも――っ!



    ――『明日、私は……私達は職員会議に参加して、何としても退学を食い止めるつもりです』



 ふと思い出す。

 自分が一郎君へ向けた言葉だった。


「(……何がっ! 何としても退学を食い止めるつもり……ですか)」


 そう意気込んだはずなのに結果ここまで私は何も出来ていなかった。

 沙織先生も小野口さんも必死に戦おうとしていたのに、私は場を繋ぐことしかやろうとしていない。


 一郎君や池さんを待つ?

 結局それは人任せにして全てを終わらせたいという最低のポジションです。

 私は――戦うと決めたんだ。

 南校の先生方に嫌な生徒と思われても、西高の先生方に顰蹙を買おうと……深井さんに罵られようと、必ず青士さんを助けると誓ったのは私自身だった。

 だから私は精一杯の大声でこう叫ぶ。


「皆さん! 静かにしてください!」


 まずはうるさい南高の先生方を一言で黙らせる。

 思ったよりも声が通ったせいか、皆驚いたように私を見つめていた。

 その視線の数に圧倒されて座り込みそうになる。

 でも、震えた足に鞭打って平静を装った。


 会議は青士さんを退学にすることが即決しそうな雰囲気です。

 でもまだ諦めるわけにはいかない。

 ここで諦めてしまったら、せっかくできた友達が一人教室から居なくなってしまうのだから。

 私は絶対に諦めない。


「(一郎君……勇気を……私に……)」


 机の上に置いた両の手をグッと握りしめる。

 その時に思い描くのは屋上の風景。

 一番私らしく居られたあの場所、あの瞬間を思い出す。

 あの場所で積み重なっていった経験値。

 一郎君と共に稼いでいった経験値。

 そこで手に入れた経験値は、大きな壁にぶつかった時、いつも私を勇気づけてくれました。


 ……よしっ!

 できる。

 私なら……できる。

 なんたって私は610の経験値を手に入れたのだから。

 できないわけがない。


「これから私が詳細に説明致します。あの日、相田さんと鷲頭さんが喫茶魔王で私の大切な人を傷つけた数々の侮辱発言を!」


 全ての経験値を力に変え、大声を持続させたまま発言をする。

 憎き仇の顔を見るような目で私は南高の方々を睨んでいた。

 だけどそれ以上に鋭い視線で見つめる人が居る。

 深井さんの冷たく鋭い眼光は、冷静に私を観察しているように思えた。


見てくれてありがとうございます。

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