第十話 いつもの経験値稼ぎのスペシャル版です
更新が結構遅れてしまいました。
キャラクター紹介も挟んだから二週間ぶりくらいかもしれません。
星野月羽はたまにガチエスパーなのではないかと思う時がある。
エスパーというより預言者なのではないか。
即ち、昨日の経験値稼ぎだ。
ここで時間表に視線を移す。
二限体育、四限HRと書いてある。
HRの内容は『席替え』を予定していた。
早くも『誰か自分と組んでくれ~というオーラ』と『気配を消すオーラ』、ついでに休み時間中に放つ予定の『自分と話しかけろ~というオーラ』の練習機会が与えられた。
ていうかあの子A組の時間割知っていたのではないだろうか? 昨日の経験値稼ぎは今日のシミュレーションとしか思えない。
まぁ、いいや。昨日取得した経験値で今日という日を乗り切って見せる!
効率的な精神集中を施すには額に力の流れを集中させると良いらしい。昨日どこかのサイトにそう載ってた。
目を閉じると更に集中力が増すらしい。
………………
…………
……
――来てる。
足のつま先から頭のてっぺんまで力が伝うように額に集まってきている。
さぁ、仕上げだ。
その力を形にするんだ。
――オーラという具現化された形に。
もちろんその際に願いを託す。
――さぁ、皆の衆、僕とペアを組むが良い。
………………
…………
……
「すみません、先生。ペアがいません」
「またおまえか」
体育教師の呆れた声が虚しく響く。
『いつもお前が奇数人数を二人組に分けるのがいけないんだ』と声を大にして言いたかった。
そんな勇気あるはずもないが。
とりあえず今の僕には『誰か自分と組んでくれ~というオーラ』を出すことはできなかった。
レベル不足のようだった。
額に力を集めるのは誤ったやり方であると学んだ。
ならばどこに力を集めるのか?
――両耳だ。
正確には聴覚を研ぎ澄ますのが良いらしい。昨日どこかのサイトにそう載ってた。
目を閉じると更に集中力が増すらしい。
………………
…………
……
――来てる。
五感が透明化され、聴覚だけが生き残っている感覚。
さぁ、仕上げだ。
その感覚を形にするんだ。
――オーラという具現化された形に。
もちろんその際に願いを託す。
――さぁ、皆の衆、自分に話しかけるが良い。
………………
…………
……
キーンコーンカーンコーン。
「授業始めますよー」
西谷先生がやってきた。
おっと、授業の準備をしなきゃな。
とりあえず僕には『自分と話しかけてくれ~というオーラ』を出すことはできなかった。
MP不足のようだった。
両耳に力を集めてどうしろっていうんだ。そんなの上級者がやることだ。
ならばどこに力を集めるのか?
――手のひらだろう。
それも両手で集めるのではなく利き腕だけで力を溜めるのがいいらしい。昨日どこかのサイトにそう載ってた。
目を閉じると更に集中力が増すらしい。
………………
…………
……
――来てる。
僕の手のひらに見えない何かが浮かび上がっている気がする。
さぁ、仕上げだ。
その見えない何かの形を変えるんだ。
――オーラという具現化された形に。
もちろんその際に願いを託す。
――さぁ、皆の衆。僕の存在を忘れるが良い。
………………
…………
……
「ぎゃああ! 最悪すぎる! 高橋の隣じゃねーか!」
「うわぁ。頑張れ。アイツと一緒に今学期ジッと黙りこくるがいいさ」
「てめえ! 他人事だと思って!」
「そうだよ~。金井くんが可哀想だと思わないの?」
高橋くんが可哀想だという発想はないのだろうか?
唯一自信があった『気配を消すオーラ』でさえも出すことができなかった。
SP不足のようだった。
「レベルとMPとSPが圧倒的に足りない」
「最近高橋君の第一声が突拍子なさ過ぎて反応に困るのですが」
要点を省きまくるキミにだけは言われたくない。
今日も放課後はいつもの屋上に集まった。
それも最近は屋上隅っこのベンチが集合場所になっている。
なんでこの場所いつも空いているんだろう? こんなにいい場所なのに。こんなに隅っこで落ち着くのに。
「星野さん、オーラ試してみた?」
「はい……ええ……まぁ…………ダメでしたけど」
だろうねぇ。
「席替えだけはなかったので『気配を消すオーラ』を試す機会だけはなかったですけれど」
「こっちはあったよ、席替え」
「どうでした?」
「意外に出せないもんだよ。オーラ」
自信あったのに。悔いがあるとすればこれなんだよな。
「出せなかったんですか。気配を消すオーラ……ぷぷっ」
「鼻で笑われた!?」
段々遠慮なくなってきたな、この子。
まぁ、僕にもそれは言えることだけど。
「仕方ないですねー。今日は経験値稼ぎを中止して、私が『気配を消すオーラ』の出し方を教えてあげるんですから♪」
見たこともないくらい星野さんが得意げになっている。
相当自信があるみたいだ。
「まず力を集中させます」
うむ。力の集中は基本みたいだ。
問題は――
「どこに力を集めるの?」
少なくとも額と両耳と手のひらでないことは分かっている。
「左足の中指です」
想像の斜め上にも程があるだろう。
「右足では駄目です。そして他の指でも駄目なんです。左足の中指は人の機能として働きが薄い場所ですからね。その陰の薄さを力に変えれば『気配を消すオーラ』を出すことができるんです。昨日どこかのサイトにそう載っていました」
ネットの受け売りな上に昨日得た知識でなぜここまで得意げになれるのだろう?
「ゆっくり目を閉じます」
『目を閉じると集中できる』という記述はどこのサイトでも共通しているようだ。
「左足の中指に集まった力を下から上へ通すように広げていきます。その力が頭のてっぺんまで届いた時、その力を形に変えるんです」
妙に格好良いセリフだけど、実際にやろうとしていることは席替えでの存在隠しなんだよなぁ。それがすごく惜しい。
「――オーラという具現化された形に」
傍目からみると恥ずかしいなこれ。
第三者からの視点って大事なんだな。
「…………」
「…………」
………………
…………
……
「……どうでした? 私の存在消えていたでしょう?」
「星野さん睫毛長いね」
「まるで消えてなかったです!?」
ただ目を閉じていただけの星野さんがずっと目の前に居た。
オーラなんて欠片も見えなかった。
「そ、そんな……自信あったのに……」
ガックシと項垂れる星野さん。
数時間前の僕がそこにいた。
「まぁ、オーラなんて非現実的なもの信じるなんてどうかしてるよね」
「急に冷静にならないでください! 一人でオーラ出そうと頑張っていた私が馬鹿みたいじゃないですか!」
そんなこと言ってもできないものはできないと思うよ。
大体なんだ? オーラって。改めて考えると馬鹿みたいじゃなくて馬鹿そのものじゃないか。
「特訓です」
「えっ?」
「今の私達にはレベルとMPとSPが圧倒的に足りないです! だから明日から特訓です!」
いつになく熱い。
というか今日の星野さんはテンションが高い。
これが素に近い彼女なのかもしれない。
「でも明日って休みだよ? ていうか大型連休」
明日はGW初日だ。
四日間の連休が――いや、四日間のゲーム休暇が待っている。
「もちろん連休中も特訓です~!」
手を上に突き上げながらやる気満々な星野さん。
不覚にも可愛いと思ってしまったのは内緒だ。
「特訓って何するの?」
「えっ!? そ、それは、その、いつもの経験値稼ぎのスペシャル版です!」
スペシャル版とか言っているけど特に何も考えていないんだろうな。
いつものことだから別にいいけれどね。
「とにかくっ! 明日の午後1時に駅前の東口に集合ですからねっ!」
不意に立ち上がり、捨て台詞のようなものを言い残し屋上の出口に走っていく星野さん。
この前と同じ時間に同じ場所だ。
休日の経験値稼ぎか。ゲームして一日中過ごすよりよほど有意義に違いない。
そう考えると連休が少し楽しみになってきた。
そして今日はこれで終わりか。
今日の終わりを告げる言葉は星野さんが掛けてくれた。
「あ、明日はデートじゃなくて特訓なんですからね! あくまでも特訓の為に会うんですからぁ!」
それだけ言い残し、星野さんは走り去る。
嗚呼、周りに人が誰も居なくて良かった。
赤面顔を誰にも見られなくて良かったなぁ。