第百四話 今日のジョーカーさんですね
今年最初の更新。
そして久々の主人公視点からのスタートです。
僕は強い人間じゃない。
青士さんと対立した時、喫茶魔王での揉め事の時、魔王ショーの時のハプニングは立ち向かって行けた。
勿論、怖くなかったわけじゃない。
むしろ怖くて震えあがっていた。
でも大丈夫だった。
怖いことには慣れていたから。
『今日は貴方が私をフッたということにするのよ』
『いや、アイツ、本当にクズだって噂あるぜ?』
『まじ? サイテー』
『クソがっ! 無機物みたいな顔しやがって!』
『全部高橋が悪いってことにすればいいんじゃね?』
『つまりは……コイツが全ての元凶ってわけじゃねーか!』
もっと、怖いことを経験していたから。
あの頃は常に一人だった。
一人で怖いことを背負ってきた。
だからあの時は全力で目を背けることで難を逃れようとしていた。
あの時はそれでよかったんだ。
だけど高校に上がってから……
いや、月羽に出会ってから、僕は一人じゃなくなった。
沙織さんが担任になって、小野口さんと知り合って、青士さんと対立して、いつの間にか池君も巻き込んで、僕の輪はどんどん大きくなっていった。
その輪が心地よくて、均衡を崩したくなくて、だから僕は必死になれた。
どんな困難が起きようと不思議と力が沸いてきたんだ。
この輪に居れば、僕は無敵だった。
怖いことにも立ち向かえた。一人じゃないから怖くなかった。
……そう思っていたけれど、ただ一つ怖いことがあった。
それは自分が輪から外れてしまうことだった。
その怖いことが起こってしまった。
今まで放置していた過去の噂が月羽達にバレてしまったんだ。
怖さに怯えて逃げ続けていたツケが今更訪れてしまった。
過去の噂は勿論冤罪なのだけど、その尾ひれが広がって僕はとんでもない悪党となっていた。
その悪事がまるで本当のことのように皆に伝わってしまい、僕は簡単に絶望した。
絶望はいとも簡単に僕を輪の中から除外した。
「……って、思ったんだけどな」
どうやらそう思っていたのは僕だけだったらしい。
僕が居なくなったことで悲しんでくれる人が居たんだ。
どこで聞きつけたのかは知らないけど、わざわざ住所まで調べて、僕に会いにきてくれた。
だけど僕は月羽に会う勇気がなかった。
過去の出来事を知って、玲於奈さんと付き合っていたことも隠していて、こんな簡単に引きこもりになって、愛想を尽かすには十分すぎることを僕はやってしまった。
せっかく来てくれたのに、無視までしてしまったこともある。
月羽には絶対に嫌われたくないのに、嫌われるような行動ばかり僕はやっていた。
少なくとも恋人関係はもう終わってしまうのだと思った。
だけど、それでも彼女は来てくれる。
ずっと無視していたのに、彼女は毎日来てくれた。
だから僕は微かな期待を込めて……都合の良い期待を込めて……月羽にこう聞いてみた。
『まだ……僕のこと……好きでいてくれるの?』
ここで否定的な言葉を返されたら絶対に立ち直れなくなっていた。
立ち直れないことを覚悟で僕は聞いたんだ。
『何を当たり前なことをいっているんですか』
だけど月羽はアッサリと、それも一秒も間を開けずにそう答えてくれた。
まるで僕がそんなことを訪ねるのが場違いだと言わんばかりに、彼女は当たり前なことのように答えたんだ。
さらに別の日、今度は月羽から唐突に言ってきた。
『一郎君。好きです』
嫌われ始めていることを懸念している最中に、月羽はそれを一瞬で霧散させてくれた。
一番欲しかった言葉を一番欲しいタイミングで言ってくれた。
同時に自分が恥ずかしくなった。
どうして僕はこんなどうしようもない理由で引きこもっていたのだろう……と。
月羽は今でも僕を好きで居てくれている。
ならば僕は安心して学校へ行くことができるんだ。
……そう、思っていたのだけれど。
翌朝になっても僕は部屋から出られずに居た。
【main view 星野月羽】
いよいよ今日です。
青士さんの処分を決める職員会議の日。
まだ一限前だと言うのに今から緊張が奔ります。
それなのに……
「青士さんは……今日も欠席ですか……」
小野口さんは昨日も頑張ってくれていたのに、結局ここに青士さんの姿はありませんでした。
それに一郎君も……
「むむむむむむむぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
小野口さんが唸っています。
小野口さんがこんなにも怒りを露わにしているのは珍しいです。
いえ、怒っているというより、拗ねているようにも見えますが……
「ど、どうしたのですか? 小野口さん」
「八連勝したのにぃぃっ!」
ほ、本当にどうしたのでしょう。
私の知らない事情がありそうですが、今日の小野口さんはちょっと怖いです。
「キミ達。ちょっといいか?」
教卓脇の扉がガラっと開き、見知った生徒が私達に声を掛けてきた。
「あっ、池さんおはようございます」
「おっはよ。池君。今日は普通に登場したね?」
「まぁ、シリアスなときくらい俺も自重するさ。それよりも色々と話しておかなければならないことがある」
いつもは神出鬼没な自覚はあったのですね。
「今日の職員会議だが……俺達以外にも生徒として参加する者がいる」
そしていきなりとんでもない情報を与えてくれました。
「ど、どういうことですか? 確か教頭先生は会議に参加できるのは三人までって……」
「そうだよ! 教頭先生の言っていることが違う!」
「南高校からも三人、あの時現場に居た人間が参加するんだ」
「あの時現場に居たって……」
「まさか!?」
池さんの言いたいことは瞬時に察した。
あの人が……この学校に来るっ!?
「相田流、鷲頭俊之、そして深井玲於奈。今日の職員会議に参加する三人だ」
やっぱり。
直接青士さんと喧嘩をした相田さんと鷲頭さん。
それに青士さんとは直接関係ないかもしれませんが、あの時現場に居た深井さんが出席する。
もし相田さん達が自分達に都合よく事実を改変したりしたら……私達に言い返す術はないかもしれない。
事実を知っているのは相田さん達二人とそれに加害者とされている青士さんのみ。
当事者の証言と青士さんの友達であるだけな私達の言葉では、信憑性が大きく変わってくる。
「これはチャンスだね。池君」
「だろう?」
「えっ? えぇっ!?」
不利になると思っていたのは私だけでした!?
「事件の説明は彼らに任せるのだ」
「その中で彼らは絶対に自分達贔屓の発言をしてくるはずだよね。そこさえ突けば十分に勝機はあるよね」
二人とも、恐ろしいくらいポジティブです。でも心強いです。
私、また知らない間にネガティブになっていたのですね。
「ただ、一つ不安があるとすれば……」
「彼女……だね」
「あっ……」
深井玲於奈さん。
あの池さんや小野口さんでさえ、頭を唸らしているほどのクセ者です。
「とにかく、このチャンスを物にしつつ、深井嬢には十分に気を付けるのだ」
「はい!」
「わかったよ!」
場に若干の緊張が奔る。
同時に脳内で職員会議のシミュレーションを繰り返す。
相田さんと鷲頭さんがどのようなことを言いそうなのか。どんな風に会議は進行していくのか、予想しながら脳内シミュレーションをしているけど……
しかし、深井さんが乱入してきた時点で脳裏にノイズが奔る。
どうしてもあの人の言動だけは読めなかった。
「とりあえず俺は今から準備に入る」
「準備って?」
「ふっ、それは企業秘密だ」
「あー、もったいぶったー」
意味深な池さんに対し、小野口さんが頬を膨らませながら睨んでいる。
池さんはたまにこんな風にもったいぶった言動を放ちますけど、こういう時は大抵いい方向に事は運ぶことを私は知っています。
とりあえず池さんには何か秘策があるみたいです。それにも期待しつつ、私は自分の全力を尽くすのみです!
「青士さん。結局来ませんでしたね」
今日の授業は全て終わり、一瞬で放課後になった。
だけど青士さんの机は一日中空席でした。
「むぅぅぅぅ。こんなことなら二十連勝くらいしておくんだったよー」
だから何の話なのでしょう。
「池さんも朝以来姿を見せませんでしたね」
「まぁ職員会議には出てくれるはずだし、私達は先に会議室に向かっておこうか」
「そうですね」
緊張しながら私達は二人揃って2-Bの教室に出る。
会議室に向かう途中、隣の教室を窓から覗く。
……やっぱり……居ませんか。
「高橋君は……間に合わなかったんだね」
「……いえ、まだわかりませんから」
まだ、会議は始まっていない。
だからまだ可能性はあります。
一郎君が青士さんを助けに駆けつけてくれる可能性が。
……って、そんな他人行儀ではいけませんね。
一郎君だって葛藤しているんです。私だって!
「お、おい、アレ――」
「すんげぇ、美人……誰だアレ?」
会議室に近づくにつれて周囲が騒がしくなっていく。
皆さんは窓から外にいる人物に目を奪われていた。
その視線の先に居るのは――
「来た……ね」
「はい。今日のジョーカーさんですね」
さすがの人気です。例え他校でも男女問わず視線が釘付けになっていました。
「あれだよ、南高のアイドル」
「深井……なんとかさん! 俺、雑誌でみたことあるぜ」
「超美人じゃん。アレが同じ年ってマジ?」
「あの人が異世界から来たお姫様だって言われても、俺余裕で信じそうだわ」
深井玲於奈さん。
スーツ姿の大人の方々と共に校舎の中へと入っていった。
あのスーツの方達は南高の先生方でしょうか。
「なんか普通に先頭を歩いていたね」
「すごく深井さんらしいですね」
良く言えば皆さんを引っ張っていくリーダータイプということが伺える光景でした。
悪く言えば……い、いえ、悪く言うのは良くないですよね。
「とにかくあの人がラスボスであることは間違いなし……だね」
「はい。でも……」
「分かってる。私達の目的は『青士さんを助けること』であって、『深井さんを倒すこと』じゃないよね。大丈夫。はき違えてないよ」
深井さんが最大の障害件ラスボスになりそうなことは分かっています。
だけど、このラスボスは倒す必要はない。
むしろ理想は深井さんの攻撃を上手くかわしつつ、目標を達成すること。
深井さんから詳しい話を聞くのは会議が終わってからです!
「よーし! 私達も乗り込むよー!」
「はい! 頑張りましょうー!」
意気揚々に会議室へと向かう私と小野口さん。
しかし、後になって思うと、この時に疑問に思っておくべきでした。
深井さん達の列の中に相田さんと鷲頭さんの姿が見えなかったことを。
見てくれてありがとうございます。
どうでもいいことかもしれませんが相田君と鷲頭君の初本名明かしの回となりました。
本当どうでもいいなぁw




